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第14話 助けに向かうにはもう遅い その2 ☆

ふわふわ。ふにふに。

騒ぎが聞こえなくなってからも、僕はしばらくの間おっぱいの中を揺蕩い続けていた。

「シンさん? 《聖回復
ホーリーヒール
》……平気?」

回復魔法の暖かな光が体に満ちていく。
頭が研ぎ澄まされて目覚めていくような感覚。しかし、どこかグルグルと混乱しているような心地で思考が上手く回らない。

「うぅ……ファナさん好きぃ♡ アリス様ぁ♡ カグヤさん♡ 好きぃ……僕、僕はぁ……♡」

顔を上げられ、ファナさんの青い瞳と目が交差する。

彼女は敵。
愛しい人。
仲間。

頭に断片的な言葉が浮かんでは消え、次第に視界すらもグルグル回ってくようだ。

「念入りね……仕方ないわ。レナ、ニーナ。悪いけどそこで気絶してる二人、見張っていてね? 私はシンさんの洗脳を解除するわ」

「う、うん。わかった!」
「頼んだぜ、ファナ」

「──それじゃあシンさん? 服、失礼するわね」

ボケッとしたこちらの反応を待つことなく、少し離れたファナさんが僕の装備を丁寧に脱がし、ズボンを下ろしてくる。
そして、僕がボロボロに切り刻んだ自身の服を破り捨てるように剥ぎ取り、その豊満な体を完全に露出させる。
拘束から完全に解放されたツンと尖った乳首が、風に吹かれてふるふると揺れる。

「洗脳されてても……私のおっぱい見たらすぐに先走りでダラダラね♡ くすくす♡」

気づかぬ間に痛いほど勃起していたペニスを指摘され、笑われる。そんなやりとりに羞恥を感じ、どいうわけか懐かしさすら覚えていた。

「時間もないから手っ取り早くいくわ。おっぱいでおちんちん……むにゅん♡」

にゅぷん♡ ぎゅむ♡

「あっ、ふぁ……あぁ……」

心の準備をする暇もなく、ゆっくり落とされたおっぱい。
先走りの滑りを纏い、にゅぷぷと谷間の奥へと入り込んでいくおちんちん。亀頭、カリ首、竿を順番に乳肉で包まれ、温かさとこそばゆくもある気持ち良さを覚える。

「解放……してあげますからね♡ 《聖回復
ホーリーヒール
♡》」

快楽を伴う乳肉の温かさとは別種の、癒しを与えるような暖かさが体とペニスを包む。
「動かします♡ おっぱい……にゅぷ♡」

ぱちゅん♡ ずりゅ♡

撫でるように股間を上下するおっぱい。
それは快楽と同時に体をくすぐり、意識を書き換えられるような心地よさを含んだ奉仕だった。

「《聖回復♡》……おっぱいの柔らかさで楽になってください♡ 《聖回復♡》……おちんちんに溜まった性欲といっしょに悪いものもぜーんぶ吐き出して♡ 《聖回復♡》……だんだん本当のシンさんを思い出す♡ 私達のおっぱいが大好きで、私達に溺れて、私達と一緒に戦ってきた自分の姿を♡」

包容力の塊のようなおっぱいの扱きと、繰り返される魔法。日頃感じる射精感とは異なるゆりかごで眠気に誘われるようなゆるやかな快楽。

たぷん♡

「そのまま脱力♡」

ふにゅん♡

「私に任せれば全部元通り♡」

むぎゅぎゆ♡

「大好き♡ おっぱい大好き♡ あなたはこの快感を覚えてる♡」

淫らでありながら優しい聖母のような包容。
子守唄のようなその言葉が脳に浸透して、靄がかかっていた頭にいくつもの映像が浮かび上がる。

たぷたぷ♡

「一人だったあなたをおっぱいで連れ出したのは私♡」

宿で踊り子の衣装を着たファナさんに誘惑されて、味わったことのない快楽を教えられたこと。

むにゅむにゆ♡

「頑ななあなたの心を、おっぱいみたいに柔らかくトロトロにしてくれたのはレナとニーナ♡」

レナとニーナに挟まれ、乳房を押し当てられながら乳首責めをされたこと。

ずちゅん♡ ぱちゅん♡

「何度も何度も私達三人のおっぱいに負けて♡ 特訓して♡ それでも勝てなくて♡ 繰り返す度にどんどん弱くなって♡ 好きになって♡ もうこれなしでは生きていけなくなって……♡  ──《聖回復♡》 ふふっ♡」

事あるごとにおっぱいで搾り尽くされた日々。
難しいクエストで活躍した日の、ご褒美ぱふぱふ。
女性の魔物に翻弄されて足を引っ張った日の、お仕置き寸止めパイズリ。
何もない日の、からかうようなおっぱい誘惑。
難題を無理やり納得させられた日の、おねだり乳首合わせ。

様々な映像。この身に確かに起こった経験が走馬灯のように巡る。

「ぅぅっ、ぼ、僕は……あひぃ♡」

ぱふぱふ♡ むぎゅ♡ にゅぷにゅぷ♡ たっぷん♡ ぎゅぎゅぎゅ♡

穏やかな波から荒れた海のように、こちらを飲み込まんと勢いを増すパイズリ。
股間に溜まった快感が今か今かとその時を──ファナさんのあの言葉を待ち侘びる。

「《聖回復♡》 おっぱいぎゅー♡ さぁ、思い出して? 心の奥底まで誘惑されつくしたおっぱい♡ 《聖回復♡》 ……ぜーんぶ、スッキリして? お・ね・が・い♡ ──イけ♡」

ずりゅずりゅ♡ ずっぷずっぷ♡ たぷぷん♡

「──ファ、ファナさんぅぅっ! イっちゃいますぅぅぅっ!」

どぴゅどぴゅ! びゅるるる! ぴゅっぴゅっ!

汚れが、悪いものが、全てが体から放たれるような絶頂。

「──まだまだ♡ 全部、ぜーんぶ出し切って♡ おっぱいむぎゅ♡ おちんちんずりずり♡ さぁ、あなたはだぁれ? 絶頂しながら私に──大好きなおっぱいに教えてぇ♡ おねがい♡ ……イけ♡」

たっぷん♡ どぴゅぴゆ!
ふにゅにゅん♡ ぷっぴゅっ!
ずにゅぎゅぅ♡ ぴゅるるるるっ!

「ぼ、僕はぁぁっ♡ 【白き雷光】のぉ♡ 魔法剣士シンですぅぅ♡ ファナさん♡ レナ♡ ニーナ♡ ……みんなだけが仲間ぁ♡ もっとぉ……もっとおっぱいしてぇぇっ♡」

「いつもみたいなおねだりできて偉いわね♡ じゃあ、ちゃんと思い出せたご褒美に──ずっとイっていいわ♡ おっぱい、たぷたぷたぷ〜♡」

ふにゅん♡ ぴゅっ! たぷ♡ ぴゅぴゅっ!

「イくぅっ♡ イきますぅっ♡ ファナさんのおっぱいでずっとイくぅぅぅっ♡」

夥しい快楽とともにこれまでの全てを思い出し、僕はそのまま何度も何度も絶頂し、ひたすらに懐かしいおっぱいの感触を刷り込まれ続けた。
視界が明滅し、心地良く意識を失うまで。

ぱふん♡

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「──う、うぅぅ。……っは! み、みんな! ──ふにゃっ」

目を覚ました瞬間、大事な仲間──レナ、ニーナ、ファナさんの身を案じて勢いよく持ち上げた上体。
その顔が柔らかいものに包まれた。

「あっ! シン、起きた。良かったぁ……もう! 心配したんだからね!」

左側には泣き笑いの表情をしたレナ。

「ったく……お前ってやつは……まぁ無事で良かったな」

右側にはやれやれとぶっきらぼうなあきれ顔だが、どこか優しさのこもった笑みを感じさせるニーナ。

僕はベッドに寝かされ、何故か二人の膝を枕にして眠らされていたようだ。

「ふがぁ♡ ふ、二人ともごめん。ところでアリスさ──アリス達はどうなったの?」

洗脳の効果が残っているのか、思わずアリスに様をつけて呼ぼうとして慌てて言い直す。
とにもかくにも状況を把握せねば。
危険はもうないのだろうか?

「うん、大丈夫。あの二人なら隣の部屋。今はファナが魔法で拘束して監視してる」
「シンも目覚めたこったし、あいつらにはケジメつけさせねぇとなぁ」

未だ瞳を潤ませているレナと、対照的に荒くれ者のように声を震わすニーナ。

「そっか──うん、とりあえず起きるよ。よいしょっと……」

名残惜しさを感じながら二人の膝とベッドから起き上がる。他の事に気を取られていて気づかなかったが、ここは先ほどまで戦いが繰り広げられていた屋敷、その室内のようだ。
最後の記憶ではファナさんのおっぱいにイかされまくっていたが、下着などに不快感などはない。恐らく眠っている間に綺麗にしてくれたのだろう。

「シン、起きて大丈夫?」
「休んでていいんだぞ? 無理すんな」

僕を気遣う二人に首肯で答えて立ち上がる。こちらの意志を感じたのかレナもニーナも止めようとはしなかった。
そして、隣の部屋に向かう前、ベッドに座る二人へと向き直り、深く頭を下げる。

「……改めてだけど、心配かけてごめん。それと結果的にみんなを裏切ってしまった償いは絶対に――」

許されることではない。今すぐ追放されてもおかしくない。
そんな気持ちで吐き出した言葉だったが、

「いいの」
「それ以上言うなよ?」

二人は慈しみの籠った声でそれを止めた。

「あのね? 前に私たちがシンを追い出したこともあったんだし、お互い様だよ」
「あぁ。それに、お前が女に弱いことなんて百も承知だしな。次に洗脳されたら、今度は私がぶん殴って引き戻してやるよ」

慰め、からかい。そのどちらもが僕への信頼と愛情を感じさせる温もりを持っていた。

「……ありがとう。そ、それじゃあファナさんの様子を見に行こうか」
「うん!」
「おう!」

大切な仲間、それを取り戻せた嬉しさに潤む瞳を見られないように、僕は背を向けて部屋を移動する。
沢山情けない姿を晒して今更涙程度で何を恥ずかしがっているのかと、自分でも少しおかしかった。

「……ファナさん? 平気」
「シンさん――目覚めたのですね。本当に……良かった」

隣の部屋に入るとファナさんが椅子に座り、後ろ手にロープで拘束して床に座らせたアリスとカグヤを監視している。
二人は魔力妨害の魔法陣の中に包まれており、あの中なら厄介な魔法は使えないだろう。
「その、今回は僕のせいで……」

ファナさんはボロボロになったシスター服を脱ぎ捨てて、そこらにある布を巻き付け、ほんの少し体の大事な部分を隠しただけの状態だった。
僕の剣が彼女をこんな目に合わせた。それを思うとレナとニーナに対峙していた時以上の罪悪感に襲われる。

「……本当にごめん」

二人にしたのと同じように頭を下げる。

「――えぇ、まったくです」

頭上からはどこか冷たい声が降ってきて、やはり許されないかと心が暗く沈み込んでしまう。
これも自分が犯した罪。どんな罰でも受け入れよう。怯える心を無理やり抑え込み、体を強張らせた。

「罰として――」

頭が細い指先で掴まれる。
殴られる?
叩かれる?
それとももっと――

ふにゅん♡

「――帰ったらお仕置きの特訓です♡」

「へ……? あ、ふぁ……♡」

想像したどれとも違い、頭をゆっくり引き上げられて、その露出された胸へと引き寄せられる。
慣れ親しんだ香りに包まれ、緊張と恐怖がほぐれ、涙が出そうなほどの安心感が胸に溜まった。

「あー! ファナさんズルい!」
「まーた独り占めかよ!」

ファナさんを咎めながらもどこか楽し気な二人の声。
――ほんの少しの時間、すれ違い、離れていただけなのに……ようやく戻ってきた。そんな実感が湧き上がる。

「ファ、ファナさんぅ……むぐぅ♡」
「おかえりなさい。シンさん♡ それでは――」

そう言いながら、彼女は僕の頭をその豊満な胸から引き離す。

「――この二人をどうするかですね」

僕に向けていた優しさを全て消し去ったかのように冷徹な声音を発しながら、アリスとカグヤに向き直る。

「……困ったことに、捕まえてから殆ど話してくれないんですよ。さてさて、どうしたものやら。――拷問でもしてみますか?」

表情だけは笑いながら恐ろしいことを口にするファナさんに対して、まったく動揺せずに取り繕った顔を崩さないままのカグヤと、僅かに体を震わせて歯を食いしばるアリス。

「……僕が話を聞いてもいいかな?」
「構いませんけど……魔法は使えないはずですが、くれぐれもご用心してくださいね?」

気づけば僕はそう口にして、腰を屈めて二人に目線を合わせていた。

「……二人とも、なんでこんなことしたのかな?」

威圧感を出さないよう優しく問いかけてみたが、

「……フンっ!」

アリスはいじけた子供のように鼻を鳴らして顔を背ける。
それならばとカグヤのほうに目を向ける。

「シン様ぁ♡」

すると彼女は突然表情をふにゃりと歪めて、男に媚びるような声音を出し、上目づかいで僕を見つめる。

「誤解なんですぅ♡ 私たちは悪意があったわけではなくてぇ、ただシン様を気持ちよくしてあげたかっただけなんですよぉ♡ あの快楽覚えておりますよね? 私とアリス様のおっぱい♡」

拘束されたままモジモジと体を動かして、メイド服からこぼれそうな乳房を揺すり、僕に見せつける。
魔力に由来しないふんわりとした甘い香りが空気に乗って僕の鼻を突き、その魅力的な姿に視線が少し引き寄せられる。

「だ・か・ら♡ ねぇ、また楽しいことしましょ? 私の身体好きにしていいですからぁ♡ シン様ぁ♡」

明らかな色仕掛け。
男なら乗せられてしまいそうになる甘い罠。
それでも、

「お前! この期に及んで――」
「――ニーナ。平気だよ」

少なくとも仲間を傷つけてしまった今の僕は惑わされない。

「無駄ですよ」
「――ふぅ……やれやれ。……また振られてしまいましたか」

あっさりと引き下がるカグヤさんはそれきり黙り込む。

「アリス。教えてくれないかな?」
「あ、あんたに呼び捨てにされるいわれはないわ!」

再びアリスに向き直ると、下僕として扱っていた僕に呼び捨てされたことに顔を真っ赤にして怒り、またもそっぽを向いてしまう。

「そっか……じゃあ仕方ないね――」

言うが早いか、僕は剣を抜き、アリスの体目掛けて縦に振るった。

「アリス様!」

カグヤの悲鳴が聞こえ、それを合図にするようにアリスのドレスが細切れに床へと落ちた。

「――ん? え? ……きゃぁぁっ! あんた、なにすんのよ!」

遅れて自分の姿に気づいた彼女は怒りとは別の感情で顔を赤くし、睨むように僕を見据える。

「シン様、あなた――」

「――悪いけど」

カグヤの声を遮り、自分でも珍しいくらいに低く怒りの込められた声が喉を伝い部屋に響く。

「仲間を傷つけさせられて、僕も怒っているんだ。拷問――かどうかはわからないけど、まともな体でいられるかの保証はないからね?」

自分でも驚くほど冷たい言葉。
そして、間髪入れずに剣を振り上げる。

「――腕」

その場の誰もが息を呑む気配を感じ、振り下ろ――

「――どうか! アリス様だけは!」

――そうとした時、アリスに覆いかぶさるようにカグヤが横から飛び出し、手を止める。

「私がその罰を受けます! シン様のためになんでもいたします! 殺しても、慰み者にしても構いません! どうか、どうか……アリス様だけはぁ……うぅ……」

獣からわが子を守る母親のように、こちらに背を向けて懇願の言葉を続けるメイド。
落ち着いた表情と妖艶な声。そんな彼女を脱ぎ捨ててしまったかのように、ただただ小さな女性の姿がそこにあった。

「お願い……します。私をいかようにも……」

「そうですか、では――」

背中が露わになったメイド服。大きく開かれて見える白い肌にゆっくり刃を向ける。

「――い、言うわ」

あと少し力を入れれば肌から血がにじむだろう時に、か細い声が聞こえた。

「……なに?」
「理由を話すわ! だから、お願いカグヤに酷いことしないで! ……くだ……さい……」

高貴なお嬢様も、か弱い少女へと変貌した。

カグヤの背中に剣を向けたまま、聞いた話をまとめるとこうだ。
アリスはとある貴族の妾の子だったらしい。

らしいというのも彼女は母親の顔も知らず、その知識は全て父親に聞いたものだ。

不幸なことに、アリスの母親は彼女を出産した直後にこの世を去ったらしい。
しかし、不幸中の幸いか貴族と本妻は子供に恵まれず、辛うじて父親と血がつながっているアリスを迎え、育てる事に決めた。
本妻も血のつながらないアリスを実の娘のように可愛がり、聡明で可愛らしい少しやんちゃな彼女は沢山の愛に囲まれすくすくと成長したという。

カグヤは自身も幼い頃からずっとアリスに仕え続けた専属のメイド……姉のような存在とのことだ。

彼女が十六歳になった今年、大きな転機が訪れた。――それも悪い意味で。
実の母親同然に愛を注いでくれた本妻が亡くなったのだ。
顔も碌に見たことのない実母、そして育ての母。
二人の母を失った彼女の悲しみは深かった。
けれど、悲劇はそこで終わらない。

本妻を深く愛していたはずの父が、妻を亡くした直後だと言うのに後妻を迎え入れたのだ。
美しく、まるで同じ人間とは思えないような美貌の女性だったらしい。

そんな彼女が屋敷に住み着いてから全ての歯車は狂いだす。
女のメイドは何とか引き留めたカグヤを残して全員追い出され、男の執事や使用人たちは気づけばやつれ、一人、また一人と消えていく。
そして精悍な顔つきの父は日に日に下卑た表情を浮かべて、後妻のご機嫌取りに腐心するようになる。

手入れが行き届いた屋敷も少しずつ荒れていった。
真綿で首を締められるようなゆるやかな退廃の日々の中、ついに恐れていたことが起きる。
数カ月前までは元気に働いていた父が体調不良で寝込み、死んだ。医者によれば老衰だという。
そしてそれを契機と捉えたのか、後妻は消えた。

置き土産のように残されていたのは負の遺産。

聞いたこともない名前の貴族の負債の借用書。
父が手を染めたとは信じられない悪事の証拠。
女王への反乱計画書。
違法な奴隷売買の資料。

全ての悪事を押し付けられたような証拠が次々と現れ、それを知っていたかのような見知らぬ貴族たちからの追求。

家が消えたのは父の死後から数日でのことだった。

逃げるように屋敷を離れ、寂れて誰も使わなくなったこの別邸に避難したアリスとカグヤ。

ほんの少し前、本妻が生きていた頃にあった幸せは、アリスだけを置いて全て消えた。
アリスに残っていたものは自らの身体、学んだ召喚魔法の知識、そして最後まで残った姉同然のメイドであるカグヤだけだった。

「――私はあの女……レイアへの復讐を誓ったの。そのために戦力となる人間を集めるために行動を始めたわ」
「復讐――は分かったけど……なんでシンを狙ったの?」

話を黙って聞いていたレナが疑問を口にする。

「確証はないけれど、あの女どもは恐らく魔物か、それに近しい何かだと考えたのよ」

魔物。その言葉の示す範囲はとてつもなく広い。
身近なところで言えばスライムやゴブリン。他にもドラゴンやゴーレムやサキュバスなど、魔物と呼ばれる存在はとてつもなく多い。

知性がまるでない野生の魔物から、人語を解し、群れをつくる魔物まで生態も種族も様々。
おとぎ話で登場するような魔王という存在も、世界のどこかにいるかもしれないなどと囁かれている。

魔物の多くの特徴として直接的、あるいは間接的に人に害をなす存在だということだ。
もちろん友好的な魔物もいるにはいるが……残念ながらあまり多くはないと聞く。

「はい。あのレイアという女は気配を消し、怪しげな行動ばかりをしておりました。残念ながら魔物だという証拠は得られませんでしたが、隠密に長けた私でもその尻尾が掴めないというのが逆説的に彼女が常人ではないという証拠でございます」

悔し気にカグヤが補足する。

「……私とカグヤもそこそこ戦えるけど、それだけではきっと魔物には敵わない。だから最近名前が広まった優秀な補助魔法使い――他人の力を底上げするという男を【白き雷光】から引き抜こうって考えたわけ……その、言いにくいけどあんた女に弱いって噂流れてたし、私とカグヤなら堕とせるかなって思って」
「女に弱いっていうのは――否定できねぇな?」
「ちょ、ちょっとニーナ!」

重苦しい空気の中、ニーナが面白そうに僕を見つめ、それをレナが咎める。

「その、こんな言い訳信じてもらえないと思うけど、あなた達に大きな危害を加える気もなかったの。その、ちょっと怖い目にあってもらって彼を諦めてもらおうかなって考えて……」

確かに僕がファナさんにけしかけられた時も、彼女は『ゆっくりじっくり殺さないようにいたぶってやりなさい』とわざわざ殺すなと命令していた。
手口ややり方に大きく問題はあるが、少しは考えていたのか。

「……貴族らしく憲兵やお偉いさんに頼れば良かったじゃない?」

少しイラついた口調だが、もっともな正論をファナさんが放つ。

「頼ったわ……! けど、誰も手を貸してくれなかった。その頃には『あそこの当主は女に溺れた貴族の恥さらし』って噂も立っていたし。身に覚えのないものとは言え悪事を暴かれた没落貴族を助けようとする奇特な存在なんかいないわ。……それに、なにより――」

少し言い淀んだアリスが、幼い瞳に殺気を漲らせる。

「誰かの手を借りたとしても、私がトドメを刺したいの。私から全てを奪っていったあの女をこの手で……!」

全てを言い終わり、場に静寂が満ちた。
誰のため息かもわからない空気が流れる、重々しい嫌な雰囲気。
「……これで全部よ。あんたには悪いことをしたわね。さぁ、煮るなり焼くなり犯すなり……すべての責任は主人の私にあるわ。だからカグヤから剣をどけてちょ――ください」
「……辛いこと、話してくれてありがとう」

身を挺してアリスを守ろうとする気高きメイドの肌に傷をつけぬよう、ゆっくり剣を引く。

「シンは本当甘いな……ま、そこがいいとこでもあんだけどさ」

僕にだけ届く程度の声量でぼやくニーナの言葉。どうやら僕が本気で彼女たちに危害を加える気がなかったことはお見通しらしい。
レナとファナさんも同じように、仕方ないわねといった温かい視線を向けている。

「……んで、その女――魔物かもしれない奴は今どこにいんの?」
「…………」

ニーナの素朴な疑問に押し黙るアリス。
その間に彼女の上から退いたカグヤが、僕らに向き直り口を開いた。

「それが、わからないのです。……いくつかの町へ調査に向かい、ギルドなどにも不審な情報や人物がないか訪ねて回ったのですが未だ手がかりはなく……」

目を伏せるカグヤとアリスの諦めにも似た表情。こんな状況でなければ姉妹のようにも見えたかもしれない。

「……なるほどね。それでこれからどうするの?」
「そうね……あなたたちに行った非礼を償ってからの話だけど――復讐を続けるわ。やり方をもう間違えないように」

何故だろうか。
散々な目にあわされたのに、僕は今この二人の力になりたいなんて考えてしまっている。
騙され、利用され、仲間を危険に晒した元凶。
しかし、知り合ってしまった彼女たちが根っからの悪人だとはどうしても思えない。
ニーナの言う通りだ。僕は本当に甘い。

けれど、僕が――洗脳されたとはいえ、パーティーを裏切った者が口出しできる権利などない。
卑怯だなと自己嫌悪を感じつつ僕はファナさんへ視線をやり、互いの瞳で見つめ合う。

「ん……シンさん? ――あ、あぁ……そう、あなたはそういう人ね。はぁ……仕方ないわね」

こちらの意図を察したのか、心底呆れた顔でファナさんが笑った。
そして改めて拘束された二人へと顔を向ける。

「アリスさん。言葉通りあなたには償っていただきます」
「えぇ……かまわないわ」
「ア、アリス様……」

判決を待つ罪人そのものといった顔で目を伏せるアリスと、それを心配げに見つめるカグヤ。

「それじゃあ、あなた達には――【白き雷光】に入ってもらうわ」

「「……え?」」

主人とメイド、二人の声が重なり、それぞれの目が点になる。

「もちろん契約魔法で私たちに危害を加えないようにしてからね。沢山働いてもらうわよ? 特にカグヤさん。あなたメイドでしょ? 炊事洗濯料理その他もろもろ。お願いしたいことは山ほどあるわ」

「そんな……で、でも私たち――」

何を言われているのかわからないと言った風に動揺しているアリスに構わず、ファナさんは口を動かし続ける。

「クエストも手伝ってもらうし、いろんな町を連れまわすから覚悟してね? それと――怪しい女を見つけるっていう難しいお仕事もしなくちゃいけないわね」

からかい混じりの愛らしいウインク。
それに対して何の反応も出来ないアリスとカグヤ。

「つまりね――」

少しひねくれた言い方のファナさんの言葉を引き継ぎ、僕は口を開く。

「――僕たちの仲間になって、一緒にお父さんの仇を探そう。手伝うよ」
「リーダーの決定なら……逆らえねぇな。怒らすと怖いぞ? うちの賢者様は。にしし」
「うんうん。あ! けど、もうこういう手荒な手段は厳禁だからね?」

茶化しつつも声をかけるニーナも、過ちを許して導けるレナも、どちらもとても眩しく映った。
僕らの誘いは時間差でようやく二人に刺さったみたい。

「あ、あぁ……ありがとう……うぅ……ございます……」

涙をこぼして目元を拭うカグヤさん。

「……えっと……その……」

もじもじと身を捩り、言葉を探すように視線を宙に彷徨わせるアリス。
なんとなく思っていたけど、他人に素直になるのが苦手なのかな?

その愛らしく幼い仕草に助け舟を出すために、僕は彼女の頭に近づきそっと耳打ちをする。

「――って言うんだ。ね?」

驚きと恥ずかしさで顔をくるくると変えたアリスはやがて息を一つ吸い込み、小さな口を開いた。

「――よ、よろしく……ね?」

照れながらの少女の笑み。
酷い目にもあったし、いい思いもしたが、この笑顔が何より大きな収穫だ。

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