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第5話 後悔する

「襲ってしまいました……」

迷宮での状態異常を治療してもらうために街の治療院に頼み続けた。
どこも人が足りない、部屋が空いてない。と理由をつけて断られた。
嘘をついていると私には分かった。発情した私はさぞ見るに堪えないほど醜かったのだろう。
全員顔をしかめて怯えていた。
状態異常の進行はゆっくりだったけど、気付けば足腰が震えて動くのも困難になるほどにまで進行してしまっていた。
パーティーの仲間も治せる治療師を探してくれた。
珍しい状態異常だけど、きっとすぐに治ると励ましてくれた。
あの時、気づけば記憶すらなく外を歩いていた。
不味い、と思う間もなく急激に熱を持つ体を引きずって人のいないほうへと向かった。
思考さえも定かじゃなかったように思える。
グールのようにフラフラと街をうろつき、寂れた場所で一つの小さな治療院を見つけた。
弱々しくノックして、出てきたのは――

「罪なき少年を……よりにもよってエルフの私が襲ってしまいましたぁぁ……」

崩れ落ちるように膝をついた。
自責の念が押し寄せてくる。
それもある。それが何よりも重大なところ、でも、それだけじゃなかった。

「あああ、ど、どうすれば。アイリさんはまだ帰ってこないんでしょうか……わ、私一人では冷静な判断が……っ」

自宅へと戻った私は部屋の中でうろうろと落ち着きなく歩き回っていた。
エルフという種族は目がいい。自然と共に暮らす故の進化か、それとも精霊様の加護なのか、他の理由があるのか。
それは分からないが遥か遠くに落ちている硬貨でさえもはっきりと視ることができた。
その発達した視力や人の顔色を窺い続けて身についた観察力は筋繊維の僅かな動きでさえも見分けることが可能だ。
この特技のおかげで私は大抵の攻撃は躱すことができる。生き物が動くためには体の予備動作が必要だからだ。どんな強者も弱者もそれは変わらない。
更には相手の感情も表情の筋肉の僅かな動きで読み取れる。
悪意のある人間はすぐに分かった。敵意、嫌悪、侮蔑、あらゆる負の感情を向けられた私はいつからか相手の顔を見ることをやめた。
視線を下げてできるだけ見ないように……
あの時は咄嗟だった。ただ驚いて見ただけ。

『そんな嫌でもなかったですし』

あの少年。確かトーワ? と言っていた。
不思議な発音の名前だった。もしかしたらこの国の人間じゃないのかも……髪も夜のような漆黒。まるで飲み込まれるかのような強い黒だった。
その少年の一言にはなぜか今まで感じた他者から受ける悪意のようなものが感じられなかった。
そんな馬鹿なと思い顔を上げた。

言葉にも、

その目にも、

表情にさえも、

私は唯一欠片ほどの悪意さえも感じ取れなかった。
全ての人間から嫌われ、時に騙され、常に見下されたこの容貌。
受け入れてくれたのは銀翼の仲間達だけだった。
初めてだった。まさか男の人にあんな目を向けられるなんて――

「また来て……って」

かぁ、っと顔が茹るように熱くなる。
嘘じゃなかった。あの優しい視線を向けられ紡がれた言葉は、紛れもなく私を心配してくれているものだと理解できた。
いや、あれは治療師として……それは分かってる。分かってるけど嬉しすぎる。

「うぅぅ~~~~」

裸だったことも失念していた。
あの時は仲間たちの事でいっぱいいっぱいで……
トーワさんは許してくれると言っていた。
許して貰えた安堵、それを受け入れていいのかという疑心、裸を見られた羞恥と醜いものを見せてしまった申し訳なさに、初めての異性から向けられた嫌っていないという表情に私の頭の中はパニックだった。どうしたらいいのか全く分からない。
だけど、そんな少年にこんな醜女の私が襲い掛かってしまったという罪悪感が心を焼く。
いっそ死にたいほどだった。
目が覚めた時は自分がやらかしたことを思い出し完全に「あ、これは終わった。ごめんなさい皆さん」という思いで一杯だった。
まさか強姦してしまうとは。
あっさりと理性を手放し、浅ましく腰を振ってしまうなんて……
状態異常だったなんて、理性がなかっただなんて何の言い訳にもならない。
あの少年はきっと怖かったはずだ。

それに私がどんな罪に問われても仲間たちが苦しむのは……
どんなことをしたとしても、という覚悟で頭を下げた。
強姦した被害者相手に保身を考えている自分を理解して自己嫌悪した。
私は最低だ。見た目だけじゃない。その心根までもが穢れていたんだと。
せめてこの命で少しでも償えるならと本気で思っていた。

でも
勝手だけど、凄く身勝手だけど
今はそれよりもなによりも――あの”好意”の感情が信じられない。
「あ、夢?」

頬を力いっぱい抓った。
痛い。夢じゃない。あまりにも現実味がない現実。心臓の鼓動の高鳴りがここは夢じゃないと伝えてきていた。

「いや、落ち着いて私。深呼吸しないと……」

すーはーと息を吸い込んだ。
ゆっくりと吐き出す。

「と、とにかくもう一度会いに行かないと。改めて謝らないといけないですし……そ、それに経過も診たいって言ってましたし……」

私はパーティーでは広い視野を活かして後方から指示出しや支援を主な役割としている。
そこまで専門ではないけど、ヒーラーとして仲間達を癒したり。
なので多少知識はあった。でもたった1日で治るなんて聞いたことがない。私の回復魔法では気休め程度にしかならなかったんだから。
もしかして凄腕の治療師の人なんだろうか?
あるいは治療師の中でもさらに専門的な人?
色々考えていると扉が開く音が聞こえてきた。
どたどたと足音が聞こえてくる。この乱暴な歩き方はアイリさんだろう。
よかった。ようやく帰ってきてくれた。
赤い色のショートヘアー。燃えるような髪にその威圧的な長身を思い出す。
嫌なことでもあったのか、いつもより足音は荒い。

「くっそ! あいつらアタシの依頼は翌日にならないと受け付けられないんだとよ! シルヴィ! なんとか明日まで耐えて……ん?」

アイリさんにはギルドで状態異常を治してくれる治療師を探しに行ってもらっていた
どうやら依頼は貼り出して貰えなかったみたいですが、丁度よかった。
なぜならトーワさんのお陰で私の体は完治しているから。今では煮詰めたような性欲は感じられず、体が軽い。
浅ましい欲望で曇っていた頭は霧が晴れたようだった。

「シルヴィ!? 治ったのか!?」

「はい。ご心配おかけしました。それでですね……さっそくなんですが相談が……ひゃ!?」

突然抱きしめられた。衝撃でたたらを踏みながらアイリさんを見る。

「よ、よかった~~! だから言っただろ! 腕の良い治療師なんてちょっと探せばどこにでもいるんだって!」

快活に笑うアイリさんに抱きしめながら背中をバンバンと叩かれる。
アイリさんは力が強いのでちょっと苦しいですが……

「あ、アハハ」

そういえば弱気になった時に、このまま治らなかったら……なんて言ってしまったような。
彼女には心配をかけたようだ。
一言謝り、それに続けて「ありがとうございます」と伝えた。

「はー、よかった。これでまた明日から活動できるんだな」

「あ、それについてもう少し時間がほしいと言いますか」

「あん? まだ全快じゃねーのか?」

「いえ、ちょっと色々ありまして……」

アイリさんにこれまでのことを伝える。
最初はふんふんと頷いていたアイリさんだったけど、次第に眉間にシワを寄せて、最後には「馬鹿か!」と怒りに身を震わせていた。
というか拳骨を落とされた。

「なにやってんだよ!」

「うぐ……す、すみません」

「謝るならそいつにだろうが!」

今度は怒鳴られる。
だけど、怒ってもらえたことが嬉しかった。
そんなわけないけど少しでも償うことができた気がして。
アイリさんは、「それはそれとして」と言って語気を荒げる。

「アタシ達に優しいとかそんな男がいるわけねーだろ。この街に来て何回騙されたと思ってんだよ」

「だ、騙されるというか、今回はこっちが普通に加害者なのですが……」

そもそも好意云々はその少年が言っているわけではない。
私が勝手に判断したことだった。
それを聞いてアイリさんが考え込む。腕を組んでしばらく黙ると静かに口を開いた。

「けど、そんな都合の良い話があるわけねーよ。シルヴィが、仲間が傷付けられるのはもう嫌だ……」

「アイリさん……」

彼女が私たちを心配してくれてるというのは痛いほど理解してる。
優しくされるだけならまだしも、好意的に感じたというのは幻惑や魅了を疑っても仕方ないことだと思う。実際に私達”銀翼”は過去に似たようなことで騙されている。
だからアイリさんが不安に思うのも分からないでもないけど……

「やっぱ怪しいだろ。本当に好意だったのか?」

それは間違いないと思う。
長年の経験で培われた観察眼が見間違えるとは思わない……でも、現実味がなさ過ぎて本当にそうだったのだろうかと絶対の自信を持っていた自分の能力さえも疑ってしまう。

「どうだろーな。シルヴィが言うなら信じたいけどよ……好意だぞ? 男がアタシ達を見て好意を抱くなんてあり得るのか? しかも襲われた後にだ。どう考えても怪しすぎるだろ」

言いたいことは分かるけど、そこまで疑うのも失礼ですよ。と注意した。
今回の被害者はあの少年だ。そんな彼を貶める発言はたとえ仲間でも許したくなかった。

「あーわりぃわりぃ。けどギリギリ耐えたんだろ?」

「本番行為は我慢しましたが……でもそれは相手の少年には何の慰めにもなりませんよ。エルフに迫られたなんて怖かったでしょうし……アイリさんの言う通り明日にはもう一度誠心誠意謝りにいきます」

若くて、成人したばかりか、してないかくらいだろうか?
きっと怖かったに違いない。自分がしたことが今更になって恐ろしいと感じた。
彼の感じた恐怖はそれ以上だろうと容易に想像できる。

「うああ……わ、私はなんてことを……」

「今は気にしすぎても仕方ねーよ。病み上がりなんだから今日はもう寝てろ」

慰めてくれるアイリさん。優しい言葉をかけられても、私の心は晴れない。

「うぅ、だって、私ですよ? エルフに性的に襲われるなんて私が相手の立場だったら絶対トラウマになりますよ……」

ハァ、とアイリさんは大きく息を吐いた。

「明日はアタシも行くから」

え? と口から疑問がこぼれる。
私の困惑が伝わったのか、アイリさんが続ける。

「シルヴィがやらかしたんなら、アタシだって無関係じゃねーだろ。相手の気が変わってるかもしれねーしな。その時は許してもらえるまでアタシも頭下げるから」

「で、ですが……」

「うるせぇ、任せろ」

強引に話を切ったアイリさん。
何だろう。この頼もしさは。不思議と胸のつっかえが軽くなった気がした。

「だけどそれはそれだ」

アイリさんに睨まれる。何か言えば殺されるんじゃないかというほどの殺気を感じた。
嬉しいですけど、こ、怖い。

「もう絆されてるなんてことねーよな?」

「い、いえ。でも……」

「でも、じゃねーよ! 前だって報酬持ち逃げされただろーが!」

それを言われると強く出れない。
でもあの時はアイリさんだって同意してくれてたような。

「くっそ、今思い出してもムカつく!」

今まで散々騙された。財産目当てに近づかれたこともある。危険なクエストを受けて報酬を受け取る際に手が触れただけで顔をしかめられたことも。
何度も傷ついてきた。
一等地に豪邸を建てられるほどの金額を握りしめて娼館に行っても、男娼に会わせてさえもらえない。
無理にお願いすれば、どんな男性も震えて怯え、股間を萎えさせる。
虚しさに泣きながら朝まで飲んで――
アイリさんはそれを心配してくれてるんだと思う。

「……悪い」

「いえ、分かってます」

心配してくれてるのは分かる。男の人を信じられないのだって痛いほど理解できた。
だから私はアイリさんに無理に笑いかけた。

でも、と思う。

駄目なんでしょうか?
少しでも男の人と仲良くしたいと思うのは。
男性からの愛を知りたいと思ってしまうのは。

あの幻のような言葉に、生まれて初めて見た感情に、もう一度触れたいと願ってしまうのは――許されないのでしょうか?

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