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第50話 嫉妬

長老会での話し合いが終わると、ボクは自宅へと向かった。
母のこともだし、心配事は多い。
勿論後継の選定が大切だというのは理解できた。
この近辺は強い魔物が発生しやすい傾向がある。
その脅威を予見する力はこれまでに様々な困難を避けてきた。
里の広場を通って物陰でズキズキと痛む頭を抑える。 長老たちには反対されるし、トーワ君とはうまくいかないし、告白は勇気出ないし……
告白……か。
ふと立ち止まり、自分の頬をなでる。
一切の引っかかるものはなく、すっと撫で落ちた。
少しでも引っかかりがあれば、とか、もっと健康的に脂っぽかったらとか色々と考えてしまう。
自分のこの顔が嫌いだった。
いや、嫌いなんてものではない。いくら引き裂いても足りないくらい嫌悪している。
しかし、トーワ君からするとボクは彼好みの顔のはずだ。
自分の顔を誰かの好みだと表現することに違和感はあった。
いや、でもボク的にあの3人とあまり変わらないと思ってるだけでトーワ君的に何か明確な差があるのかな……
トーワ君の好みの全容を完全に理解しているわけではないボクには、どんどんと上手くいかない想像をしてしまう。
それでも彼ならボクの容姿を理由に突き放すはずがない。
……はず。
いや、きっとそうだ。
一つ思い出す。
彼にサインを頼まれた時の光景を思い出して思わず笑みが零れる。
それだけで、現金なもので足取りは軽くなった。
そうだ、お母さんの治療に里の蔵書が役立つかもしれない。
トーワ君に持って行ってあげよう。
岩山のような蔵書庫にたどり着く。
入口は大岩を加工された扉で塞がれていてる、この岩は成人した龍人なら一人で何とか動かせる重さらしい。
小さい子供が勝手に蔵書庫に入らないようにするためのようだが、ボクは小さい頃から動かせた。
いくつか里の歴史やこの辺りで流行ることの多い病や怪我などの医学書を持ち出す。
母の体調に何かしらの進展を期待して……それと少し邪な思惑も入るんだけど、アイリみたいにトーワ君と本のことで会話が広がればというのも期待していた。
そういう話題に関して道中はずっとアイリにその役割を譲ってきたけど、里のことならボクも答えられる。
トーワ君と話せる光景を想像して口元がにやけてしまった。

「っと」

蔵書庫の奥にはさらに厳重に保管された物が置いてある。
歴史的な価値のある書物だったり、龍族の祖である使徒様に関連するものとして、その記述を記した物などが保管してあるそうだ。
保管してあるものに関してはさすがに見ていないけど、大切なものらしい。壊したら怖いのでボクもそれに関しては触れていない。
さすがに長老の許可もなくそこまで入るわけにはいかないとボクはその場から立ち去った。
蔵書庫を出て真っ直ぐに自宅へと向かう。
遠目に大きなテントが見えた。

「荷台にでも置いておくかな」

よく見るとテントを張っている途中らしい。
トーワ君たちはどこだろう。休憩かな?

「……?」

不意に妙な気配を感じた。
人の気配が馬車の荷台の中から感じられる。
銀翼の誰か? それとも子供たちが物珍しい六脚馬の馬車に悪戯でもしているんだろうか?
音を殺してゆっくりと近付いた。
だけど――

ようやく戻ってきた場所の近くで息を吐いて呼吸を整えた。ボクは風の魔法を使う。
何重にも音が漏れないように、声が聞こえないように。

「え……」

アイリとトーワ君がキスをしていた。
慌てて隣の馬車の死角に隠れる。
念のため警戒して近づいたけど、それ以上のものを見せられた結果だった。
二人は行為に夢中で気付いていない。

(ちょま! え、ええぇ!? なんで……なんでなんでなんで!?)

いや……え? なんでそんなことしてるの!?
違う、なんでも何もない。二人は恋人同士だ。
付き合ってるんだから接吻は当たり前だけど、いざ目の当たりにすると衝撃で脳内がパニックだ。
混乱状態の頭がふらふらと思考を乱した。
お互いがお互いを求め合う行為。
見てるだけで激しい怒りが沸き上がってくる。
嫉妬だ。

(あああ、ちょっ、そ、そんなに……長い! 長いよ!)

吐き気にも似た感情の塊。それが吐き出せずにドロドロとした醜い何かがボクの中へと溜まっていくのを感じた。
ああ、駄目だ。血が沸騰する。
メシリ……と掌から骨の軋む音が聞こえた。
なんでアイリにはあんなに……

(うああ……っ、い、いいな……いいなぁ……)

羨ましい。妬ましい。
嫉妬ばかりしてる自分はなんて面倒で嫌な女だ……と、自己嫌悪した。
地団太を踏みかけて思い止まると、ボクは膝を抱えた。
近くからは二人の喘ぎにも似た吐息が聞こえてくる。

(ボクだってしてほしいのに……)

パーティーの中で一番不細工なのはこのボクだぞ。
全く自慢できることじゃないけど、トーワ君がその方が良いというなら満更でもない。というより嬉しい。彼に認めてもらえるのは本当に嬉しかった。
それこそ有象無象の評価なんて気にならなくなる程に。
ボクの容姿が彼の好みだという事実で、これまでの気が狂うような苦しみが嘘のように報われた気がする。
なのに……!
腕を振り上げる。だけど、結局それは中空を彷徨い行き場を失った。

(草影から誰か出てこないかな……可能なら中断したり……で、出来ることならそれがきっかけで気まずくなったり……)

いや、いやいやいや、さすがにこれは性格が悪すぎる……
視界が滲んで、溢れたものが目の端から伝った。
仲間達をこんな風に思うなんて。
彼女たちだって大切な友達なのに。
とにかくなんでもいいから八つ当たりしたくなった。
フラッとして樹に寄りかかる、苦しいのに辛いのに二人から目を離せない。
ここから立ち去りたい気持ちがある。でも、今動いたら、絶対に二人にバレるようにしか動けない。
結局ボクの中で行先のない嫉妬の感情が渦巻いていく。
二人が愛をささやき合うような幻聴すら聞こえてくるようだ、いや言ってる、言ってない? どうなの?
聞こえないけど、こっそり愛を囁き合ってたりするんだろうか……

(愛してるとか言ってるのかな……ボクだって言われたことないのに……いや別に付き合ってはないんだけどさ……)

苛立ちながら感情を無理やり抑え込んでいるとふと見た時に行為はさらに先へと進んでいた。
ついばむ様な優しく軽い口付けはやがて舌を絡めるものへと変わった。

(え……あれ、舌入ってない……? 待って待って嘘でしょ!? し、舌まで入れるの!? え、なんか場慣れしてない……? は、初めてじゃない、とか?)

そう思った時、ガラスを踏んだような音が聞こえた。
ピキリピキリと、バキリバキリと無遠慮に踏み砕かれていく。
鳴り響いているのは龍化の音。
ボクが妄想の中でしか聞いていない言葉。それをアイリは当たり前のように――
それ以上の行為になるんじゃないかと気が気じゃなかった。

「…………」

彼がいない未来。それが叶わないと知った時、きっと自分で頭を砕いて死にたくなるほどの衝動に駆られるに違いない。
だから、トーワ君以外のことはもしかしたらどうでもいいのかもしれない。そう思った。
膝を抱えて頭を埋める。

「アイリのアホ……」

ぼそりと呟き、頭を抱えた。

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