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波乱の転校生① 爆谷響子

まだ朝七時過ぎの校内は人気
ひとけ
がなかった。

学外寮の生徒が登校してくるのはもっと遅い時間になってからだし、学内寮の生徒はむしろ始業間際になってから出てくる方が多い。

冷えた空気の運動場を部活の朝練の連中が温めている声が遠く聞こえてくるくらいで、後は普段のにぎわいとは打って変わって静かだ。

槍太もいつもなら遅刻ギリギリまでダラダラしているが、昨日、部屋に帰ってすぐ寝てしまった分、今日は朝早くに目が覚めてしまった。

そのことは槍太にとって都合がよかった。

おそらく号山組の連中は槍太が登校するところを待ち伏せて捕まえに来るだろう。しかし不良に早起きは似合わない。号山組の連中もこんな朝早くからは活動していないだろうし、今のうちに登校してしまえば、ひとまずは安心だ。

その後のことはその後でなんとでもできる。

休み時間は、何があっても教室から出ない。もし号山組のやつらが来たら、ロッカーに隠れてでも、机にかじりついてでも、外に出ないようにする。さすがに教室内ではあからさまな暴行に及べないだろう。

トイレは授業中に行く。授業中に待ち伏せされる可能性もないとはいえないが、Cランクの下っ端どもは授業への参加態度が悪いとFランク落ちの危険性がある。たかが槍太一人のために、そんなリスクを負って、何時間も授業をサボっていつトイレに出てくるともわからない相手を待ち構えるようなことをするとは思えない。

授業が終わってしまえば、槍太も教室に縛られる必要はなくなる。どこへ行くのも自由だ。広い学園で雲隠れすることは容易い。

だから危ないのは登校中だ。そこさえ乗り切れば、あとは一日どうとでもやり過ごせる。

「おい」

後ろから声をかけられて、槍太は慌てて振り返った。

上半身をひねって後ろを見つつ、下半身はすでに走り出す体勢になっている。三十六計逃げるに如かずだ。号山組の連中に見つかったら、なにはともあれ走って逃げなければならない。

だが、そこにいるのは号山組の男たちではなかった。

槍太に声をかけたのは、女子生徒だった。パリッとした少し大きめの襟のシャツを、首元のボタンは外し、袖
そで
を肘
ひじ
までまくって、ラフに着こなしているが、タータンチェックの短いスカートは天頂高校の制服ではない。上着は脱いで肩に担いでいるのでどこかはわからないが、おそらく他校の生徒なのだろう。

しかし、声をかけてきたのが号山組ではなかったにも関わらず、槍太の顔は恐怖に染まっていた。

「アンタ、この学校の生徒だよなァ──」

そう尋ねてきた女子生徒は、人を殺しでもしそうな表情で槍太を睨んでいた。

「そ、そ、そうですけど……」

槍太が震える声で返事をすると、女子生徒は眉間にシワを寄せ、瞳孔を小さくしたまま、槍太のすぐ眼の前まで歩み寄ってきた。

「今ちょっと時間いいか──?」
「じ、時間……?」
「暇かどうかって聞いてるんだよ。それともなんだ、アンタもこんな朝っぱらから何か用事でもあって忙しいって言うのか?」
「ひ、ひ、暇です」

あまりの剣幕に、槍太はついそう答えてしまった。

すると女子生徒はふっと表情を緩めた。
やや男前ではあるがなかなかの美形だ。

「そっか。よかった。じゃあさ、悪いんだけど、第一職員室ってところまで案内してくんない?」
「……職員室?」
「この学校、バカみてぇに広いだろ。迷子になっちゃってさぁ」

確かに、彼女が言うように、天頂高校はかなり広い。8学科、7,000人超もの生徒がいるマンモス校なので、それも当然だ。外部の人はもちろん、新入生も入学してしばらくは迷子になるくらいだ。他校の制服を着ているこの女子生徒が道に迷ったというのも無理はない。

しかし──槍太は少し悩んだ。『こんな朝っぱらから何か用事でもあって忙しい』わけではないが、暇というわけでもない。号山組に狙われる身である槍太は、安全なうちに早く教室に行っておきたいし、他人に親切にしている余裕はない。

「いやぁでも助かった。誰かに道を聞こうにも、この時間じゃ全然人がいないだろ」

女子生徒は困り顔で目をつぶると、不満そうに腕を組んだ。

「部活の連中は相手にしてくれねぇし、さっき見かけたヤツらなんて、どう見ても暇そうなのに、『忙しいから邪魔すんな。どっか行け』って追い払うみたいにしやがってさぁ。この学校のヤツらって冷たすぎないか?」

そう言いながら、女子生徒はあらためて槍太を見ると、笑顔で付け加えた。

「でもアンタみたいな親切なヤツが見つかってよかった」

そういう風に言われると断りづらくなるが、身の安全には代えられない。槍太は道案内を断ろうと思った。

「あ、あのー……」
「ん? どうした?」
「えーっと、その……申し訳ないんだけど今ちょっと忙しくて──」
「──は?」
「ひぃっ」

槍太が断ろうとした瞬間、女子生徒はこめかみに青筋を浮べて、不愉快そうに顔を歪ませた。確実に人を二三人は殺してそうな表情だった。

「す、すみません! なんでもないです!」
「なに? アンタ、忙しいの?」
「い、忙しくないです!」
「ホントか? 用事があるってんだったらムリにとは言わねぇけど」
「用事なんてないです! 暇で暇でしょうがないなって思ってたところで……!」
「なんだ、そっかぁ。また断られるのかと、一瞬ビビったぜ」

女子生徒はニッコリと笑った。

ビビったのはこっちだよと思いつつ、槍太は女子生徒を第一職員室まで案内することになった。

道すがら、この他校の制服に身を包んだ女子生徒は、槍太に自分のことを話した。名前は爆谷
はぜたに
響子
きょうこ
といい、彼女がこんな時間に天頂高校にやって来たのは、転校の初日で色々と手続きがあるからだそうだ。

天頂高校に転校してくる生徒というのは、あまり多くはないが、まったくいないわけでもない。天頂高校は固有能力
インヘレンス
に適正のある人間であれば積極的に受け入れる方針を取っているので、僅かながらも一年の後期や二年生になってから転入してくる生徒がいる。

ただしそういった転入生は、CランクからBランクに上がるのにも苦労する。スタートが他の生徒より遅い分、能力の開発は遅れがちになるからだ。

それにしても──槍太は少し不思議に思った。転入生は学期の変わり目で転校してくることが普通だ。こんな、新学期が始まってしばらく経った時期に転入してくる生徒というのは、天頂高校に限らず、珍しいだろう。

「ま、いろいろ事情があってさ」

爆谷響子は歩きながら、両手を頭の後ろで組んだ。

「転校の話は去年くらいからあったんだけど、そのときはまだやり残したことがあったからな」
「やり残したこと?」
「そう。じゃないとスッキリしないだろ? 立つ鳥跡を濁さずって言うか、別れる前に同じ学校のやつらにはキッチリ挨拶を済ませておかないとさ」

何の話か槍太はサッパリわからなかったが、とりあえず頷いておいた。

爆谷響子が用のある第一職員室は、普通科の校舎から少し離れたところにあった。道なりに歩くと大きな〝コの字〟に並び建つ校舎を回り込んでいかなければならないが、校舎と敷地の外塀に挟まれた中庭のようになっている場所を通り抜けると、すぐに辿り着ける。

舗装路から外れて草地に足を踏み入れると、爆谷響子はちょっと不思議そうな顔をした。

「職員室に行くのに、こんなとこを通るのか?」
「こっちの方が近いんだ。回り込むと結構歩かなきゃいけないから」
「ふーん。やっぱ、ここの生徒だけあって色々詳しいんだな」

爆谷響子は「声をかけて正解だった」と満足げに言いながら、槍太の後についてきた。

中庭を通り抜けるのが近道なのは事実だが、槍太としてはさっさとこの雑用を済ませてしまいたいというのが本音だった。十分二十分とはいえ、やはり時間が遅くなればなるほど号山組の連中に見つかる可能性は高くなる。少しでも早く案内をし終えて教室へ向かいたい、という気持ちが、槍太に近道を通ることを選ばせた。

しかしその判断は間違っていた。

校舎の間を通り抜けて中庭に入ったところで、槍太は同じ天頂高校の制服を着た男子生徒の集団と目が合った。

髪を染め、眉が薄く、耳や眉にピアスを下げた人相の悪い男たちが、いわゆるウンコ座りで輪になってしゃがみこんでいた。

槍太は気が遠くなった。号山組のみなさんだった。

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