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42話

なんか、なんの抵抗もなく普通に握り返してきた。

あれ…?なんか…珍しく普通にイチャついてない?僕ら。

「…。」

「……。」

「あの……百花さん」

「………なに?」

「キスしていいですか」

「…。」

「…。」

「はぁ……。そうやって…すぐがっつく」

「…。」

「……まぁ…。いいよ」

握った手は離さず、顔だけ後ろに向けてきた百花の唇に自分の唇を重ねる。

別にディープでもなんでも無い、割と普通のキス。

でも、百花さんはキスした瞬間。

少しだけキュッと握った手に力を入れたような気がした。

キスが終わると僕はさっきより百花さんを強く抱きしめた。
百花さんは特に抵抗もしない。

後ろから百花さんの肩にかかった髪の毛に顔を埋めてみたりする、桃とイチゴを混ぜたようなめっちゃいい匂い。

でもやっぱり今日は抵抗しない。

「……。」

「………。」

「パシリ君さ…ほんと私の事好きだよね」

「まぁ…その…はい…」

「まぁ…自分の飼ってるペットに好かれて悪い気はしないけど」

「そうですか…」

「……。」

「………。」

「……」

「……。」

「こんな恋人ごっこしてたら……宿題……終わんないよ?」

「はい…。」

「……。」

「………。」

「でも…もうちょっとだけ…このままで良いですか」

「はぁ…。ペットに求愛されるのも大変だな〜、宿題も手につかないんだから」

「……。」

「………。」

「百花さん……あの…もう1回…キスしたいです」

「はぁもう……はいはい……ちゅ〜」

「ちゅぷ……はむ」

「あ…ちょっと…もう…ん……ちゅぷ……」

「ちゅ……はむ……」

「ん…ちゅぷ………。はぁ……舌絡めるのは無しじゃない?」

「無しじゃない……です」

「はー……まったく…発情駄犬」

「それ誰が考えた四字熟語ですか…」

「私だね〜、パシリ君にぴったり」

「どうでもいいんですけど……もうちょっとだけ」

「はいはい…ちゅぷ……はむ……ちゅ」

「ちゅぷ…はむ……ちゅ」

「ちゅぷ……ん……ちゅ……なんか……パシリ君……」

「なんですか?」

「キス……上手くなってない?」

「そう……ですかね」

「私……あんましてないよね……キス」

「なんの事ですかね」

「ふーん……」

「百花さん……そんな事より……もっと……」

「はぁもう…………ちゅ……ちゅぷ……はむ」

「ちゅぷ…………はむ…………」

「ん…ちゅ…。はーぁ……まったく…パシリ君なんか最近調子乗りだしたなぁ」

「乗ってないです」

「まぁしょうがないか…パシリ君私の事大好きだもんね」

「はいはい…そうですね…ちゅぷ…はむ」

「ん……はむ……ちゅ」

百花さんが僕からの求愛にあまり抵抗しないのをいい事に少し調子に乗る。

後ろから百花さんの肩の上に顎を乗せ百花さんのその整った綺麗な顔と自分の顔の距離を無くす。

僕の右頬と百花さんのすべすべな左頬が触れ合いながら、その細いお腹を自分に抱き寄せる。

百花さんの体温を頬越しに感じる。

犬が同じ家で暮らす猫に愛おしそうに後ろからくっついて、それを猫が気だるそうに、されるがまま抱かれる画像をネットで見た事がある、それにそっくりな構図だ。

なんか、いいなぁこの時間。

会話の声のボリュームも恋人同士の夜の睦言みたいにお互いつぶやき声になっていく。

「百花さん…肌すべすべ過ぎません…?なにしたらこんなに肌綺麗になるんですか…」

「ん〜…べつに…特に大したことしてないんだけどな…寝る前に化粧水付けたりはするけど…」

「へ〜…スリスリ(百花さんの頬に自分の頬を擦りつける)」

「は〜…今ペットにめっちゃ求愛されてるわ…私……」

「今日あんまり抵抗しませんね、百花さん」

「抵抗するのもめんどくさいから好きにやらせてるだけ」

「そうですか」

「だから求愛行動はほどほどにね」

「はい…スリスリ」

「はぁ…まったく…」

「……」

「……」

「百花さん…なんか…お喋りしませんか」

「ええ?ん〜…話すって言ってもな〜」

「じゃあ百花さんの1番好きな食べ物ってなんですか?」

「なに?そんなにご主人様にご飯奢りたいの♡」

「まぁ…値段が許容範囲なら……」

「ん〜…でも…そこまで好き嫌いなく食べれるからな〜……強いて言うならやっぱ…イチゴ…かな?」

「やっぱイチゴなんですね」

「まあね……で、いつ奢ってくれるの?♡」

「すぐ…そういう……じゃあ誕生日にケーキでも奢りますよ…ホールは無理ですけど」

「ふーん…殊勝な心がけじゃん…嫌いじゃないよ…そういうの」

「…。」

「で…パシリ君は?」

「僕ですか?…あー…そうですね」

「消しゴムの消しカスとか?」

「学校のイジメみたいな好物ですねそれ」

「食べさせてあげよっか…あーん♡って」

「せめて匂い付きのやつがいいです」

「……。」

「そうですね…強いて言うなら僕は人の手料理が好物ですね」

「何それ…普通好きな食べ物は?って聞かれてそう答えるヤツいる?」

「居ますね百花さんの後ろに」

「はー…居たわ…でもなんで手料理?」

「僕…今までほとんど人の手料理とか食べる機会無かったんで…そういうのに飢えてるんです」

「へ〜…へんなの」

「百花さん手料理得意ですか?」

「まぁ…人並みにはできるけど…なに?作れって言ってんの?」

「いや、別にそこまでは」

「隙あらばオネダリしてくるんだから全く…」

「…」

「じゃあさ…なんか良い事したら…ご褒美に作ってあげてもいいよ」

「ほんとですか?やった」

「ご褒美だからね?ちゃんと私のペットとして貢献しないと報酬は支払われないから…」

「楽しみにしてますね」

ぎゅ〜。

「ちょ…パシリ君……流石にそんな強く抱きしめられたら私も苦しい」

「わ、ご、ごめんない」

「まったく…私の事が愛おしいのは分かるけどさ……。」

「……。」

「…。」

「……もうちょっと緩めにお願い」

「これくらいなら苦しくないですか」

「うん…いいよ、それぐらいで」

「はい、百花さんが苦しくない程度に抱きしめますね……」

「あとその頬擦り付けて来るやつもくすぐったいから出来ればやめて欲しいんだけど」

「それはいやです…スリスリ」

「はぁ〜…。すっかり懐かれちゃったな〜私…。」

「……。」

「…。」

「じゃあさ…嫌いな食べ物は?」

「嫌いな食べ物ですか…あー、1個ありますね」

「ふーん…どんなの」

「あの…卯の花っていうサラダ??みたいなやつですね」

「オカラのサラダのやつ?」

「あーそれです…あれだけはちょっと…本当に無理ですね」

「ふーん…私あれ、好きでもないけど…まぁ食べられるね」

「凄いですね…僕はちょっとあれだけはどうしても食べられ無いです」

「ふーん…じゃあパシリ君にキスされたくない時はあれ食べとけばいいんだ」

「なんですぐそういう発想になるんですか…」

「だってさっきからキスしたーいってしつこいから…私にも気分とかあるし…。今日はしてもいい気分だったからしたけど」

「はー、じゃあ卯の花食べられちゃう前にしときますね」

「は?…ちょっ…ん…ちゅ…ぷ…はむ…」

「ちゅぷ…」

「んー…ん…はむ…ちゅ…ちゅぷ…はむ…ちゅ」

「ちゅ…」

「ちゅ…んん…ちゅ……。はーもうっ…次買い出し行く時絶対卯の花買うから」

「レジ並ぶのどうせ僕なんで商品棚に戻しときますね」

「……。」

「………。」

「というか百花さんってイチゴ以外に好きな食べ物ってないんですか?」

「え〜…そんなに奢りたいの〜?じゃあ特に興味ないけど伊勢海老とか?」

「雑に高級食材にするのやめてください…食べた事ないでしょ」

「まぁないけど」

「もっとポピュラーな食べ物とか…」

「それならミャーはマグロが好きにゃね〜」

「え、百花さんマグロ好きだったんですか」

「え…言ってないけど…君が急にマグロ好きとか言い出したし」

「ミャー刺身のマグロが1番好きにゃあ〜」

「……。」

「……。」

「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ@あ@」」

びっくりして百花さんと2人でズッコケる。

きっと二階の妖怪が降りてきたに違いない。

「ん?どうしたニャア?」

「ちょっと…シシー!びっくりするからやめて!っていうかどこから入ってきたのっ」

「ん…ミャーは普通に裏口から入ってきたにゃあ?」

「はぁはぁ…あれこの人…」

この人は確か牧場で何度か会ってる黒髪おさげの何故か猫耳カチューシャを付けてる黒いセーラー服の牛娘さんだ。

多分年齢は僕たちと同じくらいな気がする。

牛娘という事もあり百花さんよりすこし小さいくらいで、一般的にはかなり大きい方のサイズの胸を持ってる事が服越しに分かる。

年齢は、多分まだ未成年くらい、ワンチャン僕らと同じくらいなのかも?

こうして近くで見ると割と可愛くてびっくりしている、やはり牛娘はみんな美人なのだろうか。

でも格好と喋り方から牛なのか猫なのかハッキリしない謎の人物だ。

牛娘というのも搾乳場にいた事とスカートの隙間から尻尾が出ている事から判断した。

この子には角がないのだ。
きっと百花さんと同じタイプなのだろう。

「この人…シシーって言うんだ」

「にゃ?そうにゃあ…ミャーの名前はシシーにゃ?」

「そういえばちゃんと話すのは初めてにゃね…よろしくにゃあ」

びっくりし過ぎてイチャイチャモードが解けてしまった事を少し残念に思いながら姿勢を正した。

「2人は何してたにゃん?」

「え?あー…パシリ君と夏休みの自由研究どうしよっかって話してたの」

「夏休みの自由研究にゃあ?それなら虫取りがいいにゃ!」

「えぇ…虫取りですか…」

「なんか本格的に子供っぽい内容になってきたね」

「あーでも…せっかく山の中に来てるし…意外と珍しい虫とかも居るかも…。」

「私虫触るのはちょっと…パシリ君が捕まえて」

「僕も虫そんな得意じゃないんで嫌です。………というかわざわざ捕まえなくても良いんじゃないですか?」

「ん?どうして?」

「いや、スマホで写真撮ってあとで現像してレポートに貼ればいんじゃないですかね?それで図鑑とかで調べて名前と生態を書くとか…」

「あー、なるほど…割と良いじゃん…冴えてるねパシリ君」

「にゃあ?じゃあ虫取りの自由研究するにゃ?モモにゃん達」

「うん…そうする…ありがとうシシー」

「お安い御用にゃあ〜」

「じゃあ私とパシリ君で共同研究にすれば同じ写真で大丈夫じゃない?」

「そうですね!共同研究でいきましょう」

「なんか面白そうだからミャーも混ぜるにゃぁぁぁあっっ」

「わぁぁぁちょっ」

「もうシシーっっ」

シシーと呼ばれる牛猫娘が僕たち2人に抱きついてそのまま押し倒してきた。
僕と百花さんとシシーさんで畳の上で揉みくちゃになる。

「もうシシー…そのすぐ抱きついてくる癖直してよ」

「にゃ?嫌にゃあ…ボディランゲージがコミュニケーションの基本にゃ」

「なんか凄いなこの人……」

「それでにゃ…虫取りはいつ行くにゃ?」

「え…じゃあ適当に今度お昼にでも山に行けば見つかるんじゃない?」

「甘いにゃ!虫さん達は夜行性にゃ!取りに行くなら夜がベストにゃ!」

「えぇ〜…夜の森に入るの〜…」

「百花さん暗いとこ怖いんですか?可愛いところもあるんですね」

「がぶっ♡」

「いっだだだだだ…ちょっ噛まないで…」

「にゃあ?ボディランゲージしてるにゃ?ミャーも混ぜるにゃっっ…かぷっ♡」

百花さんに習ってなぜかシシーさんまで僕の首に甘噛みしてくる。

両サイドから首を軽く噛まれたりペロペロされたりでもう訳が分からなくなる。

「ちゅぱ……かぷ…じゃあ2人とも今日の夜ここに集合にゃ!…かぷ」

「ちゅぷ……かぷかぷ……えー今日行くの?ほんとに?…かぷ」

「あの…2人とも…首噛んだり舐めたりしながら会話続行するのやめてください……」

「思い立ったが吉日にゃあ?…ちゅぷ…かぷ…ちゅぱ」

「うーん…まぁ…早めに宿題は終わらせたいし…かぷり…ちゅぷ…ぺろ」

「くっ………はぁ…めっちゃくすぐったい………あ、そうだ…なんか用意する物ありますか?シシーさん」

「シシーでいいにゃ?」

「シシー」

「うーんそうにゃね…無難に虫取り網でいいんじゃないかにゃ?」

「虫取り網なんてこの牧場にあるんですか?百花さん」

「あると思うよ…ひさ爺の倉庫なんでも置いてあるし」

「じゃあひさっちゃんにあとで電話するかぁ」

「話は決まったにゃあ?じゃあ今夜さっそく決行にゃ……ちゅぷ…かぷ…ちゅる」

「はぁ…まぁいいよ…それで…かぷ…ちゅ…かぷ…」

「かぷ……ちゅ…かぷ…ちゅ」

「ちゅ…ちゅぱ…かぷ」

「いい加減離れろ!!!!!」

今日の夜、森を探検するらしい。

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