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第21話 人の繋がりは見えない

「おお、出来てる」

自炊した後の片付けをしてから氷の魔石を利用した冷蔵庫を確認する。
お手製のお茶菓子。上手いこと固まってくれたみたいだ。
試しに1つ口に入れるけど、思っていた以上に美味しかった。うん、これなら喜んで貰えるかも。
だけど少し柔らかすぎる気がする。
型崩れもしてるし……もう少し固くした方が美味しいかもしれない。
初めて作ったにしては上出来だけど、まだまだ改良の余地はありそうだ。

外に出ると、今日の天気は雲一つない快晴だった。
背筋を伸ばして体を解した。
何をしようか。多分もう少ししたらまた野良猫たちが来る気がする。
それまでに洗濯物でも干してしまおうか。

「と、トーワ!」「トーワさん!」

お?
声の方を向く。そこにはすっかり常連になったシルヴィさんとアイリさんの姿があった。常連というよりかは、かかりつけだろうか。治療院だし。
毎回怪我をしてるというわけではないけど、有難いことだと思う。
自分の職業としては迂闊なことは言い辛いけど、やっぱり誰も来ないのは寂しいからね。
そういえばミーナをまだ見てないな。今日は来ないのだろうか?
いつも色々贈ってくれるミーナに食べてほしいものもあったんだけどな。喜んでくれるといいけど……
挨拶を交わしてから、そういえばと思い出す。

「そういえばアイリさん」

「お、おう。なんだ?」

「この前借りてた本なんですけど、面白かったですよ」

ここ最近はずっとラブロマンスの感想を言い合っている。
冒険物も面白いけど、アイリさんはそちらの方がお好みらしい。
特にこの前借りたのは傑作だったね。タイトルで敬遠してたけど間違いだった。
だけどアイリさんはどこか上の空だった。

「おう……そ、そうか。そりゃよかった」

歯切れの悪いアイリさん。ひょっとしてシルヴィさんの前だと本の感想を言い合うことに抵抗があるとか? 最初は僕にも恥ずかしがってたからな……それならばと話題を変えてみた。

「今日は遊びに来てくれたんですか?」

見たところ怪我してるわけでもないよね……?
服も汚れてないから、クエスト帰りというわけでもなさそう。
やっぱり遊びに来てくれたんだろうか。
だけどそれにしては二人ともやけに強張って見える。

「あ、あの! トーワさん!」

急にシルヴィさんが声を張り上げた。
彼女にしては珍しい大声に僕も驚く。なんだろう?

「実はですね。その、つ、伝え」

シルヴィさんの脇腹にアイリさんの手刀が入った。
綺麗な一撃だった。
一瞬だったから確証はないけど……え、何してるのアイリさん。

(はえーよ!)

(うぐ……す、すいません。早まりました……)

悶えるシルヴィさん。
今回は聞こえ辛かったけど「早い」って単語だけは聞こえた。
なんのことだろうかと思ったが、二人の話のようなので気にしないことにした。
それに喧嘩というわけではなく単なるじゃれ合いのようだ。
いきなりでビックリしたけど、気を許し合った彼女たちのやり取りを微笑ましく思う。

「折角なのであがってください。お茶菓子も出しますよ」

気を取り直して二人を中に案内した。
相変わらず強張り気味なアイリさんとシルヴィさん。
そういえばと折角なので手作りのようかんを出した。ミーナの為に用意していたお茶請けだけどどうせならだ。
お茶は甘いようかんとの相性を考えて癖が少なく苦みのあるものを淹れた。
この世界ではハーブティーが主流なので緑茶みたいに苦みの強い飲み物がないのが悩みどころだった。
二人の口に合えばいいけど……どうだろうか?

アイリさんから「……スライム?」と、警戒したような声が聞こえた。
確かに薄っすらと濁ってる半透明な上に、形が崩れてて死にかけのスライムに見えるかもしれない。
やはりもう少し固くした方がよかったな。と内心で反省。
だけど安全性は問題ない。僕も食べてるので大丈夫ですよ、と勧める。
初めて見るのかな? 恐る恐るシルヴィさんとアイリさんが口に運んだ。

「あ……美味しいですね」

「僕の国のお菓子でようかんっていいます。手作りですよ」

実物はもうちょっと美味しそうなんですけどね。と補足しておいた。
小豆はなかったので似たような豆と砂糖で代用した。どっちも高級品だけど砂糖はミーナが持ってきてくれたから沢山あるんだよね。
驚いたのはこの世界に寒天として代用できるものがあったことだ。ただし元の用途は食材ではなかった。
寒天の原材料の天草ではないんだけど、治療薬の原料を扱ってる店で店頭にスライムを乾燥させて粉末にしたものが並んでたんだよね。
味がないこれはオブラートみたいに使うものらしい。
風味はちょっと生臭い気がしたけど、熱したらそれも気にならない。
寒天とオブラートの原材料の違いはさておき、もしかしたらと思って試したんだけど、素人目で見た限りほぼ寒天だった。
まさか故郷の味が食べられるとは……と、ちょっと感動した。
それとどうやら二人はようかんを気に入ってくれたらしい。反応は上々だった。
アイリさんとシルヴィさんは心なしか先ほどよりも柔らかくなった表情でお茶を口にする。

「トーワさん」

「はい?」

「私とお付き」

アイリさんの手刀が入った。二度目だった。

(だからはえーって! タイミングは決めてただろ!)

(ぐ……そ、そういう雰囲気かなーって……すみません……)

よく分からないけど大丈夫なのだろうか。
特にシルヴィさん凄い痛そうだけど。ヒールかけましょうか?
しばらくして痛みが治まったのかシルヴィさんが気を取り直すように咳払いをした。

「と、トーワさんの故郷ってどんなところだったんですか?」

「そうですね。平和なところでした」

世界的な話はさておき、戦争もなかったしね。
娯楽も沢山あって、教育機関も普及していた。
豊かな国だったと思う。

「へぇ、いいところだな」

アイリさんに言われて嬉しくなった。故郷を褒められるのはやはり誇らしい。

「トーワって貴族なのか?」

「ん? なんでですか?」

「家名持ってたからよ。違うのか?」

そういえばこの世界で家名持ちは珍しいんだったか。

「家名を持ってるのは、僕の国では普通でしたよ」

ファミリーネームを持っている人は貴族。絶対ではないけどそう聞いたことがある。
貴族関連で巻き込まれたくないし、僕も家名の三柳の方は名乗らないほうがいいんだろうか。
僕が故郷を懐かしんでいると、話題は自然と僕のことになっていった。

「トーワさんはご兄弟の方は?」

シルヴィさんの質問に僕は答える。
あんまり自分のことを話す機会なんてなかったし、この際友達として色々知ってほしいかも。

「僕は一人っ子ですね」

だから妹とか弟に憧れてたな。
子供の頃親にねだったことがあるけど、今思えば何してるの僕? って言いたい。
父さんと母さんはさぞ気まずかったことだろう。
アイリさんが興味深そうにしていた。そのままシルヴィさんに続けて聞いてくる。

「異母兄弟とかもいなかったのか?」

「うん?」

聞き慣れない言葉だったけど、しばらくして「ああ、そうか」と思い出す。
そうか、この世界一夫多妻なんだった。
異母兄弟って確か父親だけが共通してる他の奥さんの子供ってことだよね?

「僕の国では何人も奥さんは娶らなかったんですよね。こっちとは文化や風習がかなり違ってて」

アランさんが二人の奥さんと手を繋いでる場面はこっちの世界に来たばかりの時は違和感あったな。
日本で生まれ育った僕には見慣れない光景だったから。
あの時はびっくりしたけど今思えば和やかな光景だ。アランさんは愛妻家なんだよね。
普段から仲良いし。

「だからここに来てビックリしました。一夫多妻って知識では知ってても全く想像出来てませんでしたし」

はは、と笑ってようかんを口にした。
うん、美味しい。
二人を見る。固まっていた。

「……? どうかしました?」

その時。治療院の入り口から控えめなノックの音が聞こえてきた。
ミーナかな? 今日はいつもより遅めだったな。
ここで患者さんと言えないのが悲しいところではあるけど、最近になって取り付けた呼び鈴を使わないのはミーナだろう。

「すいません。友達かもしれないです」

僕は二人に断わりを入れると扉を開けた。
やはりミーナだった。今日はアプルの実とはまた違う果物を持ってきてくれたらしい。
背中には大きな籠を背負っている。
よほど慌てて来たのか、大汗をかいて息が荒い。

「ご、ごめんなさい……少しばかり、遅れてしまった」

走って来たんだろうか。息を切らしながら悪いことをしてしまったみたいに恐縮していた。
いやいや、そのくらい全然大丈夫だよ。
確かに大体の時間は伝えられてたけど、そんなにきっちりしなくてもいいのに。
それどころかまた色々持ってきてくれて……うん、今日もミーナに怪我はなさそう。
ミーナは少しの間、深呼吸をすると、すぐに呼吸は落ち着き、僅かばかり頬が紅潮しているだけのいつもの姿になる。
汗を拭ってもう一度息を吐いた。

「…………?」

ミーナがすんすんと鼻を鳴らした。
うん? どうしたんだろう。
名前を呼ぶとミーナが我に返ったように頭を振った。

「もしかして来客が?」

「え、凄い。よく分かったね」

「獣人族は鼻がいいから、でも……」

何か引っかかりを覚えたみたいなミーナ。僕は反応に疑問を感じながらも思いついた。
折角だしアイリさんとシルヴィさんを友達として紹介しようかな?
後ろの方では二人の話し声が聞こえてきた。
会話の詳細は聞き取れないけど、何かあったんだろうか?

「そうだ。紹介したい人たちがいるんだ」

「紹介?」

「うん、僕の友達」

皆同じ冒険者だから気が合うかも。
案外顔見知りだったりなんてこともあるかもしれないな。
でもミーナはちょっと不安そう。安心させる意味でも軽い口調で言ってあげた。

「二人とも優しい人だよ」

「……そう、うん……トーワが言うなら信じる」

だけど、ミーナが「ん?」とまた小首を傾げた。
もしかして――と続ける。

「その二人は女性だろうか?」

「だね。二人とも女の人だよ」

「そう……」

俯いてしまった。
小声で何か聞こえた気もしたけど、残念ながら僕には聞き取れなかった。
奥に通してあげた。ミーナは心なしか警戒気味だ。
少しだけ緊張しているみたいだったけど、何かあれば僕がフォローしよう。
あの二人が相手だから無用な心配だとは思うけど。

「……?」

進むごとにミーナは不可解な反応を示した。
そして、アイリさんとシルヴィさんを目にした瞬間、彼女は足を止める。
3人は「え……?」と揃って呆けたような声を出したのだった。
隣でミーナが唖然としたまま二人を見る。そして――

「シルヴィ……と、アイリ? 二人ともなんでここに……?」

あれ、知り合いだったのか。
でもそれにしては何だか雰囲気が……?

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