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第46話 エルフのシャーリー

シャーリーさんが部屋に来て、動揺を露わにしたエルフだったが、怯みながらも言葉を返した。

「シャーリー様。お、お言葉ですが、この者が森の付近で怪しげな行動を取っていたのは事実! つまり正義は我らに──」
「聞いている話と違いますね。彼は里の近くで襲い掛かってきた野良の魔物──マタンゴを討伐したのみと聞いています。そして、彼の仲間からかの国の長、ラミィール女王の親書も確認できました。貴方達三人がやっている事は客人に対して許されない非道な拷問であり、正義などありはしません!」
「……ぐっ」

小さな詰め所に響く言葉は冷静でありながら、どこか熱を帯びているような勢いがあり、僕の前であれだけ自信満々だった銀髪のエルフは呆気なく言い負かされ、悔しげに声を漏らすことしか出来ない。

「貴方たち二人! この方の拘束を解き、服と装備をお返ししなさい!」
「「は、はい!」」

その流れのまま彼女は二人のエルフに毅然とした態度で命令を下す。彼女たちはシャーリーさんの立場に怯えたのか、その雰囲気に圧されたのか、焦りながらもテキパキと僕の体の縄を解いてくれてる。

そうして、ようやく自由の身となった僕は立ち上がり、シャーリーさんに体を向ける。

「シャーリー様……ええと、ありがとうございました」

助けてくれてだとか、危ないところをだとか。そんな言葉を言おうとしたけど、彼女の同族であるエルフに拘束されていたことを思い、細かい点は省いてまずは感謝だけを伝えた。

「いえ、こちらこそ申し訳──し、失礼しました! 私は一度部屋から出ます。あなたたちも、さぁ!」

僕の言葉を受け入れ、申し訳なさそうな顔で口を開いた彼女だったが、直後真っ赤な顔を勢いよく逸らし、他の三人のエルフとともに逃げるように部屋を出ていく。
それを見つめ「……どうしたんだろう?」と、一人呟いて気付く。
──僕は全裸。しかも先程までの行為のせいで屹立したモノを晒して初対面のエルフ、それも身分が高いであろう女性に向き合ってしまったのだということに。
やってしまった。恥ずかしさと申し訳なさが頭を過るが、いつまでも立ち尽くしている訳にもいかず、隅に置かれていた自分の衣服を手に取り、ほんの少し焦って僕は服を身に着けていく。

興奮の余韻で未だ勃起したままのペニスを刺激しないようにそそくさとしまい、素早く服を着替え終え、外に向けて「終わりました」と軽く告げると、待ってましたとばかりに詰所の扉が勢いよく開いた。

「──シン⁉︎ 平気? 酷いことされなかった?」

扉が開ききる前に進んできたのは瞳を不安で潤ませた──いや、どこか虚ろで目の焦点があっていないレナ。彼女は我先にと僕に抱き着いて来て、豊満な胸をむにゅりとこちらに押し当てる。柔らかな体の感触。そして、落ち着きを取り戻させる髪の香り。恋人のように抱き着いてくるレナの表情は横目でしか見えない。

「心配……かけたよね」
「本当だよ……もう、不安だったんだから……」

落ち着いた声音を意識して彼女の耳に囁き掛けると、安心したような、少し咎めるような声がお返しとばかりに僕の耳をくすぐるように届く。
そしてレナの肩越しに見えたのは、不安げな顔を顔で部屋に入ってくる仲間たちの姿だった。

「シンさん……無事で良かったわ」

ファナさんの安堵の視線が抱き着かれたこちらに注がれると、僕もようやく落ち着けた気がする。他のみんなも一様にホッとした表情を浮かべている。レナだけでなく、みんなにもどうやら随分心配をかけてしまったようだ。申し訳なさを覚えつつも、その心配が嬉しくもある。
他の四人が詰所に入り終えたのを見計らったのか、レナは名残惜しそうに僕から離れた。
みんなを見つめ、なにを口に出すべきか。そう迷っていた僕だったが、そんな中でニーナはこちらの体の不自然な部分を見つめ、気づいたようにニヤニヤと笑い出す。

「何もなくて良かったと言いたいところだけど、お前……一体どんな取り調べを受けてたんだよ♡」

重い空気を払拭するようなそのからかいの言葉は、きっとあえてなのだろう。彼女の視線はズボンを膨らます僕の股間をしっかりと捉え、指先もまたそこを示していた。

「い、いや、そのこれはなんというか、不可抗力というか……」
「にひひ。まぁ、無事だったんならそういうことにしといてやるよ♪」
「まったく私達はあれだけ心配したというのに……」
「まぁまぁ、お嬢様。シン様ですから♪」

そんなニーナに追従するようにアリスが呆れ、カグヤが可笑しそうに宥める。
安心するが気恥ずかしいいつもの空気感。みんながうふふと安堵する中、ただ一人レナだけはニーナのその言葉に反応して淀んだ空気を放ち始める。

「ふふ……うふふ……そっか。ねぇ、シン。さっきのエルフ達にやられたの? ううん、言わなくてもわかってるよ。そうなんだよね? じゃあ、しょうがないよね。シンを可愛がったんだから『お礼』しなくちゃだよね……ふふ、ふふふ――」
「レ、レナ。大丈夫! 僕は平気だから……ほ、本当に大したことされてないから」

ぐるぐると目を回し、なにごとかを納得して拳を握るレナを宥めていると、視界の隅に新たに部屋に入ってくる人物が見えた。

「……シン様、そして皆様。この度は私どもの不手際でご不快な思いをさせてしまい誠に申し訳ありません」

入室するなり深く頭を下げて、謝意を表すように体を硬直させたのは、先程僕を助けてくれたエルフの里の次期長候補であるシャーリーさんだった。

「あ、頭を上げて下さい。誤解が解けて何よりですから!」

咄嗟に僕が告げた言葉にもすぐに反応はなく。数秒じっくりと頭頂部を見せてからようやく彼女は正面を向いた。ファナさんのように長い金髪がその動きに合わせて煌めくように揺れる。
さっきはそんな余裕が無かったが、改めて見ても美しい女性だ。
エルフの特徴を体現した整った顔の作り。特にその瞳が不思議と目を引く。
確固たる意思を感じさせるような強い目力なのに、どこか優しさが見て取れる緑がかった宝玉みたいな瞳。
先程の三人は体に密着するような緑のワンピースだったが、シャーリーさんの衣服は真っ白でどこかゆったりとしており、ふんわりと花開いた花弁を想起させた。
肌の露出が多少あった彼女たちのそれとは違い、首から足先まで陽の光を遮るように隠しているシャーリーさんの衣服の雰囲気は、どちらかといえばドレスという呼称の方が近い気がする。
王都で謁見したラミィール女王のドレスが豊かさの象徴とするならば、目の前の彼女のそれは自然を司っているような美しさ。
服で隠れていてハッキリとはわからないが、体形はほっそりとしてるようで、噂で聞いていたエルフらしい体型──有り体に言えば胸が慎ましやかに見える。

「里に近づいた者にいつもこういった対応をしているのですか?」

顔を上げたシャーリーさんに柔らかな声音ではあるものの、問い詰めるような質問をしたのはファナさん。僕の顔をチラリと気にしながら話すその声には憤りが含まれているように感じる。僕が連れていかれたこと。内容はともかく尋問のようなことをされていたことへの批判なのだろう。

「その、いつもは──いえ以前まではここまでではなかったのですが……」
「そうですか。どうやらご事情がありそうですね。それは──後継者争いに関わることですか?」
「──っ! ご存知でしたか……」

ファナさんの単刀直入な指摘に刹那、目を見開くシャーリーさん。しかし、すぐに瞳を伏せ、落ち着き──落ち着こうとするように小さく呟く。

「……では、詳しい話は里にご案内してからにいたしましょう。ラミィール女王の客人としておもてなしさせていただきます。こちらへ」

僕ら一同は詰所を出たシャーリーさんの後ろについて歩き出す。
部屋を出てすぐ、先程僕を尋問した銀髪のエルフと他二人が小屋に背を預けて立っていた。
誤解は解けたはずだが、銀髪の彼女は苛立ちを隠しもせずに僕を睨み小さく舌打ちをする。それを受け止めて不快を感じる前に、人間とエルフの溝を知ったような気分になり、心に重りを縫い付けられたみたいな悲しみを覚えた。

歩き出してすぐ。横を歩くレナが僕が連れ去られてからのことを教えてくれた。
エルフを刺激しないように里に近づき、着いた所で騒ぎを聞きつけたシャーリーさんに出会い、女王からの親書を見せ、僕の解放を要求したとのこと。

「そうだったんだ。みんな……ありがとう」
「本当よ。私の召喚魔法にも感謝しなさい?」

ハーピィを召喚して、後をつけてくれたアリスがふくよか胸を張り、自信たっぷりな顔で告げた。その背伸びした子供みたいな姿がどこか可笑しく、僕は「ありがとう」と半笑いで頭を撫でてやる。

「ふふん。それでいいのよ」頭を撫でられつつも嬉しそうに手を振って歩くアリス。
「ね、ねぇ、次は私にも……」それに羨望の眼差しを向けてくるレナ。

見知らぬ土地で、いつもの空気感を取り戻して僕らは進んでいった。

木製の巨大な、そして頑丈そうな門を通り抜け、視界に広がったのは自然溢れる景色。
内部にも外と変わらぬ──むしろ道中で見た以上に大きな木が林立していた。そのせいで先は見通せないが、外壁から察するにかなり広大な土地だというのはわかる。
そして、木々はただの景観ではなく、それを利用した家のようなものがいくつも──数えきれないほど見えた。
巨大な樹木の根元に扉。大木の周りには木を削ったり、木材を組み合わせたりして作られた螺旋階段もちらほらと見える。その先には木の上に作られた家。自然と共存した建築物はどれも僕には見慣れぬ作りの物ばかり。
普通の家もあるにはあるが数は少なく、やはり目につくのは数も多い珍しい木に作られた家だ。視界に広がるそれらは圧巻で、ここが文化や生活様式が違う種族の国なんだと改めて感じる。

「驚くわ……エルフの里。噂ばかりしか聞いていなかったけれど、ここまで大きなところに住んでいるのね」
「ふふっ、この里はエルフの最も集まっている場所ですから。他の小さな集落も各地にありますが、きっとそちらのほうが、ひっそりと暮らすエルフの住処という皆様の想像するような場所ですね」

目を見開き見慣れぬエルフの暮らしに感嘆を漏らすファナさん。シャーリーさんがそれに愉快そうに返した言葉は僕の──いや恐らく僕たち全員が思い描いたエルフの生活をぴたりと言い当てるものだった。
エルフは数も少なく、小さな森に隠れ、穏やかに生活している。そんな程度の認識しか無かったため、いざここまで想像以上の文化が違う暮らしを見ては目を丸くし驚くばかり。
きょろきょろと首を回して里を見つめる僕たち。そんなこちらの反応が可笑しいのか、小さく微笑んでシャーリーさんはここが人間で言うところの王都に近いものだと教えてくれた。

里には子供から大人まで沢山のエルフがいた。走り回る子供や、仕事なのか野菜を抱えて荷車を引いている者。弓を抱えた戦士と思われるエルフまで様々で、男女問わず整った容姿に見える。
人間の大都市で感じる喧騒とは違う、牧歌的な賑やかさは故郷の村を思い出すようで懐かしく、心が落ち着く。
しかし、エルフたちにとっと見慣れぬ旅人。さらに他種族でである僕達に向けるその視線はといえば、

「……あんま歓迎されてるって雰囲気でもねーな」

ニーナがぼそりと呟いた通り、よそよそしかったり、警戒を露わにしたような厳しい顔つきのものばかりだった。

「やはり人間には抵抗があるものなのですか?」
「……残念ながらファナ様のお言葉通りです。なにぶん里の者の殆どは他種族をあまり見る機会もなく、それゆえ慎重にもなります。それに、今は――」

問いかけたファナさんに対し、少し気後れしたように応えるシャーリーさん。そして、言葉を最後まで言い終わることなく、彼女は口を噤み、前方へ視線を向ける。

「──人間がエルフの里に何の用だ」

鋭く、落ち着いていながらも攻撃的な色を含んだ声が僕らに向けられる。目をやるとそこには弓や剣で武装したエルフを周囲に連れた一人の男が立っていた。

突き刺すような声を受けて、シャーリーさんは困ったように声を詰まらせながら「……エドガー」と彼の名前を囁く。

「ふん、自分に不利な状況で人間を呼び込むとはつくづくエルフとしての誇りを欠いている女だ。そんな軟弱そうな者どもに頼るとは情けないものだ」

この人がラミィール女王が言っていた、もう一人の長候補のエドガーさんか。開口一番、こちらを挑発するような物言いには僕も含めたパーティー全員がムッと顔をしかめてしまう。

「言葉が過ぎますよ! この方達は女王からの親書を持つ正式な客人です。そのような、物言いは慎みなさい!」

見下し、嘲るような口調の男を強く諌めるようにシャーリーさんが反論するが、その言葉が響いた様子もなく、エドガーは歪な笑みを浮かべている。
挑発的な眼差しだか整った容姿で肌は白い。長髪のエルフが多い中ではかなり目立つ荒々しく逆立てた金髪。背も僕より高く、目力も相まって威圧感があるように思えた。
緑のマントを羽織って一見軽装に見えるが、手の甲から上腕にかけて鉄製の籠手をつけ、腰には長剣を携えている。おそらく剣士なのだろう。

「ふん。どうだかな……そこの娘。そいつがハーピィを使役していたとの報告もあがっている。魔物を里にけしかけているかもしれない者を信用などできるものか」
「──は?」

言葉を続けた彼は苛立たし気な視線の矛先をアリスに変え、召喚魔法を使用していた事を何故か咎める。アリスも突然のことに僅かな動揺と怒りを浮かばせた。
この人は一体何を言っているんだ? 魔物をけしかけるという意味が分からないし、僕達はここに来て、むしろ魔物に襲われていた側だぞ?
僕は自然と一歩前に踏み出し、アリスをかばうように立ち位置を変えて、屈強そうなエドガーを睨みつけ、口を開こうとしたが、

「エドガー! やめなさい。彼女はただの召喚魔法使い。里の周りの魔物達とは無関係です。女王の使者にこれ以上の無礼を働いて国同士の問題にしたいのですか?」

僕よりも早く、アリスを弁護するためにシャーリーさんが強く抗議し、指先で親書をひらつかせる。それを見たエドガーは物分かりの悪い子供のように顔に怒りを浮かべ、視線の先の僕とシャーリーさんを親の仇のように睨みつけた。

「誇り高きエルフが人間のご機嫌取りとはいい身分だな。……まぁ、いい。所詮はエルフの伝統からはみ出したような女。貴様など、俺の敵ですらないからな。くははは!」

僕らだけでなく身内のシャーリーさんすら侮辱した捨て台詞を残し、エドガーは取り巻きを連れて踵を返す。
離れていく彼の姿が見えなくなった頃、シャーリーさんが申し訳なさそうに顔を伏せて僕らに向き直る。

「皆様、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません……」

何度目かわからない謝罪。彼女が謝る必要などないと思ったが、里の中での立場上そうも言っていられないのだろう。

「構わないわ。召喚魔法使いをやっていればああいう意味のわからないやっかみは慣れっこよ」
「アリスお嬢様……」

名指しで疑いをかけられたアリスだが、彼女はいたって平静で、シャーリーさんを気遣うように言葉を返す。
主人を疑われたことに澄ました顔を歪ませていたカグヤだったが、アリスの堂々たる姿と言葉に一転し、子供の成長を見つめる母親みたいに目を細めて優しく見つめている。

「──シャーリーさん。魔物の件って……伺ってもよろしいですか?」

未だ仲間を侮辱されたことに憤りを感じながらも、僕はシャーリーさんに事情を訪ねた。

「邪魔が入る前にお話ししようと思っていたのですが……では一度、長――長老の家に行きましょう。ラミィール女王からの親書も渡す必要がありますので、そちらでご説明させて頂きます」

彼女の返答に頷きで答えた僕らは、シャーリーさんに続いて歩いて行く。
そして着いた家は地面に建てられた随分と大きな住居だった。貴族のお屋敷程大きくはないが、それでもここまでに見た、里や木の上の家よりも大きい。
招かれるまま入口の扉を進み、木の香りがする廊下を歩き、件の人物がいるのであろう部屋に入る。
綺麗に整えられた木の壁。木目も美しい大きな机と、来客用だろう背の低いテーブル。何個もある書棚には古めかしい本が幾つも並んでいた。

「おや、シャーリー。……と、これは珍しい客人じゃな」
「長老。この者たちは人間の国より訪れた冒険者パーティーです。……こちらがかの国の女王からの親書です」

大きな机の向こう、肘掛椅子に座ったまま訪れた僕らを見回し、シャーリーさんから親書を預かるエルフ。
長命で若々しい姿を長く保つと言われているエルフだが、目の前の人物は真っ白な髪の毛と皺が深く刻まれた顔が印象的な老人だった。どれほどの年月を生きてきたのだろうかと、ふと興味を引かれたが、黙って長老と呼ばれた人物が女王からの親書を読み終わるのを待った。
やがて、手紙から顔をあげた老エルフは僕らを見定めるように眺めてから、ゆっくりと口を開く。

「……儂はエルフの長、ロードリック。里への滞在を許可しよう」
「ありがとうございます。私どもは【白き雷光】というパーティーです。短い期間かとは思いますが、お世話になります」

皺を緩ませて小さく笑いながら告げたロードリックさんの言葉に、リーダーであるファナさんが丁寧に返答し頭を下げ、僕らもそれに倣うように顔を伏せる。

「ふむ。それにしても……人間にしておくには惜しい程の美しさじゃのう」

改めて僕ら――特にファナさんを見つめた老人が、軽い口調で呟くと、彼女は「お褒め頂き恐縮でございます」と再び礼を言う。
ロードリックさんはお世辞でも言うような態度で、ファナさんにデレデレすることもなく、かといってエドガー程嫌悪感を露わにするでもないままこちらを黙って見つめる。その距離感は過度な干渉はしないが敵対はしないという、話で聞いていた通りの中立といった印象だ。

「では長老の滞在許可も下りたところで、先程シン様が尋ねられた魔物の件についてお話いたしましょう」

一歩前に進んだシャーリーさんが、ロードリックさんに代わりゆっくりと口を開く。

「その、この里に来るまで……魔物の行動が活発ではなかったですか?」
「そうだったなー。エルフってあんなに魔物に囲まれて襲われそうな環境で安心して暮らせんのか? ガキだっているのにさ」

訥々と、言葉を選ぶように語るシャーリーさんに、ニーナが気安く──まるで友達みたいな口調で返す。失礼じゃないかと不安に思ったが、シャーリーさんは気にした様子もない。あまりよろしくはないだろうが、とりあえず一安心だ。
「えぇ、もちろん不安です。ただ、あんなに魔物が活発になったのは最近のことで、私どもも困っているのです」
「最近? 急に魔物が集まり出したということですか?」
「はい。ちょうど次の長を決めるという話が持ち上がった頃ですから三月程前でしょうか。魔物が集まり、外に出たエルフや里に近づく者を襲うようになりました」

諦念を含んだような言葉にファナさんが尋ね返すと、シャーリーさんは力を振り絞るように表情を作り話を続けた。

「そのせいか、里には悪い噂──人間がエルフに危害を加えようなどという荒唐無稽な話が流れ、里の中でも意見が分かれてしまっているのです。特に次期長候補であり、元々人間を毛嫌いしていたエドガーがそれを強く主張するせいで皆ピリピリとしているのですよ」

威厳というべきか気品というべきか。そういったものを崩さないように声を発するシャーリーさんだが、どこか疲れや困惑の雰囲気が感じられる。
魔物が急に活発になる。ありえないことではないが、それを人間のせいだと考える思考が上手く理解できない。
もちろんアリスみたいな召喚魔法使いならば多少の使役はできるが、それを言い出せばエルフだろうと獣人だろうと、その魔法の適性があればできる。その論理はまるで──

「──人間への不満を煽る口実みたいね」

ぽつり。ファナさんが誰に向けてでもなく言葉を溢す。僕が感じた疑問がそのまま筒抜けに伝わったみたいで、奇妙で、どこかくすぐったい感覚が心に響く。
湖に小さな水を垂らしたようにファナさんの言葉はじわりと響き、沈黙となって場に広がった。

「少なくとも儂が長になって百数年、このようなことは起こらなかったのう」

静寂を埋めるようにロードリックさんが、補足するように呟く。ファナさんの推察にはあえて触れない姿勢のようだ。
なんと言えばいいのか困惑する雰囲気が僕らに漂う中、空気を変えるようにシャーリーさんが口を開く。

「……客人にこのようなお話をしてしまい申し訳ありません。……あ! そう言えば皆さま。宿泊先などはまだ決めておりませんよね? よろしければ私の家にいらして下さい。大したおもてなしも出来ませんが、是非」

殊更に明るい声音。どこか無理をしているようなその表情だったが、滞在先も未定だったこちらとしてはありがたい申し出。
長旅、そして僕に関しては先程の尋問のせいもあり疲労が溜まっている。ならばここは大人しく行為に甘えて休ませてもらおう。
こうして決まった今晩の寝床に向かうべく、ロードリックさんの家を後にして、僕らはシャーリーさんに付いて行く。
その間、最後尾を歩いていたファナさんは先程の話を受けてか、ずっと難しそうな顔をしていた。

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