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第13話 助けに向かうにはもう遅い その1 ☆

Side・レナ

「──多分、ここだ」

スキル《追跡》をシンの書き置きに使用したニーナが先導し、私達は一軒の大きな、しかしボロボロの家に辿り着いた。

開け放たれた門の先に見える窓には、深夜ということもあってか灯り一つない。

「シンがここに──っ!」

急かす心に耐えきれず、走り出そうと動く私の肩へと掌が伸びて強く掴む。

「──ファナさん!?」

「レナ、落ち着いて。冷静に──なにが待っているのかわからない以上慎重に行きましょう」

柔らかくも確固たる意志を感じる言葉に、冷や水を浴びせられたように血の気が抜け、そこで初めて自分が緊張して筋肉を硬らせていたことに気づいた。

「そう、リラックス。彼を──連れ戻さないといけないんだから。……ね?」

彼女の手が肩から離れて、代わりとばかりに背中をぽんぽんと叩く。
その仕草は魔法のように私の心の焦りを溶かしてくれる。そんな気がした。

「ニーナ索敵……トラップの警戒もね?」

「オッケー、まかされた……っと!」

指示に従ってニーナが辺りをスキルで確認し、小さく頷く。いつもの安全確認が完了したサインだ。

「じゃあ、行きましょう。慎重に──」

「──そう上手くは行きませんよ?」

ファナさんの声を遮ったのは女性の声。
私達三人のどれでもない、静かで冷たい水のような声音。

「──誰!」

そう叫びながら、私達三人は三角形を作るように背中合わせの陣形をとり、辺りを伺った。

「──こちらですよ」

その声は門の向こう、家の外側から届いた。
「どちら様かしら?」

ファナさんが音の鳴る方へとステッキを構え、警戒したまま問いかける。
釣られてそこを見つめると、この瞬間に夜の闇から生まれるように一人の女性が浮かび上がる。

長い黒髪、澄ました表情の美しい女性。
そして、品の感じられない貞淑という言葉からかけ離れた露出度の高いメイド服。

「初めまして、私はカグヤ。そして──さようなら。良い夢を──」

「──《召喚魔法
サモン
》イリュージョンサキュバス。《夢の口づけ
ドリームキス
♡》」

意識の外側から聞こえた耳なれぬ呪文。

「──ダメ、避けて! くっ……《聖なる加護
ホーリープロテクト
》」

ファナさんの言葉が耳に飛び込んだ直後。急にふわふわとした気持ちよさが体にぶつかり、魔力が切れた時のように視界が暗黒に染まった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

Side・レナ

「──ん、うぅ……あれ、ここ──どこ?」

瞼を開くと見慣れぬ天井と壁紙が目に入る。
おかしい。
自分は先程まで……どこにいたのだったか?

少なくとも、こんな綺麗な部屋の中にはいなかった筈だ。

「──レナ?」

そんな疑問を浮かべる中、なによりも私が欲していた声が耳に届いた。
目の前、そこには突然現れたかのようにベッドがあり、その上には全裸のシンがいた。
「──シ、シンっ!」

直前までの疑問や違和感など即座に消え失せ、私は大好きな彼を抱きしめるために飛び込んだ。

「心配、したんだから! もう、もう……!」

喜びと安堵で緩む目元が自分でもわかる。
確かに存在しているシンの体を離さないとばかりに、強く、弱く、キツく抱きしめる。

「心配かけてごめん。もう大丈夫。ずっと一緒だからね」

優しい声を投げかけて、微笑んでくれるシン。
そして、

「大好きだよレナ。君の事が一番大切なんだ。心配かけたお詫びに、なんでも好きなようにしていいんだ。さぁ、思うがまま──シていいんだよ?」

ずっと思い描いていたシンからの愛の告白に、頭が沸騰し理性が溶ける。
「シン♡ シン♡ シン♡ ──んっ、ちゅぅぅ♡ ……好き♡ 好き♡ 大好き♡」

感情が命じるまま、私は服を脱ぎ捨てた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

Side・ニーナ

「こりゃ……なんだ?」

私はやけに淫猥なピンクの光に満ちた部屋にいた。
「あれ? なに──してたんだっけ?」

ガタリと音がした。
視線を向けるとそこには椅子があり、何故か後ろ手に縛られて、勃起したおちんちんを露出させたシンが座っていた。

「シン! お前──」

「ニーナぁ♡ 好きぃ♡ もっと、もっといじめてぇ♡」

子供のような甘えた顔でこちらに媚びるシンに、下腹部が反射的にキュンと疼く。

「お前一体……?」

「だめぇ♡ もう我慢できないよぉ♡ ニーナに気持ちよくして欲しくてぇ──意地悪して欲しくてぇ♡ お願いぃ♡ ──してぇぇ♡」

本能を呼び覚ますおねだり。私の嗜虐心と庇護欲が燃えて頭が満たされる。

「……しょうがねえな♡ たっぷりいじめてやるからな♡」

私は服を脱ぎ捨ててシンへと向き直った。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

Side・ファナ

「はぁ……は……っ? ふ、二人とも何してるの!?」

敵の魔法をなんとか防いだ直後、レナとニーナに視線を向けると、そこには想像だにしない光景が広がっていた。

「シン♡ 好きぃ♡ ほらほら、おっぱいだよ♡ 吸って、舐めて、好きなだけ甘えていいんだよ♡ あぁん、かわいい♡ ずっとおっぱいしててあげるからね♡ ほらお漏らしだよ~♡ ちこちこお漏らしぴゅっっぴゅっしようね~♡」

「おいおい、シン♡ なんだよこの勃起♡ そんなに私にいじめられたいのかよ♡ まだ、おっぱいで挟んだだけなのにこれじゃあ、パイズリしたらどうなっちまうんだよ♡ ……んっ、沢山鳴いてヨガっていいんだぞ♡ ほれほれタプタプ♡ ずりゅずりゅ♡ おねだりした癖にもうイきそうなのかよ♡ まだまだ焦らして気持ちよくしてやるからな♡」

正体もわからぬ敵の前。なのに二人は武装解除し、服を脱ぎ捨てて全裸になり、虚空に向けて体を動かして、我を忘れてうわ言のような言葉を誰かに囁き続けていた。

「二人に……なにをしたの!」

新たに現れた小柄な水色の髪の少女に向かって、私は問いかける。

「あらあら、庶民は礼儀も知らないのかしら? 人にものを尋ねるなら。まずは名乗るのが先ではなくて?」

「ふざけ──ッ!」

「口が過ぎますよ?」

言い返そうとした私を遮り、メイド服の女が珍しい形のナイフでこちらに斬りかかり、ステッキでそれを止めた。

「あははっ! 賢者の割に結構動けるじゃない。まぁ、いいわ。教えてあげる。彼女達は今、私の召喚魔法で夢の世界にいるわ」

召喚魔法。
魔物や精霊を使役し、その力を己がものとして振るう珍しい魔法。
自分の防御魔法が二人に間に合わなかった事に不甲斐なさを感じるが、すぐに思考を切り替えて目の前のメイドへの対応と、打開策を考えることに頭を回す。

「早くしないと彼女たちおかしくなって廃人になっちゃうかもね? ……もっとも、力を増した私の召喚魔法を賢者如きがどうにか出来ると思わないけどね。くすっ」

「ふざけないで──」

「アリス様に、失礼ですよ」

「──くっ!」

少し目を離した隙を狙われ、ナイフが伸びる。
上体を捻って辛うじてかわすも、その刃先が布を捉え肩口を引き裂いた。

「アリスと言ったわね? あなた達の目的は何?」

メイドが告げた名前。恐らく水色の少女のものであろう名を口にし、問いかけた私への返答がわりと言うように彼女は高らかに笑う。

「あははっ! いいわねぇ、その焦った表情。さてさて、目的はなんだと思う? 【白き雷光】の賢者、ニーナさん? くすくす」

質問を質問で返す彼女への苛立ちを感じる間もなくメイドは攻撃を繰り出し、その度、なんとか反応したステッキとナイフがぶつかる金属音が空気へと溶けていく。

「さぁさぁ、どうしました? アリサ様がお尋ねですよ?」

「──チッ。だったら、くぅっ! 答える暇くらいくれてもいいんじゃない!」

ステッキを振りかぶり、ナイフごと女の腕を折る気で攻撃をしたが、容易く避けられ、距離を取るように後方に飛ばれる。
アサシンかなにかか。なんにせよ、戦闘系の職業と真っ向から戦って賢者の私が敵うはずもない。一瞬でも逃げてくれたのなら重畳だ。

「あなた、私たち──いいえ、シンさんを狙ったのね?」

「あらつまらない。噂通り頭が回るようね。良ければ私の下僕として雇ってあげてもいいわよ?」

肩を落としてふざけたことを宣う少女に殺意を覚える。身なりや口調からして恐らく貴族だろう。こういう庶民を見下した態度の人間がいるから貴族は嫌いだ。

「どんな手を使ったか知らないけど、彼がこの状況を知ればあなたみたいな子供……!」

自分でも情けなくなる負け惜しみだが、彼が──シンさんさえここに来てくれればすぐにでも形勢逆転できる。
僅かに垂らされた希望の糸を掴む心地で言った台詞だった。
しかし、

「ふふ……くふふ、あは……あはははっ!」

「ア、アリス様、さすがに……ふふっ……失礼ですよ……ふふふっ」

二人の女性は隠すことなく、こちらを嘲笑う。

「なにが――おかしいのかしら?」

「いやはや、これは失礼。あまりにもおかしなことを言うものですからつい。くすっ」

メイドの視線は完全に私を――私たちを見下し、憐れむそれだった。

「あははっ! ……はぁ……ふふっ。カグヤ、そんな回りくどく言っても仕方ないでしょう? ちゃんと教えてあげなくちゃ。――あいつは助けに来ないってね! あはははっ!」

敵の余裕の口ぶり。この近くにいる彼がどんな状態かはわからない。捕まっているかもしれない。傷ついているかもしれない。けれど、シンさんほどの実力があればきっと窮地を脱してここに辿り着いてくれる。
「……彼は……来るわ!」

強く言い放つ言葉はアリスの笑みを深めるだけで、何一つ響いていないように感じた。

「そう、じゃあその言葉通りにしてあげましょうか――」

そう言いながら、もったいぶった仕草で彼女はパチンと指を鳴らす。
するとその背後、屋敷の扉がゆっくり開く。
新手を想像し背筋に走った冷たい緊張は、すぐに心強い熱へと変わった。

「シンさん! よかっ――」

探し人その人が、一見異常もなく歩いてくる。
安堵のままその姿に呼びかけたが、

「――シン。カグヤにも補助魔法をかけなさい」

それは馴れ馴れしく彼に話しかける少女の声にかき消された。
何を言っているのか。

「はい、アリス様♡」

そして彼は何故魔法を使っているのか。

「さすがシン様の魔法です。力が漲りますね」

わからない。わからない。わからない。まさか、そんな――

「さて、と……」

アリスがおもむろにシンの横に近づき、背丈に似合わぬ大きな胸を彼の右腕へと押し当てるように抱き着いた。

「あなたの望み通り、シンはここに来たわ」

女を振り払おうともせずに棒立ちのままのシン。

「私たちを助けるためにね♪ シン……そうよね?」

「はい。アリス様♡」

今立っている地面が崩壊して、底まで落ちていくような絶望感が私を覆い尽くした。

──彼が私達を見捨てるなんて。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

アリス様に呼ばれ、屋敷から出た僕の目に映ったのは五人の女性の姿。
愛しい仲間である、アリス様とカグヤさん。
その先には虚空へとうわ言を繰り返す、僕を裏切って見捨てたレナとニーナ。
そして、僕の顔を見るや否や、目を見開いて驚きを隠そうともしない見知らぬ女性。所々裂かれたボロボロの衣装だが、服装からして賢者だろうか?
「──っ! シンさん逃げて! その人は敵よ!」

賢者の女性が僕に向かって、必死な形相で意味の分からないことを叫んでくる。

「……だそうよ? シン、私とカグヤは敵なの?」

「アリス様とカグヤさんは僕の大切な、パーティーメンバーです」

僕の当然の返答を聞いた女性は、ナイフを突き立てられたように苦しげな表情を作った。

「シ、シンさんに──何をしたのよぉぉっ!」

そして、怒りに身を任せるといった表現がピッタリな勢いで、握りしめたステッキを持ち上げ、アリス様へと殴りかかってくる。
「シン」

「はい、アリス様」

言われるまでもなく剣を抜いた僕は、彼女のステッキをなんなく受け止める。
軽い。……余りにも軽い威力だった。

「シンさん、どいて──」

「馴れ馴れしいです。……はぁッ!」

言葉を最後まで聞く必要を感じられず、剣を振り、女性を吹き飛ばす。
「きゃっ! ──ど、どうして? 私よ……ファナよ?」

地面に尻餅をついた女性は、捨てられた犬のような声をあげた。

「ふふふっ、惨めねぇ。シン……この女のこと知ってる?」

「いいえ、知りません」

「あは、はははっ! そう、そうよね。 ──ということよ。ファナさん?」

楽しそうに笑うアリス様と悔しげに口を結ぶファナと呼ばれた女。アリス様が笑っていることにどうしようもなく喜びを感じる。

「う、くぅ」

ステッキを支えに立ち上がった女を見て、嗜虐的な笑みを深めたアリス様が言葉を続けていく。

「愉快……あぁ、愉快ねぇ。……そうだわ──イイコト思いついた。シン。あんたがこの女を仕留めなさい。出来るわね?」

その言葉に、

「かしこまりました。アリス様」

迷うことなく従い、僕は剣を振りかぶる。

「──や、やめ──正気に戻って! きゃっ!」

シスター服を風にはためかせながら攻撃を避ける女。補助魔法を自身にかけた僕の剣技を躱せるとは、随分と実力があるのだろう。
「いい見せ物じゃない。シン! ……すぐにトドメを刺ささずに、ゆっくりじっくりいたぶってやりなさい。《命令》よ♡ ふふ」

命令が耳から脳に侵入し、頭を甘い快楽で満たす。
なんでもする。アリス様のためなら命すらいらない。そんな幸せな感情のまま僕は剣を握り、補助魔法の効果を強くする。

「はひぃ♡ アリス様ぁ♡」

「──っ! その反応、まさか洗の──くっ!」

シスター服の長いスカートを狙い、切り裂く。
そのままの勢いで剣を振るい、袖を、お腹を、胸元を辱めるためだけに斬る。

「澄ました顔した女が恥辱の表情に歪む様はいいわね! ふふっ、シン。もっとよ。裸にひん剥いてやりなさい。《め・い・れ・い♡》」

「仰せのままにぃ、アリス様ぁ♡」

体に、ビクビクと射精するような絶頂感が走り、命令のまま、捕らえた獲物をいたぶるが如く攻撃を繰り返す。
下半身、上半身、破れた隙間から覗く下着。
女の肉には傷をつけず、正確に布だけを切り裂く。
そういったショーを演じているかのように、僕は黙々と剣を振り続けた。
気づけいた時には、女は貞淑なシスター服の多くの布を失い、男を誘う下劣な娼婦じみた格好へと変化している。

「賢者ともあろう女が、いい格好ね! さて、次はどんな風にしてあげましょうか……くすくす」

考えを巡らせるアリス様の声が心地良く、いつまでも聞いていたい。そう思った時に違和感が襲ってきた。

『──シンさぁん♡』
『──いじわるしないでぇ♡』

甘い、蕩けるような美しい声が両方の耳で鳴る。慌てて首を左右に動かして警戒するもそこには誰もいない。

「シン様。どうかされましたか?」

「いえ……なんでも、ありません」

戦い── 一方的な蹂躙を眺めていたカグヤさんからの問いかけに首を振りながら答え、目の前の標的に再び目を向ける。

破れた服、そこから見える白い肌。先程までは気にもならなかった豊満な体がはっきりと見える。

『シンさぁん♡ そのまま聞いててね?』
『私のスキル《スイートボイス》に耳をすませて? お願い♡』

女の口は動いていないのに、声だけが耳に届く。その、どこか懐かしい感覚が心臓をトクンと跳ねさせた。

『ほら、この服の布もっと破いてみたいでしょ♡』
『その先のおっぱい♡ お尻♡ 生足♡』
『しっかり見たいなら剣振っちゃお♡』

大きな胸。アリス様やカグヤさんより大きな胸が呼吸とともに揺れる。
破れてはだけた姿を隠すようでありながら、どこか淫猥に見せつけるように乳房をふにふにとひしゃげさせていた。

『お願い♡ もっとぉ♡』

剣を振るう。

「いやっ!」

服が新たに裂ける音とともに、恐怖を感じさせる悲鳴が彼女の口から飛び出す。
それと同時に、

『いやぁん♡ だめぇ♡』
『おっぱい見えちゃうよぉ♡ もっとぉ♡ きてぇ♡』

媚びた声が耳で木霊する。
頭がぼーっとするような気持ち良さを感じ、再び剣が彼女に伸びた。

「──くぅっ! ──っ! ──あぁっ!」

体を回転させて逃げ惑う情けない姿。
けれど、それは欲情を誘い男を惑わすための踊りのようにも見えた。

『こっちこっち♡ 足も見たいでしょ♡』
『お尻もふるふるだよぉ♡』
「綺麗なお腹は嫌いかなぁ♡』
『お股の先も気になっちゃうねぇ♡』

体を──卑猥で淫らな肉を見せつけるような動き。そして、そこへと無理やり意識を向けさせる魅力的な声。

「あははっ! いいわ、シン。もっとやりなさい!」

『それじゃあご主人様の言う通りに……♡』
『もっといけないことしてね♡』
『『お・ね・が・い♡』』

アリス様に言われるまでもなかった。

「きゃっ! やめ──シンさ──あぁっ!」

その胸の中心、谷間を露出させるように剣が縦に落ち、服の真ん中が裂けて、巨大な乳房が外に飛び出してしまう。
真っ白な山。それは何かを誘い込むようにふにゅふにゅと揺れている。

『やぁん♡ おっぱい溢れちゃう♡ もっと見てぇ♡』
『このおっぱいとっても大っきくて気持ちいいんだよ♡』
『たぷん♡ふにゅん♡ぷるん♡男の子を惑わす、わるぅいおっぱい……♡』

身じろぎとともに激しく上下左右に揺れる乳房。いつしか僕の視線はそこへと釘付けになっていた。
補助魔法の効果で視力が上昇し、細部や小さな動きまで見えてしまう今、普通に見ても魅力的であろうそのおっぱいが、僕の瞳にはより艶かしくはっきりと写っている。

『ねーぇ? ご主人様にバレないように触ってみよっか♡』
『ちょっと転んだフリして頭からおっぱいにむにゅ♡』
『一度だけ♡ ちょっと失敗しておっぱいにぱふぱふ〜って埋まるだけ♡』
『一回だけならご主人様もきっと怒らない♡』
『だからシンさん……♡』

思考を挟む余地もなく脳内が淫らな言葉で埋め尽くされ、おっぱいへの渇望が湧き上がり止まらない。
おっぱい触りたい。
おっぱい揉みたい。
おっぱいにぱふぱふされたい♡
一回。一回だけ。これは仕方ないことなんだ。ちょっと転んでしまうだけ。

『『……お・ね・が・い♡ おっぱいに……おいでぇ♡』』

足先が小石にぶつかった気がした。
普段ならなんともないそれに足を持っていかれてしまう。
剣士として鍛えた足腰がなぜか今に限ってバランスを崩す。
あぁ、まずい。転ぶ。転んでしまう。
敵の女の前で危険だが、仕方ない。すぐに体勢を立て直そう。
そう、仕方ない。
――お願いまでされているのだから――仕方ない♡

ぱふぅん♡ むぅぅにゅ♡

「あんっ♡」

むぎゅむぎゅむぎゅ♡

甘い喘ぎが頭上から響くと同時に、

『いらっしゃい♡』
『やっぱりおっぱいの誘惑に負けちゃったねぇ♡』
『私の――”元”踊り子の魅惑のおっぱい♡』
『男も魔物も惑わす……シンさんが何回も気持ちよくさせられた……♡』
『洗脳された状態のお馬鹿な頭じゃ罠だと気づかないね♡』
『洗脳されてなくてもシンさんならひっかかるだろうけど♡』
『おっきくて♡ 柔らかくて♡ 気持ちよすぎてトロトロになっちゃう♡ おっぱい♡』
『一回味わったらもう逃げきれないおっぱい天国♡』
『溺れちゃおうね♡ ほらほら~♡』
『『『『『ぱぁ・ふぅ・ぱぁ・ふぅ♡』』』』』

沢山の声が僕の脳内を埋め尽くすように響き渡る。

顔が耳の後ろまで谷間に埋もれる。

ぱふん♡ むにゅん♡

柔らかさと弾力が顔を包み、一気に体を脱力させていく。

ふにゅにゅん♡ ぷにゅん♡

心地いい快楽が頭を満たし、指先一つも動かすことが出来ない。

ぎゅむむ♡ ぱっふん♡
「ちょ、ちょっとあんた何やって――」

遠く。遥か遠くから誰かの怒りのような声が聞こえた気がしたが、そんなことは今どうでも良かった。
このおっぱいにもっと甘えたい。溺れたい。蕩かされたい。気持ちよくされたい。他の全てを投げ捨ててでもこの体に縋りついていたい。
その気持ちを表現するかのように、頭が勝手におっぱいへと頬ずりするようにぐりぐりと小刻みに動く。

「――ふふっ、チャームキス♡ ん~ちゅっ♡」

夢中になっておっぱいを味わっていると、突然、魔力に――快感に包まれるような気持ちよさが頭を駆け抜ける。

『大好きなチャームキス♡』
『これであなたは私にメロメロ♡』
『好き♡ 好き♡ ファナさん好き♡』
『ご主人様や仲間なんてどうでもいい♡』
『私のこのおっぱい♡ 私の声♡ それに従いたい♡』

脳天から生まれたビリビリとした心地良さ。それが背筋を震わせ、胸、腕、股間、足先までへと届き、神経から肌まで愛撫していく。
好き♡
敵だけど好き♡
もっと、気持ち良くなりたい♡
──ファナ……さん♡ 好きぃ♡

性欲とは違う、胸が疼くような幸福感がどんどん満ちていく。

「シンさぁん♡ おっぱい、とっても気持ち良くて好きだよね♡ ──大好きな私の言うこと聞いてほしいなぁ♡ ──今使ってる補助魔法、全部解除して? お・ね・が・い♡」

むにゅむにゅ♡ ぱふん♡

「ふがぁ……ふぁい……♡」

甘いおねだり。
それに対抗する事もなく、僕は全ての魔法を言われるがまま解除した。
するとさらに体が脱力して、より一層おっぱいの感触が伝わり、快楽とファナさんへの好意が溢れんばかりに広がる。

「アリス様! 魔法が!?」

「シ、シン! 命令──」

「──《聖回復
ホーリーヒール
!》 レナ、ニーナ、起きなさい!」

おっぱいに埋まり、甘えてるだけの僕の周囲がやけに騒がしい。

ぱふん♡ むにゅん♡

『言うこと聞けて偉いね♡ ご褒美おっぱいだよ♡」
『周りのことなんてどうでもいい♡』
『大好きな私のおっぱいのことだけ考えて♡』
『ほら、好ーき♡ 好き好き♡ だーい好き♡』

けれど、それに意識を割く余裕などなく、この柔らかさと快感、耳をくすぐる声を追いかけることで手一杯だった。

「うぅん……」
「くっ……いったいなんだってんだ?」

「《聖なる加護
ホーリープロテクト
!》 二人とも寝ぼけてないで! 敵は二人、レナは水色の女、ニーナはメイドを!」

ふにゅん♡ ぱふん♡

緊張感のある声が頭上から聞こえる。
そんな状況から守るように、ファナさんの腕が後頭部に回され、優しく包み、さらにおっぱいへと僕を押し込んで行く。

「うぅん……はっ! シン!? ──わかった、あの子を倒す!」

「な、なんかわかんないけど、メイドだな!? ──おおっ!」

「そんな!? ……幻影と洗脳を簡単に解除するなんて!」

「アリス様! 下がってください!」
戦う女性達の声。
その気配にどこか懐かしい物を感じる。

『シンさぁん♡ 私達を助けて?』
『今戦ってるレナとニーナ……二人に補助魔法かけてあげて欲しいなぁ♡』
『やってくれたら、もっと気持ちいいことしてあげよっかなぁ♡』

アリス様……カグヤさん……ファナさん♡
ファナさん♡ ファナさん♡ ファナさん♡

「さぁ、シンさん♡ お願い♡ ちゅっ♡」

魔法が発動して、ファナさんのお願い通り補助魔法がレナとニーナの心身を強化していく。

「これシンの──いける! やぁぁっ!」
「おらぁっ!」

「そ、そんなぁっ!」
「アリス様ぁっ! しまっ──きゃぁぁっ!」

数分も経たずに喧騒は収まっていった。

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