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第52話 お酒

すでに辺りは薄暗い。
トーワくんが焚火の灯りで文字を追っているけど目が悪くなっちゃわないか心配だ。
大丈夫かな?
他の3人は遠くで作業してたんだけど、今はどこかに行っているみたいで姿が見えない。
トーワ君にぼぉっと見ていると文字を追う速度が遅くなった。
火の勢いが弱い、ボクはボクで集中しないといけない。指先に魔力を集め、明るい火の玉を形成した。
明るくなったことに気づいたトーワ君が顔を上げた。

「リズさんって本当になんでもできますよね」

気づいてはいたが、突然かけられた言葉にドキリとして、小さい火の玉が揺らめく。
一瞬で薪に着火させるために小さい見た目以上の熱量を持つ。一度服にでもついたら大変だ。
そんな僕の内心に気づかず、トーワ君がボクの指先の小さな火の玉を物珍しそうに眺めている。
なんでもできる、か。
昔から多才な方だった。物覚えもよかったように思う。
でも、ないものねだりというのか、自分の持つ才能よりもほしいものはいくらでもあった。
今、それが目の前にある。
いい加減、指先の火の玉を放り込み、薪に一瞬で燃え上がるのを見た。

「……よかったら今度教えようか?」

トーワ君に「もしかしたら素質あるかもよ?」と言ってあげると、随分と喜んでくれた。
魔法に憧れでもあるのかな?

「魔法ってどうやって覚えるんですか?」

あれ、確か回復魔法を使えるんじゃ……なんて思ったけど、トーワ君と話せるのは嬉しかったので疑問を振り払って返した。

「最初だけは感覚的なものだからね……魔力は感じ取れるよね? それができるならあとは早いんだけど」

「こ、こうですかね?」

トーワ君が手を目の前にかざし始めた。
何やってるんだろう? 魔力を感じるためだろうか。
あまり見たことのないやり方だけど無意味とは言えない。
魔力を感じるルーティーンは人によって異なるし、感覚は人によって千差万別だからだ。
だけど色々試しているうちによく分からなくなってきたのか、次第に腕を交差したりとよく分からない格好をし出した。

「あははっ、何そのポーズ」

それからも他愛ないことを話した。それだけで胸の奥がポカポカするんだ。
やっぱりボクはこの人が大好きなんだなと改めて思う。
彼との話はとても楽しくて気付けば告白や色んなしがらみ事を忘れていることに気づいた。
視界の端に風呂敷に乗せられ積み重なった何冊かの本が見える。
今は本を閉じているけど、さっきまでこの薄暗い中でも何度かページを捲っていた。

「また本を読んでたの?」

「はい、リズさんが持ってきてくれた龍族の人に関する本とか医学書ですね。リリーラさんのことで少しでも力になりたいですからね」

「それは……まあ、ありがとう……でも、ボクの本は関係ないんじゃ……?」

トーワ君は「ん?」と、ボクが積まれた本の間から手に取った本に視線を向けた。

「混ざってました?」

ああ、意図して持ってきたわけじゃなかったんだね。
だけど旅先の荷物にまで入れるなんて、随分嵌り込んでくれているらしかった。
嬉しいと同時に照れ臭いというかむず痒いというか……

「っ、それより夕飯楽しみだね」

「今日は石焼シチューなんでしたっけ?」

「う、うん、母の好物なんだ」

こんなに楽しくて、幸せなんだ、今のままの関係でも、い、いや……よくないよくない。
ぬるま湯に浸かったような自分を叱責した。

「夕飯できましたよ」

シルヴィ達が両手鍋を持って戻ってきた。
中からはシチューが焼けるいい香りが漂ってきている。
せっかく楽しい所だったのに……
でもお腹も空いてきてたからね。この時間がずっと続かないのも仕方のないことだ。

「リズさん、ちょっと話があるんですが」

「? なに?」

シチューを食べてから、私はリズさんに声をかけました。
ここはリーダーとして私が頑張る場面ですからね。
真意を確認するためにも頑張らないといけません。
リズさんの意志を確認するために遠回しな言葉を投げかけます。

「何か、言いたいことはないですか?」

「言いたいこと?」

「ですね。何か……ほら、ありますよね?」

小首を傾げて不思議そうにしています。
ちょっと遠回し過ぎましたかね。アイコンタクトでアイリさんに「もっと攻めろ」と言われます。
するとその時でした。
リズさんがジッとこちらを見てきています……え、なんですかね?

「シルヴィ、首のとこ……ちょっとジッとしてて」

リズさんがこっちに腕を伸ばします。
ん? と私は困惑しました。
妙に威圧的に見えます。自分の喉元から、ひゅっ、と乾いた呼吸の音が聞こえてきた。
怖すぎて目が離せません。リズさんの手はそのまま私の首元へと伸びて――

「糸ついてたよ」

「え、あ、あぁ、そう、ですか……あ、あり、ありがとう、ございます……」

指先に摘ままれたローブの糸屑を目の前にして、にっこりと笑われます。
ローブの下の服が肌に張り付いています。冷や汗をかいていたようでした。
自分の顔が引き攣る感覚が嫌というほど理解できて、私はアイリさんとミーナさんの方へと視線を向けます。

(無理無理無理! 無理ですってこれ! 本当に怖いんですけど!)

ミーナさんがやれやれと溜息を吐いています。
こ、こっちの立場的には、今首が引き千切られる幻影が見えましたよ……ミーナさんもやってみれば分かると思うんですけど。
アイリさんの傍に寄って耳打ちした。

(今のは完全に『貴様も糸屑にしてやろうか?』って言ってましたよ!)

(言ってねーよ。大丈夫だって。ていうかそれ誰だよ)

(糸見せて『ついてたよ』ですよ!? リズさんが摘まんでたあの糸屑は私を暗示して……あああ、完全にホラーじゃないですか!)

アイリさんの頬に手を伸ばします。
人肌の温かみが私の心を癒してくれました。

(お、おう。落ち着けって……触んな触んな。おい、マジでやめろ! 温もり求めんな!)

呆れるアイリさん。ミーナさんも視線でGOサインを出してきますけど、私のリーダーとしての頑張るぞという気概は、ブレブレに揺らいでいました。
リズさんとトーワさんは不思議そうな顔をしている。
どうしたものか……
しかしそこでハッと思いつきました。

「リズさんにお願いがあるんですけど」

「うん? なんだい?」

「竜酒に興味がありまして」

ちらっと目配せをしました。
お酒の力で聞き出そうという私の思惑を察してくれたようで、アイリさんが話題に乗ってくれます。

「そういやここって酒作ってるところあるんだよな」

「ああ、シルヴィも飲みたいのかい?」

確かお酒を製造してる場所には酒蔵もあるんですよね。
丁度良かったです。私も流れに続きました。

「後で味見だけでもさせてもらえたら嬉しいなーと」

上手く話しが運んでいますけど、リズさんが酔っぱらうかが心配ですね。
彼女はお酒に強い方なのであんまり酔っぱらったところを見たことがないというか。
勝負は夜。その時にどうにかしてリズさんを酔わせることができれば真意を聞き出せるかもしれないです。

「でもシルヴィって普段はあまり飲まないよね? 度数高いけど大丈夫?」

「ちょっと味見するくらいなので大丈夫ですよ」

「トーワしゃん、聞いてまふかぁ?」

「……シルヴィさん、飲み過ぎじゃないですか? もうその辺にしといたほうが」

「うへへ~、私を心配しくれて嬉しいです~でもぜーんぜん平気なんですよ~」

隣からアイリさんの「なんでお前が潰れてんだよ……」という声が聞こえてきました。
ミーナさんとリズさんからも言わんこっちゃない、みたいな顔をされてしまいます。
潰れる? なんのことでしょうか。
私は素面ですよ。酔っぱらってるって言う方が酔っぱらってるんですよ。
竜酒……何杯目でしたか……をもう一杯飲む、おいしい!
幸せな気分で、トーワさんを眺める。
トーワさんとの思い出が泡のように思い出しては弾けていく。
……あー、そうだ!

「トーワしゃん……私は怒っているんれすよ?」

「えっと、といいますと?」

「デートもしてくりぇましたよにぇ? なんれ手とか繋いでくれないんれふか!?」

待ってたにょに!
「手、バタバタさせるな、ガキか!」とアイリさんが何か言っている。
心配性なアイリさんに何度かお酒を取り上げられそうになりましたが必死に抵抗します。

「……なんだか照れ臭くて」

トーワさんが恥ずかしがって頬を染めます。
そ、そんな顔しても駄目ですからね? 可愛いですけど、私は誤魔化されませんよ。
ゆっくりと関係を勧めるのが恋人ですよねーとか言って強がりましたけど、本当は悔しかったんです。
私はトーワさんの腕にしがみ付いておんおんと泣きました。

「シルヴィは酒癖が悪い……」

「あ、あはは」

「うぅぅ、ミーナしゃんにはあんにゃに何度も棒を挿入したくしぇにぃぃ!!」

「めっちゃ人聞き悪いですね……」

困り顔の恋人が愛おしいあまり腕に身体を押し付けました。
うへへ……
アイリさんとミーナさんが熱心に、私を見ている……
羨ましいのかもしれないですね。

「完全に飲まれてる」

仲間達の声が遠くに聞こえます。
暗くなっていく意識の中で――

「ごめん、任せるよ。先に寝てるね」

そんなリズさんの声が聞こえた気がしました。

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