Sランク落とし⑤ 爆谷響子 ♡
天頂高校は全寮制で、すべての生徒は学園の用意した寮で暮らすことになっている。しかし7,000人を超える生徒をすべて収容するだけの寄宿舎を敷地内に作ることは現実的ではないので、学園と契約している下宿を寮代わりに使うなど、敷地外の部屋をあてがわれている生徒も多い。低ランクの生徒はオンボロ寮のみすぼらしい部屋でルームメイトと相部屋生活を送ることになるが、Aランクの生徒ともなれば学外のマンションで独り暮らしをすることができる、といったように、こうしたところにも生徒のランク格差は露骨に現れる。
爆谷響子の部屋は、学園からそう離れてはいない場所にある、高級マンションの一室だった。1LDKなのに90平米もあるというふざけた部屋だ。学園の上位0.1%、たった七人しかいないSランクともなれば、住まいまでもが規格外のものを与えられる。
玄関に入るなり、その差別的待遇への腹立たしさをぶつけるかのように、槍太が襲い掛かってきた。爆谷響子は咄嗟に振り払おうとしたが、いくらSランクの武闘派でも、固有能力
インヘレンス
が使えなければ、か弱い女に過ぎない。あっさりと壁に押し付けられ、組しだかれてしまう。
「い、いきなりなにを……んんッ♡」
何か喋ろうとする前に、キスで口をふさがれた。表面をチョンと触れるだけのお遊戯じみたものではない、唇の裏側までぬっとりとむき出しにして、吸い付くような濃厚なキスだ。
「んッ、んんんッ♡ んーーーッ!!」
咄嗟の出来事で、爆谷響子は壁際に挟まれてしまった。体ごと圧し潰そうとしてくる胸板に手を当て、めいっぱい押し返そうとするが、男くさい厚みのある体はビクともしない。まるで壁に張りつけにされたように、身動きが取れなくなる。
「んッ、んんッ! んッ、んッ、んぅッ♡」
嫌がって顔を背けようとしても、頭に腕を回され、がっちりと抱え込まれてしまっているせいで、キスから逃れることもできない。タコの吸盤のような唇が、爆谷響子の口の周りごと吸い込もうとして、ブチュブチュと音を立てる。
〈キ、キス──これが、キスなのか──!?〉
爆谷響子は、瞳を宙に漂わせながら、まぶたをフルフルと震わせた。
〈ち、違う──思ってたのと、全然ちがうっ♡ キスって、もっと素敵なものだと思ってたのに……♡ ふんわりと唇の先を当てて、胸がトキメクようなものだと思ってたのに……っ♡〉
男性経験のまるでない爆谷響子は、知識と現実のあまりの違いに戸惑っていた。キスなんて、純粋
ピュア
な恋愛漫画にでてくるような、初
うぶ
な男女の、爽やかなフレンチキッスみたいなものしか頭になかった。
そんな優しくて可愛らしいキスとはまるで違う、いやらしく、欲望のままに貪
むさぼ
るような接吻
せっぷん
。
〈ちがうぅ……絶対ちがうぅ……♡ こんな、こんなイヤラシいの、普通のキスのはずない……♡〉
恥ずかしくなるくらい強引で淫らな口吸いで唇を奪われてしまっているというのに、爆谷響子の目はとろんとしていた。ちゅばちゅばと大きな水音を立てながら、ぷりんとした唇を乳首みたいにちゅうちゅう吸われると、思わずもっと粘膜と粘膜とで触れ合えるよう、口をすぼめて、唇をむき出しにしてしまう。
「んーー……っ♡ んちゅ♡ ちゅぅ♡ ちゅ♡」
ぶちゅうぅと唇の裏側同士を押し付けあうと、めくり上がったぷるぷるの唇が互いに圧し潰されて、唇で唇の柔らかさを直
じか
に感じてしまう。もぞもぞと口を動かすと、唾液で潤
うるお
った粘膜が擦
こす
れてふわふわした気持ちになる。もっと、もっとぬるぬるにしたいと、口の中からよだれが溢
あふ
れてくる。
〈あぁ……っ、なんでだよッ。ファーストキスなのに、〝初めて〟はもっとロマンチックなキスに憧れてたのに……こんな、ドスケベなキスされて、どうして気持ちいいんだよぉッ♡♡♡〉
爆谷響子は槍太に好意を持っているどころか、敵意を抱いている。そんな相手とのキスなんか死ぬほど嫌でたまらない。それなのに、弱みに付け込まれ、逆らえないのをいいことに無理やり唇を奪われて────それがたまらなく気持ちいい。
それが爆谷響子の【特殊性癖
スイートスポット
】だった。どんなに意識では嫌だと思っていても──むしろ爆谷響子の場合は、嫌だと思えば思うほど──性欲を掻
か
き立てられる。逆らえば逆らうほど快楽は増し、受け入れえば虜
とりこ
となってしまう。憎き相手にイヤラしく体を弄
もてあそ
ばれている限り、爆谷響子は逃れることができない。
「んっ、んちゅ♡ ちゅっ♡ ちゅうちゅう♡ んちゅぅー……♡」
〈──あぁっ♡ だ、だめだ♡ このキスだめだ♡ こんなのずっとされてたら、頭がおかしくなるっ♡ キスで価値観、上書きされるっ♡〉
「ふっ♡ んんっ♡ んふっ♡ ふぅ、ん……♡ んー……♡」
〈──なのにっ、とまんないッ♡ だれだよっ、ファーストキスがレモンの味だなんて言ったのっ♡ そんな甘酸っぱいもんじゃなくて……もっとヨダレくさくて、ツンとした味なのに…………もっと舐
な
めたくてたまんなくなるぅ♡♡♡〉
爆谷響子は、それをなんとか堪
こら
えていた。舌を出して、ベロベロと舐
な
めたい衝動を、必死にガマンしていた。そんなことをしたら、とんでもないことになってしまう。それが直感的にわかっているから、甘い唾液に誘われて、舌先が伸びていこうとフルフルと震えても、口の外までは出してしまわないよう、懸命に抑え込んでいた。
しかしそんな抵抗を咎
とが
めだてるように、槍太が爆谷響子の顔を掴んだ。ゴツゴツした指で頬っぺたの肉をムニッと挟み込んで、口の中身を絞り出すように、ギュウウと握りしめる。
「んえぇッ」
片手で無理矢理あっちょんぶりけをするように頬を潰され、ひょっとこのようにすぼめられた口から、「えうーっ」と舌が押し出される。
細く尖った舌先は、行き場を失ったように顔を出したままになり、そこに、反対の口から肉厚の舌が伸びてきた。
「んえっ!? へぁっ!?」
舌先と舌先がチョンとぶつかると、ビクンッと爆谷響子の背中が震えた。コリコリと硬くなり、ツンと緊張したピンクの敏感な突起物を、容赦のない舌使いがくすぐりはじめる。
「へッ、へぇ~~~~ッ♡ えへっ♡ ええぇっ♡ んえぇぇ♡」
その動きは、ネチネチとしたイヤラしいものだった。まるで爆谷響子の舌を味わいつくすように、奥の肉厚なところや、舌裏の筋になったところまで、ベロベロと舐め回す。
「へッ♡ んえっ♡ んへぇっ♡ んへ~~~~~♡」
〈──し、舌っ♡ 舌が食べられてる♡ ベロベロ舐めまわされながら、先っちょちゅーちゅー吸われてるっ♡〉
爆谷響子の舌は、ピーンと上にのけ反って逃れようとするが、侵入してきた舌はまるで触手のように容赦なく絡みついてくる。まったく身動きを取れないように体を押さえつけられているのと同じように、口の中まで逃げられなくされて、好き放題にいじめられてしまう。
〈これ、やばいっ♡ これやばいィ♡ 口の中ベロベロされんの、すっげぇキュンキュンくるっ♡ 嫌なのに♡ こんなクズやろう、大嫌いなはずのに♡ ギュって抱きつきたくて仕方なくなってくるぅ♡〉
実際、爆谷響子は槍太に抱きついていた。さっきまでは押し返そうと必死だった手は背中に回り、乳が潰れるくらいに強く、胸を押し付けるのを手伝っている。
そうやって無意識に体を密着させていると、爆谷響子の股の間に槍太の膝が差し込まれてきた。ピタッと恥ずかしそう閉じていた内ももを強引に押し開いて、無遠慮に脚の付け根まで食い込んでくる。
ゴツゴツした男の膝の硬さを股間で感じ、キュンとお腹の奥がうずく。その苦しさから逃れるように、爆谷響子は腰を動かした。まるで男の脚を使ってオナニーをするように、股間を膝骨に擦
こす
りつけながら、もぞもぞと腰を前後に振る。
「んっ♡ おっ♡ ほおっ♡ んあぁ♡」
もはやどちらが相手を貪
むさぼ
っているのかわからない。腰をくねらせ、乳房をグリグリと押し当てながら、爆谷響子は唇を吸い付かせる。ぶちゅぶちゅと音を立てて相手の唇をしゃぶり、自分からも積極的に舌を絡ませていく。
〈き、キス……好き♡ これ好きィ♡ もっと……もっとキスしたい♡ ……こいつのことは嫌いだけどぉ、このキスは好きぃ♡〉
そうやって唇を重ねていると、とろけきった口の中に相手の唾液が流れ込んでくる。繋がった舌を自然と伝ってくるだけではなく、槍太はあえて多く分泌させたよだれを注ぎ込んできているようだった。
爆谷響子の口の中に、次第に男の唾液が溜まっていく。気色悪いはずのものなのに、それが甘美な蜜のように思えてしまう。
〈はあぁぁ♡ こ、こいつ……絶対わざとだ♡ こいつアタシに自分の唾液を飲ませようとして、わざと口の中、よだれでいっぱいにしてる♡〉
口内に液体が溜まると息が苦しくなる。鼻呼吸をしていても、喉に伝ってくる液体が肺の方に行こうとするせいだ。そうなってしまわないように、喉が勝手に、溜まった唾液を飲み込もうとする。
〈や、やばい……♡ こんなもの飲まされたら、おかしくなる♡ こんな甘くてドロドロでとろけるような唾液、キスしながら飲まされたりしたら、絶対頭が変になるぅ♡〉
それがわかっているのだろう、露骨に「飲め、飲め」といわんがばかりに、唾液が送り込まれてくる。結局はその要求に屈して、ンクッと口の中に溜まった大量の唾液を飲み込んでしまった。
「ふっ──♡ んんんっ♡ んーーっ♡♡♡」
爆谷響子がギュッと抱きつく腕に力を込める。
どろりとした粘性の液体が喉を伝わり、ボトリと胃の底に落ちるのがわかった。それが体の中に沁み込んで、体中に広がっていく。体の隅々にまで快楽が行き渡り、最後にはお腹の下あたり──子宮のところに凝縮される。
「んふーーっ♡ んっ、んんっ♡ んぶ、ふぅぅん♡ んふんおおぉぉん♡」
爆谷響子は、口をふさがれたまま、緩み切ったゴムを弾くように声を出した。下腹部がじんじんと熱くなり、とめどなく湧き上げてくる絶頂を、抑えることができない。
キスでイカされてしまった。
股間がブルブルと震え、腰がビクッと跳ねようとするたびに、メスの快楽汁を垂れ流す。相変わらず、脚の間に押し込まれた膝で股を押し上げられているので、イッてしまったことは槍太にも丸わかりだ。この男に隠し事などなにもできない。
「んっ♡ んんっ♡ ん-ぅっ♡ んふぅん♡ んーー♡」
アクメしている最中も、舌舐めキスが続く。まるでベロチューで愛撫されながら絶頂しているような感覚。もっとその快感がほしい。そうおねだりするように、ちゅばちゅばと唇をしゃぶりつかせてしまう。
「んふっ♡ ふっ♡ んちゅ、ちゅ♡ ……んあっ♡ あぁん♡」
ちゅぱっと音を立てて唇が離れると、爆谷響子は切なそうな声を立てた。まだイッてたのに。もっとベロチューアクメを味わっていたかったのに。そう言いたげな面差しはすっかりメス顔で、頬を朱色に上気させ、目はうっとりと垂れ下がっている。
「よっぽどキスが気にいったみたいだな」
そんな爆谷響子の様子を見て、槍太は嘲笑
あざわら
うように言った。
「物欲しげな顔をして、もっとキスがほしくてたまらないんだろう」
「だっ、だれが……♡ お前とキスなんか、したいわけないだろ……♡」
言っていることとは正反対に、爆谷響子は名残惜しそうに舌を突き出したままだった。めいっぱい尖らせたコリコリの舌が、上下にクイクイ、左右にベロベロと、むなしい空振りを続ける。まるで娼婦が、気のない男を挑発して無理やり欲情させようとするような、淫らな動きだ。
「いやらしい顔しやがって。そんなにまた舌をいじめられたいのか」
「やっ、やめろぉ♡ し、舌を近づけるなっ♡」
「ほぉら、舌を引っ込めないと、舌先が触れてしまうぞ」
舌の先端と先端が、ちょんと触れる。
「はっ♡ はぁっ♡ はああぁぁん♡」
「おいおい。ちょっと舌が触れただけでイッてるのか? こんないやらしい舌をして、この先が思いやられるな。こんなんじゃ、これからはちょっとキスしただけでアクメするようになるぞ」
「はおっ♡ はおぉん♡ つ、つんつんするなぁ♡ ベロの先っちょ、ベロでツンツンするなぁっ♡」
「なんだ、舌先じゃ不満か。もっとねっとり、ディープなキスをしてほしいのか?」
「キ、キス!? また、あんなすごいキス、するつもりなのかっ!?」
「そんなに喜ぶなよ。オレのズボンがエロ汁で水浸しになるだろ」
「キスは、だめだ……♡ あんなのされたら……あんなのされたら……」
〈あんなことされたら……好きになっちゃう♡ こんなやつ嫌いじゃないといけないのに、キスしてる間だけは好きになっちゃうぅ♡〉
「イヤならそのエロ舌、クネらせるのをやめろ。さっきイッてる途中で止められて、欲求不満なんだろ」
「あ、あ……キス、くるぅ……またキスされるぅ……」
「安心しろ。今度はもっと長いやつをしてやるからな」
「んっ♡ んんっ♡ んーーっ♡」
先ほど槍太が揶揄
やゆ
した通り、爆谷響子は唇を重ねただけでイッてしまった。
中途半端な状態で宙ぶらりんになっていたアクメが、キスで引っ張り出されたように、いとも簡単についさっきまでの、めくるめく快楽のただ中に引きずり戻される。
もうどうしようもない。すっかり全身は唾液を飲まされてアクメした直後と同じ状態に戻っていた。唇をしゃぶるのを止められない。舌を絡ませるのも、おっぱいを押し当てるのも、股間を擦
こす
りつけるのも止められない。
なんど小さな絶頂繰り返しても、煮えたぎるような性欲は収まりがつかず、ひたすらに満たされない快楽を貪
むさぼ
る。もっと、もっとと、別の何かを求めるように。
──セックス。
それこそが本当に求めているものだった。キスも、愛撫も、そこに導くための疑似的な行為にすぎない。爆谷響子の〝本能〟が求めているものを満たすには、その性行為の究極のところまで行きついてしまう他にない。
爆谷響子は、生まれてから一度も経験したことのない快楽につきうごかされて、キスを貪
むさぼ
り、股間を擦
こす
りつける。そうせずにはいられないのに、そうすればするほど、切なさが募ってくる。それでますます、相手を求めずにはいられなくなる。
〈だ、だめだ……♡ こんな、こんなこと考えるなんて、アタシどうかしてるっ……♡〉
いつまでも満たされない欲求は、女をどこまでも愛らしく、どこまでも淫らにさせてしまう。爆谷響子は性愛の奴隷へと変えられつつあった。
〈抱かれたいっ♡ この男に抱かれたいっ♡ むちゃくちゃに抱かれて、女を散らしたい♡ くそっ……どうしてだよっ♡ アタシはこいつに脅されてるのにっ、こいつは人を辱
はずかし
めて喜ぶクソやろうなのに、どうしてそんなやつに、こんなにも抱かれたくてしかたないんだぁ♡〉
まるでそんな爆谷響子の心の声を聞き取ったかのように、槍太は唇を離した。それからまたアクメの残り香に未練たらしく取りすがるように、とろけた顔で舌を垂らしている爆谷響子の耳元で、ささやく。
「ベッドに行くぞ」
拒否などできるはずがない。
鼓膜を直
じか
に撫
な
でるような低い声は、爆谷響子を性欲の深いところを鷲掴みにして離さない。
「覚悟しろよ。普段お前が寝ているシーツも布団も、セックスの臭いが染みついて取れないくらいにしてやるからな」
他の漫画を見る