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第24話 間違えました…

トーワさんの治療院からの帰路。
私たちは無言だった。
それはそうだろう。人生を賭けた決意を行動に移したばかりなのだ。無理のないことだと思う。
冒険者として一瞬に命を懸けることは何度もありましたが、人生を賭けたことの重みはまたそれとは違う臓腑への重みを感じる。
というより色々ありすぎた。ミーナさんの想い人がトーワさんだったこともあるし、そこから続く銀翼の仲間達とのギスギスしたやりとり。
そして、プロポーズ。
いつも仲睦まじい街の人たちを目で追っていた。
好き合った男性と穏やかで平和な暮らしを……なんて。わざわざ言葉にするのも恥ずかしいですが。
ようやく言えました。後悔なんてありませんが、緊張から解放された今になってようやく実感が湧いてきました。
皆力が抜けていた。私も同じように何を話したらいいのかも分からない。
だけど、少しずつ冷静になってきたところで私はトーワさんへの言葉を思い返して「あれ?」ってなりました。

「すいません、あの、もしかしてなんですけど……私やらかしましたかね?」

「なあ、シルヴィ」

私の疑問を無視したアイリさんの言葉に振り返った。
銀翼の拠点に戻った私を待っていたのは、死を錯覚するほどの強烈な怒気だった。

「あの、アイリさん? な、なぜ武器を? さっきまで持ってませんでしたよね……? 一体どこから……?」

物凄い笑顔でした。
清々しいまでの作り笑い。背後が揺らめいて見える気がする……
怒髪天を突くとはまさにこのことだと思います。

「何してくれてんだお前……」

こめかみをヒクヒク動かしている。
助けを求めるようにミーナさんを見るものの、彼女もいつもの無表情をツンとさせていた。
私は恐る恐るもう一度アイリさんに視線を向ける。

「いきなり結婚とか……いや、最終的にはそうだけど、過程を飛ばし過ぎ……」

ミーナさんからも刺々しい口調で苦言を告げられる。

「あ、あの、付き合ったら……結婚も考えますよね?」

謝らないと、そう思っているのに私は言い訳じみた言葉を口にしてしまう。
あ、アイリさんが怖すぎます。

「おま……さすがに拗らせすぎだろ……付き合うのと婚姻はまた別だぞ」

「ゴール地点は同じ。でもだからっていきなりというのは……少し空気が読めてなかったように思える」

で、ですよね……
更にミーナさんが説明してくれます。

「シルヴィが過程を飛ばしたせいで、私たちも過程を飛ばす羽目になってしまった」

確かにあそこで付き合ってください、ってなってもプロポーズにはインパクトで負けますもんね。
かと言って状況的に言わないわけにもいかないという……
結果二人は私の言葉に引っ張られた形になる。
今更ながら自分のやってしまった失敗に血の気が引いていく。

「そうだよ……本当に、何してくれてんだお前……」

色々考えてたのに。と、ぼやくアイリさん。
ロマンチックな言葉での告白を考えてたんでしょうか……
私はアイリさんの理想のシチュエーションを邪魔してしまったことになる。

「ちょ、す、すいません。謝りますから……ひとまず武器は下ろしてもらえないかなと……」

さすがに柄に手をかけられている状態は落ち着きませんし。
私は必死に頭を下げてアイリさんに武器を下ろしてもらいました。

「というより普通は順序立てて言うもの。いきなり『結婚してください』は非常識」

う、うぐ……
ミーナさんの咎める言葉が胸に突き刺さる。
彼女の怒りも十分理解できた。皆の予定を崩してしまった事実が重く圧し掛かる。

「ごめんなさい……」

深く頭を下げた。今はただ謝ることしかできない。
私は何度失敗すれば気が済むんですかね……
アイリさんにも、ミーナさんにも、悪いことをしてしまった。
頭を抱える私を見た二人の言葉が聞こえてきます。

「まあ、いーよ。その辺はシルヴィもわざとじゃなかっただろーしな」

「……やってしまったものはしょうがない」

シルヴィ、いつも言ってたし……とミーナさんが慰めるように言ってくれました。
二人がすぐに許してくれた様子にもっと怒ってほしかったと思うのは、私が少しでもこの後ろめたさから逃れたいだけなのかもしれない。
同じ失敗をしないためにも、この気持ちはずっと覚えていよう。そう自戒するしかなかった。
でも……あれ、そうでしたっけ? そんなこと言ったことありますっけ。

「ああ、それはアタシも知ってる。酔うと毎回だったぞ。好きな人と家庭を、って」

ミーナさんも頷いている。
お、覚えてない……
酔うと口に出してたんですか。なんだか……は、恥ずかしいですね。
結婚には憧れていたのに冒険者という職に就いたのも実質諦めていたからです。
上手くいけば富と名声を、下手しても野垂れ死ぬだけだという捨て鉢でもありました。
気が付けば大成したといってもいいA級になってしまっていましたが。
いざ叶うかもしれないとなって冷静じゃいられなかった。
でも、まさか結婚に対する憧れがこんなところで失敗の原因になるなんて……
複雑です。

「酒場の予約しとくか…………いや、悪かった。冗談だよ泣くなよ……」

すいません。本当にすいません……
でもその冗談は心臓に悪すぎます。胸のところがキュってなりました。
アイリさんが「悪かったって……」と、私の背中を擦ってくれます。

「ま、まあなんにせよ、トーワが待ってほしいって言うんなら待つしかないな」

少しだけ落ち着いた頭で考える。
全部伝えました。なら私たちにできるのはあとは待つだけです。
でも、あああ……し、失敗しました。二人まで巻き込んでしまうなんて。
アイリさんとミーナさんは謝る私に「仕方ないな」と、苦笑してくれるのでした。

「とにかく切り替えねーとな」

「うん、どうなるかは……正直分からないけど」

不安そうにミーナさんが呟いた。

「ただすぐに断られなかったってことは、少なくとも可能性はあったな」

私のフォローをしてくれるようなアイリさんの言葉を考えこみます。
言われてみればそうだ。
可能性が0なら即断られていたはず。それがなかったのは、少なくとも悩んでもらえる程度には好意があるということだから。
恋愛経験0なので確信にまでは至りませんけど。
ミーナさんからも否定はされませんでした。
すぐに振られないくらいには好かれている。
私にはそのことが嬉しくもあり、妙にむず痒くもあるのだった。

「……長くね?」

アイリさんがテーブルに体を預けながら言いました。
落ち着きなくそわそわと待つこと数日。
いまだにトーワさんからの連絡はありません。

「確かにあれからもう4日ですからね」

こういうのっていつ頃返事がもらえるものなんですかね。
いまだに不安でなかなか寝付けない。アイリさんも顔には出ていないけど欠伸が多いです。
何日も不眠でクエストをこなすこともあったのに、どう返事されるかも分からないままただ待つ身は辛いですね……
初めてなので詳しくはないですけど。
数日待ったならもらえてもいい気がします。というよりそろそろもらえないと不安が爆発しそうな気がするんですよね。
アイリさんなんてずっと足を揺すってますし。

「ところでミーナさんは?」

「早くからなんか作ってたみたいだから、寝てんじゃねーか?」

今朝の部屋に残っていた甘い匂いはそういうことだったんですか。
その時、扉が開く音が聞こえた。
妙に悲し気な顔でとぼとぼと歩いてきます。
手に持っている籠からは、ほんのりいい匂いがしました。

「おまっ、トーワに会ってきたのかっ!?」

抜け駆けされたかとアイリさんが慌てた。
でもミーナさんは力なく否定します。私もアイリさんもほっとしました。
でも会えなかっただけにしてはずいぶんと悲しそうですけど。

「そうか、それでなに持ってるんだ?」

「アプルパイ……やっと上手にできたから……食べてもらおうかと……」

「あの駄々甘いのと炭の塊になったやつからよくできたな……」

やっぱりアイリさんも失敗したのを食べてたんですね。
私もアドバイスをする関係上生焼けだったりしたのを食べましたけどね……焼き菓子の焼き加減は難しいですし。
何となくまたボリュームを増した気がするアイリさんの胸に目がいきました。
あれ、でもトーワさんは大きさよりも形なんですよね。
トーワさんの言っていた形って垂れてるのが良いってことなんですかね……?
それだとちょっと自信がないんですけど……
そこも確認しておけばよかった。なんだか不安が不安を呼んで考えなくてもいいことまで怖くなってしまいます。
私が悩んでいる傍でアイリさんがミーナさんに言う。

「あいつも四六時中治療院にいるわけでもないだろうしな」

買い物とか、その他の用事もありますからね。
それでも治療院にいることが多い気がするトーワさんとすれ違いになってしまったのは運が悪い気がしますが。

「いつもならいる時間のはずなのに……」

「あいつとの接触はしばらく控えるってなっただろ」

アイリさんのちょっと怒ったような言葉にミーナさんはシュンとする。
抜け駆けはしないためと、トーワさんにも落ち着ける時間を、ということでしばらくは会わないようにと約束したんでした。
ミーナさんもそれは知っているはずですが。
「……ごめんなさい。でも、ずっと会えてないから」

「まあ……アタシだって寂しいとは思うけどよ」

我慢できずにってことですかね。
アイリさんもトーワさんに会えないから、部屋で読書ばっかりしてますもんね。
最近皆引き籠り気味になってる気がします。
すっかり冷めてしまったアプルパイをお茶請けにハーブティーを入れて、皆で一息つきました。
最初に比べると本当によくできているアプルパイだ。
そしてハーブティーを飲むと誰がともなく呟いた。

「…………元気かな」

寂しすぎて泣きそうになるんですけど。
治療院に遊びに行ったときにいつもトーワさんが出してくれていたハーブティーが彼を想起させる。
皆の口から何度目になるかも分からないため息が吐き出されました。
空気が重いです。
アイリさんもミーナさんも、私と同じように色々考えて落ち込んでいるみたいだった。
このままではいけないと私は二人に聞きました。

「二人はトーワさんのどこが好きなんですか?」

「何だ急に?」

恋バナですよ。
実はこういうことを友達と話すことにも憧れがあったりします。

「シルヴィの頭がアレということは理解した」

アレって何ですかアレって。
ミーナさんの容赦ない発言。
しかし、アイリさんも彼女と同意見のようでした。

「今その話題は駄目だろ……余計に不安になるだろうが。まあ、あいつの好きなところなんて10や20くらい平気で言えるけどな」

「たったそれだけ? 私は50。やはり彼の番にふさわしいのは私」

ミーナさんが張り合いだしました。
ムッとしたアイリさんが彼女を睨んでいます。

「アタシは100だ」

「じゃあ200」

何だか妙な勝負が始まってしまいました。
なんだかんだ言いながらも少しだけ気は紛れたみたいです。
二人が言い合っている近くで私は、それなら……ということでいい案を思いつきました。

「久しぶりに皆でクエストに行きませんか?」

「お、いいなそれ」

アイリさんは乗り気でした。
空元気の気もしますが体を動かしてるうちに気も紛れると思います。

「……私はそういう気分ではない」

「何言ってんだよ。どうせ部屋で不安になってるだけだろ?」

むぅ、とミーナさんが悩みます。

「そのうちトーワの方から連絡が来るだろうよ」

ですね。私もアイリさんに同意した。

「なら尚更ここに居たほうが……」

「それだと気が滅入るって言ってんだよ。たまにはいいだろ」

そう言ってアイリさんがミーナさんの手を引いた。
たぶん彼女も不安なんだと思う。
ずっと待ってるだけなのが怖いのは私もだ。
慌ててついていく。
だけど、トーワさんからの連絡はその日も、次の日も来なかった。
次の日も、その次の日も――トーワさんと会えない日が続いた。

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