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第47話 長老会

トーワ君たちを母のところに残して、ボクはシグルドさんの後ろを歩いていた。
気が重い。
長老会というのはこの里の今後の方針や問題の対策といった重要な物事の判断をする話し合いの場だ。
里の重役についている人物以外は、まず立ち入れない。
ボクは一度も出たことがないからどんな場所かは知らないけど、巫女をしている母は未来の災害などを予見した際は出席していた。
そんな場所にボクが呼ばれたということに嫌な予感がしている。

「そろそろだ、心して聞くように」

シグルドさんは父方の親戚にあたる人物だ。
最近長老会に出席できるようになったとか、この前帰ったとき聞いたがそれでもまだ緊張しているようだ。襟を正している。
ボクも見習って乱れがないか確認する、実家に帰ってすぐだったから汚れが否めないが仕方がない。

「神聖な会合所だがそこまで緊張することはないぞ」

ボクを見てシグルドさんが軽く笑いかけてくれる。
分かりました、と返事をしたが自分でもぎこちなさを感じた。
幼少の頃からいい聞かされていた神聖な場所への立ち入りに自分でも思っていた以上に緊張していたらしい。
そしてこの里で唯一の木造建築の入り口まで来た。

「ニグルが息子シグルドです! 巫女リリーラの娘リズと共に参りました! 龍神様の御前である神聖なる会合所への入場の許可を!」

と、シグルドさんが恭しく頭を下げるのを見て、ボクもそれに倣う。
少しの間があり、入れとしゃがれた低いがよく通る声が返ってきた。
ボクたちは失礼しますと言ってから建物の中へ入った。
二十メートルほどの長方形の空間には長老と呼ばれる里の重要な役職の人達がボクを迎えた。
みんなシグルドさんよりも歳が高い人物ばかりの中、特に一人だけ目立つ人物がいる。
長く伸び整えられた白いヒゲと髪、どう見ても老人にしか見えないのにその眼光だけがやたらと鋭かった。
上座は空けられていて、その最も近い席に、その人物は座っていた。里で最も長寿の龍族である里長のアグニラ様だ。最長老とも呼ばれていてこの場で最も発言力のある人物だ。
最奥の席の後ろは巨大な一つの壁画が刻まれている。
女神様の従属神である龍神様が神託を受けている神話の伝承をなぞった絵だ。
上座の席は龍神様の物なのかもしれない。こんな時じゃなかったらよく見ていただろう。

「巫女殿は?」

「やはりお身体が弱ってきています。無理にここまでお連れするわけにもいかなかったので、自宅で休んでもらっているところです」

最長老の言葉にシグルドさんが答える。
今はトーワ君に診てもらっている頃だろう。
下座に移動するが、そこには椅子がない。
シグルドさんも立ったままだ。長老会はそのまま始まった。

「ふむ、巫女殿は今回の一件についてなんと?」

「反対だと。とはいえ長老会の決定だから無碍にするわけにもいかず……といった感じでしたね」

それを聞いて長老の何人かが口を開いた。

「ふん、一人娘はどんな容姿でも可愛く見えるということか」

「おい、口を慎め」

「そもそも巫女殿は今回の件を軽んじているのではないか?」

「責務を果たしてくれるならば何も問題はない。今回のこともきっと分かって下さるだろう」

「しかしそうなると今年の収穫祭はどうする?」

「備蓄がある今より、来年以降じゃないかい?」

「そもそも――」

何の話か分からないまま口々に言いたいことだけを言い合う長老たちだったけど、結局ボクは何のために呼ばれたのか分からない。
せめて説明してくれないとボクは置いてけぼりなんだけど……
話はいったりきたりを繰り返し、今年の天候の話、魔物の話、祭事の取り決めと続いていた。
しばらく話を聞いていたが、ボクが呼ばれた理由が分からなくてたまらず「あの……」と、手を挙げた。
最長老が話をいったん止め、こちらの発言を促す。

「あの……結局ボク……自分は何故呼ばれたんでしょうか?」

すると最長老が答えてくれる。

「……率直に言おう。巫女殿の衰弱が予想以上に早い」

え……? と自分の口から間の抜けたような言葉が聞こえた。

「ま、待ってください! それは、母が」

そこから先の言葉はボクから出なかった。
シグルドさんが落ち着けとボクを宥めてくれたのもあったけど、それ以上に続きを言えばそれが本当になってしまうような気がして。
元々兆候はあった。年々弱っていく母のことが心配でここ最近は里帰りの頻度を増やしていたから。
長老の一人から「龍眼の予見がなくなる弊害はどうするか……」と、母を気遣わない身勝手な言葉が聞こえてきたことに苛立ちを覚えた。
巫女は短命の者が多い。龍眼を使う際非常に消耗する。
実際母も祭事で未来を予見する度に寝込んでいた。
巫女の短命を寿命として認識してしまった里ではどうしようもないから、ボクが冒険者になったのもそれが理由で、治療法を探す、そして治療費が必要になった時のためにお金を貯めるためだ。

「しかし、リズは遠出をしていたのではなかったか? また帰ってきたのか?」

「丁度その時に私がその場にいたので、巫女殿の代わりに来てもらいました。今回は彼女が中心なので」

「道理だね。予定とは違うけど」

周囲の言葉を理解できないでいると、すぐ傍からため息の音が聞こえた。

「お前が後継の候補にあがっている」

「は?」

ボクの疑問を知ってか知らずか、最長老が続ける。
龍眼を持って生まれるのが巫女の血族からというのは聞いたことがあった。
だからと言って後を継ぐ人物については一度も聞かされていない。

「確かにお前に龍神様の御力は宿っていない。そのことで巫女殿も別の人間を推薦するつもりだったようだがな」

母はボクを後継にするつもりはなかったのかもしれない。
だからボクに話さなかったのは心配させないため……というのは考え過ぎではないのだろう。

「龍眼を持って生まれた血族から選出したいというのは理解できるだろう?」

ボクは頷く。
そういえば聞き覚えのある話だ。

「しかし、巫女殿に再び子を成す体力は残っていない」

母を道具としてしか思っていないような発言にピシリと理性にヒビが入るのが分かった。
彼らにとって母は龍眼の付属品か何かなのか?
……僅かながら龍化の兆候も服の内側で感じたことで、自分の動揺を客観視できたせいか感情の爆発を飲み込むことができた。

「つまり一番近しいお前が適任なのだ。龍眼を持った子が生まれるかは分からないが、里のことを考えるなら巫女の血筋は濃い方がいい」

「無論、相手はこちらで用意する。お前にとってもありがたい話なのではないか?」

あんまりな言葉だが、確かに以前のボクなら特に感慨もなく頷いていたかもしない、トーワ君のことを知らないならそう思われても仕方ないか。

「不服か?」

「いえ……あの、相手に関してなのですが、どのような選出をされるんですか?」

ああ、と最長老が答える。

「生まれてくる子のことも考えると、少なくとも弱い人物では務まらないだろうな」

動揺を隠し頷きながらボクは小さく汗をかいた。
となるとトーワ君は……ちょっと何とも言えない気がする。

「……待ってください」

声をあげた。予想以上に大きくなってしまったけど、それを気にする余裕は今のボクにはなかった。

「ボクには既に決まった相手がいます!」

瞬間、場が静まり返る。
余程意外な答えだったからだろう、長老たちはお互いに顔を見合わせていた。
浮いた話なんてなかった。一度だって異性と関係を持ったことなんてない。
失礼極まりない態度だったけど、今更そのことを言及するつもりはなかった。
自分の容姿が人よりも劣っているなんて分かり切っていることだ。
それよりも自分が先程口にした言葉の意味を理解して、やってしまったという後悔の感情が心を支配した。
だが吐いた唾は吞めない。

「お前に相手がいるなど聞いたこともないが……」

すると最長老は「いや、それよりも」と頭を振った。

「その相手というのはこちらで見繕った男よりも強いのか?」

ここでも嘘をつくことも考えたけど、すぐにバレるなら意味はないだろう。
自分がここから起こすべき行動を考えて慎重に言葉を選んでいく。

「……戦闘能力という意味ではそこまで強くありません」

「他に突出した能力でもあるのか?」

「治療師としての腕は確かです……それに人格的にも問題ないかと!」

これは身勝手な考えだ。思わず弱音が出そうになるけど、色んな言い訳で自分を誤魔化した。

「それでは駄目だ。他種族でも強靭な人物ならよかったが……とにかくこれは長老会の決定だ。いいな? 勝手な行動はするんじゃないぞ」

こうして長老会での話は終わり、ボクは絞り出すような声で頷くことしかできなかった。
くそ……っ、なんでこう上手くいかないんだ。
退出を促される。会議の内容は既に別な物へと移り変わっている。
ボクは自分の行動の遅さと運の無さを呪いながらこの場を後にした。

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