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第20話 前夜

怖いです。
冷静になって怖くなってきました。
食器を片付けてから一息つくと、頃合いを見計らって二人を呼びます。
アイリさんとミーナさんを前に私は言いました。

「怖すぎるんですけど」

えぇ……みたいな目を向けられた。
確かにさっきのさっきですけど。

「……そうだな、それに出会って半月ちょっと経ったかどうかくらいだし早い気もするけどよ」

「本当に怖いんですけど……ッ!」

「シルヴィ、落ち着いて」

見かねたミーナさんに注意された。
決意を固めてしばらく。
私は想い人に告白をするということでアイリさんとミーナさんに相談に乗ってもらっていた。
食事を終えてから、席について私の話を聞いてくれています。

「は、早まってますかね? 私、殿方に告白って初めてで……こういうのってもっと時間をかけたほうがよかったりするんでしょうか?」

決意したはいいものの、胸の奥から数々のトラウマが……
過去の古傷が痛んでこれでもかと不安を与えてくる。

「アタシも人のことは言えねーけど、今まで一人くらい告ったりしてないのか?」

「仲良くなる前に逃げられてますからね」

今まで近づいてきた人たちは、利用できないと分かればすぐに私達から遠ざかっていった。
そんな悲しすぎる過去を思い返していると、アイリさんが「いいんじゃねーか?」と肯定をしてくれました。

「思い立ったが吉日って言うだろ?」

「……東方の国の言葉でしたっけ」

記憶の片隅に残った知識を引っ張り出す。
決意したらその日が始める最適な日、みたいな言葉でしたか。
長寿の種族である私は、どちらかというと時期を大事にするという考えの方がピンと来ますけどね。
でも言わんとしていることは分かります。いつまでもトーワさんが独り身である確証なんてないですし。
けどアイリさんって物知りですよね。
よく部屋で読書してるみたいですし、知識が幅広いと言いますか。
心強いです。

「告白場所とかは決めてるのか?」

それもまだですね。私は首を振った。
やっぱり告白はロマンチックに行いたいですよね。見た目はさておき女性の憧れだと思います。
私がそんな想像を膨らませていると、アイリさんが、そういえば……と口を開きました。

「あれのことは気を遣った方がいいんじゃねーか?」

「あれ?」

なんのことだろう。
伏せて言われてもよく分かりませんが。
するとアイリさんはミーナさんに一瞬だけ意識を向けて、ほら、と言ってきます。

「出会い頭のだよ」

強姦の事だと察した。
ざ、罪悪感が……
アイリさんが苛めてきます。
あとミーナさんにこの話題は不味いのでは。

「……?」

ミーナさんには伝わらなかったみたいです。そういえば話してませんからね。良かった……アイリさんの配慮に感謝です。
色んな意味で聞かせるわけにはいかないですからね。
でもなんでいきなりそのことを? 胸が罪悪感で痛むので掘り返さないでほしいんですけど。
胃がキリキリします。
だけど、アイリさんは「そうじゃねーよ」と私を気遣うように明るく笑いかけてくれました。

「今更そのことであれこれ言うつもりはないんだが、ロマン求めるってんなら遠出したほうがいいんじゃねーか?」

な、なるほど。一理あります。
いきなり何を言い出すのかと思いましたけど、告白場所が治療院の前となるとトーワさんもあの時のことを思い出して落ち着かないのかも。
治療院前じゃないとなると、近くにある湖の畔とか……いや、そもそも街の外に出るのは難しいのでは? トーワさんは治療院のこともありますし。

「……受け入れてもらえますかね?」

「んなこと言ってても始まらねーだろ。当たって砕けてこいよ」

「砕けてるじゃないですか……」

トーワさんは私の容姿を好ましいと感じてくれる。
ですが受け入れてもらえるかどうかはまた別ですよね……
人として好かれていないと、本当に玉砕してしまう。
もう会えなくなるのだろうか。
折角仲良くなれたのに友達でさえなくなってしまう……

あああ、な、なんだか本当に怖くなってきました。私告白するんですよね。
飛竜の番との戦闘時よりも緊張しています。
あの時は後衛職なのに私が狙われて大変だったんですよね。
だけど、トーワさんへの告白と、2体の飛竜のどっちが怖いかと言われたらおそらく前者でしょう。
例えとしては間違ってる気もしますけど、そのくらいのプレッシャーを感じます。

折角決意したのにあれこれ悩む私。横から「そりゃそうなるか」と、聞こえてきました。
アイリさんの想像の通りだと思う。好きな人への告白を悩まないわけがありません。
うーうー悩んでいると、アイリさんの声が聞こえた気がしました。
顔を上げるとアイリさんは何かを言いかけ、しばらくもごもごした後で口を閉ざす。私と視線が合うと、彼女は頭の後ろをガシガシと掻いた。

「いや、なんでもねぇ」

うん? なんだか引っ掛かる物言い。
いつも快活でハッキリした物言いのアイリさんらしくないような……

「一つ聞きたい」

ミーナさんが口を開いた。
一呼吸程の間を空けてからアイリさんを見る。

「アイリは伝えないの?」

そこでようやく私が自分のことしか考えていなかったことに気付いた。
咄嗟にアイリさんを見ると「あー」と言った後で一瞬こちらを見てきました。
さっきのは図星だったようで、気まずそうな表情を浮かべている。

「ご、ごめんなさい。私、アイリさんの気も知らないで……」

「いや……それはいいんだけどな」

踏ん切りがついていないみたいです。
やっぱりもごもごと何かを言いかけている。
私に気を遣ってくれているのか、まだ決意が固まっていないのか。
だけど、悪い――と、一言。アイリさんはそれに続けるように言います。

「やっぱりあいつのことは好きだからよ。アタシも言いたい」

照れ臭そうにアイリさんは笑いました。
否定なんてできるはずもない。
でもアイリさんとなら、一緒にトーワさんの奥さんになりたい。
きっと楽しいと思うから。

「そうなると正妻ってどっちなんだろうな?」

「え、私じゃないんですか?」

アイリさんが途端に不機嫌そうに顔を歪めた。あぁ゛ん? って感じでした。
あの……ごめんなさい。あまりこういうことを思うのは良くないですけど、アイリさんの顔でそんな風に睨まれると迫力がありすぎて本気で怖いです。
そ、そんなに睨まないでくださいよ。え、でも違うんですか? 私が告白一番手なら必然的にそうなるのでは。
すると静観していたミーナさんがどことなく居心地悪そうに言いました。

「私は……何を見せられているのだろうか?」

呆れた様子のミーナさん。
……完全に惚気てましたね。
さっきまで私を睨んでいたアイリさんの顔が僅かに赤く染まった。
私も同じことになってる気がする。顔が熱い。
ふと、そういえば、みたいな顔でミーナさんが聞いてくる。

「失敗したらどうするの?」

「な、なんてこと言うんですか……」

悪魔みたいなことを言われた。
隣でアイリさんが顔を引き攣らせている。私も多分同じ顔をしていることでしょう。

「しかし、二人の想い人が二人を同時に受け入れるという保証はない。その人に甲斐性がなければどちらも選ばれない可能性だってある」

ミーナさんの一言一言が私たちをグサグサと……
恐ろしいことを言わないでほしい。何気に現実味がある指摘というのが不安を煽ります。

「まあ……あいつ稼ぎは少ないみたいだけどな……」

普段治療師として働いているトーワさん。
人はあまり来ていないらしいですからね。
遊びに行かせてもらった時にも患者の方なんてほとんど見たことがないです。
でもいざとなったら私が彼に貢いで……私もミーナさんの事を言えなくなってきましたね。
するとミーナさんが勝ち誇ったように――

「ふっ、あの人を見習うべき。爪の垢でも煎じて飲めばいいと思う」

自信満々ですね。
でもいつもミーナさんが貢いでるのに……?
もしかして私たちが今まで感じていたのは勝手なイメージだったんですかね?

「そいつは稼いでるのか?」

「私が稼ぐからいいの。私の稼ぎが彼の稼ぎ。彼はそこにいてくれるだけでいい」

「ヒモじゃねーか」

「雌が貢ぐのは当然のこと」

違ったみたいです。
だけどアイリさんに指摘されてもミーナさんはどこ吹く風。
それどころか今の関係性を誇らしく思ってるみたいだった。

「……なあ、お前もいい加減教えてくれてもいいんじゃねーの?」

ずっと教えてもらえてませんからね。
私も気になっていました。結局どこの誰なんでしょう?

「それは言わない」

頑なでした。うーん、まだ取られると思ってるんでしょうか。私達の相手はトーワさん以外にはあり得ないので不要な心配だと思うんですけどね。
するとミーナさんが続ける。でも――と。

「もしアイリとシルヴィがその人と付き合えたら、その時は教えてあげてもいい」

そう宣言した。
彼女なりの激励だと理解すると、アイリさんは笑みを浮かべる。

「へぇ? 言ったな?」

「勿論。約束は守る」

そいつは楽しみだ――もう一度アイリさんが笑った。
私も元気づけられた気がする。

「ミーナは告らねーの?」

「私はもっと時間をかける。もう少し意識してもらってから……」

タイミングもありますからね。ミーナさんなりの考えもあるはず。
無理強いはできない。
そんな時、ミーナさんがふわっと欠伸を零した。

「……そろそろ寝る。私は明日も早い」

また貢ぐんでしょうか……
でもそういえばいつもは寝てる時間ですもんね。おやすみなさい、と伝えてミーナさんを見送った。
だけど、扉が閉まる直前のことでした。

「頑張って」

確かにそう聞こえた。
扉が閉まってミーナさんの足音が遠のいていく。
しっかり励まされてしまいましたね。
アイリさんもどこか嬉しそう。

「ま、ストレートに伝えるしかねーよ」

「そうですね」

色々考えたけど、結局は真っ直ぐ伝えるのが一番だと思う。
不安はありますけど……

「アタシ達もだけどよ。あいつも上手くいくといいな」

すぐにミーナさんの事だと理解する。
私は頷いた。
ミーナさんは私達よりも純粋だ。心の傷なんてなくていい。
彼女の願いが叶えばいいと、本心からそう思う。
結局相手のことは教えてもらえてないですけどね。
アイリさんが腕を頭の後ろで組んで椅子にもたれ掛かる。

「そしたら全員でデートしたりとかよ」

「ダブルデート、っていうんでしたっけ」

「アタシ達には無縁だと思ってたけどな」

冗談っぽく言うアイリさん。私もつられて笑いました。
そうですね……もし、そうなったら嬉しい。
きっと楽しいと思います。

「怖くなってきた」

「……私もです」

それはそうですよね。
怖くないはずがない。
私も今までのことを思い出して、手が震えていた。

「なあ、シルヴィ」

名前を呼ばれた。
アイリさんの声につられて彼女を見る。

「もし振られたら慰めてくれよな」

「アイリさんが駄目なら、多分その時は私も振られてるんですけど……」

ふ、不吉なことを言わないでほしい。凄い縁起が悪いじゃないですか……
やはりアイリさんも不安なようです。

「そうなったら酒場貸し切るか」

「……酒場貸し切るって金貨何枚飛ぶんですかね?」

「別にいいじゃねーか。金だけはあるんだからよ。あ、トーワも呼ぶか?」

何ですかその地獄……
でも……そうですね。
考えたくはないですが、もしそうなったら……その時は一緒に飲みましょうね。
友達のままでいれたならトーワさんも……いや、直後はさすがに無理な気もしますけど。
珍しく冗談を飛ばしたアイリさんが「ははっ」と笑った。

「どっちがどうなっても恨みっこなしだぞ」

「……はいっ」

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