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第38話 聖なる行為

龍族の里への出立を控えたこの日、僕は色々と準備をする。
遠出するということで注文した薬を受け取って、道具も必要なものを調整していた。
旅の食糧や消耗品はシルヴィさんが用意してくれるようで旅にまだ慣れない僕はありがたくその力に頼ることにした。
というより護衛としてついてきてくれる銀翼の皆には本当に頭が上がらない。
頼りっぱなしだな。
この辺りは大通りから外れていることもあり人も少ない。
天候も薄っすらと曇りがかっているから、それも関係しているのかもしれないな。
龍族の里に向かう僕としては、晴れて天候が安定しているほうがいいんだけど。
そして、準備をしつつ近くを通ったので折角ということで寄ったさらに人気の少ない本屋にて――

獣人族にとって耳を触られる行為はよほどの信頼がない限りは嫌がられる場合がほとんどだ。
特に耳の中を掃除するといったことは致命的な個所を晒すため警戒心が無いことを示す親愛の行為、また相手によっては性行為に準ずる行為ともされていて、近親者、または生涯の相手でもないなら他人に任せるのはあり得ないとされている。
獣人にとってその身体的特徴である耳や尻尾は聖獣が宿る部位とされていて――

「あー」

『獣人族の生態調査』という本を読んでいた。興味本位で見てみたんだけど種族間マナーなどについても言及されていて、思わぬ掘り出し物だった。
丁度よかったので耳や尻尾なんかの獣人族の身体的特徴についての項目だけ立ち読みさせてもらっている。
しかしどうしようか。これはちょっと意図していなかった。
それなら急に縮まったミーナとの距離感も理解できる。
誇張して言うなら僕はそういう行為をミーナと致してしまったことになるわけだ。
なるほどなるほど……

「やらかした……のかな?」

よく分からない。
だけど少しばかり顔を合わせずらい気がするのだった。
やってしまったものは仕方ない。いつかそういう行為はする覚悟もしていたし、今後から気を付けるということにしよう。

「トーワ君。何か面白い本はあったかな?」

本屋の前の通りで出会ったリズさん。
彼女は龍族の里に出立する前に軽く必要なものを買い込んでいたらしい。
食料が少し心もとなかったと言っていた。
その背中には購入したと思わしき荷物を背負っていた。
彼女の問いかけに言葉を返す。

「いえ……獣人の人にとって耳掃除がそういう行為だって知らなくて」

「あー、あはは」

そっか、と照れ臭そうにリズさんが笑う。どうやら彼女は意味を理解しているらしかった。
この本は購入しておこう。今後何かと必要にもなってくるかもしれない。
できれば前々から気になっていた彼女が貢いでくる理由も知りたいところだ。載ってるかな?
他の種族についても説明がある本があったのでそれも何冊か買っておく。

「ところで一つどうだい?」

そう言ってリズさんは容器に入ったホットドッグのような料理を勧めてくれた。

「いいんですか? ありがとうございます」

この街では道端に屋台が多く並んでいて、様々な料理を提供してくれる人々が客寄せの声を出し合っている。
ファストフードは久々だな。
ありがたく受け取ってかぶりついた。少し時間が経って冷めているようだったけど、ぴりりとしたスパイスが利いていてとても美味しい。
ケチャップもないしホットドッグというより、味はテリヤキハンバーガーに近いかも。甘辛いタレで味付けがされている。
だけど、一つで結構量があるし、意外と食べる人なのだろうか。

「すいません、リズさんの分一個貰っちゃって」

僕と出会う前に手にあったから、僕に話しかける前に買ったっていうことだよね。
リズさんは気まずそうに目を逸らした。意味が分からずにいると、「い、いや。何でもない。構わないとも」と、そのまま誤魔化すように話題を戻される。

「でも……意外だな。てっきりもう皆に手を出してると思ってたのに」

「いやいや、僕そんなに手が早く見えます?」

リズさんは何とも言えない表情で曖昧に笑った。

「否定してくださいよ……」

「ごめんごめん」

くすくすと、手を当てて可笑しそうに笑う。
大切な人だと思えばこそだと思う。そんな軽はずみに手は出せない。
リズさんは、でも――と。

「皆とはまだなんだね」

そう言って顔を伏せた。
何となく優しい表情に見える。そこに込められた感情は分からないけど、その光景に一瞬だけ意識を奪われた。
内容がセクハラなのはさておき。

「そ、そういえばトーワ君。ボクが出てくる本を読んでくれたみたいだけど」

再び話が変わる。
リズさんを主役として書いた本は2冊。僕はどちらも読ませてもらっていた。

「ですね。どっちも面白かったですよ」

「それはよかった」

そう言ってリズさんはもう一度微笑んだ。

「ボクも取材を受けた甲斐があったよ」

ああ、やっぱりそういうのあったんだ。
だけどそれもそうか。本人の話も許可もない状態だったら、何も書けないだろうしね。

「でも変わった構成でしたね。性別に関する記述とかほとんど出てきてなかったですし、見た目についてもなんかふわふわしてたというか」

普通は登場人物の容姿って真っ先に記述するべき描写だと思うんだけど。
でも、著者の人の腕がよかったのかそこらへんは気にせず没入できた。

「ああ、それはそうだろう。一応A級ともなる冒険者の冒険譚だからね」

「うん?」

ちょっとよく分からなかったので、どういうことだろうかと尋ねる。
だけど彼女の表情はどこか浮かないものだった。

「容姿が描かれてたら人気なんて出るわけないじゃないか」

……地雷だったようだ。
少し考えたら分かることだったのに、酷いことを言ってしまった。

「えっと、ごめんなさい」

だけど、リズさんは「ああ、ごめんごめん」と、慌てていた。

「いいんだ。だってトーワ君は僕のファンなんだろう?」

「? そうですね」

意味も分からず頷いた僕を一瞥するリズさん。

「なら、いいのかなって……」

それだけで十分だ。そう言ってリズさんは歩きながら視線を前に向けた。
迷いは見られなかった。その姿を僕は素直に格好いいと思った。
本と同じ優しい人で、物語の中では強すぎて怪物のようだと、恐ろしいと書かれた姿は彼女のほんの一面に過ぎない。
隣で笑うリズさんは、とても魅力的な女の子なのだと感じた。

「……でも羨ましいな。皆はこんな素敵な人と付き合えてるんだからね」

「相手ならリズさんにもいるんじゃ?」

「それが上手くいってないんだ……少しくらいは意識してほしいけど……」

うーん、と悩んだ後でリズさんは話題を変えた。

「参考までに聞きたいんだけど、トーワ君なら嫁いできた相手の家柄がいいところだったらどう思う?」

「ん? いいところって、たとえばどういう?」

「ボクの実家は巫女の血筋でね。後継者問題とか出てるんだ。そういうのって面倒だったりするのかなって」

血を重視するのはこの世界でもあることなのか。
僕のいた世界でも王様の血脈を途絶えさせないために近親相姦を繰り返していたというのは有名な話だしね。
もしかして将来の相手ってそれ関連の人なのかな。

「どうなん……ですかね? 相手の家の事情は無関係じゃないんで大事にしたいですけど、政っていうんですかね、そういうのはよく分からなくて」

ふんふん、とリズさんは頷く。

「リズさんが跡を継ぐんですか?」

「それは今更かな、確かに巫女の血は引いているけど、母はボクにそういうことを話したことはないから別の人が継ぐんじゃないかな。こっちとしても皆と一緒に冒険者をするのは楽しいから、それに……ボ、ボクにはもう心に決めた人がいるから、その人の生活を縛りたくはないかな」

ってことは後継者問題とは関係ないのか。
リズさんが恥ずかしそうに顔を赤らめている。
彼女にここまで想われるってどんな人なんだろう。教えてくれないから聞きあぐねていたけど、この際だから聞いてみることにした。

「どんな人なんですか?」

「……いい人だよ。本当に」

ふふっ、とリズさんは優しい笑みを浮かべた。
思い出し笑いをしているようで、その顔はとても楽しそうだ。

「大好きなんですね」

「あぁ……そうだね。大好きだよ、本当に心の底から」

照れ臭そうにリズさんは続ける。

「好きなんて言葉だけじゃとても言い表せないよ。恩人なんだ。ボクの全てを掬い上げてくれた人だ。彼がいてくれるならそれだけでボクは……」

その言葉や表情が本当に幸せそうで、彼女にとってその人が大切な人なのだということが伝わってきた。
ただそこまで惚気られると思っていなかった僕は反応に困った。
関係ないことなのにこっちまで照れ臭くなってくる。
そんな僕に気付いたのかリズさんは誤魔化すように咳払いをして続けた。

「だ、だけど、とにかくこっちの好意に全く気付いてくれない……この話も聞いてもらったんだけど、嫉妬もしてくれないからボクには興味がないのかもしれないね」

そこには隠しきれない程の不満があった。
やれやれ、とリズさんが大きく溜息をついている。

「それはなんというか……」

その時。
何気なしに視線を向けると、リズさんの首筋を鱗が覆い始めていた。
初めて見る光景。突然のことに驚き足が止まる。

「あ、あぁ、すまない」

リズさんが「ごめんよ」と集中した様子を見せるとすぐに見えなくなった。

「……今のってもしかして龍化ですか?」

確か龍としての特徴が体に現れるんだっけ。
理屈とかみたいなのは知らないけど、物語の中では空を飛ぶ描写もあった。
頷きを返すリズさん。

「凄いですね……」

「気持ちが高まると、勝手に出ちゃう時があるんだ」

未熟だ、と申し訳なさそうに言うが、僕としては珍しいものが見れて嬉しかった。

「でも……正直皆が羨ましいよ。ボクは上手くいってないのに、皆だけ先にって……なんで君たちは隙あらばイチャつくんだい? ボクを困らせてそんなに楽しいの?」

もう、と拗ねたように足元の小石を蹴っている。
別に困らせたいとは思ってないんですけどね。
とはいえリズさんの気持ちが分からないでもない。
そりゃ一人だけ蚊帳の外だと疎外感とか色々あるだろうし……気を付けていくとしよう。
リズさん思ってたより溜まってたのかな。今更だけど悪い気がしてきた。
だけど僕にも言い分はあった。
リズさんには何かしらの関係がある相手がいる。
交際なのか、婚約者なのか、まだ友達というだけで好意があるだけなのかは分からないけど。

――半年くらい前からだったかな。いきなり”将来の相手がいる”とかって……

ギールの村でアイリさんが言っていた言葉を思い出す。
皆に散々自慢したらしいし、今になって皆のことを咎めるのもどうなのかな、って。
言い訳がましく僕が口を開こうとして――

「……?」

ふと、思った。

「リズさんの龍化ってどういうものなんですか?」

「? どうとは?」

何か引っかかった感じがした。
だけど、それを口にするよりも先にリズさんが視線を前へと向ける。

「それよりそろそろ僕たちの拠点だよ」

「あ、皆も待ってるみたいですね」

視線の先ではシルヴィさんとアイリさんとミーナの3人が立っていた。
傍には馬車と、それを引く役割の六脚馬? であろう魔物がいる。初めて見たけど普通の馬よりも二回りほど大きい。強そうだ……
皆も気付いたのか、シルヴィさんとアイリさんが手を振ってくれる。ミーナはこっちに駆け寄ってきた。

「ほら、トーワ君。愛しの彼女たちがお待ちだよ」

すっかり揶揄われてしまった。参ったな……そう思いながらも僕はミーナを抱き止めた。
ミーナのこれもすっかり習慣化していた。嬉しそうにすりすりと胸板に頬ずりされている。
だけど匂いを嗅ぐのはいまだにどうかと思う。
懐かれてるってことだし嫌じゃないけど、やっぱり恥ずかしい。

「トーワ、皆準備終わってる」

「そうみたいだね。もう出るのかな?」

「いつでも出れる。トーワの準備は?」

僕はいつでも大丈夫かな?
ミーナに手を引かれる。ちょ、強い強い。意外とミーナって力あるよね。さすが冒険者と言うべきか。
リズさんに一言入れて皆の元へ駆けて行く。
その時、そういえば……と疑問を感じた。
何となく、本当に何となくだけど――

僕がこの世界に来たのも半年くらい前だったな、なんて……そんなことを不意に思うのだった。

……ずるくない?
ボクだけ完全に蚊帳の外なんだけど。

まずシルヴィ。前々から思ってたけど、君って実はムッツリだよね。
さりげなくボディタッチしてるの分かってるからね?
たぶんトーワ君も気付いてるんじゃないかな。

次にアイリ。
発情した女みたいな顔してるけど君の顔だと怖いだけだからね。
トーワ君と話すときに顔赤くして幸せそうだけど、羨まし……じゃない、あざといからやめてほしい。

あとミーナ。
君は単純にくっつきすぎ。絶対鬱陶しいよそれ。
見てて暑苦しいんだよね。代わってほしい。

……いや、落ち着こう。こういうのは良くない。
皆に悪気はないんだ。それは分かってる。
これはボクの見苦しい嫉妬だ。
皆の幸せを邪魔する権利なんてボクにはない。
彼女達だってボクと同じ苦しみを背負ってきたんだ。幸せになってほしいとは本心から思う。

だけど……ボクの立場は?
というかなんでボクの前であんなにイチャつけるの?
ボクのこの居た堪れなさを少しでも分かち合いたい。
トーワ君と気まずくなってほしい。

最初は上手くいくと思っていた。
だけど実際はどうだろう。告白するタイミングがない。
周りから好かれているトーワ君の周りにはいつも誰かが居る。
怖いのもあった。コンプレックスを煮詰めたみたいな顔と身体。
二人きりになれても緊張して肝心なことは何も喋れなくなってしまう。
僕は一体いつになったら伝えることができるのか。
うぅ……なんでこんなことに……

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