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秘密のプラン① 橘川那由他

「随分楽しそうじゃないか」

振り向いて、槍太は絶句した。

槍太に声を掛けてきたのは、潤いの足らなさそうなパサパサの長い金髪に、血のように濃い赤の口紅をつけた、いかにもヤンキー風の女子生徒だった。

「き、き、橘川
きっかわ
センパイ……」

槍太の顔は青ざめていた。

赤色のスカーフが鮮烈な黒いセーラー服のせいで、ヤンキーどころかスケバン的な威圧感すらあるその女子生徒は、号山組のNo.2、工業科三年・橘川
きっかわ
那由他
なゆた
だった。

橘川那由他の制服が、槍太たち普通科のブレザーとは違う黒セーラーなのは、彼女が工業科の生徒だからだ。

天頂高校は元々いくつかの高校が合併してできた名残で、学科ごとに元になった学校の特色が残っていたりする。

たとえば商業科の制服は普通科と同じブレザーだが、夏服はブラウスの上にニットのベストを着る。商業科にはギャルが多いので、冬も長袖のニットを着たりしている姿もよく見かける。

看護福祉科と芸術科は、男子は普通科と同じブレザーだが、女子はそれぞれ異なり、看護福祉科は清潔感のあるワンピースで、芸術科はシックなボレロだ。

変わり種は海洋水産科で、男子はファスナー式の学ランなので、ガタイのいいやつなんかはまるで旧帝国海軍士官だ。女子はブレザーだが、リボンとスカート以外に、ネクタイにスラックスの組み合わせを選べる。スラックス・スタイルの高身長女子は、他学科の女子にもファンが多い。

そして工業科は、男子はボタン式の学ラン、女子は黒セーラーだ。他の学科が制服をリニューアルするたびに徐々に普通科に近づいていく中で、伝統ある気合の入った制服をかたくなに維持している。

「今のが噂の〝転校生〟かい?」

橘川那由他は、黒スカートのポケットに手を入れたまま、爆谷響子が去っていった方を眺めていた。

その質問に、槍太は脂汗を浮かべた。
──マズイ。朝の一件を、橘川那由他は知っている。

「おい、聞こえてねェのか? あれが例の転校生かって聞いてんだよ」
「は、はは、はい! そ、そうです……!」
「虎丸
とらまる
たちがやられたらしいな。やったのはアイツで間違いないのかい?」
「は、はい……」
「おい槍太ァ。おかしいよなぁ……。テメェはなんで、そんなやつと乳繰りあってんだ? あ?」

橘川那由他はそう言いながら、薄い眉を深いシワが刻まれるほど寄せ、こめかみにビキビキと青筋を立てた。

恰好だけでなく中身も丸っきりヤンキーだ。

「ち、ちち、ちちくりあってなんていません……!」
「アタイを騙そうってのか? 仲良く昼飯、回し食いしてたじゃねーか。しかも背中にあのデッケぇ乳押しつけられて、ズボンの中パンパンにしてただろ? これが乳繰りあってなくてなんだってんだ」

槍太は言葉に詰まった。そこまで見られていたのか。となると無理に否定をすると余計に不興を買いそうだ。

「テメェまさか、あの女とグルになって号山組
アタイら
に弓引こうって魂胆
コンタン
じゃねえよなァ?」

しかしこの質問に「はい」と答えてしまったらその場で〝死〟が待っている。
なんとか取り繕わなければならない。

「ち、違うんです。あれは作戦で……」
「あぁ? 作戦だァ?」
「あいつは支峨
しが
を倒すくらい強いんですよ。そんなやつとまともに闘って、勝てるわけないですよね」

そう言われて、橘川那由他は眉をピクッと動かした。
少し考えるように目が斜め上に動く。

一見、見境なくキレちらかしているように見えても、普段は野に放たれた野獣のような号山
ごうやま
堅剛
けんご
をいさめて号山組の舵取りをしているだけあって、橘川那由他は見た目よりも話が通じる。

「……ちっ。悔しいけどその通りだね。虎丸は一対一の殴り合いじゃBランクでも抜けてるからね」
「でも逆にいえば支峨と張り合うくらいの強さですよ。その程度でAランクの号山サンに頼ってたら、示しがつかないじゃないですか」
「そりゃね。頭
トップ
が簡単に出張ってるようじゃ、号山組
チーム
が舐められちまう」
「自分たちでケジメをつけないと」
「その通りだよ。よくわかってるじゃないか」
「そのために仲良くなった〝フリ〟をしてたんです」

橘川那由他は怪訝そうに眉をひそめた。
しかしその表情にさっきまでのような禍々しさはない。

「そこがよくわかんないね。どういうことなんだい?」
「あいつを倒せるとしたら橘川センパイの能力
インヘレンス
しかないですよね」
「そうだろうね。虎丸がやられたくらいだ、他のヤツらだけじゃ荷が重い」
「センパイの固有能力
インヘレンス
を最大限有効活用しようと思ったら、あいつを呼び出す必要があるじゃないですか。でも、いきなり〝果たし状〟とか叩きつけたって、来ませんよ。絶対に罠だって思いますから」
「そうかな」
「そうですよ。クラスの連中から号山組のことは聞かされてるし、相手がどんな固有能力
インヘレンス
を持ってるかわからないのに、ノコノコ言われた通りの場所に乗り込んでくるやつなんていませんよ。いたらバカです」
「そう言われてみれば、そうかもしれないね」
「でも、一緒に飯食うくらい仲良くなってれば、『いい場所があるからそこで昼飯食おうぜ』って言ってどこにだって誘い出せる、ってわけです」
「はぁー……なるほどなァ。槍太、アンタって相変わらずクズな性格してるね」

橘川那由他は呆れるように言った。

「でも気に入った。お前が号山組
チーム
のためにそこまで考えてたなんて。やり口はゲスいけど、見直したよ」

褒められているのか貶されているのかよくわからない。

しかし橘川那由他は槍太の言い分を丸っきり信じてしまったようだ。性格が単純な分、人を信じやすいというか、ちょっとチョロイところがある。槍太はほっと胸を撫でおろした。見つかったのが橘川那由他で助かった。

「よし、折角お前が立ててくれた作戦だ。その通りでいくか。明日、アイツを呼び出せるかい?」
「あ、明日ですか──!?」
「やるなら早い方がいいだろ。いつお前が仲いい〝フリ〟してるだけだってバレるかもわかんないんだし」
「そ、そうですね……」
「でも安心したよ」

橘川那由他は鋭利な顔立ちには似合わない笑顔で腕組みをした。

「実はちょっと、どうしたもんかって頭悩ませてたんだけどさ。槍太がこんな策を用意してたなんてね。やるじゃないか」
「あ、ありがとうございます」
「この件が片付いたら、アタイの直々の舎弟にしてやる」
「えッ」

槍太は引きつった声を上げた。

きっと橘川那由他は〝褒美〟のつもりで言ったのだろう。確かに、橘川那由他の舎弟ともなれば、号山組の他の連中に虐げられることはまずなくなる。しかし、当の橘川那由他が後輩使いの荒いことで有名だ。

「あァ? なんだ、その『えッ』てのは。イヤなのかい──?」
「そ、そそそんなことないです! う、うれしいです!」
「よし。じゃあ明日はシッカリやるんだよ。アタイらで、虎丸の仇を取ってやろうじゃないか。号山組に歯向かったらどうなるか、あの転校生にキッチり教えてやらないとね──」

橘川那由他は、さっき爆谷響子が歩み去っていった方を睨んだ。
口元だけは笑っているが、目は笑っていない。

槍太はその怒りが自分に向けられていないことに、とにかく今はホッとしていた。

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