17話
「これどっちが新鮮かなぁ……」
「うーん……多分…右ぃじゃないですかね」
「えでもこっちの方が目が綺麗じゃない?」
「あーたしかに……目が綺麗なほうが新鮮って言いますもんね…じゃあこっちにしときましょう。」
「あ〜待って…パシリ君…野菜コーナー戻って大根取ってきて」
「なっ……なんで野菜コーナーに居る時にカゴに入れなかったんですかぁ……」
「だってメモ紙の一番下の方に書いてあったんだから仕方ないでしょ〜ほらはやく行ってきて」
「えぇ〜もう……百花さんのバカ」
「ほーん?そんなにお仕置されたい?いいよ♡いいよ♡」
「ぐぎぎき…ぃだだだだだ……すいませんすいませんっ」
僕に華麗にコブラツイストを決める百花さん、周りのお客さんが僕らを見てふふふっと笑っていた。
僕たちは山のふもとにある町、紫陽花町のスーパーに買い出しに来ていた。
何故こんなキチガイカップルムーブをスーパーでしていたかというと。
〜〜〜〜〜〜〜〜スーパー回想タイム〜〜〜〜〜〜〜〜
「ちょっと待ってパシリ君…それ罠じゃない??」
「えぇ?でも回復アイテムないとそろそろ僕たち死にますよ」
「パシリ君が私の盾になれば助かる」
「それで助かるのは百花さんだけです」
夏の昼間。
麦茶に溶け少しずつ形が小さくなった結果コップの中でのバランスを保てなくなった氷がカランと音を立てる。
縁側から入るアブラゼミの鳴き声と風鈴の音を作業用BGMに僕と百花さんはテコンドーSwiitchで無料配信されていた死にゲーと呼ばれるゲームを一緒に遊んでいた。
ただゲームをしているだけなのになぜか太ももの上に重みを感じる。
「ていうかパシリくーん…喉乾いた〜…お茶ちょうだい」
「はいはい…」
僕はゲーム機を1度ちゃぶ台の上に置きストローが入れられた麦茶のコップを手に取る。
それをなぜだが自分の太もも辺りにこれから移動させなくては行けない。
なぜなのだろうか。
「ちゅるちゅる〜」
「……」
「ちゅぽ……うん…もういいよ〜」
「あの…せめて麦茶くらい自分で起きて飲んでくれませんかね」
「こないだ私のおへそに精子ぶっかけたくせに?」
「どうぞお飲みください女王様」
「うんうん、それでいいんだよパシリ君」
僕は完全に尻に敷かれていた。
胡座をかく僕の太ももの上に頭を乗せゲーム機をピコピコするご主人様。
随分といいご身分である。
「パシリ君…ここボス部屋じゃない?」
「あー、多分この広さはそうですね…ていうか奥のあの椅子に座ってる巨人絶対動き出しますね」
「この装備で勝てるかな…」
「チェックポイントはかなり近かったですしいけるんじゃないですかね?」
「とりあえずまだ探索してないところあるからそっち見てから行こう」
「そうですね、強い装備落ちてたら交換したいですし」
「ねーパシリ君、扇風機こっち向けて」
「あー、はいはい…もう首振り設定切りますね」
完全に夏を堕落している。
夏休みの無駄遣いである。
この調子ではひまわりも僕らにはそっぽを向きそうだ。
「おーい、百花居るか〜」
「ん…あ、ママ」
「おーす…って…お前ら…せっかく夏休みなのにだらけてんなぁ」
「ママー!見て…私の従順な枕くん」
「おめーなぁ…ナオも嫌だったら抵抗していいんだぞ〜?」
「抵抗なんてしないよね〜?だって私にあんな事したんだもんね〜?」
「だっっ大丈夫です…なにも問題はありませんっっ」
百花さんのお母さんのリアナさんが事務所を訪れた。
外から縁側越しに僕たちに話しかけてくる。
百花さん経由で何度か会っておりナチュラルにナオと呼んでくる。
しかし会ったばかりなのに、まるでいつも顔を合わせている顔見知りかのような距離感で会話が展開される。
気づけば近所の友達のお母さんのような距離感に落ち着いていた。
「ていうかどしたのママ」
「ん?あーそうそう…百花ちょっと買い出し行ってくんね?」
「えー今からぁ?」
「だって暇だろ?」
「いや〜…ちょっとペットのお世話で忙しぃ…」
「あん?ペット?百花ペットなんて飼ってねーだろ」
「飼ってるし…首輪つけて飼い慣らしてるし…めっちゃ私の事好きだし」
「あ〜?んまぁいいや…ふもとの紫陽花町まで行って食材買ってきてな〜ウチちょっとこれから用事あっから…買い出しメモここ置いとくな」
そう言うとヤンママことリアナさんは縁側の前からどこかへ行ってしまった。
うん。
この後の展開は分かる。
逃げ一択である。
「ね〜♡パシリ君♡」
「嫌です!!」
「まだなんも言ってないんだけど」
「絶対僕に代わりに行かせますよね??嫌です」
「いや、代わりに行ってきてじゃなくて一緒に行こ?って言おうとしたんだけど」
「え、あーそうだったんですか」
「うん…でもちょっと気が変わってきちゃった」
「え」
「今ご主人様である私がお願いしようとした時全力で拒否してきたもんね」
「あーいや…その」
「これはお使いの前にパシリ君のお仕置が先かもな〜」
「ひっ……」
「って事で覚悟しろ♡」
「ひぃぁぁあ」
百花さんはすごい速度で頭を起こすと僕に組み付き攻撃をしてきた、拘束され身動きが取れない状態で百花さんにバックを取られる。
後ろから足で僕をホールドすると僕の首当たりを片手でロック、そしてもう片方の手で脇や脇腹をくすぐってきた。
「ぎゃはははっ……ちょっ……やめっ」
「ほら〜♡暴れないの♡」
「ひぃっ……ひぃぃぃぃい」
「はむ……ちゅぷ……れろ」
「ひゃぁぁっ」
片手でくすぐり攻撃をしながら後ろから僕の耳を舐めてくる。
色んな敏感な部分を全身で責められすぎておかしくなりそうだった。
20分後。
「す、すみませしぇんでした……」
「気持ちよかった?」
「な訳あるかぁぁあ!!」
あの状態が20分近く続き僕は失神しかけた。
ていうかこの人めっちゃフィジカル強くない?
割と本気で戦っても勝てない気がする。
牛娘は身体機能が人間より上なのだろうか。
「ほら…じゃあお出かけの準備しよ?パシリ君」
「やっぱ僕も行くんですね」
「1人でここに居ても暇でしょ?私と居た方が楽しいよ?」
「まぁ…………そうですね」
「じゃあパシリ君はさっさと着替えて」
「え……これじゃダメですか?」
「いやその私服ダサすぎて隣歩いて欲しくないもん私」
「えぇ……これ結構気に入ってるんだけどなぁ」
「なに……めんつゆって……そんなTシャツどこで買ってくるの」
僕のお気に入りTシャツを馬鹿にすると僕の着替えが入っているタンスを勝手に漁り始めた。
「うーん…だめ……うーん…これもダメ………」
「あの……せめて自分で見繕うんでそこ漁らないでください」
「だってパシリ君のセンスに任せてたら一生着替えが終わんないもん」
「えぇ……」
「うーん……靴下……これは……あ、パンツか……」
「あの、マジで恥ずかしいっす」
「パシリ君……このパンツダサすぎ…これじゃ女の子幻滅するよ?」
「はぁ…ていうかパンツは見えないんだから百花さんが選ぶ必要ないでしょ」
「うーん……強いていうならこれとこれ……かなぁ…うーん…それでも彼氏がデートで着てきた服がこれだとちょっとテンション下がるけど……まぁマシって感じ」
「はぁ…ソデスカ」
「ほら……さっさと着て?」
「はい…」
ガサゴソ
「あの…」
「ん?」
「着替えるんでどっか行ってて貰えませんか?」
「もうチンチン見てるんだから良くない?」
「えぇ……はぁ…もういいや」
ガサゴソ
「あーでもさぁ…」
「はい?」
「パシリ君服はダサいけどさ、いい匂いするよね」
「そうですか?」
「うん…服はダサいけど」
「なんで2回言うんですか」
「なんか落ち着く匂いする…柔軟剤何使ってるの?」
「ファーファンのオムですね」
「あーあれか〜……パシリ君…ずっと変えなくていいよ柔軟剤」
「はぁ…なんでですか」
「ペットは好きな匂いがいい」
〜〜〜〜スーパー回想タイム終了の訪れ〜〜〜〜〜〜
という訳だ。
なぜか必要ない部分まで多めに思い出してしまった気がする。
何故か急にここまでの道筋を思い出した僕は野菜コーナーから取ってきた大根を百花さんの押すカートの上のカゴに入れた。
「取ってきました…大根です」
「お、さんきゅー…やっぱパシリ君連れてきて良かった」
「やっぱこき使うために連れてきたんですね」
「あたりまえたいそう〜」
「というか百花さん…これってなんの買い出しなんですか」
「ん?みんなのご飯の食材の買い出しだけど?」
「あの〜思ったんですけど牛娘って別に僕らと変わらない普通のご飯食べてますよね」
「そうだね、別に牛さんみたいに草食べたりしない」
「なんだ……百花さんが頭おかしい命令しだした時は目の前で牛肉ステーキ貪り食ってやろうと思ってたのに」
「美味しいよね〜ステーキ♡」
「ちきしょう、唯一の対抗手段が無くなった」
「私に勝とうなんて100年早いよ〜」
百花さんの舵にカートを任せながらスーパーの中を進んでいく。
割と傍からみたらこれ、カップルに見えるんじゃないの?とテンションが上がっていると百花さんがとあるコーナーの前で止まった。
そのコーナーを見てみると、スイーツのコーナーだった。
「ママから貰ったお金ちょっと多めだからなんか甘い物買ってこう?」
「いいんですかね」
「大丈夫でしょ〜、経費経費。ひさ爺めっちゃ金持ってるし」
「あ〜まぁ何となくそれは分かってましたね」
「あの山もひさ爺が持ってる山だからね〜」
「えぇ……そうだったんですか」
どうやら百花さんは食べたいスイーツがあるらしく視線を迷わせていた。
「うーん迷う」
「どれで迷ってるんですか?」
「いちごシュークリームと丸ごとイチゴで迷ってる」
「百花さんの事だから両方買っちゃえってなると思ってました」
「そんなに食べたら太っちゃうし」
「確かにおんぶした時おも」
「えいっ♡えいっ♡えいっ♡」
「いっだいっだいっっだぁあ……ちょっと…何するんすかっ」
「リピートアフターミー?百花さんは重くない…あと可愛い大好き一生ペットとしてついて行きます」
「百花さんは重くない…可愛いし大好きです……そのうち絶対家出します」
「じゃあ探してますのチラシ作って電柱とかに貼っとくね……
画像はこないだの私のおっぱいに吸い付いてる写真とかで大丈夫そ?」
「あーもう分かりました…負けです…僕の負けです」
「勝てないね〜私に」
「いつか勝ちます」
本当に勝てる日が来るのか少し怪しいが僕は来たるその日に向けてもっと百花さん慣れする事を胸に誓った。
「うーんやっぱいちごシュークリーム……かなぁ?でもまるごとイチゴも食べたいけど……また今度か〜……。」
「あ、じゃあ僕まるごとイチゴ選ぶんで2人でシェアしません?」
「え……いいの?」
「いいですよ」
「へー気が利くじゃん…そういうとこは好きだよ」
「あーじゃあそれ以外は好きじゃないんですか…悲しいです
まぁ百花さんにとって僕なんてただのペット以下にしか思ってないデスモンネ〜」
心底悲しそうな演技をしてみる。
お、これは僕なりに珍しく百花さんに攻撃できたのでは?
いつもからかわれてばかりなので今回こそ少しは戸惑う百花さんの姿を期待する。
「……。」
「はぁ……パシリ君さぁ」
「……。」
「ならさ……私に全部好きになって貰えるよう頑張りなよ」
「え」
「期待せず待っててあげるからさ」
いちごシュークリームとまるごとイチゴをカートの上のカゴに入れながら何の気なしに言ってくる。
悔しいが僕は百花さんのその言葉にドキッとしてしまった。
なんというか、ドSなりのカリスマ性がある返答だった。
やはり、百花さんの方が一枚上手だな……これは僕の負け。
「はい…頑張ります……。」
「うん、それでいいんだよ〜…君は」
その後メモ紙にあった買ってくる物リストを全部回収できたのか百花さんはカートを押してレジへと向かった。
割と混んでるなぁ。
レジ前の列をみて嫌そうな顔をした百花さんはカートを僕に譲ってきた。
要らんっっっっ。
「じゃあお金渡しとくからレジよろしくね…パシリ君」
「えぇ……一緒に行きましょうよ……」
「いつから保護者の私が居ないと何も出来ない子になっちゃったん?」
「イラ……。はいはい行ってきますよ…百花さんは試食コーナー巡りでもしててください」
「エコバッグはカゴ下の方に入ってるから……じゃよろしく」
そう言うと百花さんは行ってしまった。
正直2人でレジ並んで新婚夫婦っぽい事したい気持ちがあったから引き止めた、というのが本心ではあるが仕方ない。
百花さんの後ろ姿を見送った後、僕は会計を済ませた。
「うーん、これは下のほうがいいな。上に置いたらスイーツが潰れる……。」
普段からスーパーでの買い物はよくしているので袋詰めにはそこまで手間取らなかった。
意外と生活力があるところを百花さんにアピールしたかった。
「あれ……?なんで男物のパンツ……」
男用の黒いボクサーパンツが出てくる。
入れた覚えがない物がカゴの中から出てきた。
百花さんが入れたのかな。
誰に……?
心底疑問に思いながらも僕は買った食材やらをエゴバッグに詰め終わり百花さんを探した。
「あの人どこ行っちゃったんだろ」
袋詰めを僕に押し付けたんだからせめて近くにいてくれよと思いながら探す。
「あ、あの髪……居た」
百花さんはスーパー内のカフェテリア……で合ってるのか?
イマイチ名称が分からない。
よくおばあちゃん達が備え付けのドリンクサーバーのお茶を飲みながら井戸端会議を開催してるあのテーブル席のエリアら辺に居た。
だが、ひとりじゃなかった。
「あれ……?え?……ナンパされてる?」
百花さんの前には背の高い大柄な男の人が2人居た。
2人とも日焼けしており髪も金髪に染めている。
いかにもガラの悪いお兄さん達だ。
「えぇ……嘘でしょ……まじかぁ……」
「うーん……逃げよっかな」
百花さんの事だ、相手がしつこければドラゴンスープレックスなりボストンクラブなりダイビングボディアタックなり決めてやり過ごすはずだ。
恋人でもなんでもない僕が出る幕じゃない。
「……。」
「……なんか……百花さん困ってる……っぽい?」
いやでも、僕があんな強そうな男の人に立ち向かったらけちょんけちょんにされるに決まってる。
わざわざ彼氏面する必要も無い。
うん、逃げよう。
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