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秘密のプラン② 橘川那由他

シャッターが閉め切られた旧自動車整備実習場の屋内は暗かった。すでに施設に電気は通っていない。勝手に持ち込まれた発電機とそれに繋がれた投光器が限られた空間を照らし、その狭くて過剰な熱を伴う光がむしろ周囲の影を色濃く際立たせているようだった。

そこに背中半分を影に浸すようにして、二十人ほどが集まっていた。号山組の男たちだ。

「つまり、オマエら三人まとめてやられちまったワケか」

積まれた資材の山に腰かけた大男が言った。岩壁のような巨躯と俊峰のように太く尖った頭をしたこの男が、工業科三年Aランクの号山
ごうやま
堅剛
けんご
だ。

号山堅剛は、片腕に抱えていたドラム缶を軽々と掲
かか
げると、上を向けた大口にグビグビと液体を流し込んだ。もちろんガソリンや油ではない。中に入っているのは醸造されたアルコールだった。

酒の原料をドラム缶で発酵させると多量の鉄が溶け出る。それを飲み続ければ体内で鉄分が過剰になり、深刻な健康被害をもたらすが、しかし普段からそんな危険な飲み物をドラム缶たっぷりに飲み干して、号山堅剛は平気なようだった。

「バカヤロォ!」

そう叫んだ勢いで、号山堅剛の右腕に抱えられていた鉄製のドラム缶がメキメキと、まるでアルミ缶かなにかのように軽々とへしゃげた。

「それでオマエら尻尾を巻いて逃げ帰ってきやがったのか!?」

怒鳴られているのは、ロン毛オールバックの顎ヒゲ男と、逆立てた金髪の男だった。金髪逆毛は朝と違ってサングラスを外してはいるが、どちらも、爆谷響子とやりあった男たちだ。

二人は号山堅剛の剣幕に射すくめられて、身を小さくしていた。何か言い分はあっても、とても口にできるような雰囲気ではない。

「オレが悪いんス」

横からそう言ったのは、支峨
しが
虎丸
とらまる
だった。
爆谷響子にやられたときに鼻が折れていたのか、鼻梁を固定するようにテープが幾重にも貼られていた。

「オレが派手にやられちまわなかったら、コイツらだってもうちょっと意地のあるとこ見せられたはずスから」
「そ、そうなんスよ──支峨が大怪我だったから、手当してやんないとって」

金髪逆毛が取り繕うように言ったが、号山堅剛はそれを聞き流した。

「噂はすぐに広がんぞ。『号山組が転校生にヤラレタ』ってな」

号山堅剛は怒気強く言う。それは「誰が〝ケジメ〟をつけるのか」を問うているのだが、男たちは誰もそれに応えられなかった。

「号山サン。オレらの〝カタキ〟取ってくださいよ」

代わりにロン毛の顎ヒゲが言った。

「アイツはまだどっかのグループに入ってるわけでもないだろうし、Aランクが出張ったって問題ないッスよね。アイツ、号山組
オレら
のこと舐めてますよ。号山組の名前出して脅しても、平気な顔して──」
「オマエに言われるまでもねぇよ!」

号山堅剛に吠えられて、ロン毛の顎ヒゲは恐怖に後ずさりした。

「舐められっぱなしで済ませられるか! その生意気な転校生は、オレ様が叩き潰してやる」

そう高らかに宣言しながら、号山堅剛はひしゃげたドラム缶を両手で掴み、さらに丸めるようにして潰してしまった。

号山組の男たちはその光景に恐れ慄
おのの
きながら、一方で安心していた。号山堅剛が動くのなら大丈夫だ、こんな化け物に勝てるやつがいるはずはない──そういう畏怖の念が、野良犬のような不良たちを一つの集団にまとめあげている。

「アイツのこと、あんまり甘くみない方がいいスよ」

そこに異を唱えたのは支峨虎丸だった。

「なんだと──?」

号山堅剛が睨みつける。その形相に、視線を向けられていない他の連中でさえ恐怖に身をすくめるが、支峨虎丸は苦々しい顔のまま態度を崩さなかった。

「どういう意味だ? オレが負けるとでも思ってんのか?」
「そうは言わねえスけど……」

支峨虎丸が気にしているのは、爆谷響子が彼の能力に初見でついてきたことだった。雷神の足
ステップイン・ステップアウト
を上回る反応速度も驚異的だが、まだ戦い始めたうちは翻弄できていた。しかしそれに戦闘中に対応してみせたバトルセンスは、支峨虎丸に〝格の違い〟を痛感させるのに十分なものだった。

号山堅剛の腕力は確かにすごい──しかし果たしてそれだけであの転校生を倒せるだろうか。

「そうか。そういやオマエにはまだ、オレのLv.2を見せてなかったな」

そんな不安を見抜いたように、号山堅剛が口の端だけで笑った。
建物を揺らすようにして資材の山から降りると、支峨虎丸の前まで歩み寄り、周りの男たちを後ろに下がらせる。

「安心させてやる。虎丸、試しにオマエの疾風迅雷
バレット・レイン
をオレに打ち込んでみろ」
「は──?」

支峨虎丸は自分の耳を疑った。

疾風迅雷
バレット・レイン
は、支峨虎丸の二つの固有能力
インヘレンス
、短距離を高速移動する雷神の足
ステップイン・ステップアウト
と同時に複数の拳を振るう風神の拳
ブロー・ア・ゲイル
を組み合わせた必殺技だ。体ごと消えるかのような高速移動の繰り返しで相手の周囲を行き来し、そのたびに無数の拳を浴びせかける。元ボクシング部の支峨虎丸の拳をそれだけ食らって、無事でいられる人間はまずいない。

「なに言ってんスか。そんなことできるわけ──」
「いいから早くやれ。心配すんな、オレは反撃したりしねぇから」

自信たっぷりな号山堅剛のニヤけ面に、支峨虎丸は内心、反発心を抱いた。

ボクシング部を退部になり、号山組に加わってから、まだそれほど経っていない。グループを率いるこの男がAランクだということはわかっているが、だからといって、

〈オレの拳をコケにできるほど強いのかよ──〉

そんな憤りに、歯を固く噛み締めた。

「ちッ……どうなっても知らんスよ」

支峨虎丸が拳を上げる。サウスポースタイルのファイティングポーズを取ると、小刻みにステップを踏み始めた。

号山堅剛は何もしない。ただ立っている。

〈クソッ──舐めやがって〉

支峨虎丸の体が消えた。周囲で見守っている男たちにもまったく見えないほどの速さで、支峨虎丸は号山堅剛の周囲を高速で動き回った。そのたびに数多の拳が雷の轟く暴風雨のように降り注ぐ。その凄まじさに、号山組の男たちはあるいは目を丸くし、あるいは半口を開いて驚いた。

しかしそれ以上に、支峨虎丸の驚きの方が大きかった。一瞬で三十発ほど風神の拳
ブロー・ア・ゲイル
を打ち込んで、号山堅剛から離れた支峨虎丸は、汗を流していた。疲労によるものではない。

「どうだ。これがオレの固有能力
インヘレンス
Lv.2、鉄の要塞
ビッグ・ウォール
だ」

号山堅剛は激しい拳の嵐を受け、その熱風が残る中、一歩も動かずに立っていた。そびえ立つ巨体には傷一つない。

「この無敵の防御力がある限り、オレが負けるなんてことはありえねぇ」

号山堅剛の尊大な物言いは、しかし大げさとは思えない。確かに号山堅剛の腕力と鉄壁の防御力があれば、あの転校生どころか誰にだって勝てるだろう──支峨虎丸はそう認めざるを得なかった。

「虎丸、そうガッカリするな。オマエが弱いワケじゃねぇ。オレ様が強すぎるのよ。オマエらの〝カタキ〟はオレが取ってやるから、安心して見てな!」

号山堅剛は大口を開けて高らかに笑った。

「ちょっと待ちなよ」

そこに水を差したのは、遅れて建物に入ってきた女子生徒だった。振り向いた男たちが「姐さん」と口々に声かける。

黒いセーラー服の橘川那由他は、それには応えず、人垣を割るようにして号山堅剛の前に歩み出た。

「そりゃアンタが出れば勝つのは間違いないよ。でもね、そんな簡単に頭
トップ
が出張ってるようじゃ、号山組が舐められるじゃないか。『あんなやつら、所詮Aランクにくっついてる金魚のフンの集まりで、大したことない連中だ』ってね」

橘川那由他は眼光鋭く、周囲の男たちを見回した。

「アンタら、それでいいのかい?」

号山組の男たちは、しかしバツが悪そうに視線を逸らすばかりで、誰も返事をしなかった。

「ちッ……情けないねぇ。誰か『オレに任せてください』って名乗り出るような活きのいいやつはいないもんかね」
「仕方ねぇだろ」

号山堅剛がなだめるように言った。

「虎丸がやられるくらいだ。他の奴らが束になったって敵わねぇよ」
「アンタは甘いんだよ。そうやってすぐ甘やかすから、コイツらいつまでたっても頼りないまんまなんだ」

橘川那由他が腰に手を当てて怒ると、号山堅剛はその迫力に少し気圧されたようだった。

「あの転校生はアタイらで倒す。いいね?」

橘川那由他がそう言うと、号山組の男たちはにわかに慌て始めた。

「そんな、無茶っスよ姐さん!」
「そうっすよ。オレたちが何人いたって、勝てるはずないじゃいスか!」
「情けないこと言うんじゃないよ! いくら虎丸にタイマンで勝てるくらい強くたって、ここにいる全員でかかりゃ余裕さ。アタイの固有能力
インヘレンス
を忘れたわけじゃないだろ」

それを聞いて、男たちの反応が少し変わった。まだ戸惑い半分ではあるが、橘川那由他の言うことに可能性を感じたようだった。

「そ、そりゃあ、姐さんの固有能力
インヘレンス
がありゃあ、オレたちだって戦えるかもしれないスけど……」
「でも全員で囲むってなるとそれなりに準備がいりますよね。どこかに呼び出すんスか? 素直に来ますかね」
「心配ないよ。こっちには〝作戦〟があるんだからね」

橘川那由他は血のように赤い唇に自信満々の笑みを浮かべた。

「いいかい、オマエたち! 覚悟を決めな。舐められっぱなしで済ませるんじゃないよ。あの生意気な転校生はアタイらでブッ潰す。号山組に逆らったらどうなるか、思い知らせてやるんだ!」

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