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43話

縁側で汚れてもいい靴に履き替え、腕や足に虫除けスプレーを吹きかける

百花さんとシシーとの約束の時間まではまだ20分ほどある。

牧場に降り注いでいた陽光は影も形もない。

森の中で空気が少し綺麗なのか夏だと言うのにちゃんと星空が見える。

牧場という名のジュークボックスは『セミ大合唱!!feat.アブラゼミ』から『夜更かし虫 feat.コオロギ』に切り替わっていた。

夜だけど天候も良し。

なんでこんな早めに準備してしまったかというと。

今までぼっちで生きてきた僕は今『夏休みっぽい事してる』感を前に打ち震えていたからだ。

今まではこんな風に同い歳くらいの人達と夏休みを過ごした事なんてなかった。

だから楽しみで仕方なかったのだ。

ひさっちゃんに電話した結果本当に倉庫に虫網があった。

高校生にもなって恥ずかしくないのかと思わざるを得ないが、僕は縁側の横に虫網と虫かごを用意していた。

虫かごは必要ないがなんとなく持ってきてしまった。

「いいなぁ…なんか僕…青春してる気がする」

自分の憧れていた夏休みに近づいている気がして上機嫌で足をプラプラさせていると後ろから誰かが抱きついて視界を隠してきた。

「だ〜れだ♡」

「え?……」

え、誰だろう。
本当に分からない。

後ろの謎の人物は背中いっぱいに大きな胸を押し付けて体を密着してきている。

少なくとも確実に百花さんではない。
声が違うし、あとなんか雰囲気で分かる。

百花さんならいきなりこんなご褒美モードでくっ付いてくれるはずがない。

江理香さんも違う……いや、江理香さんにこれされたら嬉しいけど、江理香さんはこんな事してこない。

「あ、あの…ヒントとかは」

「ん?んー…そうだね〜…8月1日、衝突、私の子種君」

「ん?………はっ!!?」

分かった。
僕の後ろに居るのは。

「る、ルヴィ…さん?」

「おー、大正解…やるね?もしかして私、結構君のタイプな見た目してた?」

振り返るとそこには褐色の肌、赤髪にショートヘアにウルフカット、おっぱいの大きい、これらの特徴を持った人が居た。

牧場に着いたばかりの初日に僕に突進して襲いかかってきたあの牛娘さんであり、江理香さんの妹さんだ。

「いやー、めっちゃ性癖に刺さる男の子がバイトとして来たからもうルヴィちゃん君の事で頭いっぱいだったんだよね〜♡」

「えっ」

「今日まではお姉ちゃんに拘束されてたから夜這いに来てあげられなかったんだけど…ごめんね?今日はいっぱい相手してあげるから」

「い、いや…ちょっ」

「昨日までは君をめちゃくちゃに犯す妄想してオナニーしてたんだけど、なかなか良かったの〜」

「えっえっオナっえ?!」

「でもそろそろオナニーじゃ我慢できないからお姉ちゃんが仕事してる今のうちに交尾しちゃおっか?」

「し、しないです」

会ってそうそうフルスロットルな下トークを展開してくる。

ちょっとついていけない。

「んー、ていうかさ。君こんなところで1人何してたの?」

「え、あーいや…実は」

「こんなところに1人で居たら悪いお姉さんに食べられちゃうぞ?私の子種くん」

「な、なんかその呼び方…他の人を連想しちゃうんですけど」

私の子種くん。
なんか百花さんに似た呼び方してくるなこの人。

「あー百花ちゃんでしょ…それ」

「え、分かるんですか」

「そりゃーね、百花ちゃんは私の真似っ子だから」

「え…真似っ子…?」

「ほら…噂してると来たよ?百花ちゃん」

妙に後ろから体を密着させてくるルヴィさんの指を指す方を見ると。

そこには心底不愉快そうにルヴィを見る百花さんといつも通りの調子なシシーが居た。

「私のパシリ君から離れて…ルヴィ」

「えーやだよ〜、この子は私の子種くんだもん〜♡」

「えぇぇ?」

なんだなんだ?

この2人仲悪いのか?

百花さんがあんなに不愉快そうにしてる顔なんて初めて見た。

「にゃあ?ルビにゃんも来るにゃ?」

「ん?みんなでどっか行くの?乱交?なら私も混ぜてほしいな」

「にゃあ?違うにゃ、みんなで森に虫取りに行くんだにゃ!」

「夜の森で青姦乱交パティー?!えーたのしそう!!ルヴィちゃんも行く!!」

「シシー無視していいよ…こいつは性欲で脳みそやられてるから人の話なんて理解できないんだよ」

「あちゃ〜酷いなぁ百花ちゃん…百花ちゃんがちっちゃい頃はルヴィお姉さんがたくさん遊んであげたのにね?」

「私の人生の汚点だし」

「もしかしてあの事まだ怒ってるの〜?」

「もういい…行こう?パシリ君」

「えっ…あっはい…。」

百花さんは僕の手を掴んでルヴィから僕を引き離すように立たせた。
立つとそのまま手を握って自分の後に誘導する、まるでルヴィさんから僕を守るような立ち位置だ。

どうしたんだ、ほんと。

「あら〜?もしかしてその子割と気に入ってるの〜?…珍しいね〜百花ちゃんが1人の男の子に執着するなんて」

「と、とりあえず…虫取り行こう!僕楽しみだったんだ」

「子種くんが行くならルヴィちゃんも行こうかな〜?」

「来ないでいいって」

「にゃあ?なんかよく分かんにゃいけどみんなで行くにゃあ!!」

なんとも言えない空気感で夜の森へ踏み出した。
何故かメンバーが1人増えてしまった訳だが。

懐中電灯を片手にしばらく森を進みシシーがよく虫がいるというスポットへ向かっていた。

ざく……ざく……

「わっ…い、いまそこなんか動きませんでしたか!?」

「にゃあ?なんもいないにゃあ」

「パシリ君さ〜ビビりすぎじゃない?」

夜の森。
想像以上に暗い。

僕たちは一応人が1人歩ける程度の古い土が踏み固められた山道を1列になって歩いていた。

シシーが先頭でその後ろに百花さん、百花さんの後ろが僕、最後尾がルヴィさんである。

最初は百花さんの前を歩いて居たのだがあまりにも僕がビビりすぎて百花さんの背中に隠れる行為を繰り返し過ぎた結果。

「もういい、パシリ君は私の後ろに着いてきて」と言われてしまった。

情けない。

「ナオにゃんはビビりにゃね〜」

「だ、だって…ここ暗いし…」

「大丈夫にゃ、この森はシシーの縄張りだからミャーがナオにゃんを守ってあげるにゃん」

「あ、ありがとうシシー」

「シシーに守ってもらうとか恥ずかしくないの?パシリ君」

「いやほんとに怖いんですって」

気づけばシシーと少し仲良くなっていた。
いつの間にかシシーは僕の事を『ナオにゃん』と呼び出した。

まぁ百花さんはモモにゃんだしルヴィさんはルビにゃんだから妥当なあだ名なのかもしれない。

「ち、ちなみに…この森…クマとか出たりしないですか??」

「クマは出ないけどイノシシは出た事あるってひさ爺が言ってた気がするな〜」

「ええええ、イノシシ出るんですか」

「出るにゃー、ミャーは1回見かけた事あるにゃ」

「そ、それいつの話…」

「うーん、確か一昨日にゃ」

「いやめっっっちゃタイムリー」

「たしかにゃあ、最近別の山でイノシシが大繁殖したらしいにゃ」

「イノシシさんパコパコしまくったんだね〜いいなぁパコパコ」

「ルヴィさんの着眼点絶対おかしいです」

「ルヴィは昔から頭おかしいよ?」

「じゃあルヴィちゃんも子種くんといっぱいパコパコして大繁殖しちゃおっかな〜」

「ルヴィはパシリ君から5m以上離れて」

「うーん手厳しいね〜」

「ナオにゃんが大繁殖するにゃ?」

「なんでクローン的な増え方してるんですか…もし駆除されてる所なんて見たら精神崩壊しそうなんでやめてください。」

「子種くんが増えたらおちんちんの数も増えるから最高じゃん!!子種くん!今すぐ分裂して♡」

「無理です、プラナリアにお願いしてください。」

「プラナリアのおちんちんはふにゃふにゃそうだからヤダ」

「ナオにゃんチンチンふにゃふにゃなのにゃ?」

「なんで僕の話にすり変わってるんですか」

「え…パシリ君…おちんちんふにゃふにゃなの?」

「だぁぁああっ。ていうか百花さんまで乗らないでくださいよ!!あなた聞かなくても答え知ってるでしょ!!」

「おや〜?子種くん百花ちゃんとはもうヤったの?え〜聞きたい聞きたいっ!百花ちゃんってどんな風に喘ぐの??」

「あぁぁぁぁぁもうツッコミきれんっっ…というかこれ元々イノシシの話してたんですよね!?」

「今は子種くんのおちんちんの話してるんだけど〜?」

「はいっもうこの話終わりっっっ」

ルヴィさんが居るとなんの話しをしても最後は下ネタに帰結してしまう。

そんなこんなで暗い山中に下ネタを撒き散らしながら歩いていると、とある木にすこし大きめな虫が止まっているのを見つけた。

うん、なんだこの変な虫。
なんとも冒涜的な見た目をした虫。
極めてなにか生命に対する侮辱を感じた。

「これ…なんの虫ですかね…」

「なんか…キモイね…」

「にゃあ…ミャーもコイツは見た事ないにゃ」

「チンチンの形してるね、性に関する知識は全てを網羅したつもりだったルヴィちゃんもこの虫は知らなかったなぁ」

「いや、ほんとに…なんでチンチンの形してるんですかこいつ。」

「なにこの神様が悪ノリで作った感のある虫…」

「鳴くのかにゃ?…つんつん」

パコパコアンアンッッパコパコアンアンッッ

「うわっ…めっちゃキショい鳴き声!」

「これ…新種だったりしませんか?」

「新種にゃあ!」

「い、一応…記念に写真撮っておきましょう…。パシャっパシャっ」

「新種なら確か名前付けられるよね」

「にゃ!本当かにゃあ!?」

「もし新種だった時のためにみんなで1個づつ名前考えておきませんか?」

「それ楽しそうだにゃあ!」

「えー虫の名前か〜…。」

「じゃあルヴィちゃんもなんかネタ考えよ〜」

〜スーパー名前考えタイム〜

「パコアン虫」

「激キモ虫でいいんじゃない?」

「パコティッシュホールド虫だにゃあ!」

「アオカンマンポコケツアナデカマラアヘりハラミ虫」

この4人のどの案が採用されてもこの虫は名前ガチャ失敗である。

「全員ろくな名前じゃありませんね」

「にゃあ?ミャーの名前は結構イケてると思うにゃん」

「ルヴィちゃんの名前も結構いい線行ってると思うんだけどな〜」

「ルヴィさんのやつが1番頭おかしいです…」

「それで…どうする?捕まえる?パシリ君虫かご持ってきてたもんね」

「い、いや…ノリで持ってきただけなんで…しかもこんなにキモイ虫を携えるのはさすがに抵抗あるんですけど。」

「にゃあ?でも捕まえないと新種として認めて貰えないにゃん」

「そ、それもそうだけど」

「ナオにゃんファイト♡」

「パシリ君ファイト♡」

「子種くんファイト♡」

「だぁぁぁぁあっ…や、やってやる」

うん。

捕まえてしまった。

思ったより簡単に捕まった。
虫網でヒョイっと仕留めると虫かごにスッと移した。

昆虫採集までするつもりはなかったのだが。

そんなこんなで虫かごにパコアン虫を携えながらくだらない会話をして僕たちはシシーに導かれ山道を進んだ。

そしてシシーが言うにはそろそろらしい。

「ここ通れば着くにゃん」

「え、ここ通るの?」

「めっちゃ狭いですね」

「マンコキツキツだね」

シシーが指さしたのは人が四つん這いになってやっと通れそうな背の低い木で覆われたけもの道。

木と草で出来た小さな洞窟という表現が最適だ。

足場は普段動物やらシシーやらが通っているせいか割と綺麗に踏み慣らされている。

「これ全員四つん這いで1列にならないと通れなくない??」

「にゃあ?シシーはしょっちゅう四つん這いで歩いてるからよく分かんないにゃ」

「シシーちゃんはセックスする時絶対バックなんだろうな〜」

「にゃ?まぁミャー的には確かに交尾するなら後ろから突かれたいかもにゃ」

「シシー……乗らなくていいんだって」

「だってさ?子種くん。シシーちゃんはヤる時は後ろからがいいってさ」

「えぇ……もう…雑に僕までその話に絡めないで下さいよ」

「にゃ?ナオにゃんミャーと交尾したいのにゃ?」

「シシーって性欲あるの?」

「一応あるにゃ?」

「発情期の猫って凄いもんね……意外とシシーちゃんは激しいエッチしそう」

「あの…このけもの道に入るかどうかの話してたんですよね……?なんで入口の前でずっと関係ない下ネタ話してるんですか」

「にゃ……そうだったにゃっ」

マジでここを通るのかと思っていると「ほら行くにゃよー」とシシーがそのけもの道に四つん這いで入って行ってしまった。

「えぇ…行っちゃった」

「行っちゃいましたね…。」

「どうする?パシリ君…さすがにシシー置いて帰るのはマズイし」

「このまま3人で帰って3Pでもする?それでもいいよルヴィちゃんは」

「無視して?」

「とりあえず、行きましょうか…」

全員で四つん這いになりアーチ状の草木のトンネルを1列に進んでいく。

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