第10話 仲間のためならおっぱい誘惑なんて無駄……? その2 ☆
(あ、危なかった……)
快楽に蕩かされ、危うく人形のように操られるところだった。というより殆ど操られかけていた。
日頃特訓のためにサキュバスへ挑む時は仲間たちに補助をしてもらっているが、改めてそのありがたさが身に染みた。
女性の誘惑に弱く、敵にいいように弄ばれるなんて、僕はなんて情けないのだろうかと、自責の念が湧き上がる。
緊張が解け、反省点ばかりを思い起こしてしまう僕の耳に微かな声が聞こえてきた。
「ん……んぅ……」
ベッドで眠るレナ。
部屋に侵入した時は確かに眼を開いていたが、先ほどの酩酊するような煙で眠ってしまったのだろうか。
(……反省は帰ってからでいい。まずはレナを助けなくては)
意識を切り替え、びしょ濡れの股間も気にせずにベッドの上に近づく。
そして、足首と手首をきつく拘束した縄を、肌を傷つけぬように注意しながら剣で斬る。
最後に優しく口を塞いでいた布を解く。
服が脱がされているため、どうしても目に入ってしまう乳房や白い肌。それを気にしないようにしながら耳元に呼びかける。
「……レナ? 大丈夫?」
「ん……あ……うぅん……」
軽く頬に手を添え名前を呼ぶと、寝起きのような声で彼女が反応する。
そして、自由になった体を少し震わせ、瞼を上下した。
しばらくまばたきを繰り返したのち、トロンとした瞳がはっきりと見えてきた。
「……平気?」
「う……ん? シン……?」
口を動かし、応えたレナ。寝ぼけたようではあるが、別段異常はなさそうだ。
「レナ。遅れてごめん。僕は――」
「――シン! 無事で良かったわ!」
遅れた事や、醜態をさらしてしまったかもしれない事への謝罪をしようとする僕を遮り、ベッドから跳ね起きたレナが裸のまま抱き着いてくる。
むにゅん♡
「レナ……」
淫らな気持ちも感じず。僕はその柔らかさに確かな安堵を覚えていた。
胸板の少し下に触れる乳肉。背中に回された細い腕。
「ねぇ、シン。私怖かったわ。だから――キスしてちょうだい?」
僕を見上げ、瞳を震わせながら囁いたレナ。
こんな風に怯えるなんて、よほど心細かったのだろう。
その気持ちを和らげることが出来るならと、僕は無言で頷き、可愛らしい小さな唇へ顔を近づけた。
「ん……」
瞳を閉じて僕を待ち受けるレナ。唇に触れる直前、僕も同じく目を閉じた。
「……ふふっ♡ ふぅ~♡」
やけに甘い吐息が口と鼻に流れ込む。
そして、唇同士が隙間なく触れ合う。
ちゅっ。
小鳥の啄みのような口づけ。
「んんぅ……レロォ……」
それで、終わると思いきや、レナは舌を僕の口にねじり込んできた。
「レ――んぅ、レナ――ぁぁ――っ?」
しゃべる隙も僕に与えてくれず、舌が口内を舐めまわす。
ちゅぱちゅぱといやらしい水音が脳に直接響いて、そんな気もなかったのに思考が性欲に侵されてしまう。
舌を撫でまわすように、歯茎を優しくなぞるように、歯の一本一本を確かめるように、レナの舌が這い回る。
それと、同時に、
「ん……♡ ふぅ~♡ はぁ~♡」
レナの口から吐息が侵入して、頭がぼうっとする。
いつもしているレナとのキスと大きく違う感覚。その正体も分からずに僕の唇は貪られるようにレナに吸い付かれ続ける。
「ん……ちゅ♡ はぁ~♡ ちゅぱぁ♡ れろぉ♡ ――っぷはぁ……♡」
しばらくキスを続けたレナがやっと口を離すと、互いの唾液が唇同士に橋を架けた。
「あ、あぁ……♡」
再会や互いの無事を喜ぶには卑猥すぎるキス。
僕は何が何だかわからないまま、気持ちよさに流されてしまっていた。
「ねぇ……♡ シン?」
「……うん」
熱の籠った瞳で僕を見つめるレナ。
「ふふっ♡ ……《召喚魔法
サモン
》魅了
チャーム
サキュバス♡」
その顔が、突然見ず知らずの女の子に変わった。
丸みを帯びた愛らしい目。その奥に宝石のような翡翠色の瞳が見える。
「《魔力吸収
マジックドレイン
♡》」
(ま、ずい……)
危険を感じたが、逃げる間もなく女の子の顔は近づき、
ちゅ♡
再び唇が触れ合う。
(あぁ……こ、これ、気持ち……いい……)
先ほどのような激しさの無い口づけだが、体の奥から力が吸い取られるような心地よさ。
サキュバス達が使うドレイン。それも、かなり高位で、僕も味わったことのない強力なドレインだ。
「ん……♡ ……っはぁ……♡」
あっさりと終わったキス。
そして、用済みとばかりに僕の身体は突き飛ばされた。
「――うっ! うぅ……」
尻を絨毯にぶつけ、倒れ込むと目の前の女性の姿がはっきりと見える。
「気分はどうかしら? シ・ン・さ・ま♡」
顔が変わっているだけでなく、そこかしこに大きな変化が見てとれた。
まず真っ黒だった髪が青空のような水色になっており、長さも肩あたりまで短くなっている。
そして、身長が頭ひとつ分程縮んでいた。
幼なげな雰囲気を纏い、気品があるがどこか小生意気に見える未成熟な少女。そんな印象だ。
「ふふっ、人の姿をジロジロと……私の美しさに見惚れているのかしら?」
大きく変わった姿の中、余り変化がない部分がある。
たぷん♡
レナとさして差がない豊満な乳房。
身長に不釣り合いな、その巨大なおっぱいを隠すどころか、目の前の少女はふんぞり返り腕を組んで下から乳房を持ち上げている。
「レ、レナは──みんなはどうした?」
「あはっ。この期に及んでお仲間の心配とは、優しいのか危機感がないのか、どちらかしら♡」
煽るように答えをはぐらかす少女の言葉が、癇に障る。
「──女の子に手荒な真似はしたくないけど、そういう態度ならこちらも手加減できないよ」
脅すように凄んでみたが、彼女は気にも止めずケラケラと笑みを溢すだけだった。
「あははっ。随分と物騒ね? どうぞご自由に──お得意の魔法でも使ってみればいいじゃない? もっとも──」
相手が喋り終える前に、僕は補助魔法を発動させようと意識を向け、そこでようやく体に異常を感じた。
「なっ!?」
「──使えるのならね♡」
魔法が発動しない。
日常的に体を巡る魔力が完全に枯渇していた。
「《魔力吸収
マジックドレイン
♡》をしたのだから、当たり前でしょう? 完全に奪われるとは思っていなかったのかしら? それとも──お猿さんのように私の体に欲情して考えが回らなかった?」
サキュバスのドレインで体力や魔力を奪われた経験は勿論何度もあるが、どんな時であれ完全になくなるなどという事は一度もなかった。
「……ッ!」
互いに武器などない状況だが、こちらの分が悪い。
先程彼女は《召喚魔法
サモン
》と口に出しただけで魔法を発動していた。
かなり珍しい召喚魔法使い。それも、長い詠唱や生贄を必要としない実力。
丸腰で挑むのは余りに危険すぎる。
「随分と臆病なのね? 裸の女の子相手に動くことも出来ないなんて……情けない♡」
女は見えすいた挑発とともに体を揺すり、胸を震わす。
(冷静になれ。考えろ。打開策はあるはずだ……)
チリチリと焦げるような焦燥に急かされながら、視線を室内に巡らす。
そして、目に入ったのはカグヤとの戦いで床に転がした剣。
(ひとまずこれしかないか。なら──)
補助魔法なしの剣術で、どれだけ渡り合えるかはわからないが、これに賭けるしかない。
ニヤついたままその場から動かない女の、まばたきの瞬間──僕は右側に転がる剣へと跳んだ。
視界の端で女の口がパクパクと動くのが見えた。
こちらに見せつけるようにゆっくりと開き、唇を突き出す。女は声に出さずにこう言っていた。
バ〜カ♡
なにか大きな間違いを犯してしまったような不安が芽生えるのと、柄を握り締めたのは同時だった。
手に馴染んだ剣。それを掴んだ瞬間、僕は絶頂していた。
「……え?」
どぴゅっ!
「ざぁ〜こ♡ 《魅了爆弾
チャームボム
》でおかしくなっちゃえ♡」
前兆などなく体に快感が走り、尿道から精液が迸る。
「──あぁぁぁっ? あぅぅっ、な、にゃ、にぃぃ、こへぇぇぇ……♡」
両耳から甘い愛の言葉をねじ込まれるような。
キスを全身で浴びるような。
体中を指で撫で回されるような。
おっぱいで全身を包み込まれるような。
膣内で繰り返しおちんちんを擦られるような。
理解できない感覚が一気に押し寄せ、絶頂が止まらぬまま僕は床にうつ伏せで倒れ込んだ。
「あっ、あぁ♡ いくぅ……♡」
勃起したペニスがお腹と絨毯で押しつぶされ、その刺激でさらに精液が吐き出され、下着を超えて絨毯までも滑る液体で濡らしてしまう。
「くすくす……♡ なっさけなぁい♡」
快楽に困惑しながら痙攣を続けていると、頭上からそんな声が聞こえた。
身体を丸めながら屈みこみ、その豊満な乳房を太腿でひしゃげさせながら、悪魔のような笑みを浮かべる女が僕を見下ろしている。
「にゃ、に……あぁっ♡ ……した、んっ、ぅぅ、にょぉぉ……♡」
「――あは♡ あんた、なに喋ってるのか全然わかんなーい♡ 自分が何で倒れてるのかもわかんないって雑魚過ぎない? ……ざぁこ♡」
その口ぶりからは先ほどまであった丁寧さが完全に消えており、男を舐めて見下し、馬鹿にする意志しか感じ取れない。なのに、
「ふざ……あぁ♡ あんぅ……♡ で、るぅぅ……!」
僕はその嘲笑う声に感じ、見下した瞳で見つめられただけで再び絶頂した。
「――ふふ♡ おっかしい♡ また一人でイっちゃうんだぁ……ほんと、弱い男♡」
打ち上げられた魚のように床を跳ね、僕は精液をまき散らす。
快感で限界を超えて、神経が焼き切れてしまいそうだ。
「もう限界? ねぇ、こんなので限界なの? はぁ~……まったく、カグヤは詰めが甘いのよ」
視界がチカチカと光り、少女の顔が遮られていく。
「あ、そういえばあんたに名乗っていなかったわね。私の名前はアリス。ふふっ♡ ――これからあんたを飼ってあげるご主人様よ♡ ――魔法――シ――ん――」
少女の――アリスの言葉を聞き終えることなく、僕の意識は沈んでいった。
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