巨乳キャラあつめました 巨乳のキャラクターが登場する漫画や小説を集めたサイト

第9話 「みぃ、みぃ」

グリルの街をミーナさんと歩いていた。
串焼きを売る屋台の男の人や、雑貨を売る露店。
宿へとお客を呼ぶ看板娘。
いずれも見たことのある光景だったけど、街行く人達はどこか浮足立っているようだった。

「なんだか慌ただしいね」

「そ、そう?」

隣からミーナさんの声。
なぜか彼女は出会った当初の態度を一変させて、僕の斜め後ろ辺りでおどおどとしていた。
僕は患者の人のいる場所を知らないから、先導してほしいんだけど。

「僕にはあんなに太々しかったのに」

「ご、ごめんなさい。人混みは苦手で……ひぅ!?」

売り込みの声に体を跳ねさせていた。
確かにいつもより人が多く見える。人で賑わっているこの状況は僕も人に酔いそうだった。
何かの記念日だったっけ?
そうミーナさんに尋ねるべく顔を向ける。

「ミーナさん?」

彼女は顔を俯かせていた。
人混みが苦手らしい彼女はそれなのに僕を頼ろうとはせず縮こまってジッと耐えている。
僕はそのことに思わず小さく息を吐いてしまう。
ミーナさんはすぐにビクッと体を竦ませて僕を見てきた。
怯えるような上目遣い。なにその顔……最初の図々しさはどこにいったの。
そんなに怯えられると何もしないわけにはいかないじゃないか。
僕は震える彼女の手を取った。

「怖いなら最初から言ってほしかった……」

「え? あ、え?」

困惑気味のミーナさん。
怖がりながらも振り払われたりはしなかった。

「…………」

「余計だったかな」

「そ、そんなことはない。その、暖かくて……あのっ、か、感謝する……でも、トーワは私に触れてもなんとも思わないの?」

「子供が余計な心配するもんじゃないよ」

そう言って、彼女の手をより強く握った。
多少強引だったかもしれない。
でも驚きながらもミーナさんはおずおずと握り返してくれた。

「私は……もう15歳。子供じゃない」

そこに引っ掛かってムキになる内はまだ子供なんだよ。
妹がいたらこんな感じだろうかと、思わず軽口で返事をしてしまう。

「はいはい、それは失礼しました」

「むぅ、なんだか適当……」

頬を膨らませて抗議してくる。だけど僕の安心させるという目論見は成功したらしく、肩の力は抜けて表情はどこか柔らかかった。
まだ人の声に怯えることはあったみたいだけど、その時は僕の腕に抱き着いてきた。
それに気付くと謝ってすぐに離れていく……無意識の行動なのかな?

「いいよ。僕の腕なんかでよかったら」

「いや……さすがにそこまでは、ひぃっ」

と言いつつくっ付いてくるミーナさんなのであった。

「ち、ちがっ、これは」

ミーナさんが顔を真っ赤にして何か言ってるけど、スルーした。
なんか本当に妹みたいに思えてきた。可愛い。
ミーナさんからも小声で「兄妹みたい……」って聞こえてきた。
自分の発言に気付いたミーナさんがハッとした様子で赤くなりながら慌てている。

「そ、それより、もうすぐ私たちの家に着く」

「うん、任せて」

安心させるように笑いかけた。
もう大丈夫かな? この辺りは人通りが少ないようで、閑散としてるとまでは言わないまでも、物静かなところだった。
進むにつれて人はいなくなる。それでもミーナさんは自分から離れようとはしなかった。
僕からそれについて言及するのは憚られた。なんとなく無言になったまま僕たちは歩いていくのだった。

「ここが?」

「そう、私たちの家」

白い石壁。周りの住宅と比べても二回りは大きいその建物はちょっとした豪邸と言っても差し支えないだろう。

「綺麗な家だね。大きいし」

「宿に泊まると嫌がられるから頑張った。どうせなら大きい家のほうが皆で一緒に暮らせるからって」

前半に関してはなんとも言えないけど、後半部分に関して気になったことを聞いてみた。

「皆って?」

「家族」

ミーナさんは獣人族だ。同じく獣人族の家族がいるんだろう。
親か兄弟か、さっきの兄妹みたい、という発言から考えるに、両親だろうか?
ミーナさんの表情に慈しむような優しい笑みが浮かんでいた。

「それじゃあさっそく診察させてもらおうか。その人はどこにいるの?」

今度はミーナさんに手を引かれる。
人の多かった外とは違いその足取りに迷いはなかった。
家の扉を開けるとそのまま土足で上がらせてもらった。
日本人の僕にはいまだにこの家に土足で上がり込む習慣が慣れなかった。半年も経つんだからちょっとくらいは順応してもいいとは思うんだけどね。
なんて考えているとミーナさんが突然立ち止まる。

「どうしたの?」

「どうやら出かけているらしい。匂いがない」

「患者さんは歩ける程度には元気ってこと?」

ミーナさんが頷く。
申し訳なさそうな顔を見て大丈夫だよと言ってあげた。

「けど歩けるならそこまで緊急じゃないってことだね。病人が出歩くのは感心しないけど」

とはいえ歩ける元気があったのはよかった。
想像していたほどの緊急性はなかったみたいだ。

「最後に会った時にはとても辛そうだった……」

ミーナさんが不安そうに表情に影を落とした。

「ごめんなさい。どうやら時間をとらせてしまったらしい」

「無駄でもないよ? こうしてミーナさんの家の場所も知れたからもしなにかあったらすぐに来れるし」

「…………トーワ、気になっていた。ミーナ”さん”はやめてもらいたい」

「うん?」

するとミーナさんは少しばかり眉根を寄せていた。
怒ってるみたいだ。面白くなさそうな顔をしている。

「トーワは年上。それに強い雄。そんな雄に”さん”付けされるのは……なんというか心苦しい」

強い? 僕は治療師で強いってわけでは……まあそこはいいや。
獣人族ってもしかして体育会系みたいなノリの種族なのかな?
僕は呼び方に拘りはないので訂正した。

「じゃあミーナ。これでいい?」

「うん、それでいい」

なんか調子が出てきたみたいだ。最初よりも心なし近くなった距離で彼女は僕の手を引いた。

「お詫びをしたい」

「ん?」

「お茶くらいは出す」

あー、どうしよう? 好意を無下にするのも気が引けたけど治療院空けたままなんだよね。
だけど迷っている間にも彼女は僕の手をぐいぐいと引いていく。
嬉しそうな彼女の子供みたいな一面を見ていると少しくらいなら、と思えてしまった。立札も裏返していたはずだし……
それからお茶を飲みながら軽く雑談をした。
最初はこんなことしてていいのかな、とも思ったけど僕の治療院に人なんてほとんどこないしね。
ここはカウンセリングってことで……お喋りしてるだけだけどね。
しばらく話した後、不意にミーナに聞かれる。

「なんで、トーワはそんなに強いの?」

「強い……? 僕が?」

どこでそう判断したんだろう。僕に強い要素なんて0だと思うけど。
冗談かとも思ったけど、ミーナの顔はいたって真剣。

「私の顔を見るときの……なんというか、上手くは言えないんだけど余裕みたいなものを感じる」

「ああ」

ようやく理解した。
そこに繋がるわけだ。
僕のこれは強弱とは無関係だけど、ミーナなりに自己解釈したらしい。
とはいえ理解してからどう説明したものかと悩んだ。

「ミーナのことは可愛いと思うよ」

「……嘘はやめてほしい。優しくしてくれるのは嬉しいけど……私は醜い。体だって」

沈んだ表情で自嘲した。でも少しだけ自慢気に胸だけは小さいけど、と付け加えた。
この世界って胸が大きいと淫乱みたいな印象なんだっけ。
お腹の脂肪は富の象徴らしいけど。ようするに寸胴体系が至上とされてるわけだね。
僕は胸の大きさに拘りはない。胸は形と感度なんじゃないかなって思ってる。
まあそれはさておき――

「僕はブス専らしくてね」

「ブス専?」

「不細工専門。不細工にしか興奮しないド変態らしいよ」

「……は?」

アイリさんの言葉を借りてみた。あの時のことを思い出して苦笑い。
酷い言われようだったなぁ。
アイリさんは今頃なにしてるんだろうか。
というか言った後でこれ僕も酷いんでは、ということに気付いてしまった。
面と向かって女の子を不細工発言はないだろう。
失言を詫びた。

「ご、ごめん。酷いこと言っちゃった」

「い、いや、それは構わない。けど、ま、待って、理解が追い付かない。それはその……トーワは私の顔に興奮するということ?」

「あー……うん、そうだね。魅力的だよ」

興奮するとはさすがに答え辛かった。直接的すぎるし。
でもこれは本心。だから野良猫のご飯食べちゃダメだよ。美少女があんなワイルドな食べ方……
なんて考えてる間にもミーナはぶつぶつと呟いていた。
まさか、とか、そんな、とか聞こえてくる。珍しい性癖だとは思うけど、この世界にもいないことはないはずだ。
出会ったことはないけど僕の世界にもいたと思うし。
僕は、だからね、と続ける。

「卑下するのもほどほどにね。ミーナのこと好きな人もいるんだからさ。見た目だけじゃなくて、家族想いなところだって――」

その時。
不意にミーナの喉から「みぃ」と猫の鳴き声のような言葉が漏れた。
それに気づいたミーナは慌てて口元を抑えていた。

「?」

「な、なんでもない……っ!」

しゃっくり?
見ると彼女は顔を強張らせていた。顔も少し青白いような?
だけどすぐに顔色も戻る。どうやら気のせいだったみたいだ。
けど、しゃっくりは治まらなかった。
話していると時折零れ出る「みぃ」という言葉。

「……何かの遊び?」

「っ゛み、な、なんでもな……み゛ぅ……っ、んぐっ」

顔を真っ赤にして、目の端に涙まで浮かべてる。
それからも話したけどミーナの家族が帰ってくる様子はなく陽も傾き出した。
長居しすぎるわけにもいかない。僕は立ち上がった。

「そろそろお暇するよ」

言葉にはしなかったけどミーナは寂しそうに瞳を揺らした。
後ろ髪を引かれる思いだったけど、人が来ないとはいっても治療院をずっと空けっぱなしというわけにもいかないし。
また来るよ。と伝えるとぱぁっと顔を明るくさせて喜んでくれた。本当に妹ができたみたいだった。
見送りを買って出てくれたけど、さすがに女の子に送ってもらうわけにはいかない。
悪いとは思ったけど遠慮しておいた。人混みにも苦手意識のあるミーナに頼むのも気が引けたから。
ミーナは不服そうだったけど、こればかりは納得してもらうしかない。体調も良くなさそうだったし。
帰り際にヒールをかけておいた。
僕も大概過保護なのかもしれない。

他の漫画を見る