第一話
ふと思い立った俺は、玄関の隅でホコリを被った釣具を整理し、釣竿を担いで県道の橋の下を通っていた。
「おーい、そこのおじさん。おじさ~ん」
品がない女の声が投げかけられる。いや、女というよりガラの悪いメスガキか。四十も過ぎてなんでこんな気分にならないといけないのか。せっかくの休日の朝が最悪になった。先ほど飲んだ缶コーヒーの糖分とカフェインが回りいい気分だったのに。
「無視すんなってば〜。おじさん!」
俺は一瞥もせず、ずんずん進む。ああいう手合いは相手にしてはダメだ。今日は残念だが、釣りは諦めて、ちょっと行った先で土手に上がって帰ろう。
「ほら! おっぱい見せてあげるからこっち向いて!!」
おっぱい!? 想定外の言葉につい目を向けてしまう。――しまった。反応してしまった。一段上がった橋の根元のあたりには、どうせ取り巻きのヤンキーどもがいるはずだ。その様子でも動画に撮られて、カツアゲでもされるに違いない。後悔すでに遅し、俺の目線の先には――
「へっ!? えっ?……」
爆乳といってさしつかえない金髪の黒ギャルが、制服と思われるブラウスとブラジャーをたくしあげ、おっぱい丸出しで突っ立っていた。それも一人で。俺は状況が飲み込めず呆然とする。
(なんでマジで脱いでんの!? 一人で!? おっぱいクソでけーな)
若くハリのある胸に否が応でも目が惹きつけられる。冷静になれ、俺。
(――もしかして罰ゲームってやつなのかな……)
様々な思いが交錯したあと、何にせよ構って良いことは無いだろうと結論付け、足早に立ち去ろうとする。
「うそっ!? 気づいた!? おじさん!! ちょっと待って!」
ギャルが素っ頓狂な声を上げた後、ずり上げた服を着なおそうとする。その様子を横目に入る。――待つものか。歩幅を広げる。片側二車線の橋下をくぐり終える。その時だった。
「――っ!」
後ろからギャルが俺にタックルするかのように抱きついてきた。全く足音が聞こえなかったため、不意をつかれ重心を崩し、膝をつく俺。釣り道具がガシャリと音を立てる。
「こらっ! 何すんだ、危ないだろ!」
とっさに声を荒げる。それだというのにギャルは興奮した様子で、俺に抱きついたままだ。一体何だというのだ。
「マジっ!? ほんとのほんとに!? 触れてる?」
意味の分からないことを言う子だ。触れてるもなにも、お前が抱きついてきたんだから当然だろと心の中でツッコむ。――ん?……この背中の触感……
(おっぱいめっちゃ当たっとる!)
意識すると黒ギャルの大きく柔らかな膨らみが背中にむにゅりと当たっているのを感じた。
(おぅふっ……ちょっ!! おまっ!)
慌てて振り向く俺。そこには幾分かあどけなさを残しながら、体はむちむちした褐色のJKが目を潤ませて腰に抱きついていた。――絶対に離さないという風に。ギャルと目が合う俺。
「やっぱりおじさん気づいてるよね!? あたし月葉
るなは
。ここで三年くらい地縛霊やってんだ♪」