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4話

「そんなにわたしのことが気になるなら、一緒に住んでくれてもいいのよ?」

「えっ」

玄関から上がった香苗おばさんが、まるで僕の気持ちを察しているかのように、思わせぶりにほほ笑むので一瞬戸惑ってしまう。

しかし、おばさんにそんな意図がないことは分かっている。おばさんは以前から、僕が一人暮らし状態なのを気にして同居を提案してくれているのだ。

勿論、大好きなおばさんと一緒に暮らすことに不満などなく、むしろ喜んでお願いしたいところではあるけれど、僕が出ていったらあの家は誰も住まない空き家になってしまう。母さんとの思い出が残る家を放りだすのは忍びなく、なにより、性的な目で見てしまっている女性と一つ屋根の下で暮らして理性を保てる自信が僕にはなかった。きっと、洗濯物でオナニーをするだけに留まらず、もっと大きな過ちを犯してしまうだろう。それが怖くて、この話題になるたび、少し考えさせてほしいと保留してもらっている。

もしも、おばさんが結婚していれば、こんなふうに血縁の叔母に対して想いをこじらせることはなかっただろう。けれど、おばさんは十年以上前に離婚をしてから、ずっと独身を貫いている。美人で気立てもよいのだから、探そうと思えば新しい相手ぐらい簡単に見つかるだろうに──。

もしかしたら、僕が面倒をかけてしまっているせいで、おばさんは恋人を作る時間がないのかもしれない。同居なんてしたらなおさらだろう。僕のせいでおばさんが新しい出会いの機会を失っているのだとしたら、申し訳ないと思う反面、できることなら、もう少しだけ僕だけのおばさんでいてほしいという独占欲が心の中で葛藤を生む。

まあ、今となっては違う理由で一緒に暮らすのが難しくなってしまったわけで、紗百合さんのこと、どうやって、おばさんに話せばいいんだろうか……。

「べつに、無理にってわけじゃないのよ? 和也がそうしてもいいと思ったらで……わたしはいつでも大歓迎なんだから」

家に残してきた問題を思い出し、つい顔をしかめていたせいで、おばさんは自分の言葉が僕を困らせたのだと勘違いしてしまったようだ。

「うん、わかってるよ。いつも気にかけてくれてありがとう、香苗おばさん」

「やあね、そんなの当たり前じゃない。あなたはわたしの大切な甥っ子なんだもの。さあ、上がってちょうだい、お茶にしましょ」

そう言われて、僕も靴を脱いで中に上がると、おばさんの後についてリビングへと向かった。

白い壁紙に淡い色合いの家具が配置され、モダンな雰囲気にコーディネイトされた女性らしい部屋に足を踏み入れると、爽やかなアロマの匂いが鼻を掠める。ソファに腰掛けて背もたれに体を預けて待っていると、キッチンに向かったおばさんが、アイスコーヒーのグラスを載せたトレイを手に戻って来た。

「おまたせ。和也はガムシロップだけでいいのよね?」

「うん、ありがとう」

おばさんはローテーブルの上にグラスを置くと、向かいに腰掛けて自分のグラスにミルクを垂らす。そのとき少し前屈みになったせいで、たわんだキャミソールの胸元からブラジャーに包まれた乳房が見えてしまう。今日は花柄の刺繍が入ったセクシーな青いブラだった。

こういうところが無防備なんだよな……。

そう思いながらも口には出さず、気づかれないようチラチラと胸の谷間を覗き見してしまう。

僕がよこしまな視線を向けていることにも気づかず、おばさんはストローでグラスをかき混ぜると、横髪を手ですくって耳に掛けてから、厚ぼったい唇でストローの先っぽをチュッと咥えた。

「んっ」

ストローをつたって口の中に液体が流れ込み、こくりと喉を動かして飲み込む。その一連の仕草がやたらと艶かしくて、つい見惚れていると、不意にこちらを見たおばさんと目が合った。

「なぁに?」

「あ、いや、なんでもない」

露骨に胸を見ていたのがバレただろうか? 誤魔化すようにストローを吸い、底に溜まっていたガムシロップの強烈な甘さに眉をひそめていると、そんな僕の様子をおかしそうに見えていたおばさんが、おもむろに口を開いた。

「ねえ、お家で何かあったんでしょ?」

「えっ!? なっ、なんで……?」

「ふふっ、ずっとあなたの面倒を見ているんだもの、和也が何か隠してたら、わたしはすぐに気づくんだから」

不意を突かれて目を丸くする僕に、おばさんがしたり顔で言う。今の反応で隠し事をしていると白状したようなものだ。

「えっと……実はね……」

僕はもう隠し通すのは無理だと悟り、大人しく白状することにした。それからしばらく、おばさんは最初こそ黙って僕の話に耳を傾けていたけれど、話を聞くにつれ、その顔がみるみる引きつっていった。

「信じられない……それじゃあなに? あなたの家には今、その紗百合さんて方がいらっしゃって、これからは、その人と一緒に暮らすってこと?」

「たぶん、そうなると思う」

「ああ、忠和さん、本当に何を考えてるのかしらあの人! それで、紗百合さんて、どんな方なの?」

「それは……わかんないよ、まだ会ったばかりだし、おばさんと同じぐらいの歳だってことぐらいしか……」

付け加えるなら、ものすごい美人で、ちょっと変わっていて、僕の言うことを何でも聞いてくれるらしく、さっきなんて手コキで射精させてくれたんだよ──なんて言えるはずもない。

「なによそれぇ、どうしてそんな事になっちゃうわけ?」

「さぁ、なんでだろうね、僕にもわかんない……」

自分で説明していて冗談にしか聞こえないのだから、おばさんが困惑するのも無理はなかった。

その後も「その人はちゃんと家事をしてくれるの?」とか「まさか、財産目当てで家を乗っ取ろうとしてるんじゃ……」など、おばさんはあらぬ妄想は膨ませ、ついには、「今から、わたしが直接会って、どんな人なのか確かめるわ!」と言い出したのをどうにか宥め、とりあえず様子を見て、何かあればすぐに相談するということで納得してもらった。

そして、ようやく話が落ち着いた頃には、窓から見える空はオレンジ色に染まり、リビングには眩しい西日が差し込んでいた。

「はぁ……それじゃあ、わたしはお夕飯の準備をするから、和也はテレビでも見て、ゆっくりしててちょうだい」

おばさんは疲れた声で、よいしょと立ち上がるとキッチに向かい、冷蔵庫の脇に掛けられたエプロンを身につけて、すぐに料理の支度に取りかかった。僕はといえば、特に見たい番組もなく、適当にチャンネルを切り替えながらテレビを眺めていたのだが、映像は頭に入ってこず、瞼がだんだんと重くなってくるのを感じていた。

そういえば紗百合さん、夕飯はどうするのかな……家のこととか何も説明してなかったし……でも、大人なんだし、べつに心配しなくても大丈夫か……。

うとうとしながら考えていると、次第に頭の中がぼんやりと鈍くなっていき、いつの間にか瞼は完全に閉じていたのだった。

どれくらい眠っていたのだろうか。香ばしい匂いに釣られて目が覚めると、カーテンの隙間から見える窓の外は、とっぷりと暗くなっていた。

「あら、起きた?」

ダイニングテーブルに料理を並べていたおばさんに声をかけられ、僕は目を擦って、ぐぅっと背伸びをする。

「ちょうど起こそうと思ってたところよ。準備できたから食べましょ」

テーブルを見ると、じゅわりと肉汁を滴らせるお手製のハンバーグが皿の上で美味しそうな匂いを漂わせながら僕に食べられるのを待っていた。

食卓につき、しばし歓談しながらふたりきりの食事を楽しんでいたところで、ふと、おばさんが寂しげな顔をしているのに気づいた。

「どうしたの?」

「これからは、こうして和也と食事をすることも、なくなるのかしらね……」

たしかに、紗百合さんと暮らすことになれば、必然的に食事は自宅で食べることになるだろう。今までは頻繁におばさんの家を訪れていたが、それも少なくなるかもしれない。しかし、それを寂しいと思うのは僕も同じだった。

「回数は減るかもしれないけどさ、これからも、ちょくちょく食べに来るよ。僕、おばさんの料理大好きだから」

「ほんとう? 新しいお母さんにべったりで、わたしのこと忘れちゃったりしない?」

「しないよ。当たり前じゃないか」

まるで子供のように拗ねた声を出す様子が可愛らしくて、安心させるために笑ってみせると、おばさんも安堵して目を細めた。不謹慎かもしれないけど、おばさんが僕と会えなくなることを、そこまで寂しがってくれたのが凄く嬉しかった。

そして、食事を終えておばさんが食器を片付けていると、風呂が沸いたのを知らせるアラームが鳴った。どうやら気を利かせて風呂の準備もしてくれていたらしい。

「どうせなんだから、お風呂も入っちゃいなさい。着替えは置いてあるんだし」

「うん、そうするよ」

お言葉に甘えて僕は風呂場へと向かい、洗面所で脱いだ服を濯カゴに振り込むと、肌寒さを感じながら浴室に足を踏み入れた。

風呂の蓋を外すと白い湯気がほわっと立ち昇り、熱気が肌にまとわりつく。それからシャワーのハンドルを回しノズルから吹き出すお湯を浴び、肩から足の先まで、じんわりと熱を吸っていく心地よさに浸る。

そういえば、小学校の低学年までは、よくおばさんと一緒にお風呂に入っていたけど、高学年に上がった頃には女性の裸を意識してしまうようになり、気恥ずかしさから一緒に入るのを避けるようになってしまった。

今さら、また一緒に入りたいなんて言えないし、どうせなら子供のうちにめいっぱい甘えておけばよかったな……。

後悔先に立たず。小さくため息を吐いてシャワーのお湯を止めると、風呂椅子に腰掛け、手にしたナイロンタオルにボディーソープを出して泡立てる。

すると、たちまち浴室内がはなやかな香りに満たされ、僕はすぅっと鼻で息を吸った。それは香苗おばさんの匂いだった。当たり前だが、おばさんはいつもここで裸になって体を洗っているのだ。あんなに大きな胸をしてるのだ、谷間や下乳の隙間はさぞ蒸れることだろう。

裸のおばさんが、むにゅんと柔らかそうに形を変える乳房を洗う姿を想像するだけで、股間がムズムズしてくる。

……風呂場ならバレないよな?

僕は我慢できずに、泡のついた手で半分勃起したペニスを握ると、目を閉じて、おばさんの裸を妄想しながら上下に動かした。泡でぬかるんだ手が擦れ、ぬちゅぬちゅと粘り気のある音が浴室に響く。

妄想の中で、裸のおばさんが僕のチンポを優しくシゴイてくれる。

「うぅっ、おばさん、おばさん……」

なんだろう、紗百合さんに手コキをしてもらったときの感触を覚えているせいか、いつもよりリアルに感じるぞ。

そうして僕が、香苗おばさんに手コキをしてもらう妄想に浸っていたときだった。

突然、背後からガチャリと洗面所のドアが開く音が鳴り、驚きに体を強張らせて振り向くと、半透明のドア越しに香苗おばさんのシルエットが動いていたのだった。

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