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〝底辺寮〟とルームメイト

天頂高校は全寮制だ。
しかしすべての寮が学校の敷地内にあるわけではない。

元々天頂高校はいくつかの高校が合併して設立された。それは、生徒の進路に関わらず、より多くの固有能力
インヘレンス
適合者を集められるようにするためだ。

設立当時はまだ先験者
コンセプテッド
があまり社会的に受容されておらず、固有能力
インヘレンス
に適正のある生徒を集めようにも、将来の進路にそぐわないという理由で他校に進学されてしまうケースが少なくなかった。そこで、同じ地域にある複数の高校を一つに統合することで、幅広い進路に対応し、広く才能のある生徒を集められる体制を整えた。

そうした経緯で設立されたために、天頂高校には多くの学科がある。普通科・工業科・商業科・農業林業科・海洋水産科・体育科・看護福祉科・芸術科で、これらの学科は元になった各学校に由来し、在校生の総数は7,000人を超える。

これだけの生徒がいると敷地内に全生徒を収容する寄宿舎を作ることは現実的ではないので、足りない分は、学園が契約している学外の下宿先を寮として使うことになっている。

寮のグレードもランクによって異なり、Cランクの生徒には学園内にある寄宿舎の相部屋が割り当てられるが、Aランクともなると学外にあるマンションで一人暮らしができる。

この春、槍太がZランクという不名誉な評価を与えられてから移り住むことになったのは、「たまほめ寮」という木造の寄宿舎で、天頂高校設立当初から存在する由緒正しい建物ではあるが、一度も改修されていないため、〝魂讃
たまほめ
〟などという大仰なネーミングには不釣り合いなオンボロ寮で、もっぱら〝底辺寮〟と呼ばれている。

外見からして、外壁の木板がところどころ割れているし、庇
ひさし
は傾いているし、ちょっと地震でもあれば倒壊してしまうのではないかと不安を感じさせる見事なたたずまいだ。

中に入ると、廊下は木目がわからないほど擦れてくすんでいて、もちろん木板は腐っているので通るたびに軋むどころか床がたわむ。ドシドシと乱暴に歩くと床を踏み抜くので、応急措置的に木材が雑に打ち付けてあったりする。

薄暗い廊下の蛍光灯はチカチカと切れかけているが、もはやその程度のことは誰も気にしない。

槍太が自室に戻ると、部屋には独村
ひとりむら
ノリオがいた。

「浮かない顔をしてるねぇ……」

槍太の顔を見るなり、独村ノリオはニヘラと笑った。

槍太は少し気が重くなった。槍太は同室のこのFランカーが苦手だった。

その理由はいくつかあるが、第一に何を考えているのかよくわからない。

いつもニヤニヤしているので、「何かいいことでもあったのか」と聞くと、必ず「いや別に」と返ってくる。いいことが有っても無くてもニヤニヤしているのは不気味だし、実際のところ常に人に言えないようなことを企んでいるのではないかと槍太は踏んでいる。

そう断定するのも根拠のないことではなかった。

〝底辺寮〟の各部屋には押入れがあり、同室の二人が共同で使うことになっているが、そこに独村ノリオは怪しい物を大量に詰め込んでいた。いずれも高校生が普通に生活をしていたらまず縁がない物で、具体的にはバイブとか、アナルプラグとか、平たい革紐を束ねたバラ鞭とか、首輪とか、ボールギャグとか、鼻フックとか、手枷足枷とか、大きな注射器とか、そういう品々だ。ちなみに槍太が待月由真に使ったスタンガンは、そこから勝手に持ち出した。

もちろん槍太は初め「こんなもん何に使うんだ……」と聞いたが、独村ノリオは「ただのコレクションだよ」とニヤニヤ笑いながら答えた。

そんな危ない男なので、髪型がマッシュルームカット(本人はオシャレだと思っている)であることに掛けて、〝毒キノコ〟とか〝毒タケ〟と呼ばれていた。

「その様子だと、〝作戦〟は失敗だったみたいだね」

毒タケは、槍太を見透かすように覗き込んで、ニタっと笑った。

「……なんの話だよ」
「またまた。隠さなくったっていいじゃないか。新ヶ浜玲奈のパンツ、狙ってたんだろ?」
「ね、狙う?」
「午後の授業、サボったでしょ。大方、パンツを盗むために女子更衣室に忍び込もうとでもしたんじゃないの?」
「だ、だれがそんなことするか。パンツ泥棒なんて犯罪じゃないか。オレはそんな変態じゃない」
「わかってるよ。雑崎
さいざき
クンがそんな卑劣なことするはずないもんねぇ……仕方なくやったんでしょ」

毒タケは何か知っているような、含みのある笑いを見せた。

「なんのことだよ……妙な言いがかりはよせよ」
「号山
ごうやま
組の〝上納金〟がまだなんだよね。まぁバイトも無し、仕送りも雀の涙の貧乏生活じゃ、お金なんてろくにあるわけないしね。それで、金がないなら代わりに、換金性の高い〝新ヶ浜玲奈のパンツ〟を取ってこい──とでも脅されたんでしょ」
「な、なんでそれを──」

槍太は思わずそう口走った。毒タケが言ったことが、まるで一部始終を見ていたかのように、事実を正確に突いていたせいだ。

「さっき号山クンの手下が来たからね」

毒タケはそうネタバラしをした。

「雑崎クンを血眼で探してたよ。なんでも期限は昨日までだったらしいじゃない。『アイツを捕まえないと、オレたちが号山サンにシメられるんだ』って息まいててさぁ、『アイツはどこに行った。雑崎を出せ』『ヘタに庇
かば
うとお前も痛い目を見るぞ』って、チンピラ丸出しで脅してきて生きた心地がしなかったよ」
「そ……それで、どうしたんだ?」
「『金策のために学外
そと
に出るって言ってたから、今日はもう帰ってこないと思う』って答えておいた」
「お前、最高か」

槍太が心の底から褒めると、毒タケは相変わらずのニヘら顔で「でしょ」と言った。

槍太は今日ほどこのルームメイトを頼もしく思ったことはなかった。もしこういう事態になったら、脅されるままに号山組の手下とグルになって、槍太を闇討ちするくらいのことはやると思っていた。しかし実際は、事情を察していい感じにごまかしてくれた。おかげで、少なくとも今夜一晩は、枕を高くして眠ることができる。

「すまんな……助かったよ、ありがとう」
「そんな今更かしこまったこと言わないでよ。ボクら友達でしょ?」
「友達か……」

槍太は危険人物である毒タケに友達視されていることに若干の不安と戸惑いを感じたが、とにかく今は恩義がある。見かけによらず情に篤いいいやつみたいだし、そんなルームメイトの好意を無下にするのは忍びない。

「あぁそうだな……オレたち友達だもんな」
「困ったことがあったら力になるよ。なんでも相談してよ」
「そう言ってもらえると心強いな……」

槍太はついでにスタンガンのことを謝っておこうと思った。
今の雰囲気だったらアッサリと許してもらえるかもしれない。

「じゃあさっそくだけど、謝らないといけないことがあるんだ。お前のスタンガン、壊されたわ。すまん」
「えっ!?」

いつもニヤニヤしている毒タケが目を丸くして驚いた。

槍太はポケットから壊れたスタンガンを取り出すと、毒タケに差し出した。

「ボ、ボクのスタンガンがァ──!」
「大事に扱うつもりだったんだけど、不可抗力でこうなってしまった」
「一体なにをしたらスタンガンがこんな風に……」

毒タケは悲壮な面落ちで壊れたスタンガンを手に取った。

外装はプラスチックが溶け不格好に歪み、一部は亀裂が入っている。普通にスタンガンを使用しただけではとてもこうはならない。

「言い訳するわけじゃないが、悪いのは待月由真だ。あの女がスタンガンに強烈な電撃を流してこんな有様にしやがったんだ」
「待月由真とやりあったの? け、怪我はなかったかい」
「あぁ、まぁ身体の方はなんともない」

──心の方はズタボロにやられてしまったが。

さすがにその事実は誰にも言えないので槍太は平気な振りをしていたが、毒タケはその様子を見て「よかった……」とホッとした風に息をついた。

そんな毒タケの反応を見て、槍太は意外に思った。

普通なら、勝手に所持品を持ち出された挙句に壊して返されたりなんかしたら、怒るのが当然だ。性格が気弱だとしても、嫌味の一つでも言いたくなるのが当たり前だろう。それなのに毒タケは、気を悪くするどころか、槍太の身を案じた──。

〈こいつ、思ったよりいいやつだな……〉

槍太は却って、スタンガンを勝手に持ち出して壊してしまったことが、申し訳なく思えてきた。

「ごめんな。いつかこの埋め合わせはするから」
「ホント? 約束だよ」

毒タケは槍太の約束を聞いてニンマリと笑った。

その表情に槍太はちょっと嫌な予感がした。

〈……少し早まったかもしれない〉

いいやつだと思ったが、もしかするとそれは槍太の警戒を緩めるための演技だったのかもしれない。そうだとすると、油断ならない相手に借りを作ってしまったことになる。しかも二つも。

槍太はベッドに寝ころんだ。

〝底辺寮〟の各部屋には二段ベッドが備えてある。中学生が林間学校で行くような施設にありがちな質素で飾り気のない木製のベッドだ。おまけに物が古いので安定感がない。布団の中で体の一部分を周期的に動かすと、ベッド全体がギシギシと揺れるので100%〝バレてしまう〟という、健全な青少年にとっては最悪な代物だった。

この部屋に引っ越してきた時点で毒タケが下の段にカーテンを引いて秘密基地化していたので、必然的に槍太は上の段になった。上の段は下の段よりさらに揺れるので、寝る以外のことをするのは厳禁と言っていい。

槍太は両手を頭の後ろで組んで、ぼーっと天井を眺めた。

天井には、過去の底辺寮生の怨念が焼き付いたような、苦悶に喘ぐ人面に似た形の染みが槍太を見下ろしているが、槍太はまったく別のことを考えていた。

考えているのは明日のことだ。

槍太は新ヶ浜玲奈のパンツを入手することができなかった。もしこのまま〝上納金〟を払えなければ、号山組の連中から酷い目に合わされるのは間違いないだろう。なにか策を考えなければならない。

しかし目を閉じると、すぐに眠りに誘われていった。疲れていた。今日は散々な目に合ったし、とにかく少し休まないと頭も回りそうになかった。

明日のことは明日考えよう──。

槍太は肉体の欲求に素直に従った。布団の柔らかさに身をゆだねる。それが明日の槍太の命運を大きく変えることになると知らないまま──。

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