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第3話 エロトラップダンジョンは意外と危ない

エロトラップダンジョンは、薄暗く、じっとりとした湿り気を帯びた空気で満たされている。
中に1歩足を踏み入れると、奥の方からパリピ達の騒ぐ声が反響して聞こえてきた。

だから……なんでダンジョンっていう危ないところに潜ってるのに、大騒ぎしてるんだよ!

ところで“エロトラップダンジョン”と普通に言ってはいるが、その実態はどういったものなのか。
俺自身、そういうモノをテーマにした、エッチなゲームを……実は、やったことがある。

その名前から想像できるだろうし敢えて説明する必要があるとも思えないのだが……まあ言ってしまうのならば、侵入した者がエロいトラップに襲われるというダンジョンだ。
この説明、必要だったか?

たとえばヌルヌルとした触手に襲われて局部を攻められたりだとか、痺れ薬で抵抗できなくなったところを電マのようなモノで攻められたりだとか……まあ、そんな感じである。
つまるところ侵入者を……特に女の子を陵辱することしか考えていない、脳内ピンクなダンジョンというわけだ。
無論、そんなところに女の子を連れ込むだなんて、正気の沙汰とは思えない。

「本当に、大丈夫かよ。もし、アイリーンに何かあったら……」

無意識にそう呟いてから、俺は慌てて首を横に振る。

べ、別にアイリーンのことを心配してるとかじゃないんだからな!?

ただ、アイリーンには怪我を手当てして貰った恩があるから……だから、気にかけてるだけなんだからな!
そこんところ、勘違いしないでくれよな!

と、誰に向けてのものかどうかも分からない言い訳をしていると、さっそく奥の方で動きがあった。

「うおおい! 見てみろよこれ! エロ触手だぜ!」

んなもん、女の子に見せてんじゃねえよ!

俺は小走りになって、シャカシャカとパリピ達の背後に追いつく。

ヤツらの前には、どうやら壁から生えている触手が立ち塞がっているらしい。
そしてその触手が“エロ触手”と呼ばれている所以
ゆえん
は……

「ブハハハハハ! やべー! この触手、マジでチンコじゃん!」

触手の先端が、あまりにもチンポに似すぎているせいだった。

艶やかなサーモンピンクをした触手は、全体をヌメヌメとした粘液に包まれている。
そしてその先端はぷっくりと赤黒く膨れ上がっていて、さらには縦に小さな切れ目まであって。

うん。確かにチンポだわ。
そんなチンポな触手が何十本もうねうねと揺れながら、パリピ達の前でうごめいている。

「すげー! 本当にエロトラップダンジョンだわ!」
「おいこのチンコ、お前のチンコよりでけえんじゃねえの!?」
「おい言うなし! つーか俺のチンコはこんな触手なんかと違って、真珠埋め込んであっから!」
「ヤダー! 男達サイテー! つーかマジエロすぎ-!」
「この触手たち、アタシら見てガチ勃起してんじゃーん! マジヤバーい!」

まさしく期待通りのエロトラップの登場に、パリピ達は大はしゃぎである。
では、アイリーンはどうなのかと様子を窺ってみれば……。

「わははははははははははは! え、これチンチンに似てるんだ!? えー、ヤバー!」

ゲラゲラ笑っていた。
どうやら基本的にアイリーンは笑い上戸らしい。だんだん俺も慣れてきたわ。

「ウチ、チンチンとか見たことないかんな-! ホントにこんな感じなんだとしたら、男子ってすっごいわー!!」

うう……アイリーン。
頼むから、チンポだなんて低俗なもので、そんなはしゃがないでくれ……って。

ん?
今、アイリーン、なんて言った?

……チンポ、見たことないのか?

ギャルなのに……って言うと、少し偏見にまみれているかもしれないが。
しかし、なんていうか、うん。
……うん。
胸の中で、なんだかホッとするような、光が灯ったような、気がした。
我ながら現金なヤツだと思ってしまうけれど。

そして俺がアイリーンの言葉に反応したように、他にも動きを見せるヤツらがいた。

当然、パリピパーティーの、ギャル男たちである。

「え? マジ? アイリーン、チンコ見たことねーわけ?」
「へー、意外だわ。めっちゃギャルだし、全然やることやってんのかと思ってたわ」
「いや、つーかさ。アイリーンさ。じゃあ、もしよかったら、」

あ、こら。お前ら、よせ。それは……、

嫌な予感がして、咄嗟に体が動き出す。
隠れていたダンジョンの壁から身を乗り出して、矢も盾もたまらず駆け出そうとした、その次の瞬間。

「俺のチンコ、見……ッ」

ズン、という鈍い音が響いて、男の言葉が止まった。

「は……ッ……?」

見れば、陽キャ男の首に、何かが突き刺さっている。

いや、何かじゃない。
今まで散々話題に上がっていた、エロ触手。
それが、陽キャ男の首に、横から食らいつくようにして突き刺さっていた。

「わああああああああっ!?」
「きゃあああああああっ!」

それをキッカケにして、その場は一気に騒然とし始める。
それまでゆらゆらと揺れ動いているだけだったエロ触手が、一斉にパリピパーティー達に襲いかかり始めたのだ。

「なになになになに!?」
「やばいやばい! やばいってこれ!」

エロ触手は男女問わず、パリピパーティー達に絡みつき始める。
素手でもドワーフに勝てるとか生意気言って軽装備だったアイツらは、またたく間にエロ触手に捕らわれてしまう。
エロ触手は見た目に反してパワーもあるらしく、ヤツらの体をミシミシと締め付け、苦しめ始めた。

絶望から表情を歪めるパリピパーティー達だったが、不意にそれらエロ触手が切断される。

「ちょ待って!? なにこれやば! みんな大丈夫!?」

アイリーンだった。

彼女は腰に提げていたレイピアを抜き、それでパーティーメンバーに絡みついているエロ触手を切り落としたのである。
咄嗟に反応した彼女のおかげで、陽キャ達は怪我こそしているものの、首をぶっ刺されたヤツを含め、全員命は無事であるようだった。

しかしながら壁から襲いかかってくるエロ触手は数が多く、次から次へと伸びてくる。
このままアイリーンひとりで、襲い来るエロ触手を切り落とし続けるのは不可能だろう。

アイリーンは緊張の面持ちで、仲間達に声をかけた。

「みんな! コイツら数は多いけど、1本1本はそんな強くないーっぽいよ! ガチればウチら全然ヨユーっしょ! だから……」
「「「「「うわああああああああああああああ!」」」」」
「あ、あれ!? みんな!? あれ!? おーーい! みんなーーーーーーー!?」

アイリーンの言葉を、もう誰も聞いちゃいなかった。

すっかりパニックに陥った陽キャ達は、誰も彼もが自分が助かるために必死になっている。
ヤツらは助けてくれたアイリーンに礼を言うでもなく、我先にとダンジョンの出口へと向かって駆け出していった。

「きゃあっ!」

しかも、あろうことか、陽キャ男の内のひとりが、逃げ惑うあまりアイリーンのことを突き飛ばしてしまう。
突然のことに受け身も取れず、アイリーンはダンジョンの床に倒れ込んでしまった。
そして当然のことながら、無防備に倒れ込むアイリーンは、エロ触手達にとって格好の的だ。
突き飛ばした陽キャ達は、近くにいるというのに、助けに向かう様子もない。

「えっ、ちょっと、……みんな!? きゃあああああああ! だ、誰か、助けてえええええええええ!」

「っだあああああああああああああああああああ!」

腹の底から雄叫びを上げて、俺はダンジョンの床を蹴りつける。

逃げ惑う陽キャ達の間をすり抜けるようにして、ダンジョンの真ん中で倒れ込むアイリーンの元へと駆けつける。

間に合え! 間に合え!! 間に合え!!!
あああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!

「そんな汚いエロ触手ごときが、アイリーンに触れようとするんじゃねえ!!!!!」

トップスピードから飛び込んだ俺は、伸びてくるエロ触手よりも、間一髪早くアイリーンに手が届く。

そのまま彼女の体を抱きしめるようにして、奥の方へと飛び跳ねる。
背後から、エロ触手が壁にぶち当たり、べちょべちょっと粘液のはねる嫌な音が聞こえてきた。

「……無事か!?」
「あ……えっ!? あれ!? オタクくん!? オタクくんじゃん! わーオタクくんオタクくん! なんでいんのオタクくん!?」
「無事そうだな! 無事ならいい!」

俺は警戒したまま振り返る。
ダンジョンの出口には、陽キャ達が殺到していた。
当然獲物を追いかけてエロ触手達もそちらの方へと向かっていくため、俺たちもここから出口へと向かうのははばかられる。

となれば、一旦この状況から逃れるためには……

「お、奥に行こう。出口の方は、今、パニックだ。向かえば、俺たちも、巻き込まれる恐れがある」
「あ、うん! そだねオタクくん!」
「オタクくん言うな!」
「今更じゃね!? バリウケる!」
「今までの全部含めて言ってんだよ!」
「今までに言った分とか、取り消せなーいし! そんくらい許してよオタクく~~ん!」
「ていうか、ずいぶん馴れ馴れしいな!? 一応、今は危機的状況だって分かってるだろ!?」
「えー! でも、オタクくんが助けてくれたし!」
「いや、だからそれは、って、危ないっ!」
「えっ? きゃっ……!」

アイリーンとの小気味よいやりとりに気をとられていたせいだろうか。
エロ触手達は派手に逃げ惑うパリピパーティーに集中しているものと思っていたが、どうやらはぐれた1本が、こちらに狙いをつけていたらしい。
アイリーンの背後からゆっくりと顔(……亀頭?)をもたげて、びゅんっと襲いかかってきた。

油断していたわけではないが、とても避けられるものでもない。
苦肉の策として俺はアイリーンを弾き飛ばして……代わりに、俺の腰の辺りにエロ触手が突き刺さった。

と、同時に肌の表面が裂け、何か熱いモノが注ぎ込まれる感覚。
そして体全体を、鈍い痺れと倦怠感が襲いかかる。

「わ、わああああああ! オタクくんを離せ、こらあああああああ!」

アイリーンは抜いていたレイピアを横薙ぎにして、エロ触手を弾き飛ばす。
しかし俺の体はぐったりとして、動かない。
なんだ……? 毒でも、注ぎ込まれたのだろうか……?

「オタクくん! 大丈夫!? ごめん、ウチが気を抜いたばっかりに……オタクくん! とにかく、逃げるよ! 立てる!? 立てない!? じゃあ、ウチに掴まって!」

俺は何も答えられていないのに、アイリーンは俺の腕を肩に回して、立ち上がらせた。
アイリーンの柔らかな肌が密着して、甘いバニラのような香りが鼻腔をくすぐる。
けれどそれに興奮している場合でもなく、俺はただ、なされるがままにアイリーンに寄り添われて、エロトラップダンジョンの奥へと逃げ込んでいったのだった……。

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