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第10話 打ち上げは大いに盛り上がる

いわゆる異世界系冒険モノの定番として、もちろんこの世界にも荒くれ者御用達の酒場というものがある。

広々とした店内に丸テーブルがいくつか置かれて、あとはカウンター席がいくつか。
そんな中で冒険帰りの男共が木製ジョッキをぶつけて乾杯しながら、大雑把に盛り付けられたボリューム飯をかっ喰らう。
俺も一度だけだが異世界転生した直後に行ってみて、そのあまりの雰囲気のアウトローさにビビって二度と寄りつかなくなった。

というわけで俺は、この街の酒場事情にはかなり疎い。
そのため通い慣れた店があろうはずもなく、適当に目についた酒場っぽいところにアイリーンを連れて行ったわけなのだけれど。

「マジかよ」

俺とアイリーンが通されたのは、狭っこい個室居酒屋だった。
四周を壁に区切られた中には、テーブルと、ふたり並んで座れる革張りのソファ。
瀟洒な間接照明に照らされる空間は、明らかにカップルシートだった。

俺はほとんど思考停止気味に、個室居酒屋って異世界にもあるのかよ、と思ってしまう。

「わ、悪いアイリーン。俺がよく確認しなかったせいで。もしアレだったら、まだ何も頼んでないし別の店探すか……?」

と、おどおどしている俺とは対照的に、アイリーンはというと、

「わー! めちゃくちゃオッシャレ~!」

とても楽しそうにしていた。

彼女は我先にとソファの奥側に腰掛けると、そのままウキウキとメニューを開き出す。
どうやらカップルシートだからといって、尻込みするようなタチではないらしい。

「お疲れさまぁ~~! かんぱぁ~い!」
「か、乾杯……」

結局、ドリンクもフードメニューも、全部アイリーンが注文してくれた。
フライドポテトと唐揚げ以外、どれが酒場の定番なのかもよく分からない俺には、正直助かる。

ちなみにドリンクは、エールというビールの一種だ。
正直アルコールはまだ苦手だが、アイリーンが頼んでいたので、見栄を張って俺も同じものを頼んだ。

「それにしても、今日はなんか大変だったね~」
「そ、そうだな……」
「えっ!? オタクくん、なんでそんなちびちび飲んでんの!? 小動物みたい! カワイイ!」

炭酸が苦手だし、味が苦いのも苦手だからだよ……。

並んで腰掛けるアイリーンは、俺とは対照的に笑顔でエールを飲んでいる。
そして次々と運ばれてくる料理を「これ美味しいよ! オタクくんも食ってみ!」「サラダもちゃんと食べなきゃだよ! 取り分けてあげるね!」「これなんだろ! 頼んでないかも! でもいいや食べちゃお!」と嬉しそうに味わっていた。

アイリーンは、よく飲み、よく食べ、そしてよく笑う。
そんな彼女のプラチナブロンドの髪や、剥き出しの二の腕が触れる度、心臓をくすぐられるようなこそばゆさを感じてしまう。

自身が発光しているのではないかと思うような輝かしい美少女がすぐ隣に座っているという緊張からか、俺もまた普段以上にアイリーンに対して色々と話しかけてしまった。

「……つまりエロゲーの歴史上、世界最古の商用アダルトゲームとして定義されているのがこの『ソフトポルノ・アドベンチャー』なる作品なわけだ。といっても、現代のエロゲーでは必須とも言うべきイベントCGの類いは一切含まれておらず、コマンド入力によるテキストのみのアドベンチャーゲームだったらしいけどな。独身の主人公が、3人の女性を口説いてセックスまで持ち込むという内容だったらしい。これの発売が1981年のアメリカでのことなのだが、一方日本でもほぼ同時期に蜂のマークでお馴染みのあのゲーム会社から野球拳がテーマのエロゲーが発売されている。タイトルはそのものズバリ『野球拳』だ。こちらは『ソフトポルノ~』とは真逆で、女の子をじゃんけんで脱がすというゲームシステムの都合上、きちんとイラストがある。ある、のだが、調べてみると分かると思うけど、実に歴史を感じるイラストだ。いや、ほぼ直線のみで構成された女性……名前はめぐみちゃん……が果たしてイラストと認識していいものかは難しいところだが、これがじゃんけんによって1枚ずつ服を脱いでいくというのは、黎明期のエロゲーマー達にとって、今の俺たちには想像しがたいほどの感動があったのだろうと思う。ちなみにほぼ直線のみと言ったが、脱がすとおっぱいはちゃんと丸い。いざ脱がしてみておっぱいが丸かったら、マジで感動したと思う。まあこのゲームは今となっては発売時期が不明であるため、文献や資料によっては別のゲームを日本最古としている場合もあるので、諸説ある内のひとつと思って聞いておいてほしい。だがしかし他の発売時期が判明しているエロゲーと比べてそう大きく前後することもないはずだから、日米でほぼ同時期にエロゲーの祖が生み出されたのだと思うと感慨深いものがあるよな。ちなみに野球拳のゲーム自体は同時期に他の会社も出してたりする。日本人、野球拳好きすぎだろ」

……何の話をしてるんだ、俺は。
エロトラップダンジョンの影響をもろに受けてしまったのか、ギャルを相手にエロゲーを熱弁。

これが現実世界だったら、非難囂々だろう。
翌日からクラスで排斥され「おれの席ねぇから!」となること必死である。

しかしながら、アイリーンはというと。

「野球拳ってなに? じゃんけんで負けたら服を脱ぐゲーム? えー、ウチ、チョー不利じゃん! ビキニアーマーしか着てないし!」

と、ケラケラ笑いながら聞いてくれていた。

つい喋りすぎてしまったか……と不安になってこっちが押し黙ると、今度はアイリーンが沈黙を埋めるように楽しそうにお喋りを始めてくれる。

アイリーンは自らのネイルをこちらに向かって見せてくれた。
キラキラと艶やかなピンクに塗られた爪には、白く細かい線で華やかな花の柄が書き込まれている。

「今日のウチのネイル、自分で塗ったヤツなんだけどさあ~。めっちゃ色のノリ良くない!?」
「へえ~……っていうか、これ自分で塗ったの!? めっちゃ細かい花の柄みたいなの入ってるけど!? これも全部手塗り!?」
「あはは~オタクくん驚きすぎじゃん! それはさすがに違うから! こういう柄を手軽につけれる、ネイルスタンプってのがあるからそれ使ってるんだよ~!」
「そ、そうだったのか……俺、こういうのって全部お店でやって貰うんだと思ってたな……」
「もち、お店でやってもらう方が、クオリティーも高いし満足度激アゲだよ!? でもほらウチって冒険者じゃん? 動き回ってる内に爪が割れたりとかすることもあるから、自分でケアできた方がいいよな~って思ってやり始めたのが最初!」
「そうなんだ……でもキッカケが必要に駆られてでも、実際そんな上手くなってるのは凄いよな。俺なんて、そんなネイルスタンプみたいなのがあることすら知らなかったし……」
「そんなん、好きなら自然と知るようになるって! オタクくんだって自然とゲームのこと詳しくなってったでしょ!?」
「それも、そうだな……」

お酒を飲んだ勢いもあったのだろう。
まるでテニスのラリーのように、お互いに思うさまいろんなことを語らい合った。
話題はあっちこっちを行ったり来たりしていて、その中身もバラバラ。
それでも、どちらも不思議と相手の話を楽しく聴けていて。

とても充実した、楽しい時間だった。

「やはりアダルトゲームの発展を語る上でもっとも重要なのは、泣きゲーの存在なんだよな。エロに主題を置いて如何に興奮するかという面で伸びていったAVやエロ漫画に対して、エロゲーはシナリオの良さという独自の方面に力を注ぐことによって“アダルトゲーム”という立ち位置を明確にして発展していった面はある」
「今日ちょっと寝坊しちゃってさ~。あのパーティーでは初冒険だったし遅刻するわけにもいかなかったから、軽く髪巻いて終わりにしちゃったけど、いつもはもっと色々髪もコーデ凝ってるんだよ! そうそうこの手首に巻いてるシュシュめっちゃお気に入りで、こんな感じで髪結んだりとかさぁ~!」
「個人的な好みで言わせてもらうと、やはり元祖的な立ち位置として泣きゲー界隈のトップランナーたるχ
キー
は別格だ。まあもっとも『リトルバストーズ!』以降の発表作はいずれも全年齢向け対象なので、エロゲーというくくりではもはや語りづらいところなのだけれど。fat
ファット
は文学、Ear
イアー
は芸術、CLANN
クラン
は人生、だ」
「今日ウチが使ってるアイライナーヤバいんだよ! オススメされて買ってみたんだけど、汗かいても全然落ちないし、冒険にチョー便利! 発色もツヤッツヤでくっきりしてるし、チョーウチ好み! これからも絶対愛用する~~~~!」

楽しい。
めっちゃくちゃ楽しかった。

自分の話を聞いて貰えるのは、もちろん楽しい。
だがそれだけでなく、俺のまったく知らないオシャレの世界の話でも、アイリーンが熱っぽく楽しそうに語るのを聞くのは楽しかった。
俺たちはお互いに知らなかった世界の話を聞きながら、何杯も何杯もエールを頼み、飲み干していく。

結局俺たちはお店が閉店の時間になるまで、ずっと飲み食いしていたようなのだが……。

お酒を浴びるように飲んでいたせいか、打ち上げの途中からは記憶がハッキリとしていない。
とにかくふたりでずっと楽しくお酒を飲んで、オタクトークとオシャレトークに花を咲かせていて、そして……。

……次に目を覚まし時には、俺とアイリーンは素っ裸でベッドの上で抱き合っていた。

「へあ?」
「あえ?」

くすんだ色合いの薄っぺらい毛布1枚体にかけて、後はお互い何にも着ていない。
まさかあのエロトラップダンジョン内のセックスをしないと出られない部屋にループでもしたのか、と思ったが、どうやら違った。

シミだらけの木張りの天井、穴が空いているのをテープだけ張って誤魔化している壁、すっかり白く曇っていてほとんど外の様子を窺えない窓。
そこは異世界転生してから俺が拠点にしている、安宿だった。

どうやらあの打ち上げの後、酒に酔った俺はアイリーンをお持ち帰りしてしまったらしい。
そして同じく酒に酔ったアイリーンと、あろうことか同衾して、ノリノリで素っ裸になって、セックスを押っ始めてしまった……らしい。

その状況を裏付けるように、ベッドのシーツやアイリーンの体には、俺が吐き出したのだろう精液が何発分もぶちまけられている。

ほとんど同時に状況を理解したアイリーンは、当然お持ち帰り大成功してしまった俺を激しく糾弾するかと思いきや。
彼女は顔を真っ青にして、こう叫んだのである。

「ヤバ!!」
「う、うん……ヤバいな。本当に、ごめん、俺が……」
「ウチ、メイクしたまま寝ちゃってるじゃん!」
「うん、そうだな。メイクしたまま、……なんて?」
「メイクしたまま寝ちゃうと毛穴が詰まって肌トラブルの原因になっちゃうんだよ~~~~! ごめんオタクくん! 洗面所借りるね~~~!」
「え……あ、うん。ええと……あれ?」

アイリーンが大きなおっぱいを揺らしながらドタドタと洗面所に駆け込むのを、俺は呆然と見送っていた。
かと思うと、彼女は一度洗面所から顔を覗かせて、パチンとウインクしてみせる。

「昨晩のハルるん、もう、め~っちゃ激しかったんだからね~? その様子だと、覚えてないんだろうけどさぁ~」

そして今度こそ洗面所の扉を閉める。
その向こうから水の流れる音が聞こえ始めたところで、ようやく我に返った。

「……もしかして、アイリーンは全部覚えてるのか……?」

しかもあの様子だと、けっこうまんざらでも無さそうで。
ていうかめっちゃ激しかったって……酔った俺は、一体どんなことをしでかしてしまったっていうんだよ……!?

「あ~~~~~~……はああああ~~~~~~~~……」

恥ずかしさと申し訳なさと……ほんの僅かな興奮から、俺はどうしようもなくなってその場で横に倒れ込む。
セックスをしないと出られない部屋のふかふかのベッドとは異なり、安宿のベッドは埃っぽい。
こんな汚いところにアイリーンを連れ込んでしまったことは、一生の不覚だ。

と、その時だった。
ベッドに倒れ込んだ拍子に風が起こったのか、サイドテーブルの上に無造作に放り出されていた紙が、ふわりとかすかに揺れた。

「……なんだこれ?」

A4サイズ程度の、白い紙だ。
一見すると何も書いていないように見えるが、窓の外から差し込む明かりに透かされて、裏面に文字があることが分かる。
どうやら文字を書いてある面を下にして、伏せて置いてあるらしい。

昨日クエストに出かける際に宿を後にしたときには、こんなものは無かったはずだ。
ということはこの紙は、それ以降にここに置かれたものである。
俺が何か紙を置いた覚えはないので(置いていたのだとしても、酔って忘れてしまったのかもしれないが)、アイリーンのものだろうか……?

悪いとは思いつつも、俺はその紙の正体を調べるべく、引っ繰り返してみる。
するとその正体は、俺にも見覚えのある書類だった。

それは、冒険者ギルドに提出するための、冒険者パーティー登録届である。
所定の紙面にパーティーメンバーの名前を書くことで、申請すると同一パーティーとしてギルドでのクエストを受注することができるようになる。
俺はこちらの世界の文字が読めないため、ソロとして冒険者登録をする際にギルドのお姉さんにひどく世話になった。
その時の苦労した記憶から、すぐにこの紙面が冒険者パーティー登録届のものであると分かったのである。

その記述欄の一番上にあるのは、読めないけれど俺の名前を示すらしい文字の羅列。
ハル・セガワ。

かつて提出した際には、その文字列1行のみで、ギルドのお姉さんに大いに驚かれた。

しかし今……俺の名前の下に、もうひとつ。
こちらはまったく見慣れない文字列で、名前が追加されているのを見た。

「……陽キャ達のパリピパーティー、解散したって言ってたしな」

アイリーン・スプリングフィールド。

かわいらしい丸文字で、恐らくそう書いてあるのだろう文字列を、俺は指先でそっと静かに撫でたのだった。

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