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第22話 蠢き潜む町

活動拠点の町を離れることを決めてから、話はとんとん拍子に進んでいった。
旅に必要な物品の補充。武器や防具などの整備や新調。馬車の手配など諸々を済ませて数日。ついに出発の時がやって来た。

「シンさん……それに皆さんもどうかお気をつけて下さいね」
「うむ、いつでも戻ってきたまえ」

受付嬢さんとギルドマスターの見送り。

「はい。皆さんに良くしていただいたこと、忘れません」

パーティーから追放された僕を迎え、気遣ってくれたギルドの人々。彼らがいなければ今の僕はここにいない可能性だってあるのだ。

「またいつか──絶対にこの町に戻ってきますから!」

例えSランクであろうと明日はわからない。
突然死んだり、再起不能な傷を負うこともある。だからこの別れは最後かもしれない。それを分かった上で僕は強く再会を約束する。

「──行ってきます!」

名残惜しさを胸に秘め、僕達はギルドを出て、町の外へと向かい馬車に乗り込んだ。
アリスの仇がいるかもしれない【レクイル】の町へ馬を走らせる。

──と、意気込んだものの。

「暇だなー」

馬車に乗り込み数日。野営などをしつつ進む単調な毎日に早くもニーナがボヤく。
目的地までは早く見積もっても半月、行軍によっては一月もかかる。それを思うと退屈を感じてしまう気持ちもわからなくもない。むしろ僕だって同じだ。
しかし、僕はそれを見越していくつか本を買っておいた。
魔導書や流行小説、歴史書などなど。
そこそこ豪華な食事にありつける金額を支払って手にしたそれらは心の拠り所になっている。

「……それじゃあニーナ。これでも読んでみる?」
「あん、なんだこれ……えっと『勇者との禁じられた恋』……恋愛小説なんか買ったのか?」
「うん、それは投げ売りされてたし暇つぶしになるかなって」
「ふーん」

そう言ってガタゴト揺れる車内でニーナはページを捲る。最初はつまらなそうに。しかし、その表情が徐々に真剣味を帯びてくる。

「ニ、ニーナ? それ面白いの?」

珍しく無言となったニーナに呆気に取られたレナが声をかけるが返事はなく、紙が擦れる音だけがぱらりぱらりと響く。

「……」

僕はレナと目を見合わせ、意外な彼女の姿に驚き、笑い、そのままそっとしておくことを無言で決めた。

そしてしばらくたち、

「ふぅ……ま、まぁまぁ暇つぶしにはなったかな」

感情を刺激されたのか、少しだけ目を潤ませて彼女はそんな捻くれた言葉を呟いた。

「そっかそっか」
「うんうん。そうだね」

僕とレナがそれを受けて生暖かい視線を送ると、彼女の顔は火照ったように赤くなる。

それから旅の間、彼女は飽きもせずに何度も同じ本を繰り返し読み続けていた。

「──皆様、見えましたよ」

問題も起こらない緩やかな旅路も随分と経ったある日の昼時。御者席に座るカグヤが車内に声をかける。
それを聞きつけた車内の全員が一斉に窓枠から顔を出し、カグヤが告げた方向を見つめた。

王都に近づいたせいなのかこれまで僕が見てきたどの町よりも大きいそこは、背丈の何倍もある石壁に守られるように囲まれており、その上にポツポツと背の高い建物が確認できる。

「何事もなくて良かったわ」

安堵を漏らすファナさん。

「退屈で死にそうだったぜ」

何回も読んだ本をいまだに巡りながらニーナ。

「私はのんびりしてて楽しかったけどな〜……シンとずっと一緒だったし」

ほんわかと呟くレナ。最後の言葉はちょっとドキッとした。

そして、他のメンバーとは違う感想を抱いている者もいる。

「……あそこに……あの女が……」

道中、健気にも明るく振る舞っていたアリスが決意を新たにするように溢す。
そう、ここからが本番なのだ。
この【レクイル】の町を脅かしているかもしれない敵を探す。
僕も僕で手のひらに自然と力が篭る。

思い思いの感情を胸に馬車は町へと進み、警備が数人いる巨大な門へと辿り着いた。

「身分証と荷物の確認を行う!」
「かしこまりました、では私から」

屈強な年配男性が進み出て順々に僕らの冒険者カードを改める。
しかし、その様子がちょっとおかしかった。
「よ、よし……だ、大丈夫だな」

最初は背筋を正して神妙な顔をしていたが、みんなを見回すごとに顔が緩み、視線があちらこちらに向き、僕を捉えて驚く。

どうやら美女──それもこれ程までに豊満な体つきの色気のある女性達が集まっていることと、その中に一人いる男性に面食らっているようだ。
そんな中でも彼は車内に怪しいものがないかをしっかり探しており、仕事熱心なのがわかる。
一通り調査が終わったタイミングでファナさんが彼に声をかけた。

「お仕事ご苦労様。素敵な門番さん♡」
「う、うむ……」

品と色気が混ざったような妖艶な声音。男性は驚きを隠すように頷くが、美女の笑みにその顔はにへらと緩む。

「私達旅をしているのですが、ここはどんな町なのかしら……教えてくださる?」

細目で見つめるファナさんは早速情報収集を始めるようだ。

「こ、この町は交易が盛んで食事も美味いし、物品も集まる。商売をするには良いところだな」
「あら、そうなのですね? でぇも──」

自然な仕草。さも当然のようにファナさんは両腕で胸を強調させて言葉を続ける。

「最近税が増えたと風の噂で聞きましたわ。本当なんですの?」

視線が下を向いた彼は、操られたように口をパクパクと開いてそれに応じた。

「あ、あぁ……その、それは一時的なものだと聞いている。だから、その……問題はあるまい」
「そうですか、それは喜ばしいですね。ありがとうございます、門番さん♡」

その答えを聞いた彼女はパチリと片目を閉じて思わせぶりなウインクを送る。

「は、はひぃ……」

しっかりそれが命中すると、浮かれたような、のぼせたような表情で門番は去っていった。
体を使ったその交渉術を見てもモヤモヤしなくなったのは、ニーナから貰った言葉のおかげだろう。

「人に言えた義理じゃねえが、お前……冒険者で良かったな」
「なぁに? それは皮肉かしら、ニーナ」
「さぁてね。にひひ」

その様子を眺めていたニーナがからかうように呟き、さして気を悪くした風もなくファナさんが答えた。

「……皆様。それでは町に入ります」

そして、カグヤの声に合わせ再び馬車は動き出す。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「領主様、ご報告です」
「入れ」
「失礼いたします!」

一人の男が部屋に入る。
そこは煌びやかさはないものの確かな気品を伺わせる書斎。
実用性を重視した机。華美になりすぎないが上質さを感じさせるソファ。
書棚に並べられているのは歴史書や領地経営に関するものばかり。

机上で肘をつき出迎えた精悍な男は【レクイル】の町の領主ルフラス。

「申せ」

尊大な物言いはルフラスが確固たる地位の人物だという何よりの証左のよう。
声を受け、僅かばかりの緊張で体を硬くした報告者は彼の眼前に立ち、口を開いた。

「はっ! まず、税の徴収についてですが、未だ一部の商人が反発しており目標の半分程度どなっております」

ここ数ヶ月、領主が突然あげた税に関しての反発は強かった。
一部の有力者は話し合いの末に納得させたが、市井の者達は未だ否定的で抗議を繰り返している状況。

「かまわぬ。必要とあらば私兵団を用いてもよい」
「りょ、領主様!? さすがにされは──」
「私に何か意見があるのか?」

諌める言葉を吐こうとした男だったが、鋭い領主の眼光と声に遮られては、

「──かしこまりました」

身を震わせて頷く他なかった。

「そ、それと、町に旅の冒険者──それもSランクパーティーが訪れました」
「ふむ。Sランクか……」
「男が一人と女が五人。目的は不明です」
「──監視は怠るな。今この町で厄介事を起こされては手間だ。報告は以上か? ならば下がれ」
「仰せのままに」

男は恭しく頭を下げて部屋を出た。その表情は最後まで強張らせたまま。

「──邪魔をされる訳にはいかんのだ」

一人残された領主は誰に告げるでもなく呟く。
その目は狂気を孕むように血走っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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