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波乱の転校生③ 爆谷響子

支峨虎丸が足の先に力を入れると、その場に僅かに土を跳ねて、支峨虎丸の体が爆谷響子の前から消えた。

離れた位置から見ていた槍太には、支峨虎丸が爆谷響子の真後ろに移動したのがわかった。それは、ほんの一瞬の出来事だった。なんの予備動作もなく、瞬きをする間に爆谷響子の後ろに回り込んだ支峨虎丸は、横から見ていた槍太にもまるで瞬間移動をしたかのように見えた。

正対していた爆谷響子にとっては、支峨虎丸がいきなり姿を消したとしか思えないだろう。

背後を取った支峨虎丸は、大きく腰をひねり、左腕を強く引き絞っていた。その目は相手の頭部を見据えている。後頭部には生命活動に関わる中枢神経が集中していて、そこを強打することは命を脅かすことになるため、ボクシングでは故意に狙うことは悪質な反則とされる。支峨虎丸は、躊躇いなくその急所を打ち抜こうとしていた。

しかし支峨虎丸が拳を振り抜くまでのほんの僅かな間に、爆谷響子は体を逸らしながら首を振り向かせた。

爆谷響子と目が合う。支峨虎丸は背筋に冷たいものを感じた。

「遅ェ──!」

支峨虎丸の拳にかぶせるように、爆谷響子も拳を振るった。斜めに背を反って後頭部を狙う拳を避け、その〝しなり〟を振り向く腰の回転力に加え、ハンマーを上から叩きつけるようなオーバーハンドブローで強引なクロスカウンターを放つ。

二人の腕が交差する。

支峨虎丸は背後から一方的に殴りつけるつもりでいた。そこに完璧なタイミングでカウンターを合わされては、回避しようがなかった。殴られる予感と拳の痛みのイメージが脳裏をよぎる。

しかし次の瞬間、爆谷響子の拳は空を切っていた。

振り向いた爆谷響子のまた後方、元いた位置からさらに距離を取ったところに、支峨虎丸は移動していた。睨み顔を苦虫を噛み潰したように歪め、額には冷や汗を浮かべている。

「避

わされたか──」

爆谷響子はまた無造作な立ち姿に戻ると、ゆっくりと支峨虎丸の方を向いた。

その頬から、うっすらと血が流れた。爆谷響子はそれを左手の甲で雑に拭う。確かに支峨虎丸の拳は避わしたはずだった。

「それに結構いい拳してるな。〝遅い〟って言ったのは訂正するよ。その足と拳の速さがアンタの固有能力
インヘレンス
か?」

支峨虎丸は何も答えない。答える必要もない。これから殴り倒す相手に能力のネタバラしをしていられるほど、楽観的な状況ではなかった。

しかしそれでも、支峨虎丸は有利なのは自分だと確信していた。

確かに、完全に後ろを取ったはずだと思ったのに、反撃されたのには肝を冷やした。しかしカウンターを食らう前に離脱できたことからわかるように、スピードは支峨虎丸の能力が上回っている。その優位性を生かして、相手の懐に
ヒット
飛び込んで
アンド
一撃で離脱すること
アウェイ
を徹底すれば、負けることはない。

支峨虎丸の体が消える。

爆谷響子は即座に右を向いた。そこには拳を構えた支峨虎丸の姿があった。先に動いた分、殴りかかるのは支峨虎丸の方が早い。さっきと同じようにそれを避わしつつ、カウンターパンチを叩きこもうと爆谷響子は構えた。

だが今度は、支峨虎丸の拳は爆谷響子の顔を捉えた。殴られた爆谷響子の頬が、衝撃の瞬間、痛々しく潰れる。

「──ちッ」

バランスを崩しながら、一瞬遅れて爆谷響子は殴り返した。しかしそのときにはもう、支峨虎丸は元の位置に戻っていた。憎らしいほど鮮やかなヒット・アンド・アウェイだ。

再び支峨虎丸が飛び込んでくる。

今度は爆谷響子は反撃を試みなかった。正確に言えば、回避しようとしなかった。両腕を上げて、その後ろに身を屈めるようにして防御を固めた。

そこに支峨虎丸の拳が叩き込まれる。その拳は、一つではない。一度の攻撃で、まるで同時に複数のパンチを繰り出すかのように、いくつもの拳が爆谷響子に襲い掛かる。

爆谷響子がパンチを食らってしまったのは、そのせいだった。確かに拳を避わしたはずなのに、それとは別の拳が爆谷響子の頬を捉えていた。

ガードし終えてから殴り返すが、そのときには支峨虎丸はもうそこにはいない。

支峨虎丸はヒット・アンド・アウェイを徹底してきた。何度も同じように、一瞬で距離を詰め、先手を取り、回避不能の拳を打ち込んで、反撃される前に離脱する。これを繰り返していれば、支峨虎丸は攻撃を受けることなく、一方的に爆谷響子を殴り続けられる。たとえガードされていても、徐々に疲労やダメージは溜まっていく。支峨虎丸の拳の下に爆谷響子が倒れ伏すのは時間の問題だった。

「どうした、ガードしてばっかりか」

一旦距離を取ると、支峨虎丸は嘲笑うように言った。
その表情には、最初のころの余裕が戻っている。

「威勢のいいことを言ってた割には大したことねぇな。ボクシングと違って時間切れも判定もないんだ。そうやって丸くなってても誰も助けちゃくれねぇぞ」

それは露骨な挑発だった。

支峨虎丸としてはこのままヒット・アンド・アウェイを続ければそのうち勝てるという自信はある。しかしこうやって挑発して爆谷響子に手を出させれば、そんな時間をかけるまでもなく、すぐにケリがつけられると踏んだ。

「それともなんだ、もうオレに勝つのは諦めたのか。あぁそうか。そうやって時間稼ぎしてれば、誰かが教師でも呼んできて、止めてくれるかもしれないもんな。けどウチじゃ、そういうのは期待できないぜ」

相手を負け犬扱いするような支峨虎丸の口ぶりに、しかし爆谷響子は「ははっ」と愉快気な声で返した。

「時間を気にするなんて、不良のワリに律儀なやつだな」

ガード越しに何発か食らったのか、爆谷響子の口の端が切れていた。血の流れた唇でニヤリと笑う。

「長引かせたくないのは、体力に自信がないからだろ? まぁいいや。疲れ切ってへたばったところを倒したって、楽しくないからな。乗ってやるよ、その安ッすい挑発に」

爆谷響子は両腕
ガード
を下した。はじめと同じ、肩幅に足を開いてただ立っているだけの、無防備な状態だ。

支峨虎丸はそれを冷静に見ていた。相手はおそらくカウンターを狙ってくる。だが、いくら強がっていてもこの拳を避わすことはできない。気を付けなければならないのは、相打ち覚悟の一撃だ。それさえ警戒すれば、他に負け筋はない。

支峨虎丸は飛び込むタイミングを伺う。集中力の高まりがその真剣な面持ちに表れている。この一撃で相手を血の海に沈める──そういう決意が秘められている。

支峨虎丸の姿が消えた。
まったく同時に、支峨虎丸が爆谷響子の右背後に現れる。

腰をひねり左肘を力強く引き絞った体勢から、支峨虎丸は回避不能の拳を繰り出す。その拳を当てた後、支峨虎丸は逃げるのでなく、今度は左後ろに移動する。そこでまた拳を繰り出し、また右側に移動をする。拳を食らわせて、また反対側に高速移動する。その繰り返しで確実にこの相手を地に叩き伏せる──はずだった。

しかし支峨虎丸の拳は、振るわれることはなかった。強く握りしめたその左手は、後ろに引き絞られた状態で、爆谷響子に抑えつけられていた。

「──ばっ」

バカな──そう口にするより早く、爆谷響子の拳が飛んできた。慌てて距離を取る。飛び込む前にいた元の位置、絶対的な安全圏に身を置いて、しかし支峨虎丸の表情は恐ろしく危険なものと対峙してしまったかのように引きつっていた。

「どうだ、うまいこと考えたもんだろ」

爆谷響子は得意げに言った。

「避けられない拳なら、拳を振るう前に止めりゃいい。気づいてみりゃ、簡単な話だったな」

〈バカを言うな〉──支峨虎丸は内心、そう毒づいた。

支峨虎丸の固有能力
インヘレンス
は、一度のパンチで複数の拳を同時に繰り出す。それを避けるのは至難の業だが、だったらパンチを打つ前に止めてしまえばいい──確かに筋は通っている。ただ一点、それを実行するには高速で回り込む支峨虎丸より先に動かなければならない、ということを除いて。

〈そんなこと、出来るはずがない〉──支峨虎丸は心の中でそう吐き捨てるが、現実として爆谷響子はそれをやってみせた。

支峨虎丸は一つ仮説を立てた。さっきから同じ行動を何度も繰り返してしまった。後ろに回り込んで殴る、そればかりを続けて、攻撃のパターンが読まれてしまったのかもしれない。

それならそれで、対処方法はある。

支峨虎丸は地面を蹴った。しかし動く先は爆谷響子の真後ろではない。少し離れたところに移動し、また地面を蹴る。

今までは攻め方が直線的すぎた。予備動作なしに発動できる能力だとはいえ、視線の動きや細かい様子から移動する瞬間を察知されてしまったのだろう。

それならフェイントを織り交ぜればいい。行くと見せて途中で止まったり、あえて別の方へ移動したり、そうやって的を絞らせない動きをすれば、先読みされることはない。

支峨虎丸の移動速度はあまりに速く、地面が遅れて土を跳ねることで、そこに〝居た〟と、ようやくわかるほどだ。傍から見ている槍太にも、その動きを目で追うことすらできない。

〈どうだ──これならタイミングは計れねぇだろ!〉

激しく動き回る支峨虎丸に対して、爆谷響子は微動だにしない。ついに支峨虎丸は爆谷響子の真後ろに入り込んだ。既に拳は握られている。その無防備な頭部に、勝負を決する一撃が放たれる。

しかしそれは支峨虎丸の拳ではなかった。

高速移動してきた位置に、爆谷響子の足が置かれていた。しなやかな太ももが短いスカートをまくり上げて、パンツが見えてしまうほど高々と振り上げられたハイキック──その引き締まった美しい脚の先が、支峨虎丸の顔面に直撃していた。

「な、なんで……」

ローファーにめり込んだ顔が、ズルリと下がる。支峨虎丸のひしゃげた顔面はそのまま力なく地面に崩れ落ちた。10カウントを待つまでもなく、立ち上がることなどできはしない。

「バーカ。結局、後ろに回り込むんじゃねえか」

爆谷響子は呆れたようにため息をついた。

「これだけ何度も見せられたら、イヤでも慣れるっつーの」

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