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3話

「紗百合さん、僕……」

「はい、なんでしょうか?」

もっとエッチなことをして欲しい──そう言おうとしたとき、テーブルの上に置いてあった携帯電話から軽快なリズムの着信音が鳴り響いて、めくるめく官能の世界に足を踏み入れようとした僕を寸前のところで踏み留まらせた。

「あ……えっと、電話、出ないと」

我に返って後ずさると、僕は急いでズボンを履き直し、逃げるようにテーブルへ駆け寄る。危なかった……もう少しで流されるまま、義理の母親相手にとんでもない要求をするところだった。

しかし、なんとか窮地を脱したもののピンチはまだ続くようで、手にした携帯の画面には、今の状況をいちばん知られたくない相手──香苗おばさんの名前が表示されており、その場で頭を抱えたくなったが、電話に出ないわけにはいかず、僕はおそるおそる画面をタップして携帯を耳に近づけた。

「……もしもし、香苗おばさん?」

『和也? 今大丈夫かしら?』

後ろにいる紗百合さんを気にして小声で呼びかけると、スピーカー越しに穏やかな声が発せられた。聞き慣れたおばさんの声なのに、妙な後ろめたさのせいでドキッとしてしまう。

「う、うん、大丈夫だよ」

『あのね、わたし今日は仕事がお休みなの。だから晩ご飯はうちで一緒にどうかしら?』

「きょっ、今日!?」

優しくて料理上手な香苗おばさんとのディナーはとても魅力的だし、普段であればふたつ返事で了承しているところだが、なにせ今は突然できた”義母”という大きな問題を抱えている。

香苗おばさんは大抵のことを笑って許してくれる温和な女性だけど、僕に対して少々過保護なところがあり、特に、おばさんにとって実の姉である母さんを不幸にし、今もなお父親としての責任を放棄している父さんの話題が絡むと、一転して苛烈になるきらいがあった。

もしもここで「実は、父さんが新しい母親を連れて来ちゃってさ、ちょっとゴタゴタしてるから今日は行けそうにないんだ」と、素直に白状したとしよう……間違いなく面倒なことになる。ともすれば、おばさんが家に乗り込んできて、女の戦いが勃発するかもしれない。これ以上ややこしくなるのは勘弁して欲しい。

僕は後ろにいる紗百合さんの様子をちらりと肩越しにうかがってから、彼女に聞こえないよう声を潜める。

「ねえおばさん、今から行ってもいい?」

『え、もう来るの?』

「ダメかな?」

『わたしは構わないけど……わかったわ。それじゃあ待ってるわね』

怪しまれたかと思ったが、おばさんは深く追求してこなかった。僕は通話を切ると、それまで静かに待っていた紗百合さんの方に向き直る。

「ごめん紗百合さん、ちょっと出かける用事ができちゃったから、悪いけど話の続きは帰ってからでいい?」

「ええ、構いませんわ」

来たばかりの義母を家に置き去りにするのは、バツの悪さを感じてしまうが、正直、このまま紗百合さんとふたりきりでいると、また雰囲気に流されてしまいそうだし、今はともかく、一旦落ち着いて気持ちを整理する時間が欲しかった。

「お戻りは何時ごろになりますか?」

「えっと、たぶん遅くなると思うから、紗百合さんも好きにしててよ」

「そうですか、でしたら──」

「あのっ、それじゃあ、僕はもう行くね」

「あ、和也さん……」

何か言いかけた紗百合さんの言葉を遮って、僕は早足にリビングから出ていくと、玄関の靴箱の上に置かれた鍵をポケットに突っ込み、逃げるように外に飛び出した。

自分の行動を無責任だと思いながらも、ようやく紗百合さんから離れられたことにほっと安堵しつつ、ちょっと勿体なかった気もしていた。あのとき携帯が鳴らなかったら、どこまでしてもらえたのだろうか? もしかしたら、義理の母親で童貞を卒業しちゃってたり……。

紗百合さんのすべらかな指がペニスをなぞる感触を思い出して、たまらず股間が疼いてしまうのを僕は走って誤魔化すのだった。

香苗おばさんの住んでいるマンションは家から駅を挟んで反対側に位置しており、歩くと二十分程度の距離だ。住宅街を抜けて大通りの並木道に出てしばらく進むと、休日ということもあり、駅に近づくにつれて人通りも増えてきた。

歩きながら遠目に駅前のショッピングセンターが見えると、幼い頃、母さんと一緒によく買い物に来ていたことを思い出す。一見すると昔とさほど変わってないように見える街並みだが、空き地だった場所にコンビニがオープンしていたり、婦人向けの洋品店がオシャレなカフェになっていたりと、母さんとの思い出の場所が少しずつ変わっていく様子にどこか寂しさを覚えてしまう。

駅を通り過ぎたところで、おばさんに『もうすぐ着くよ』とメッセージを送った。すると、すぐさま投げキッスのスタンプが返ってきたのを見て思わず苦笑してしまう。

それから十分ほど歩いて、僕は見慣れたマンションの前に到着した。築年数はそれなりだが、最近になって塗り直された明るいクリーム色の外壁のおかげで古さは感じない。

薄暗いエントランスからエレベーターを使わず階段で二階へ上がり、同じドアが並ぶ廊下を進んで二〇三号室の前に到着すると、インターホンを鳴らした。

間延びしたチャイムの音が廊下に響き、しばらくしてカチャリと解錠音が鳴る。そして、開かれたドアの奥からおばさんが姿を見せた。

「いらっしゃい和也。待ってたわ」

今年で三十三になる香苗おばさんは、紗百合さんと同じく実年齢よりもずっと若く見える美人だった。

肩口でまとめられた緩やかにウェーブする栗色の髪。ふにゃりと目尻の下がった優しい笑顔は、姉妹だからだろうか、どこか母さんの面影を感じる。大好きなおばさんを前にして頬が緩みそうになるが、彼女の格好に気づいて僕はすぐに顔をしかめた。

「あぁもう、おばさん、そんな格好で外に出ちゃダメだって、前にも言ったじゃないか」

というのも、おばさんは薄いキャミソールの上にカーディガンを羽織っただけのラフな部屋着姿だったからだ。無防備にはだけている胸元では、ゆたかな乳房が魅惑的な谷間を作り、ショートパンツからは白くてムチッとした生足が伸びている。こんな格好をマンションの住人男性や配達員に見られでもしたらと思うと、気が気ではない。

「大丈夫よ。家の中でしかこんな格好しないから」

「いや、今こうして外に出ちゃってるし。女の人のひとり暮らしなんだから、もっと気をつけないと、ほら早く入って」

「あん、もう……和也は心配症ね」

僕は不服そうにしているおばさんの背中を押して、さっさと部屋の中に入ると、ドアを閉めて鍵をかけた。

「おばさんは無防備すぎるんだよ」

「今日はあなたが来るって知ってたからよ。いつもはもっと気をつけてるわ」

可愛らしく不貞腐れるおばさんのおっぱいが、腕を組んだ弾みでたゆんと揺れた。甥の目も少しは気にしてほしいんだけどね……。

おばさんは僕の前だと隙を見せることが多い。短いスカートをはいてるときなんか、不意にパンティが見えてしまうこともしょっちゅうで、そのたびにムラッとするのを抑えるのに苦労している。

おばさんは僕のことを甥っ子としか見てないんだろうけど、僕にとって、香苗おばさんは大切な家族であり、いちばん身近な”女”だった。

小学生までは気兼ねなく甘えていたが、僕の心と体が成長していくにつれ、スキンシップで抱きつかれたときの柔らかな乳房の感触や、おばさんから香る甘い匂いに股間が疼くようになってしまい、中学生になった頃には、おばさんを完全に女として見ていた。

母さんを亡くして失意の日々を送っていた僕がこうして立ち直れたのも、おばさんが本当の息子のように愛情を注いでくれたおかげだった。そんな恩人をいやらしい目で見るなんて裏切り行為だと分かっていても、動くたびにタプタプと揺れる大きなおっぱいや、プリプリとした大きなお尻を見せつけられたら、どうしようもなく性欲が反応してしまい、香苗おばさんをオカズにして、もう何度オナニーをしたかも分からない。

しかも、妄想だけに留まらず、おばさんの家に泊まったとき、洗濯カゴに入っていた下着を使って自慰をしてしまったこともある。

あれは──セクシーな黒いレースのパンティだった。左右が紐留めになっていて、生地は恥部が透けてしまいそうなぐらい薄く、お尻の部分がティーバックになっていた。おばさんの大きなお尻に、こんな面積の少ないエッチなパンティが履かれているのを想像しただけでチンポが熱く滾り、気がつけば僕は下着を手に取って匂いを嗅いでいた。

布地に染み込んだ濃厚なチーズのような匂いが鼻腔を通り抜けると、頭の中が熱く痺れるような感覚を覚えた。よく見るとクロッチ部分には、うっすら透明なものが付着していて、それがおばさんのオマンコから分泌されたものだと気づくと、もはや込みあげる衝動を抑えることはできず、僕は硬く反り返った肉棒にパンティを被せていた。

血流でパンパンにふくらんだ亀頭を分泌物の付着したクロッチに押し付けると、まるでおばさんの膣穴にペニスを突き立てているような錯覚に陥り、甘美な刺激に酔いしれた。脳汁がドバドバと溢れ出す快感、鈴口からトロトロ垂れる透明なカウパー液がクロッチに染み込んでおばさんの分泌液と混じり合う。目を閉じてペニスをしごくと、本当におばさんとセックスをしているような気分になった。

背徳感も加わって、いつものオナニーでは感じられない圧倒的な興奮。精巣がわななき、マグマのように込み上げてくる射精感に身を委ね、「ああっ、おばさん……おばさんのオマンコに出すよ……」と、うわ言のようにつぶやきながら、僕はパンティで肉棒をギュッ握り締め、香苗おばさんの膣内を想像しながら熱い滾りを放出した。

ドクッドクッ──! と、ペニスが脈動するたびに、勢いよく精液が吐き出され、その量は亀頭を包んでいた布地の隙間から粘ついた白濁液が漏れてしまうほどだった。

今まで経験したことがないぐらい強烈な射精の快感によって頭の中がぼわっとした。けれど、しだいに冷静さを取り戻していくと、こんなことがおばさんにバレたらという不安に駆られ、慌ててパンティに付着した精液をティッシュで拭き取って洗濯カゴに戻したのだった。

それ以来、おばさんに合うたび少し後ろめたい気持ちになってしまう。

おばさんは知らないのだ。僕がこんな獣のような欲望を秘めて自分を見ていることを──。

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