32話
江理香さんと指を絡めながら山道を進んでいく。
一応僕も鬼じゃないので山道と言っても割と平坦な歩きやすい場所を選んだ。
こんな真面目そうで、仕事人間感あふれるOLの大人のお姉さんが僕と指を絡めて恋人みたいに森を散歩してる。
なんか……胸が熱くなるな。
「江理香さん……大丈夫ですか?……疲れました?」
「い、いえ……大丈夫ですよ」
「そっか……しんどかったらおんぶしてあげようかと思ったのに」
「ちょ……ちょっと!……私は幼い子供かなにかですか!?」
「…………」
「…………」
「江理香さん……ちょっとだけ……ここでキスしませんか?」
「えっ……うーん……ここ……誰も見てませんか?」
「鹿くらいじゃないですか?」
「そ、そっか……」
「…………」
「…………」
「ちゅ………」
「ちゅぷ…………はむ……」
「はは……江理香さんから舌絡めてきた」
「だ、だって……うー……私……はしたない人になってしまったのでしょうか………」
「可愛いですよ……ちゅ……」
「ん………ちゅぷ……はむ……」
「ちゅ………………江理香さん……僕と身長ほぼ一緒じゃないですか?」
「ん……そういえば……確かにそうですね」
「目線の高さがほぼ一緒……じっ」
「うっ…………じっ」
「先に目線外した方が負けですよ……ニヤニヤ」
「えぇぇ……………じっ」
「…………」
「…………」
「うう…………///」
「やった!勝った勝った!」
「うー……き、君の顔…………良すぎ……これ……無理ぃ…………」
「ん?……なんて?」
「な、なんでもないですっっっ」
江理香さんと再び指を絡めながら森を進んでいく。
「江理香さんて山の中とか来た事あるんですか?」
「ま、まぁ…一度くらいは……社員旅行で少しだけカナダの森を歩いた程度ですが」
「うへーすっげ……なんだそれ」
「でも…その時だってほんの10分程度だったので…こんなに森の中を歩かされたのは初めてです…」
「やった…また江理香さんの初めてゲット」
「も、もうっ…少しは私にも君の初めてをください!」
「あ!川ありますよ!!江理香さん行きましょう!」
「あぁぁぁもうっっ…星野くんてばぁ…」
山道が横に逸れる。
逸れた道の先には東屋、そしてさらにその先には大きすぎず小さすぎない山から流れる幅5mくらいの渓流があった。
ゴツゴツした岩に囲われている訳ではなく、まるで小さな小石の砂浜のように川の接する面はとても傾らかだった。
水は青く透明に透き通っている。
流れもとても緩やかだ。
東屋といい、もしかしたらここは昔デートスポットだったのかもしれない。
江理香さんの手を引いて川へ近づく。
「あ、あの…星野くん…私水着とか着てませんよ?」
「ちょっと足を付ける程度ですよ」
「えぇ…んー…まぁそれくらいなら……」
先に靴と靴下を脱ぐ。
さりげなく江理香さんが僕の脱いだ靴と靴下を揃えていた。
うーん、まぁいいや。
江理香さんにも黒いパンプスと靴下を脱ぐよう促す。
「ほ、ほんとに入るのですか…星野くん…」
「入りますよー何言ってるんですか〜」
「えぇ…」
江理香さんの手を引きながらゆっくりと足を川に付ける。
結構冷たくてびっくりした。
でもここに来るまでかなり暑かったので逆に調度いい。
江理香さんは明らかに自然慣れしていないので川に入る事を躊躇しているようだった。
「ほら…江理香さん…大丈夫ですよ」
「うー………つ、つめたいですか?」
「温水です」
「なんですぐそういう分かりやすい嘘つくんですか…」
「ほら…来て…」
ぽちゃ…
「………んーっ…つ、冷たい…ですね…」
「でも気持ちよくないですか?」
「そ、そうですね…割と…」
僕の手を握りながら渓流を散歩する。
途中から割と楽しそうだった。
「あ…星野くん!魚居ますよ!」
「あ、ほんとだ…あれ絶対焼いて食ったら美味しいやつですよ」
「な、なんですぐそうなっちゃうんですか…星野くんって水族館行ったらお腹空かせちゃうタイプですか?」
「よく分かりましたね…」
「もー…ただ見るだけでも癒されるじゃないですか」
「知ってますか?こういう渓流に生息してる鮎っていう魚はメロンのような甘い香りがするそうですよ…もしかしたら身も甘くて美味しいんじゃないですかね?」
「…………」
「…………」
「………鮎…いますかね」
「あー、江理香さんも僕と同類だ〜」
「ゆ、誘導尋問です……」
「お魚さんに謝れっ…おりゃっ」
「わぁっ…ちょっと!何するんですかっ」
「悔しかったらやり返して見てくださいよ〜ニヤニヤ」
「い、言いましたね…私だってやられたらちゃんとやり返すんですからっ…えいっ」
「え弱」
江理香さんと足で水のかけ会いをする。
うーん。
これも楽しいんでけど。
うーん。
「あ!い…今、私の足に魚が当たってきましたよっ…星野くん!」
「………………」
「ほ、星野くん?」
江理香さんずぶ濡れにしてーな。
トロフィー〘お前は何を言っている〙を獲得しました。
「江理香さんっ!アソコ!!カモシカが居ますよ!!!」
「え!どこですか!!」
「よっっっ」
「えっ!?ちょ……ちょっと!?……なんで抱っこしてくるんですかぁぁ!!」
「おらぁぁぁぁぁぁぁあ」
「きゃぁぁぁぁあ」
江理香さんをお姫様抱っこしてそのまま思いっきり一緒に川の中に飛び込む。
大きな水しぶきを上げて着水する。
江理香さんがずぶ濡れだ。
もちろん僕もずぶ濡れ濡れになってしまった。
川の中で膝の上に江理香さんを乗せて胡座をかく。
ちょうど水位が腰くらいまで浸かる感じだ。
結構思いっきり飛び込んだので川の真水がお互い全身に浴びる形になってしまった。
江理香さんはぷるぷる震えてる。
あー、いいね、見られるぞこれは。
「ははは…すみません…カモシカが目からビーム打ってきたので咄嗟に躱しました」
「……………ぷるぷる」
「江理香さん?」
「もうっ……もうっ……もうもうもうっ!……」
あーこれこれ。
これが見たかった。
ポカポカと僕の胸板を攻撃する。
「星野くんはどうしていつもそんなに私を困らせたがるんですかぁぁぁぁ!!」
「ははは…どうしたんですか…江理香さんいい大人なのにずぶ濡れじゃないですか」
「君のせいですっっ!!もうっっ…」
「江理香さん」
「なんですかっ……ん………」
江理香さんを抱き寄せてキスをする。
やっぱキスをするの大人しくなる。
「君……私がどんなに怒ってもキスすれば丸く収まるって思ってませんか……」
「大人しくなってるじゃないですか」
「暴れましょうか?」
「はいどうぞ」
「えぇ……が、ガオ〜…パシャパシャ」
「子供用プールか」
江理香さんを抱き寄せて再度キスをする。
江理香さんは抵抗しない、むしろ僕の頬に手を添えて僕の唇を引き寄せていた。
大自然の中で誰にも邪魔されずにキスをする。
変な表現かもしれないけど、森そのものが僕らを見守ってくれてるような気がした。
「はぁ……なんか…君といると自分が自分じゃないような気持ちになります……」
「どうしてですか?」
「だ、だって………こんな風に私にイタズラしてくる男性なんて居ませんでしたし…。」
「それは光栄ですね」
「どんなにイタズラされても…最後は君が可愛くて許してしまいます……」
「あほんとですか?実はもっとやりたいイタズラいっぱいあるんですけど全部やっていいですか?」
「もうエッチしてあげませんから」
「ごめんなさい」
「もう……ちゅ……」
「ちゅぷ………」
江理香さんからキスをされ僕もそれに応える。
ほんと、こんな魅力的な人がどうして今まで誰からもアタックされなかったんだろう。
意外と江理香さんが鈍感で気づいてなかった可能性もあるなこれ。
「私…ずぶ濡れです」
「可愛いですね」
「ふざけないでください……ここからどーやって帰るんですか……ずぶ濡れで牧場に帰ったりしたらルヴィに笑われます」
「あーそれで顔赤くしてる江理香さんも可愛いですね…一緒に帰るんで存分に恥ずかしい思いしてください」
「き、君って人はほんと悪魔みたいな子ですね……」
「いつもはこうじゃないんですけど…江理香さんが相手だとこうなっちゃうんです」
「そんなに私ってからかいがいのありますか」
「はい…すっごく可愛いです」
「もうっ…それ以上可愛い可愛い言わないでくださいっ…頭変になりそうです…」
「江理香ちゃん可愛いね〜」
「んもおおおお!!…ばかぁっ」
しばらく江理香さんの柔らかい体を抱きしめながらキスをした。
僕はだんだん江理香さんの体が欲しくなってきてしまった。
「あの…江理香さん」
「はい、なんですか?悪魔くん」
「なんですかそれ」
「私の事をいつも困らせてくるから悪魔くんです」
「はは……なんじゃそりゃ」
「で、なんですか?星野くん」
「…………」
「…………」
「その……しませんか?」
「する……?…する…………えっ…こ、ここでですか!?…そ、それはさすがに私も気が引けるんですが…」
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