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第12話 貢がれる

「ふー」
外に生えた雑草を抜き終える。
僕はいくつかの薬草を自分で栽培している。
成功したらそっちの方が安上がりだろうし、趣味としても楽しいし。
畑、というには大袈裟かもしれないけど。
しかし、薬草は生命力が強く少し放置しただけですぐに強く根を張ってしまう。
薬草と雑草は見分けがつけ辛い。だというのに薬草として使うためには雑草と区別しないといけない。
どこにでも生える薬草だけどそういう地味な面倒臭さがある素材なのだ。
あと大した量でもないだろうと高を括っていたのだけど、これが意外と重労働だった。

「うへぇ……汗でべとべと」

服が張り付く。太陽が2個ってこういう時に嫌になる。絵面だけで暑いし。
こんな時は日本人として熱いお風呂に入りたくなる……

「にゃー」

と、水浴びする間もなくいつもの猫たちがやってきた。

「先に水浴びしてきていい?」

「にゃぁ~」

そんなわけないんだけど急かされてる気がした。
分かった分かった、と急ぎいつものご飯を持ってくる。
そうして日課になりつつある野良猫たちへのご飯をあげている時のこと。
喉を鳴らして甘えてくる子猫を撫でていると来客がやってきた。
猫人族の少女ミーナだった。水色の長髪を機嫌良さそうに揺らしている。
彼女は大きな果物籠を背負い、その籠には溢れそうなほど大量のアプルの実が入っていた。
この世界の固有種なんだけど、見た目はまんまリンゴだ。味も薄めではあるけど地球のリンゴと同じようなものと思ってもらって間違いないだろう。

「アプルの実。いっぱい持ってきた」

「どうしたの? そんなに沢山」

「トーワに食べてほしくて」

ミーナはキラキラした目で僕を見上げる。
僕が聞きたいのはなんでそんなに沢山手に入ったのかってところなんだけど。
答えにはなってなかったけど、あまり女の子に重い物を持たせ続けるわけにもいかない。
挨拶は程々にミーナに籠を地面に下ろしてもらう。
続けて僕がそれを持ち上げた。

「っ、重いね」

「わ、私が持つ。トーワが転んだら大変」

それを言ったらミーナの方が転びそうで怖いんだけど。
僕より小さい女の子に任せるなんて出来るはずもない。僕にだって男の意地みたいなのがあるんだから。
踏ん張るようにふらふらと籠を持ちアプルの実を運ぶと、後ろではミーナがオロオロとしていた。
まるで自転車に初めて乗った我が子を見守る母親のようだった。思わず苦笑。ミーナも過保護らしい。
人に怯えて僕の腕に抱き着いていた昨日とは立場が逆転されてしまっていた。
この量のアプルの実を持っていくなら院内より外かな。

「っと」

ふらふらと歩きながらどうにか運んで、井戸の近くまで持ってくる。
ここってオンボロな癖に井戸が近いから利便性が高い気がする。
そういえば家賃を払うのはそろそろだったか……頭の中で簡単に計算しながら、貯められた水でアプルの実を洗った。

「トーワ、私も手伝――」

ミーナが一瞬で後ろに下がった。

「うん?」

「な、なんでもない」

頭を捻った。遠くない? え、なに。僕そんなに汗臭い?
確かに朝から色々と作業はしてたけど。
でも自分ではよく分からなかった。ちょっぴり傷つくけど、気のせいだろうと気を取り直した。
アプルの実を洗い終えて、ふぅ、と一息。

「ん?」

先ほど戯れていた子猫がこちらへ寄ってきた。

「なんだよ。お前も食べたいのか?」

猫ってアプル食べれるのかな? 地球だとあんまり果物を食べさせてたイメージはないけど。
なんとなく、お腹を壊すんじゃないかという心配があった。
ヒールしてもいいんだけど、そういうのに効果はあるんだろうか……僕のヒールはちょっと特殊なので他の人の話が当てにならないというか。

「ごめんね。こういうのに詳しくないんだ」

すると子猫は拗ねる様に体を擦り付けてきた。
そんなに甘えてこられても駄目なものは駄目なんだよ。
猫を飼うような文化がほとんどないせいで、調べても飼い方や食べてもいいものなんて分からなかったし。

「ごめんって、遊んであげるから許してよ」

僕の手の中でじゃれる子猫に話しかける。すっかり猫に話しかける癖がついてしまった。
この世界だと完全に危ない人だよね。人目がミーナ以外になくてよかった。

「トーワ」

ミーナに呼ばれた。どことなくツンとした声色だった。

「そういうのは……あまり感心しない」

閉じ気味の目をいつもよりもジトッとさせながら僕に言ってくる。
険が混じったようなトーンに僕の意識がそちらへと向けられた。

「人に慣れた猫は他の人間にも近づく。その人間がトーワのように優しいという保証はない」

納得した。言われてみればその通りだった。
僕がしていることは自己満足だ。本当にこの子たちの事を考えるなら……そうか、あんまり近づかないほうがいいのかもしれない。
落ちこむ僕にミーナが慌てる。

「えっと、こ、これから気を付ければきっと大丈夫。ここに集まってる子たちには私が言い聞かせておくから」

そういえばミーナは猫の言葉が分かるんだっけ。
具体的な言葉が分かるのか、それとも大まかなものなのかは分からないけど、意思の疎通ができる彼女がそう言うなら安心……ん?

「ミーナの言葉が伝わるなら大丈夫なんじゃ?」

「……あ」

だよね、明確に危険を説明できるならあの子たちもわざわざ近づかないはず。
ここでは僕がイレギュラーなだけなんだから。
よかった。それなら遠慮なく愛でることができる。とはいえミーナの言うことももっともなので、少しは距離感を考えたほうがいいだろうけど。

「トーワ、待ってほしい。そもそも人と猫は生活の形態があまりにも違い過ぎる。あなたもあなた。毛並みが汚れているけど水浴びはしているの? 匂いをつけようとしているの? 駄目。そんなふしだらな……そんな声出してもダメ。トーワには私が……と、とにかく駄目ったら駄目」

「……この子と話してるの?」

ミーナってこんなに饒舌に喋るんだ……
新鮮な姿に驚いているとミーナの矛先が今度は僕に向けられる。

「トーワも自覚してほしい。あんな風に雌猫たちに甘えられると他の雄だって面白くない」

「そんなドロドロしたことになってるの?」

ミーナが頷く。そうなんだ……もっとのほほんとした世界だと思ってた。
雄の猫たちに嫉妬とかされてるんだろうか。

「あと……トーワ。な、撫で心地なら私の」

「あ、待って待って。ちょ、食べちゃ駄目だって。お腹壊すよ」

子猫がアプルを齧ろうとしていたのを慌てて止めた。
玩具として転がすくらいならいいけど消化器官の弱い子供の猫にこれだけの果物がよくないことは理解できる。
アプルに興味津々な子猫を引き離して、そういえばとミーナに聞いてみた。

「でも形が良くて大きいのが多いね。これってどこのアプル?」

素人目にも良質なものであることが分かった。
色味もハッキリしていて美味しそうだし、値段がお手頃なら僕も贔屓にしたい。
頻繁に食べるわけじゃないけど、どうせなら少しでもいいものを購入したかった。

「……このアプルを採ったのは西の森。出来るだけ大粒のものを選んだ。時間は掛かったけど、気に入ってもらえたみたいで何より」

西の森?
彼女の言葉の意味をしばらく本気で考えた。
え、これ売り物じゃないってこと?
ミーナを見ると先ほどまでとは違い少しだけ表情が緩い。
熱っぽいキラキラとした目が僕を見上げていた。

「アプルの実って確かアプルトレント? だっけ。木みたいな魔物に実ってる果物だよね?」

「うん」

「確か危険度そこそこ高かったよね?」

「駆け出しには危ない魔物かも」

僕は顔を引き攣らせた。
この世界に来た時に一時期冒険者という道も考えていたから調べたことがある。
確か僕この魔物に殺されかけた。意外と硬くて剣は刃が欠けるわ、強い癖に某RPGのモンスターばりに仲間呼ぶわでかなりの強敵だったような……
しかも擬態してるから森の中だとすぐに不意打ちされたりとか。
僕より小さいミーナがあれ倒したってこと? さすがに危なくない?
ミーナにもう一度確認する。

「貰い物とかじゃなくて?」

「もちろん。全部私が採ってきた」

「市場とかだと魔物使いの人が養殖したのが出回ってるんだよね? 自然種は栄養価高いけど戦闘となると危険すぎるからってことで」

「その通り……よく知ってる。トーワは博識。凄い」

そんな危ないアプルトレントに実ってるアプルをこれだけ採ってこれるミーナの方が凄い気がするんだけど。

「いやいやいや、ミーナ? え、大丈夫だったの? 怪我は? ヒールかけようか?」

デリカシーに欠けるかもしれないけど思わずミーナの体に視線を向けてしまう。
手足に僅かばかりの汚れがあったけど、怪我はないようだった。
見えないところはどうだろうか? 確認する前に治療するわけにはいかなかった。
汚れがついたままヒールすると体内に汚れを取り込んだまま傷口が塞がってしまうから。

「と、トーワ? そんな、私を心配してくれて……み、ッん゛ん!」

ミーナが大きく咽ていた。その後口元を抑えて何かを堪えている。
……どこか痛むところが?
僕が心配そうに彼女を見ると、ミーナはなぜか息を荒くしたまま「だ、大丈夫。怪我はない」と答えてくれた。
一安心したけど、それでも驚きがあった。

「……ミーナって冒険者だったの?」

「う、うん、これでもランクはそこそこ高い。何か困ったことがあれば私に言うといい」

し、新事実なんだけど。
頭を抱えたくなったけど、冒険者は危険と隣り合わせの職業だ。
昨日今日出会ったばかりの僕が彼女の仕事に口を出すことはおこがましいのかもしれない。だけど心配だ。可愛い妹分に対して少しくらい何か言っておきたい。
そんな危険を冒して採取したアプルの実を僕にくれる理由も相変わらず不明だし。

「……何体くらい倒したの?」

「詳しくは数えてない。でもたぶん七体か八体くらいだったような」

途端に体を強張らせるミーナ。不安そうに瞳を揺らしている。

「す、少なかっただろうか?」

怒られる前の子供が怯えるような上目遣いに罪悪感を感じる。とはいえ僕には意味が分からない。
けどしばらく考えたところでようやくミーナの行動の理由に思い至った。

「あ、もしかして治療費ってこと? ごめん、物々交換はやってないんだ。治療費は後払い。貨幣で払ってもらいたいかな」

これは各治療院の間でも決められている明確なルールの一つだ。
ある程度の裁量はそれぞれの治療院に委ねられているけど、基本的にゴルド通貨以外での支払いは認められていない。
変な前例を作ると後々トラブルの種になるだろうしね。僕の一存ではどうにもできないことなのだ。
治療院を通したものならそこはきちんとしてもらわないと。

「うん? 何を言っているの?」

しかし、ミーナの反応を見るにどうやら違ったらしい。彼女は小首を傾げていた。

「昨日のことだけど、私とは関係ないところで治療を終わらせたらしい」

「え、そうなの?」

ミーナは頷く。
それについて謝罪されたけど全然謝られるようなことじゃない。
でもそうだったんだ……ミーナの家族のことは僕としても心配だったから素直に嬉しい。
挨拶もできなかったのは残念といえば残念だけど、無事に快復したことを喜ぼう。
けどそれなら治療費は無関係ってことだ。益々意味が分からない。結局なんで危険を冒してまで僕にアプルの実を?
するとミーナはさも当然のように答えてくれた。

「雌が狩りの成果を貢ぐのは当然のこと」

「あー……そっか。なるほどね」

深く頷きながら僕は思う。
つまりどういうことだろうか。

「……貢ぎ物?」

「うん」

堂々とミーナは答えた。当然だと言わんばかりの態度だったので、僕が間違ってる気がしてきた。
だけど、そういう意味ならこれは受け取れない――とは口にできなかった。
ミーナの目があまりにも期待に染まっていたから。

「あのね、こういうのは」

「う、うんっ」

声を上擦らせてミーナは僕との距離を縮めてきた。
いや、そもそもどういうこと? 貢ぐってなに?
この世界の人ってそういう風習みたいなのがあるの?
それとも獣人族特有のものなのだろうか。うーん、分からないけど日本人の僕にはピンとこなかった。
うん、やっぱり言おう。

「トーワに喜んで貰いたくて頑張った」

ミーナが普段はあまり動かない口角を上げて、にへっ、と可愛らしく表情を緩ませた。

「……そうなんだ。凄い嬉しい。ありがとう」

だ、駄目だった……
もしここでミーナを叱って少しでもこの笑顔が曇ると思った瞬間。あ、これは無理だと感じた。
言える? 上目遣いで期待にキラキラと目を輝かせるこの子怒れる?
ミーナの為にならないと分かっていても、僕にはできない。
甘ったれるなと僕が怒られることだと思うけど……でも代わりと言ってはなんだけど一つ代案を思いついた。

「あ、そうだ! お礼させてよ!」

我ながらナイスアイディアだ。
正当な対価を払うなら僕としても問題はない。

「……? 何を言っているの?」

「ミーナが頑張ってくれたんだし、それに対して何かしてあげられたらなって」

ミーナは僕の言葉が理解できなかったかのようにキョトンとしていた。

「トーワ、私はとても感謝している。それに少しでも報いたいと思った。対価なんて求めてない。それはおかしいこと?」

「感謝……?」

何に対してだろうか。
結局治療に関しては力になれなかったし。

「トーワは私に優しくしてくれた」

そんなことくらい、そう思った。でもそれを実際に言葉にする気にはならなかった。
ミーナの背負ってきた人生のことは何も知らないけど、少なくともここで彼女の言葉を否定するのは野暮な気がした。

「そっか」

ここで受け取らないのは格好悪い。
貢ぐという言い方は気になったけど、素直にお礼として頂こう。でも腐る前に全部食べ切れるかな……結構な量だけど。

「分かった。ありがとう」

「うん、次も期待していて」

……え、次もあるの?

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