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第48話 エルフとの手合わせ

エルフの里の爽やかな朝は、木漏れ日が家や地面を美しく照らしていた。
農作業や仕事に勤しむ人や外で遊ぶ子供。僕の住んでいた村を思い出す牧歌的な光景に懐かしさが浮かぶ。
ラミィール女王から依頼されたエルフの里の調査。少し曖昧なそれに取り組むため、昨晩の話し合いで決まった方針は各々がエルフ達と交流しようというものだった。だが、

「――さて、どうしたもんかな」

ニーナの呟きに、無言で頭を傾ける僕とレナとアリス。別行動中のカグヤとファナさん以外の四人でエルフ達と交流をしようとのことだが、やはり見えない壁を感じてしまう。
エルフ達はみな遠巻きに眺めてくるばかりで、声をかけるのも憚られる雰囲気。そしてそれらの反応はまだ良い方で、何人かは明らかに侮蔑を含んだような視線を向けてくるからいたたまれない。

ニーナの言葉を繰り返すように僕の思考も『どうしようかな』と困惑するばかり。そんな風に一歩を踏み出すのを躊躇ってしまう僕たちへ、最初に声をかけてきたのは予想外の人物だった。

「おい、人間──手合わせを願おう」

里の──僕たちの周りの空気がその短い言葉に一瞬固まった。
目の前に歩み寄ってきたのは、和やかさとは無縁の物騒な物言いのエルフ。肩口で切りそろえられた銀髪と強気そうな目。体に密着したようなワンピース。それを浮き上がらせる豊満な胸部。彼女は昨日、僕を拘束して尋問をしたエルフの女戦士だ。
瞳は殺気だっており、両手に握っていた木剣の一つを僕の足元まで放り投げる。これが木剣でなければ互いの命を賭けた勝負が始まりそうな気迫を感じる。

敵意を多分に含んだ彼女と目の前に投げられた木剣。不意を突かれたようにぽかんとして、突然の挑戦にどう対応すべきか逡巡し「ええと……」と口籠る僕を見て、なぜか気を良くしたようにエルフの女性は言葉を続ける。

「なんだ? 人間の男は女相手に逃げるのか? 人間の剣士がどんなものかと思ったが……とんだ腰抜けだな。あははっ!」

嘲笑を含んだあからさまな挑発。こちらが怯んでいると思っているのだろうか?
正直なところ、木剣とはいえ女性と剣を交えるのは気後れするけど……

「シン……やっちゃいなよ」「借りは返すもんだぜ!」「はぁ……最初からこれじゃ、交流どころじゃないわね」

僕以上に昨日の件を根に持っているレナ。面白半分で背中を押すニーナ。そしてちょっぴり呆れて呟くアリス。しかし仲間たちのその声音からは信頼のようなものが伝わってくる。――僕は負けないと。
仲間――そして大事な女性達の期待に応えるべく小さく微笑んで、僕はエルフの戦士に向き合い、足を一歩前に踏み出す。

「わかりました。手合わせしましょう。けど、いいんですか? あなたは弓兵では──」

最初に会い、弓を向けられた時の印象から、彼女はエルフらしく弓が本職ではという疑問を覚え、了承と同時に確認の意味を込めて問いかけた。
そんな多少の気遣いを含んだ僕の声を遮るように「ふん」と小さく息を吐き、女戦士は慣れた手つきで剣を振るう。
素早く力強い横なぎの一閃。たった一振りだが無駄や乱れが一切ない動作でわかる。彼女は剣の鍛錬をしっかり積んで……しかも強い。

「私は弓も使えるが、剣とて人間に遅れはとらない。余計な事を考えるより、お前は自分の心配をするのだな」

僕の無用な気遣いに眉をしかめて言い放つ女性。

「──そういうことなら。こちらも真剣にやらせていただきます。それと、お前ではなく、僕の名前はシン……パーティー【白き雷光】の魔法剣士のシンです!」

決意を伝えるように、そして自らを鼓舞するように告げ。名乗りをあげて木剣を拾いあげ両手で握り構える。

「お前のような人間に名乗るのは虫唾が走るが、挑んだ以上名乗ってやろう。私はエルフの戦士グレイス――借りを返してやる……!」

グレイスと名乗った彼女は巣を荒らされた獣のような鋭い眼光でこちらを睨む。借りがなんのことなのかいまいちピンとこないものの、恐らく昨日の尋問を途中で止められた事に対しての鬱憤を晴らそうというこなのかもしれない。
僕の方だって昨日の乱暴――そりゃ気持ちよくはあったものの、突然の辱めに多少は思うところがある。それと、この機会に二つ……確かめたいこともある。

「よろしく、お願いします」
「……手加減はしない」

小さく頭を下げ、木剣を握る。グレイスはそれを値踏みするような瞳で見つめてきた。
……一度パーティーを追放されてから今日まで、僕は様々な相手と戦ってきた。
ドラゴン。スライム。ゴブリン。ゴーレム。サキュバス。それら以外にも沢山の魔物たちと戦った。しかし、人間相手にまともに戦ったのは仲間になる前のカグヤが最後だったと思う。
追放される前も剣の鍛錬はずっと重ねてきた。
そして追放された後は補助魔法の練習もしつつ、さらに剣の実力をあげるために努力を繰り返していた。だからこそ知りたい。
――今の僕の生身の剣の実力はどのくらいなのか。人を相手にしてどれだけ戦えるのかと。それが確かめたいことの一つ。

「……行くぞ!」

怒りを抑えるように歯ぎしりしながら告げた言葉が開始の合図だった。
声にならない吐息を「シッ!」と短く吐き出したグレイスが前傾し、真っすぐ僕へと駆けてくる。
素早いその動きの中で見えた右手。そこで握られた木剣は、刃を後ろに向けた逆手持ち。ニーナやカグヤが短いナイフでそういった構えを取ることはあるが、長い剣では随分珍しく思える。
どう攻撃を繰り出されるのか軌道の読みにくい構えに、僕は意識を集中させる。
そして、互いの攻撃圏内に到達するや否や、彼女は木剣を逆手で持ったまま右手を振り上げ僕の肩を狙う。その速度はやはり鍛錬が窺える鋭い一撃だった。
見えにくい位置からの攻撃。しかし、それを僕の目は捉えており、寝かせるように両手で持った剣を傾け防ぐ。すると動きに遅れて硬質な木がぶつかりあう音が響いた。
予想外の動きと素早さはあるが、重さはない。速度を重視し、奇襲などに特化した剣術なのだろうか?

木剣同士が拮抗した一瞬にそんな思考が巡る。そんな僕の一瞬の緩みを狙ったのかどうか、グレイスがニヤリと口元を歪め、一気に動きだす。
戦っている最中にも関わらず一瞬剣を手放し、逆手で持っていたそれを流れるように順手で持ち直す。僕の剣の力も利用し、巻き込むように後ろに引き下がった彼女はその場で地面を蹴って回転し、逆方向の上段から僕へと剣を振りおろしてくる。風を切る音が肌をヒリヒリと焦がすような錯覚を与えてきた。
グレイスが剣を引いたため崩れた体勢になった僕だったが、中腰のまま上半身を捻り、下で受け止めるように剣を真横に向けた。そして再び、木のぶつかる甲高い音が響く。
体勢を立て直すべく力任せに剣を振り上げると、彼女はそれを察知したのか軽い足捌きで後ろに飛び、トントンと地面を叩きながら距離を取る。

早く、そして身のこなしが上手い。目の前の戦士は事前の予測通り、確かな実力者だ。
ギルド等でランクをつけるのならば、少なく見積もってもAランクには位置するかもしれない。
――けれど、補助魔法無しでも動きが見える。そして、僕の体もそれになんとかついていけている。

「シン! がんばって」「負けんなよー」「頑張りなさいな!」
距離をとった僕達の周りから、レナ達の応援が聞こえる。そして、声は三人だけではなく、

「グレイス! エルフの力を見せてやれ!」「そんなひょろい男にやられんなよ」

いつの間にか周囲に集まっていた大人や子供のエルフ達。相対する彼女へも彼等の応援の声が届いており、これではまるで種族同士の争いみたいだ。

声援に応えることなく、僕は油断せずまっすぐ美しいエルフを睨む。そして彼女もまた周りを気にせず僕を見据える。

離れた位置にいるグレイスは手遊びをするように手首を支点に剣を回したり、その勢いで体の後ろで剣を持ち替えたりと舞を披露するように動いていた。
一見無駄な動作にも見えるが、どこから攻撃が来るのかこちらに把握させない柔軟な動きは厄介極まりない。

じっと観察する。そして彼女の剣の動きが左手で止まった時、僕は仕掛けるべく地を蹴り、土を抉り駆け出す。
補助魔法をかけていない状態とは言え、速度と力のある斬撃。それをグレイスの左手の剣へと目掛けて振り下ろす。

刹那、彼女の剣が消えた──いや、浮かびあがった。

狙いが消えた僕の斬り付けは虚空を流れ空振りし、その一瞬で右手に剣を持ち替えた彼女の横振りの斬撃が胴に迫る。
戦いの最中に剣を自ら手放す思いもよらない行動。僕の口から「――なっ!」と驚き混じりの声が漏れ、瞼が反射的に大きく持ち上がる。

そこからのグレイスの動きはこれまで見てきたどの剣士とも似つかない、不思議なものだった。

剣を立てて直撃を防ぐ。すると滑るようにそのまま足を狙って木剣が流れる。
跳躍して躱すと土を巻き上げながら下から振り上げるように再び迫ってくる木剣。
後ろに下がって交わすが、最初からそれが狙いだったのか土が目に飛び込んできて、反射的に瞼を閉じる。
視界が塞がったのはたった一瞬。だが、再び目を開くと幻のようにグレイスの姿が目の前からいなくなっていた。

「どこに──」

空気の流れ、隠し切れない殺気。それらを背後から感じ、慌てて振り向き剣で頭を守る。
重々しい衝突音を立ててぶつかる剣と剣。飛んだのか駆けたのかグレイスは背後に位置どり、攻撃をしてきていた。

「ほう……これを防ぐか。人間の分際でなかなかやるじゃないか──ふん」

交差した剣はそのままに、見下した態度のままグレイスが挑発するように呟き、また距離を取られる。
腕力は僕の方が勝っている。しかし速度と予測できない動きが手強い。

「まだまだ……! 行くぞ!」

余裕の表情を崩さぬまま駆けるグレイス。右、左、上、下。繋がった一つの動きのように無駄なく振るわれる剣を目で追い、感覚で察知し、なんとか防ぐので手一杯。
受け続けてはいられるものの、僕の口からは「くっ!」「うっ!」と、苦悶が漏れる。

「そらそら! どうした守ってばかりか!」

防戦一方の僕の耳に届く彼女の叫び。まるで勝利を確信したかのような態度だ。
だが、二つ気付く。グレイスの攻撃は早いものの決定的な一撃が足りない。そして僕の目も体もその動きに反応できている。ならば……狙うは一つ。

激しくなる彼女の舞うような剣戟。それは追い詰めてくるようでもあり、どこか焦っているようにも見えた。
袈裟斬りを防ぎ、鋭利な突きを躱し、跳躍したグレイスを目で追う。
回転するように後ろを振り向くと、彼女が全ての力を注ぐように両手で剣を握り振り下ろしてくる。

勝負を決めにくる一撃。――ここだ!

他の攻撃よりも力がこもったそれを半身で躱しながら、下に滑らせるように受け流す。すると剣の勢いに引っ張られ、初めてグレイスの動きが崩れた。

「やぁぁっ!」

裂帛の気合を纏わせた叫びが僕の口から漏れ、持てる限りの力と速度で剣を振るう。
そして狙いをつけた彼女の首へと真っ直ぐに剣が進む。
一拍遅れて反応し、目を見開いたグレイスの口から「しまっ──」と動揺が漏れた。
これで決まる。そう確信した僕の剣が彼女の首に当たる──寸前で力を込めて、木剣をピタリと止めた。
トンと軽く肌に当たる木剣。思わず目を閉じていたグレイスが「くっ……」と唸り、瞼を開いて悔しげに顔を歪ませる。

「はぁ、はぁ……ふぅ。僕の──勝ちです」

剣を当てたまま、少し荒い息を一つ吐き出してそう告げると、

「やった!」「ヒヤヒヤさせんぜ」「魔法も使わず……上出来ね」

仲間の安堵や賞賛の声。そしてエルフの観衆の拍手が聞こえてきた。そしてそれらの対象は勝った僕だけではない。

「あの人間やるじゃねーか」「おにーちゃんすごい」「グレイスさんもかっこいいー!」「二人ともいい戦いだったぞー!」

僕とグレイス。二人の健闘を称える言葉が渦のように広がっていく。子供も大人も――エルフも人間も関係なく、正々堂々と持てる力で剣を交わしていた僕らに対する純粋な思いが伝わってくるような気がした。
そうして少し恥ずかしく、けれど誇らしい気分で周りの様子を窺っていると、剣を向けたままのグレイスがプルプル震えだす。

「──ちっ! こ、この程度で勝った気になるなよ……! つ――い――」

聞こえた声は先程までの自信に満ちていた見下すようなものとは打って変わり、悔しそうだ。しかも先細りするように声量が下がっていくせいで、最後は何を言ったのか聞こえない。

「えっと……なんて?」
「――つ、次は絶対に負かしてやるからなぁぁー!」

僕の問いかけがきっかけとなったように大声を出し、悔しげに瞳を潤ませ、遊びで負けた子供のような言葉を放つグレイス。それを言い残し、顔を真っ赤にして彼女は突然走っていく。
自尊心が強そうだし、負けず嫌いなのかもしれない。
すごく強かった。けれど勝てた。その結果を手放さないように固く握りしめた指先を僕はじっと見つめる。
確かめたかった事の一つ。自分の今の実力が少し分かった気がする。

そしてもう一つ。――女性相手に惑わされずに戦えるのかという、なんとも情けない疑問も確かめられた。
相手が誘惑してきたりしてこなければ、僕は戦える。……多分。

去りゆくグレイスを見つめ、貴重な経験を積ませて貰ったことに胸の内で感謝する。
そして、また手合わせしたいな。とそんな事を頭の片隅に思い浮かべ、僕は満面の笑みを浮かべる仲間の元へと歩き出した。

「シン――」

大げさに手を広げて駆け寄ろうとしてくるレナ。しかし、彼女が僕の元に辿り着く前に、

「おにーちゃん強いね!」「かっこよかったよ!」「おい、人間! 次は俺とも手合わせしてくれよ」「人間の剣技も大したもんだな」

僕は何人ものエルフに囲まれてしまう。
矢継ぎ早に繰り出される声と、下から裾を引っ張る子供たち。それにどう対応したものかと狼狽えてしまうのだった。

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