巨乳キャラあつめました 巨乳のキャラクターが登場する漫画や小説を集めたサイト

戦いの後始末 爆谷響子

直前まで起きていた戦いの激しさとは対照的に、旧自動車整備場の中は静まり返っていた。建物の三方から差す屋外からの光を、空気に乗って埃が流れ、また暗がりに溶けていく。すべての視線は爆谷響子に注がれていた。へっぴり虫のような格好で倒れ伏した号山堅剛を足元に置いて、威風堂々と佇んでいる。

勝利のゴングを鳴らすように、鐘の音が響いた。昼休みの終わりを告げる予鈴だった。

「あーあ。昼飯、食いそびれちまった……」

爆谷響子は仕方なさげに頭を掻

いた。

「ったく。どうせなら放課後とかにしてくれりゃいいのによ。授業中こっそり食ってたら怒られるかな。昼休みのすぐ後に飯なんか食ってたら、めちゃくちゃ食いしん坊だと思われるよな……」

そんな冗談を口にするが、誰一人として笑う者はいない。

それもそのはず。想像を遥かに超えたSランクの実力に、誰もが絶句していた。特に号山組の面々にしてみれば、Aランクの号山堅剛が拳一つで打ち負かされるなど、悪い夢でも見ているとしか思えない。

「ま、それはいいとして……教室に戻る前に、もう一人、きっちりお話しなきゃいけないやつが残ってたな」

その言葉を聞いて、「ヒッ」と小さく叫んだのは、橘川那由他だった。自身は手を出していないとはいえ、自らの固有能力
インヘレンス
で男たちを強化して爆谷響子を襲わせたのだから、当然〝見ていただけ〟では済まされない。

しかし爆谷響子は、橘川那由他に背を向けると、槍太
そうた
のいる方に近づいてきた。

「雑崎
さいざき
……一つ聞いておきたいんだけど」

爆谷響子はさりげない風を装ってはいたが、その口調には隠しきれない不快感のようなものが滲んでいた。

「お前、なんでアタシをここに連れてきた?」

ヤバイ──槍太の頭に浮かんだのは、その三文字だけだった。恐怖に膝
ヒザ
が震える。爆谷響子は一応は理由を聞こうとしているが、その目つきは冷たく鋭い。

それもそのはず、この旧自動車整備場には、槍太が「いい昼飯スポットがある」と言って連れてきた。そこに号山組の連中が待ち伏せしていたのだから、槍太が爆谷響子をハメたと思われるのは当然だったし、実際にそうだった。

しかしそれを認めるわけにはいかない。Aランクの号山堅剛を一撃で屠
ほふ
るSランクの超人を敵になど回したら、生きていられるはずがない。何としてでも言い逃れなければならない。

「ちっ、違うんだ……」

槍太はとにかく口を開いた。

「オ、オレはこんなことしたくなかったんだけど……爆谷を連れてこないと酷い目に合わせるぞって言われて仕方なく……」
「脅されて無理やりやらされたってことか?」
「そ、そうなんだよ。本当にごめん。爆谷には悪いことをしたと思ってる……。でも爆谷と違ってオレは弱いから……。オレみたいな弱いやつは、強いやつの言いなりになって生きるしかないんだ……」
「バカを言うんじゃないよ!」

橘川那由他が口を挟んだ。

「この作戦を提案したのはアンタじゃないか! ソイツをハメるために仲良いいフリをしてるんだって自慢げに言ってたくせに、なに調子のいいこと言ってるんだい!」

悪者にされたくなくて必死なのだろう。橘川那由他は槍太を糾弾するように声を飛ばした。

「そ、そんなこと言ってない。オレは本当に爆谷と仲良くなれて嬉しいと思って──」

槍太も必死で言い繕うが、爆谷響子の目は冷ややかだった。
どちらの言うことが真実なのか、わかっているのだろう。
いくら槍太が口先だけの言葉を弄
ろう
しようとも、爆谷響子には届かない。

「昨日、クラスのやつらに除

け者にされてるって話をしてたよな」

──雑崎くんとはあんまり関わらないほうがいいよ。

突然の話題の変化に、槍太は戸惑う。
爆谷響子は溜息をつくと、憐れむような目で槍太を見下した。

「あれは、お前がZランクだからとかじゃなくて、その性格が問題なんじゃないのか」

爆谷響子はそれだけ言い残すと、一人、去っていった。
号山堅剛の〝サスペンド権限〟も奪わず、橘川那由他に制裁を加えることもなく、槍太にさえも興味を失くしたように。

残された者たちはただ、台風で家を飛ばされた人々が途方に暮れるように、呆然と旧自動車整備場の外から差し込む屋外の光を眺めていた。

槍太は怒りに打ち震えていた。

〈クソ……言いたい放題言いやがって……〉

内心そう毒づくと、不愉快さを握りつぶすように手を震わせた。

槍太がクラスで疎
うと
まれているのは事実だ。それ自体はどうでもいい。「あんな落ちこぼれと一緒にいたら自分たちの成績まで落ちる」と蔑
さげす
まれても、それは槍太が固有能力
インヘレンス
を隠しているせいだし、実際には槍太は無能力者ではない。だから何を言われても〈見る目のないバカどもめ〉と思っていればそれで済むことだった。
しかし、

〈オレの性格が問題だと……!?〉

そんな人格批判は許せなかった。しかも実質的に「イジメられるやつに原因がある」と言っているようなものだ。これは一線を越えている。〈イジメを肯定する悪人め……!!〉──と槍太は自分のやったことを棚に上げて憤
いきどお
っていた。

〈絶対にあの女に復讐してやる……〉

強く心の中で誓ったものの、その方法は思いつかなかった。

まともに戦うのは論外だ。号山堅剛の鉄の豪腕
ビッグ・ハンマー
を食らってビクともしないような相手に、たとえ闇討ちをしたところで擦り傷一つ付けられないだろう。

諦めるしかないのか? こんな屈辱を味わわされて、黙って大人しくしているしかないのか? 槍太は自分の無力が悔しかった。これから毎日、教室に行くたびあの女の顔を見るのだと思うと、腹立たしかった。

「クソーッ!!」

槍太は手にしていた〝缶ジュース〟を呷
あお
った。怒りをぶつけるように、グビグビと一気に飲み干す。

その瞬間、槍太の頭の中に機械的な音声のようなものが響いた──。

〈爆谷響子──特殊性癖
スイートスポット
:【ヒロピン】倒すべき相手に屈辱的な方法で辱
はずかし
められることに性的興奮を覚える〉

* * *

その日の午後、槍太は昼からの授業を受けるどころではなかった。教室で爆谷響子と顔を合わせるのが不愉快だということもあったが、それ以上に〝作戦〟を考えることに夢中になっていた。誰にも邪魔をされないスポットの一つである、屋上手前の階段奥に座り、まるで仏僧のように考えに耽
ふけ
った。

槍太の固有能力
インヘレンス
──性癖透視
インサイト
は、体液を摂取した相手の特殊性癖
スイートスポット
を知ることができる。普通はジュースの回し飲み程度では発動しないが、このときは槍太も橘川那由他の血の眷属
バイト・トゥ・イート
で固有能力
インヘレンス
を強化されていたために、微量の唾液を口にしただけでも能力が働いたのだろう。

この能力で得た情報が、なにか爆谷響子に復讐する材料にならないか──槍太はそれを必死で考えた。しかし、性癖が分かったからといって、どうしろというのだ。人に知られると恥ずかしいのは間違いないが、それを学校中に言いふらして回ったところで、むしろ槍太が頭のおかしい危険人物扱いされるのが関の山だろう。

槍太が自分の固有能力
インヘレンス
を隠すことをやめ、「特殊性癖
スイートスポット
を知ることができる」と学校からお墨付きを得れば、信憑性を高めることはできるかもしれない。

しかしリスクも大きい。〈大体なんだよ特殊性癖
スイートスポット
って〉──槍太自身そう突っ込まざるを得ない変質者まがいの能力を持っているなんてことが周囲に知れたら、今は無視される程度で済んでいるが、割とガチなイジメに発展してもおかしくない。戦闘向きの能力を持っていない以上、そんなことになったら目も当てられない。出来るだけ能力は隠したままにしたい。

ただそうすると、打つ手がなかった。爆谷響子の性的嗜好がわかったからといって、どうしようもない。「ゲッヘッヘ、おまえ、辱
はずかし
められるのが好きなんだろ~ォ?」か言って襲い掛かったところで、シンプルに殺されるのがオチだろう。

あれこれ考えた末に、これといった案も思いつかないので、槍太は一度寮へ帰ることにした。授業中の人気
ひとけ
がない廊下を悠々と歩いて昇降口へ向かう。

下駄箱のフタを開いたとき、フワッと何かが滑り出た。手紙だ。白い封筒にどことなく女性的なセンスの繊細なシールで封がされている。

槍太はそれを見てイヤそうに口元を歪めた。大体こういうイタズラをされるときはロクなことがないからだ。このまま読まずに捨ててしまいたいぐらいだが、念のため中を確かめることにした。不要なトラブルを回避するためには、情報は多い越したことはない。

中に入っていた手紙の文章は、女性らしい文字で綴られていたが、手書きではなくフォントだった。

『放課後 西門そばの エルミタージュ に来てください。
そこでお話したいことがあります…♡』

他の漫画を見る