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天頂の女帝 神堂夏姫

「爆谷、ちょっといいか」

明くる日の昼休み、槍太は爆谷響子に声を掛けた。相変わらずの取り巻きたちが、うっとうしげな目を一斉に向けてくる。爆谷響子と顔を合わせるのも一苦労だ。

「ん? なんか用か?」
「いや、今日も売店なら一緒に──」

そう口にした途端、クラスメイトの視線が刺々しさを増した。『なに身の程知らずなことしてんだ』と言いたげなのが、槍太には手に取るようにわかった。立場が逆なら槍太も同じように思うだろう。

だがこいつらは知らないのだ。昨日、爆谷響子は槍太と一緒に昼飯を食べたのだということを。

そのとき爆谷響子が取り巻いてくるクラスメイトたちをうざったがっていたということを知ったら、こうやって我が物顔で人だかりを作っている連中の表情はどう変わるだろう。そう考えるとなんだか滑稽に思えた。

爆谷響子が槍太の誘いに乗るなどと微塵も思っていなかったこいつらの唖然とした間抜け顔を背にして教室から出ていく──というのも悪くない。

しかし爆谷響子の返事は、槍太の予想していたものとは少々異なっていた。

「あー、わりぃ。ちょっと今日は用事があるんだ」

槍太は思わず「え……」と間の抜けた声を出してしまった。まさか断られるとは思っていなかった。昨日の態度がそっけなさすぎたせいで、嫌われてしまったのだろうか。嫌な汗がにじむ。

どうする。どうすればこの状況を打開できる。『今日はオレのジュース飲んでいいから』とでも言えば機嫌を直してもらえるか。いやいきなりそんなこと言い出してもキモいだけだろ……。槍太はまるで混乱していた。

お邪魔虫は空気を読んでとっとと消えろ──そう無言で告げるようなクラスメイトたちの冷ややかな笑みが槍太に浴びせかけられる。

そんないたたまれない雰囲気の中、爆谷響子が続けてこう言った。

「途中、職員室に寄るからさ、その間待っててくれるか?」

* * *

職員室前の廊下に立つ槍太はビニール袋を手にしていた。中にはコッペパンサンドが二人分。『アタシの分も買っといてくれ』と言われた通りに、売店で買ってきたものだ。爆谷響子は職員室に呼び出されて、何やら少し話があるそうなので、その間に槍太が昼飯の調達を済ませておけば、貴重な昼休みをあまり無駄にしないで済むだろうという考えらしかった。便利使いされてる感がなくはないが、理に適っているところは気に入った。

どこの学校も似たり寄ったりかもしれないが、天頂高校の売店も昼時は戦場になる。どうして毎日毎日売り切れになるのにもっと仕入れを増やさないのかと初めは疑問に思っていたが、あるとき槍太は気づいた。売り切れなかったら廃棄分は購買部の損失になる。だから、絶対に売り切れる量しか用意しないのだ。その結果、生徒たちは日々壮絶なパンの奪い合いに身を投じるという困難を押し付けられることになるが、別にそれで購買部が困るわけではない。理に適っているがこれは気に入らない。

そうは思っても、朝からわざわざ学外に買いに出るのも、昼休みにフェンスを乗り越えて抜け出すのも、そこまでするほどかと考えると面倒なので、結局はみんな売店に群がる……ほとんどの生徒は意識していないだろうが、自発的な行動に思えて、昼飯一つとっても学校に支配されているのだ。……たかがパンを買うだけでそんな風なことを考えてしまうのも、なかなか職員室から爆谷響子が出てこないのが悪い。

「おい貴様、こんなところで何をしている」

突然声を掛けられて、槍太は考え事の海から現実に引き戻された。

慌てて振り向くと、そこに立っていたのはスーツ姿の女性だった。リボンブラウスに細身のメガネと、きつい印象の年増女だ。

「職員室に用があるのか? どうして中に入らない」
「あ、えっと……」

詰問するような口ぶりに槍太はたじろいだ。きついのは口調だけでなく、その表情も厳めしい。不快げに眉間を寄せ、睨むような顔つきで槍太に歩み寄ってきたのは、生徒指導部統括主任の神堂
しんどう
夏姫
なつき
だった。

天頂高校は8学科7,000人超の生徒を擁する大所帯なので、生徒指導部もそれぞれの学科ごとに存在する。こういったあたりにも複数の学校が合併して出来たという成り立ちの影響が残っているが、〝統括主任〟というのはその各生徒指導部全体を取りまとめる責任者という意味だ。

カツカツと廊下を音立てて歩くその早足すら、相手を咎めだてているように聞こえる。

「どうした、答えられないのか。まさか貴様、何か含むところがあって職員室に細工でもしていたんじゃないだろうな」
「えぇっ!? そ、そんなこと……」
「ほら、ここに立て。背を曲げるな。クラスと氏名を言え」
「に、二年十三組……雑崎
さいざき
槍太です」
「学科は?」
「普通科です」
「ふん」

神堂夏姫は槍太の肩を掴んで無理やり廊下の窓際に立たせると、背筋を伸ばさせてから、ブレザーの下襟を掴んだ。引っ手繰るようにして胸元の校章を確認する。

「星無し……そうか。お前があの雑崎か」
「えっ?」

ドンと突くように神堂夏姫は槍太を放した。
槍太はそんな乱暴な扱いに怒るより、驚いたような顔をした。〝あの〟雑崎?

「し、知ってるんですか……オレのこと」
「意外か?」

神堂夏姫は顎を上げ、「フッ」と見下すように笑った。

意外かと言われれば、もちろん意外だった。学校の教員なんて普通、担任か授業を受け持つか、委員会や部活の顧問でもしていない限り、生徒のことなどいちいち覚えたりしないだろう。成績優秀者とか課外活動で目覚ましい成果を上げたとか、槍太はそういう覚えめでたい生徒でもない。話したこともない神堂夏姫に存在を認識されていること自体が驚きだ。

「そうだな。いくら生徒指導部といえども7,000人を超える生徒をすべて把握するのは現実的ではない。だが我々が相手をするのは主に劣等生だ。自分の劣等性を逆恨みした生徒が学校の秩序を乱したりしないよう取り締まるのが務めだからな。校風に馴染めずにグレてしまった不良や無能な低ランク生の情報くらいは把握している」

なるほどと納得したいところだが、あからさまに侮辱する物言いに槍太はムッと口を歪めた。

神堂夏姫はそれを無視して、槍太の胸の校章をトントンと突いた。

「特に──お前は我が校で唯一のZランク、最底辺の無能力者だからな。名前くらいは嫌でも記憶に残る」

腹立たしく思いつつも、槍太は神堂夏姫が胸の校章を確かめた理由を察した。

天頂高校では制服に小さい星型のピンバッジを付けることになっている。普通科の制服
ブレザー
の場合は胸の校章の下に、Cランクは一つ星、Bランクは二つ星、Aランクは三つ星が並ぶが、FランクとZランクはその星がない。

「まったく、理解に苦しむな。なぜ無能力者がこの学校に居座っているのか」

神堂夏姫は腕組みをすると、軽蔑するような眼差しを隠しもせずに言った。

「いくら天頂高校を卒業したからといって、Cランク未満の劣等生にはなんのメリットもない。むしろ落ちこぼれという先入観を持って見られるだけだ。出来の悪い生徒として冷遇される学校生活にしてもそう楽しいものではないだろう。いっそどこか普通の学校に転学でもした方が賢明ではないか?」

内心〈うるせー、だったら退学にすればいいだろ〉と槍太は思った。〈なんで無能力者を追い出さずに学校に置いてるんだよ〉

だがさすがに面と向かってそんなことは言えないので不愉快面
づら
で黙っていると、神堂夏姫はニヤッと笑った。

「それとも何かそうしない理由があるのかな……?」

窓から差す光をキラリと細メガネが反射する。

「まぁいい。無能力ならイタズラもできないだろうし、今日は見逃してやる。ほら、さっさと行け」
「あ……いや、ともだ──クラスメイトを待ってるんですが」
「なんだと。ここは待ち合わせ場所じゃないぞ」
「職員室に呼ばれてて。すぐ終わるかと思ったんですけど」
「そうか。だったら中で待つか?」
「えっ!? いやそれはいいです」
「貴様はよくても、こんなところでうろうろされたら他の先生方にとっても目障りだ。どうする。どこか別の場所へ行くか、職員室で私とじっくり〝お話〟でもしながら待つか、どちらか選べ」
「うぇえ……」

槍太は苦いものを食べでもしたように口を引きつらせて舌を出したい心境だった。

後者は絶対イヤだ。こんな常に偉そうで人を見下すような言葉がポンポン口から出てくる女と一緒にいるなんて、不愉快極まりない。いくら多少エロい体をしているからといって、ムカつくものはムカつく。肉付きのいいのを誤魔化すように細身のスーツに大きな胸やデカい尻を押し込んでいるせいで、ムチムチした体のラインが際立ってしまっているのが、純朴な男子高校生を挑発しているようでむしろ腹立たしい。

かといって、勝手にどこかへ移動するというわけにもいかない。まだ爆谷響子とは連絡先も交換していないので、置き去りにしたら昼休みの間に合流できるか心もとない。

「そう長くはかからないと思うので、なんとか許してもらえませんか」
「ほう。私と一緒にいるのがそんなにイヤか」
「えっ!? い、いえ、決してそんなつもりじゃ」
「だったら構わないだろう。ほら一緒に来い」
「ていうか先生こそなんなんですか。そんなにオレとお喋りしたいんですか」
「もちろんだ。学校きっての落ちこぼれがどんな生徒なのか、生徒指導としては興味があるからな」
「ただ無能力なだけの、普通の男子高校生ですよ……」
「〝普通の男子高校生〟か」

そうオウム返しに呟くと、神堂夏姫は冷たい眼を訝しげに細めて槍太を見た。

「まぁそういうことにしておいてやろう。その〝普通の男子高校生〟とやらは、自分のことをどう思う?」
「は? どうと言われても……」
「この天頂高校に入学できたということは先験者
コンセプテッド
としての適正があるということだ。しかし通常は一月
ひとつき
も経たずに発現するはずの固有能力
インヘレンス
がいまだに現れない。そのことを、自分ではどう思っている?」

神堂夏姫の問い詰めるような口ぶりに、槍太は答えあぐんだ。

〈もしかしてこの女……オレが能力を隠していると疑ってるのか?〉

槍太が何も答えないのを見て、神堂夏姫は不満そうに言葉を続ける。

「我が校では能力検査の成績不振では放校処分にしない方針を採っている。それは大雑把にいえば〝遅咲きの才能〟という万が一の可能性を考慮してのことだが……無能力というのはその中でも前代未聞だ。〝普通の男子高校生〟クンは、自分がその〝万が一〟に当てはまると思うか?」

神堂夏姫の視線は相変わらず冷たい。

「もし当てはまらなければ、お前という存在がこの学校にいる意味などないということになる。存在価値のないものに優しくしてやるほどこの学校は甘くないぞ。今はFランク同様の扱いで済ませているが、新しい規則を制定してもいいかもしれないな」
「あ、新しい規則……?」
「今は普通に授業を受けさせているが、机の代わりに茣蓙
ござ
とミカン箱を使うことにするというのはどうだ」
「は!?」
「気に入らないか? じゃあこれは採用ということにする」
「待ってください。そんなのタダのイジメじゃないですか」
「タダのイジメだと? 馬鹿を言うな。いつまでたっても固有能力
インヘレンス
に目覚めない能無しが本気になれるよう追い込んでやるためのイジメだ。愛の鞭などと口幅ったいことを言うつもりはないが、出来の悪い鈍馬は鞭で尻を叩きまくらなければろくに走りもしないのも事実だ。拍車をかけてもらえるだけ感謝しろ」
「なんて時代錯誤な……」

というか建前だけでも取り繕おうとすることすらなく、イジメでなにが悪いと開き直っている分、よりタチが悪い。

「はぁ……貴様、二年にもなってまだそんな認識なのか。いいか、よく覚えておけ。我が校に世間の常識など関係ない。優秀な先験者
コンセプテッド
を輩出する、それだけが我々を縛る唯一の行動理念だ。そのためなら体罰だろうがイジメだろうが、どんなことでも許される」

冷厳と言い放つ神堂夏姫には、慈悲の心など一切ないようだった。

それからも説教とも嫌味ともつかない小言が延々と続いた。

〈このやろう……好き放題言いやがって……いつか覚えてろよ……〉

そう思いながらも、口では「はい」「すみません」「その通りです」と従順に答えていたが、しばらくしてようやく槍太は気づいた。神堂夏姫と一緒に職員室に入らなくても、結局は同じだったということに……。

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