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第44話 道中。そして襲撃。

「……いい天気ね」

馬車の窓から顔を出し、シスター服と金髪をはためかせる風を受けて私は呟く。

【王都ハルモニア】を出立した私たちの旅は順調だった。
レナやニーナ、そして特にカグヤには急な準備で負担をかけてしまったけど、その甲斐あって殊更不自由しない旅を行えている。

「ファナ様。夕食ですが、昼間に狩った猪肉を使用しても良いでしょうか?」
「えぇ、かまわないわ。よろしくね、カグヤ」

元々の性格や育ってきた環境の影響もあり、客観的に見ても私はリーダーとして上手くやれていると思う。シンさんやみんなの期待に応えられているはずだ。
しかし、先日の女王との交渉。若い王とはいえ確かな実績を持つラミィールは、やはりかなりの曲者。SSランクになるためにはもう何度かやり合わないといけない。そう考えると少し気が重いが、これもパーティー……そして私の目的のためには必要なことだ。覚悟を決めなくては。
恐らくみんなは急にランクアップを願い出た私に疑問を抱いているだろう。ニーナとレナの突飛な行動で有耶無耶になったものの、シンさんなどは特に気にしていたようだった。
しかし話が流れた後、誰もそれを問い詰めるような事はしてこない。その信頼されているという部分に甘えてしまっている点は否めない。
──いつかは言わなくてはならないだろう。私の事を。そして目的を。

そんな思いを抱えながらも旅は滞りなく続く。
しかし、順調だったそれにある段階から異変が起き出した。

「ガァァァッ!」

野良の魔物の襲撃。エルフの里に近づいた辺りから、それが一気に増えだしたのだ。

「はぁ、今度はゴブリンかよ……」

現れた魔物にニーナがボヤき、他のみんなもまたかと言うような困惑の表情を浮かべる。
襲ってくる魔物はそこそこの強さではあるものの、私たちならば被害なく撃退できるものばかりだが、その頻度がどんどん増えていけば気が滅入ってしまうのも仕方ないだろう。
二日に一回程度が一日一回になり、ついには一日に何匹も現れるようになった魔物。
里の近くだと言うのにこんなに魔物が発生していて、エルフ達の生活は脅かされないのだろうか、と疑問が浮かぶ。

「ちょっと行ってきますね!」
「ありがとうございます、シンさん。無理は禁物ですよ」

真っ先に動きだしたのは私達の中で最も強い魔法剣士のシンさん。彼は油断なく補助魔法を発動し、飛んでいく矢のようにゴブリンに向かい、ものの数秒で魔物を斬り伏せる。
その剣筋はあまりの速度で、遠いせいもあるが殆ど目で捉えることが出来なかった。
確実に彼は強くなっている。補助魔法のおかげもあるが、毎日──旅の中でも訓練を怠らない成果が明確に現れている。

「お待たせしました! もう安全ですよ!」

幼気な笑みを浮かべて戻ってきた彼には、傷や返り血ひとつついていない。

「お疲れ様です、流石ですね」
「そんな……へへ、ありがとうございます!」

あれだけの剣技を見せたのだから多少は驕ったり調子に乗ってもいいだろうにと思うが、私の褒め言葉に子供のように照れるシンさん。やっぱり不思議な人だ。

「シンー♡ とってもかっこよかったよー♡」
「ちょ、ちょっとレナ⁉ あ、当たってるから……」

ご主人の帰りが嬉しくてたまらない子犬のように抱きつき頬ずりをするレナ。そんな抱擁に対し、何度も触れている──それ以上の事もしているというのに未だに顔を真っ赤にして動揺する男の子。こっちのほうは残念ながら……いや幸いと言うべきか、成長は見られない。

「ふふっ……♡」

そんな二人の様子を見て小さな笑みが漏れてしまう。

そんな旅路を進みながら、森を進み、山道を超え、私たちはついにエルフの里に辿り着いた。
人間が暮らす大都市程の巨大な森。話には聞いていたが、エルフの里はあまりにも広大だった。このような場所に住み、外との交流も少ないとなれば、森の妖精といった呼ばれ方をするのも納得できる。
木々の奥、少し遠くに見えるところには地面に突き刺した丸太がぴっちりと並んで防壁となっており、それに囲まれた中は見えない。その丸太の壁も土地の広大さを示すようにどこまでも続いている。
どこかに入り口があるはずとそこへと近づいていく私達。その前に、

「──キィ!」

甲高い叫びをあげ、自立歩行するキノコ型の魔物【マタンゴ】が数匹現れた。

「またかよ……!」
「里のすぐそばでもこれって大丈夫なのかな?」

鬱陶しそうなニーナと心配げなレナ。

「とりあえず倒してくるよ! あれくらいだったら僕一人で大丈夫だから待ってて!」

そう告げてシンさんは馬車から飛び出し、剣を抜く。そして補助魔法で身体強化を行い、敵へと迫る。

「イィー! キィー!」

現れた彼を敵と認識したのか、マタンゴ達が一斉に足を進めるが──遅い。

「やぁぁ! はぁ!」

ただでさえ移動速度が鈍く、攻撃手段も胞子を飛ばしたりキノコの体から生えた腕や足での打撃のみのマタンゴ。補助魔法で加速したシンさんにとっては相手にならない。一匹、二匹、三匹……敵が行動を起こす前に全てを両断されていく。
そして、時間にして一分足らず。彼の前には切り刻まれたマタンゴの残骸だけが転がっていた。

「ふぅ……じゃあ入口を探しに──っ!」

剣を持ったまま再び周囲を見回す彼。その時、それを狙いすましたかのようにシンさんに矢が飛来する。

「おい、シン!」
「シン、危ないよ!」

ニーナとレナの叫びに剣で応えるように、彼は難なく反射的にそれを弾く。離れた馬車にまで聞こえる硬い音と共に宙を舞った矢は、少し離れた地面に突き刺さり、余韻で震えている。

背後からかけられた心配する声に反応する事なく、彼は矢が放たれた方向を睨み叫ぶ。

「──誰!」
「怪しい人間め……エルフの里に何用だ」

静かな声が彼に応じるように聞こえてきた。
音の出所──木の上に視線をやると、そこに人影がいくつか見えた。
木々に紛れ込むような濃緑に染められたフード付のマントを纏い、矢を引き絞っていたのは三人の女性エルフ。フードを被っているものの、長く伸びた耳や、つい羨ましくなるような純白の肌が覗いている。そして噂通りの顔の造形。神秘的な美しさ――同性の私でもつい見惚れてしまうような美貌が離れていてもはっきりとわかる。
突然現れた彼女ら三人は、狩人のように油断なくシンさんを見据えていた。
「エルフ? ……あ! こ、こちらに敵対の意思はありません! 女王ラミィールの使者として訪れました!」

エルフの里の防衛隊なのだろう。そんな彼女らに誤解をされないように剣を鞘にしまい、彼は無実を証明せんと両手をあげて言葉を伝える。
しかし、エルフ達の訝しむような態度はシンさんの姿勢を見ても変わらない。
弓の狙いは逸らさぬまま、ちょっとした段差を超えるみたいな気軽さで木から飛び降りて彼にじりじりと近づいていく。
間に入るべきか、そう動き出そうと私が足に力を入れた時だった、

「──信用ならん。詳しくは里で吐かせる」

そう告げた次の瞬間、彼女達は一斉にシンさんに飛びかかって腕と足を縄で拘束し──

「──行くぞ!」
「ちょ、ちょっと! 話を──」

抵抗の声に一切耳を貸す事なく、体を三人で抱え上げて運びだしてしまう。

「しまっ――シンさん!」

慌てて馬車から飛び出し、私達が彼を助けるために駆け寄ろうとするも、

「動くな! 下手な事をすればこの人間の男を殺す」
「み、みんな、僕は平気だから! きっと話せばわかってくれるから穏便に……って、ああぁぁ!」

隊長格とみられるエルフとシンさんの言葉に足を止めてしまう。

「――シン!」「おい、待てよ!」「シン様!」

レナとニーナとカグヤの声が虚しく森に響く。そんな悲鳴にも似た叫びに振り返ることもなく走り出すエルフ達。かつがれたシンさんがみるみるうちに遠ざかる。

「アリス! 召喚魔法でシンさんを追って!」

そんな中、私はアリスに声を張り上げ指示を投げる。

「──わ、わかったわ! 《召喚魔法
サモン
》ハーピー! お願い、シンを追って!」

素早く私の意図を察してアリスが呼び出した魔物。
美しく人間の女性によく似ている。しかし、その鷹のような瞳や両腕の大きな翼や、下半身は鳥のような鉤爪がついた足。全体的に羽で体を覆った姿はやはり異種族。
半人半鳥の女性型の魔物――ハーピーは命令通りに飛んでいく。

「私たちも向かいましょう。カグヤ。あまりあちらを刺激しないように少し離れながら進んで!」
「かしこまりました!」

ゆっくり忍び足で歩くように馬車が進み出す。
こちらが下手に手出ししたら国家間の問題。しかし、それはエルフ側も同じこと。きっと大丈夫だと自分に言い聞かせるように胸の中で繰り返す。

「シンさん……どうか無事で」

それでも芽生えた不安がつい口から漏れてしまうのを、私は抑えられなかった。

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