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波乱の転校生⑤ 爆谷響子

その女子生徒が椅子を逆さに重ねた机をガコガコと持って教室に入ってくると、クラスがざわついた。みんな予想外だったのだろう。さっき噂をしていた転校生が、まさか自分たちのクラスに来るとは。
思いがけないイベントに、驚きと、何か新しいことが始まるようなワクワクが入り混じったような空気が、教室に満ちていった。

転校生は机を教卓の手前で下すと、生徒たちに背を向けた。チョークを取って、側面で擦るようにして黒板にデカデカと字を書いていく。

「爆谷
はぜたに
響子
きょうこ
だ」

皆の方を振り向いてそう名乗ると、チョークを肩越しに放った。カラカラと音を立てて、うまく黒板消しの横に乗った。

「趣味は買い食い、特技はケンカ。好きなことは掃除と片付けで、嫌いなことは弱いものイジメ。よろしく」

普通科二年十三組の一同は呆気にとられた。今時こんな〝硬派〟な挨拶を耳にするとは誰も思わなかったのだろう。しかし爆谷響子が朝から一騒動を起こしたことはみんな知っているので、特技がケンカなどと言われても、変に思うより、むしろ納得がいってしまったようだった。

「爆谷さんは、極星高校から転校してきたそうです」

春日智子が付け加えるように言った。

「遠くから引っ越してきたばかりでわからないことも多いだろうから、みんな親切にしてあげてね」

担任の一言で教室はまたざわついた。天頂高校と同じく、極星高校の名は〝全国区〟だ。クラスの誰もが知っているし、そこからやってきた転校生の実力に関心が湧くのも当然だろう。

「先生」

一人の生徒が手を上げた。

「爆谷さんのランクは、何になるんですか?」

単刀直入な問いに、クラス全体が「よく聞いた」という雰囲気に包まれた。

質問をしたのは早瀬
はやせ
真乃
まの
だった。クラス委員長をしているが、大人しい〝優等生〟ではなく〝仕切りたがり〟の方だ。このクラスでは最も高いB2ランクに位置している。こうやってズバッと遠慮のない質問ができるのも、彼女の気の強さに加えて、誰にはばかる必要のない立場が味方している。

その質問に、春日智子は顎に指を当てて悩むようにしながら答えた。

「ちゃんとしたランク付けは正式な検査が済んでからだけど……」

そこまで言うと、質問者の方へ向かってニッコリと笑う。

「早瀬さんよりは高くなると思うよ」

クラスのざわめきは驚きの声に変った。
早瀬真乃は平静を装っていたが、その目にサッと敵愾心のようなものが浮かんで、瞳の奥がふつふつと揺れていた。それが、自分より上のランクになるという爆谷響子に対してのものか、こんな辱めるような物言いをする担任に対してのものなのかはわからない。

しかし、爆谷響子がB2ランクである早瀬真乃より上のランクになるということに、槍太は驚かなかった。今朝戦った支峨
しが
虎丸
とらまる
がB2ランクなので、それ以上であることに不思議はない。おそらくB1かB2のどちらかだろうと想像していた。

「じゃ~、爆谷さんはどこか空いてるところに席を運んで。好きなところでいいよ」

担任にそう促され、爆谷響子は机を持ち上げた。どこか空いているところといっても、教室の一番後ろしかない。机ごと間を通れるような隙間はないので、一旦廊下に出て回り込むのかと思いきや、爆谷響子は椅子を重ねた机ごと肩に抱えて、席の間を歩いて行った。

高く掲げているのでぶつかることはないが、爆谷響子が通る右側はみんななんとなく腕の下をくぐるように頭を下げてしまう。同じように槍太が少し身を屈めると、爆谷響子は槍太を見てニッと笑った。

「よっ。また会ったな」

爆谷響子は一番後ろからさらに一列はみ出した中央に陣取ると、まるで特等席みたいにふんぞり返って席に着いた。

* * *

休み時間になると、爆谷響子の席の周りには人だかりができた。

どんなクラスにも物好きやお調子者が何人かいて、そういう連中が話しかけるのに便乗して、周りに他の生徒たちが集まっていた。

「極星高校にいたんだ? どうして転校してきたの?」「あっちは結構システム違う?」「なんで前の学校の制服着てるの?」「朝からケンカしてたって本当?」

爆谷響子は好奇心旺盛なクラスメイトたちからそんな風に質問攻めにされていた。

「倒したのってボクシング部の支峨くんでしょ? すごーい」「でもやばくない? 号山
ごうやま
組なんだよね、あの人」「部活とか入る? ウチの先輩Aランクだから、入ったら守ってもらえるよ」「だったらウチの方がいいよー。人数多いし上下関係緩いから気楽だよ~」

ついでに早速部活の勧誘が始まったりもしていた。ずっと帰宅部の槍太にとっては謎だが、どういうわけか部活をしている連中はクラスに転校生が来ると自分たちの部に入れようとしたがるものだ。

休み時間の度にそんな光景が繰り返され、昼休みになってもまだクラスの生徒たちは爆谷響子を解放しようとはしなかった。

「ね? お昼どうする? 私たちお弁当なんだけどぉ」

そうやって爆谷響子を取り巻くクラスメイトたちを尻目に、槍太は席を立った。寮暮らしで朝から弁当を作るようなかいがいしさなど槍太にはもちろんないので、昼はいつも売店か学食だ。朝の計画では今日は何も食わずにロッカーの中に潜むことすら覚悟していたが、今はなんとなくこの教室にはいたくなかった。号山組の連中から身を隠すにしても、どこか別の場所がいい。

そう思って教室を出ようとした。

「あっ。雑崎
さいざき
、どこ行くんだ?」

人垣の向こうから声がかかった。
槍太が振り向くと、取り巻きたちの間から爆谷響子が首を伸ばすようにして覗いていた。

なんで呼び止められたのか理由がわからない。槍太は戸惑った。同じように思っているであろう、クラスメイトたちの視線が束になって槍太に向けられていた。

「昼飯だよ」

不愛想に槍太が答えると、爆谷響子はニッと笑った。

「売店か? ちょうどいいや。だったら案内してくれよ」
「えーっ!」

槍太が何か言う暇もなく、周りの女子たちが声を上げた。

「だったら私たちと行こう~! そのほうがいいよ~!」

その通り。そう思いながら槍太は爆谷響子を取り囲む人垣に背を向けた。

教室を出て少し歩いたところで、抑えた声で「雑崎くんとはあんまり関わらないほうがいいよ」と言っているのが耳に届いた。

〈──聞こえてるんだよ〉

心の中で舌打ちをする。自分の地獄耳を恨みはしない。恨むのはもちろんZランクという不本意な立場でもない。悪いのは当然、見る目のない愚かな同級生たちだ。無知蒙昧な衆愚どもにいつか自分が秀
すぐ
れた人間であることをわからせてやらねばならない。そう思いながらも、槍太は足早に廊下を歩いて行った。今はとにかくこの場を離れたかった。

* * *

怒ったら急に腹が減っていることが気になってきた。不満のぶつけどころを体が欲しているのかもしれない。

号山組の追っ手に見つかる可能性はあるが、支峨虎丸は爆谷響子にやられてしばらくはろくに動けないだろうし、残りのザコ二人からなら十分に逃げられる。そう見越して、売店で食い物を調達することにした。

ラップで包
くる
まれたコッペパンサンドと細身の缶ジュースを手に、槍太は校舎の外に出ると、花壇の縁
へり
に腰かけた。あまり風はなく、花壇の草花ものんびりと陽を浴びていた。

マヨネーズと一緒に潰したゆで卵を、それを挟んだコッペパンごとかじる。既製品でなく学食で作った感たっぷりの素朴なサンドイッチだが、悪くない。美味いものを食べて少し気が和らいだ感じがした。

周囲にそれほど人はいない。校庭でキャッチボールをして遊んだり、友達同士外で昼食を摂っているグループもちらほら居はするが、大抵の生徒は学食か、教室か、教室のベランダあたりで昼休みを過ごす。広い校内、他人から離れて過ごす場所には困らない。

だから、

「隣、いいか?」

と声を掛けられたとき、槍太はちょっと不快そうな顔をした。座るところなら他にいくらでもあるだろう。そう思いながら、尋ねておいて返事も聞かずに隣に座った生徒を見て、槍太は目を見張った。

槍太の視線に気づいて、女子生徒はニッと笑った。爆谷響子だった。

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