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第14話 エレナは山を越え、愛を語る

俺たちが拠点にしている始まりの街の名前は、正式には“ラフォールの街”という。
四方を森やダンジョンに囲まれているが、出没するモンスターはよその街に比べるとあまり強くない方であるらしい。

街の周りにはモンスターが侵入することの無いよう、城壁が設けられている。
壁の東西南北にある門から外に出ることができて、冒険者たちは日夜そこで冒険に明け暮れているというわけだ。

俺とアイリーン、そしてエレナの3人は、西側にある門から街の外へと出発したところである。

「ったく。めんどーなことになっちまったなあ」

そう言って溜息をつくエレナは、店にいたときと違って、きちんと冒険者としての装いをしている。
シャツにズボンという格好はそのままだが、金属製のプレートを胸元に装着していた。
長距離を歩くことになるため足下は頑丈なブーツであり、冒険の必需品であるアイテムをまとめた肩掛け鞄を提げている。

それに、店にいたときには座っていたため気付かなかったのだが、こうして横に並ぶと彼女の背の高さにも気付かされた。
彼女の背は俺よりも高く、少しばかり見上げなければならない位置にその顔がある。

しかしそんな些末な変化よりも、ひときわ目を引く特徴が、今のエレナにはあった。
それは、何かというと……。

「あん? オタク。何、見てやがんだよ」
「いや……その、背中に背負ってるやつ……」
「あ? この大斧がどうかしたかよ」

大斧。
そう、大斧である。
街の外へと出かけることが決まったエレナは、その背中に大きな斧を背負って店を出てきたのだ。

鈍色に光る斧の刃は一抱えほどもあり、片側が半円を描くように反っている。
数十キロほどもありそうな刃部分の下には鉄製の柄

が伸びており、その長さはエレナの身長より少し短いくらいだ。
斧全体で一体どれほどの重さなのか、計算するのも恐ろしい見た目だが、当の持ち主本人であるエレナはさほど苦にした様子もない。

アイリーンもごく普通にしていることから、恐らく冒険者だった頃から愛用していた武器だったのだろう。

しかし、斧……斧かあ。

「んだよ。オレの斧に、何か言いたいことでもあるのか?」
「いや、斧とはまた渋いなあと思って」
「渋いって、なにが?」
「ゲームにおいて使用される頻度の高い武器といえば、やはり剣のイメージだろう。しかし斧の登場する作品もまた珍しくなく、その使い勝手はオールマイティーに活躍する剣よりもややクセの強い性能であることが多い。たとえば様々な武器でモンスターを狩るゲーム『モンスターハンティング』には、スラッシュアックスやチャージアックス、アクセルアックスといった武器種が用意されている。そのいずれもがただ斧として振り回すだけでなく、変形して剣になったり、剣と盾が合体して斧になったり、砲撃が可能だったりと、ロマン溢れる多様な機構が魅力的だ。しかしながらいざ使ってみると動作が遅かったりモーションの隙が多かったり、操作面でのシビアさは作中でもトップクラス。もちろん上手い人はめちゃくちゃ上手く使うので、俺も実況動画でよく勉強させてもらったものだ。そういえばゲームとはまた違うけれど、ゲームの世界観が現実世界に侵食してきた中で冒険をするという設定のライトノベル『ソードアート・オフライン』の、エレナと同じくアイテムショップで働いている筋骨隆々なおっさんエギノレの武器も、大仰なバトルアックスだったよな」
「なあアイリ。コイツ長々と何わけわかんねーこと言ってんだ?」
「オタクくん、たまにこうなることがあるんだよー。おもしろいよね!」
「おもしろいか?」
「おもしろいよー! この前もねー、なんかずっとよく分かんないこと喋ってたの!」
「おもしろいか……?」
「おもしろいよ!」

アイリーンとエレナはふたり仲良く並んで、前をどんどん歩いていく。

一方で取り残された俺はというと……

「お、重い……」

重たい荷物を背負って、よたよたと歩いていた。

俺は普段の冒険用の荷物や武器とは別に、さらにもうひとつリュックサックを背負っている。

これから俺たちが向かう隣町“スカイリラの街”は、山をひとつ越えた向こうにある街だそうだ。
そのため徒歩で向かう場合には、山中で1泊する必要がある。
俺が背負っている荷物の中には、その道具が入っているというわけだ。

「おーい、遅せえぞオタク。置いてくぞー」

前を歩いていたエレナが、こちらを振り返って言った。

「お、俺は荷物を持ってるんだから仕方ないだろ。ていうか、なんで俺がひとりで運ばないといけないんだよ……」
「あーん? お前はオレの護衛なんだろ。だったら、護衛対象の荷物くらい、運ぶのは当たり前だろが」
「ごめんねー、オタクくん! 重いよね! ウチが代わりに持とうか!?」
「いや、大丈夫、俺が持つよ。アイリーンに重たいものを持たせるわけにはいかないからな」
「オレの時とはずいぶんと扱いが違げーじゃねえか!?」
「無骨な大斧軽々と背負ってるようなヤツが、アイリーンと同じ扱いをしてもらえると思うなよ!」
「上等だ表出やがれ!」
「ここが表だろ!?」

けんかっ早いエレナが拳を握り締めるのを見て、俺は慌てて彼女に言った。

「おいおいっ。暴力は駄目だぞ! この荷物の中には、肝心のお遣いの品物も入ってるんだからな!」
「っと……そうだったぜ」

俺の言葉に、エレナは不承不承といった様子で両手をおろした。

そう。
俺の背負っている荷物には野営のための道具の他に、もうひとつ。
エレナがママさんから隣町の依頼人の元まで運ぶように言われている、注文の品が入っているのだ。

この品はエレナママからも、「傷付かないよう、丁寧に運んでね」と厳命されている。
桐の箱に収められており、それなりの高級品であると窺えるが、中身は知らされていなかった。

「中身? あー、指輪だってよ」

と思ったら、どうやらエレナは知っていたらしい。

「指輪? なんでまた、アイテム屋で指輪なんか」
「それがなんでも、注文してきたのは若い男らしくてな。恋人へのプロポーズに普通の指輪じゃつまらないってんで色々と探していたところ、ウチで見つけた指輪が気に入ったらしいぜ」
「へえ……じゃあ、その指輪は普通の指輪じゃないってことか?」
「なんでもその指輪には、防御バフ効果のある魔法加工がされてるみたいでな。本来は冒険者がつけるモンなんだけど、結婚した後も夫婦が心身共に健康でありますように……っていう願掛けで、それを婚約指輪にしたいってんだと」
「な、なるほど……」
「ウチは専門業者じゃねえからサイズ直すのにも時間かかっちまったけど、今日ようやく完成して納品できるって話みてえだ」
「それは……ずいぶんとまあ、」
「な。ロマンチックだよな」

うん。そうだな。
ロマンチック……ん?

見てみれば、エレナは両手の平を合わせながら、うっとりとした表情を浮かべている。

「そりゃ結婚指輪を用意してくれるだけで、女は十分嬉しいかもだけどさ。それだけじゃなくてちゃんと付加効果もあるっていうのがまた、乙女心にキュンキュンきちまうよな。だってさ、作ろうと思えば指輪なんて、自分たちの街ででもいくらだって作れるわけじゃん。それを徒歩なら丸1日、馬車でも半日はかかるってえ距離を超えてまで色々探してくれて、自分たちにぴったりだっつー指輪を見つけてきてくれたわけだろ。えっ嘘……私のためにそこまでして、こんな素敵な指輪を? キュン……ってなわけだよな! そんで指輪の内側にはふたりの名前のイニシャルが刻印されてるんだってよ。まさしくふたりのためだけ、この広い世界でふたりだけしか持っていないペアのリングになるわけだ。そしてその指輪はふたりの薬指に嵌められ、未来永劫ふたりに防御バフをかけ続けてくれるわけだ。いや、防御バフっつーのはなんかアレだな。愛。そうだ愛だよな。これからオレたちの届ける指輪は、未来永劫ふたりに愛のバフをかけ続けるわけだ。しかもそれを男の方はサプライズで渡すつもりでいるらしいから、女の方がまだそのことを知らないってわけ。ううー、う、う、羨ましいよなあ。やっぱサプライズサプライズって軽率に言うけれど、真のサプライズはここぞという時、今回みてえなプロポーズの場面にこそあって欲しいもんだよなって何ジロジロ見てんだ殺すぞコラァ!?」
「お前が勝手にべらべら喋りだしたんだろ!?」

エレナは勝手にキレたかと思うと、俺のすねの辺りをゲシゲシ蹴り始めた。
やめろ、こら! いくらすね当てをつけているとはいえ、痛いもんはいたいんだよ!

と、そんなエレナの隣にアイリーンがスススとすり寄ってきたかと思うと、ニマニマとした笑みを浮かべて言った。

「えっへっへ~。エレナは昔っから、そういう恋バナに目が無かったもんね~」
「おいこらアイリ! やめろ! んなことねーから! オレが好きなのは破壊と暴力の話だけだ!」
「も~エレナったら照れちゃって~。いっつもなんの本読んでるのかと思ったら、恋愛小説読んでたとは思わなかったな~」
「クソテメエオタク殺す!!!!!」
「って、なんで俺くんが!?」

とんでもないとばっちりで殴られかけるが、俺が指輪を運んでいるのを思い出したのか、すんでのところで拳は届かなかった。

……この指輪を注文した、若い男性客とやら。
どうやらこの指輪の防御バフ、それなりに効果はあるみたいだぞ。

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