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第26話 計画。思惑。

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Side・ニーナ

館を調べる私たちはシン達を見送ってから早速動き出した。
とはいえ、なにをしたもんか?
普段の情報収集の時のように誰彼構わず聞き回るってのは悪手だろう。なんせ、ここは敵地のど真ん中かもしんねーんだからな。

「ファナ、アリス、どーするよ?」
「そうね、まずは依頼者であるミオさんに話を聞きましょう。それから可能なら領主さんに接触できれば良いのだけど」

玄関から広間を通り、廊下を歩きながら相談すると目の前から人が歩いてくる。

「……そうですわね。噂をすればなんとやら、あちらからお出ましのようね」

アリスの目線が示す方向にちょうどミオがいた。広い屋敷を探す手間が省けたぜ。

「おーい、ミオ。ちょっと話いいか?」
「はい? えぇ、かまいませんよ」

気軽に呼びかけた私の声に柔らかく笑みを浮かべて応える令嬢。

「──ニーナ。あなた貴族相手にも変わらないのね」
「豪胆というか……厚かましいというか……大したものですわ」

呆れたような二人の声を聞こえないフリ。堅っ苦しい言葉遣いなんて生まれてこの方覚えたこともないししゃーないだろ。

「立ち話もなんですので、応接間にご案内しますね」

そして私達は彼女の後に続き廊下を歩く。

辿り着いた広い部屋で机を挟み、座る四人。

「ここでしたら邪魔も入りませんのでなんなりとお尋ね下さい」

協力的な姿勢を崩さずに構えるミオ。それならこちらも遠慮はいらねーだろう。

「まず、繰り返しになるんだが、例の女が来てからの事を教えてくれ」
「はい、かしこまりました。ええと──」

彼女が語ったことは聞き覚えのあるような内容だった。
妖しく妖艶な女性がやってきた日から父が変わり、おかしな行動を取るようになったという。
唐突な税の値上げ、宝物などを急に売り払い金を集め、女性のメイド達をクビにした。
男性の執事や料理人なども少しづつ活気を無くしたようになっとのこと。

「あの女性は前触れもなく夜に訪れ、気づいたらいなくなる幽霊のような存在でした」
「──失礼ですが、お母上はどうされたのですか?」

ファナが問うた質問に少し表情を強張らせるミオ。何か言いにくそうな事情を感じさせた。

「は、母は……私が幼い頃にもう……」
「そうですか。立ち入ったお話、ありがとうございます」

なるほど。ならば、レイナが付け入る隙はいくらでもありそうだな。

「よろしければ領主様にもそれとなくお話を伺わせていただきたいわ。可能かしら?」

アリスの提案に再び顔を苦く顰めるミオ。

「一応聞いてはみますが、最近の父は殆ど書斎に籠り人とも会おうとしないので難しいかもしれません。その、申し訳ありません……」

昨日のあの態度から見ても、あまり期待をしないほうが良さそうだな。
彼女に聞く事はこのくらいだろうか。ならば屋敷の他の住人に当たった方がいいかもしれない。

「えぇ、よろしくお願いします。お返事は夕食の際にお聞かせいただければと、それでは私達は屋敷を少し見回らせていただきますね」

礼を告げて立ち上がったファナ。それに釣られて私とアリスも席を立つ。

「かしこまりました。その、どうかよろしくお願いしますね」

最後のミオの言葉は苦しさを隠しているような笑みとともに告げられた。

応接間を出た私達は廊下を歩きながら人を探し、数人の執事や料理人などに話を聞くため動き出す。

「おじさん♡ ちょっと私たちと話、しねーか?」

あからさまに谷間を強調し、上目遣いで呼びかけた私。それを受けた老執事は、

「いえ、仕事がありますので失礼いたします……」
「そ、そっか……」

まるでこちらに見向きもせずに過ぎ去り。

「あら、あなたはコックさん? 昨日は美味しいお料理をありがとう♡ とても珍しい料理でした♡ 良ければお料理のコツなんかを教えていただけないかしら? ねぇ……いいでしょ♡」

ファナがシナを作って誘った料理人はと言えば、

「すまねえが……仕込みが残ってるんでな」
「あら、残念……」

妖艶なシスター服の女相手に動揺することもなく仕事へと戻っていった。
行く先々で声をかけた男がみんなこんな調子では、いくら気のない相手とはいえ堪える。

「ふふ。な、なかなか手強いじゃない……」
「こいつは生半可な手段じゃ厳しいな……なぁ、アリス聞いてもいいか?」
「なにかしら?」

無様に敗れ続けた私らの横。それを観察していたアリスは涼しい顔で答えた。

「お前の家にいた執事達もこんな感じだったのか?」
「えぇ、じいやも執事達も皆取り憑かれたように無気力だったり反応が鈍くなっていたわ」

情報収集の成果は芳しくないものの、確信には少しづつ近づいている。この屋敷を蝕む敵がアリスの仇と明らかに同種の存在。状況と反応がそれを示している。

「少し……本気を出そうかしら……」

そう呟いたファナの目は妖艶に光っていた。
それはシンを連れ戻す時のようなギラついた輝きに似ている。

「──そろそろ夕方よ。カグヤやシンが帰ってくるのだから、一旦みんなで情報を整理するのも手ではないかしら?」
「そうだな。アイツらも何か掴んでればいいんだけどな」

そして、間もなく戻ってきたシン達と情報共有を行い、美味い夕食を食べ、明日の方針を話し合い、私らは眠りについた。
そういや、シンは大丈夫かね?
──ファナはあんなこと言ってたけど……まぁ、なんとかなるか。

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Side・ファナ
その日も、次の日も私達は調査を続けた。
進捗は少なく、怪しい女の出入りもない。側から見れば盗人のように嗅ぎ回る自分達の方が不信人物のよう。
結局ミオさんに頼んだ領主との謁見も叶わず、闇雲に動き回ることしかできていない。

何度目かの朝を迎えたその日。私は集まったメンバーに向けて告げた。

「今日は昨日までと調査メンバーを変えようと思っているのいいかしら?」
「問題ないですけど、何かあったんですか?」

問い返すシンさんの顔色は一見いつも通りに見えるが、どこか上気しており、すこし疲れているようにも見える。

「えぇ、屋敷内はこの数日調べたから少し外回りに人手を割こうと思うの」
「そうね。確かにあまり話を聞けない執事とかに時間を割くよりもその方がいいかもしれないわね」
「ずっと屋内に居ると肩が凝っちまうしな。んっしょ……」

私の言葉に賛同の意を示すアリス。そして、少し怠そうに肩を揉むニーナ。
……肩が凝る原因はもっと根本的な所にあるのでは? 回した腕でひしゃげる彼女の膨らみを見て見に覚えのある私はそんな感想を覚えた。

「……ん? おいおい、シン。どこ見てんだよ♡ ……ったく、スケベめ♡」
「ち、ち、違うよ! べ、別にそんな……」

そしてそんな様をチラチラと気にするシンさん。
目敏く彼の視線を察する彼女に反射的な否定を漏らすが。その視線は揺れるもの吸い込まれるように張り付き、触れられてもいない体をビクリと震わせた。

「ふふっ、順調ね──」

いつも通りのシンさんとニーナのやり取りを眺めて、私はニヤリと小さく呟く。計画通りに進んでいるようで何より。

「ファ、ファナさん? なにか言った?」
「いいえ、なんでもないわ。それよりメンバーだけど──」

はぐらかすような表情で有耶無耶にして、私の話は続く。
明日からはもっと直接的に動いてみよう。
そして早く、敵を――炙り出さなくは。

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