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第54話 告白

体感、いつもは起きている時間だけど、僕はテントの中であくびを一つした。
照明の道具で本を読むにはやや億劫な暗さだ。
ぼーっとテントの天井を見ている、眠気はあるのだが何やら寝付けない。
里の中だから危険もないだろうとのことで火は消しているし、皆もそれぞれのテントで眠っている。
しかし、シルヴィさんの悪酔いには驚いたな。
竜酒は僕も少し舐めさせてもらったけど、度数が高すぎるというのだろうかお酒を飲む習慣のなかった僕には美味しいとは思えなかった。
……いい加減、逃避するのはやめておこう。
横になりながら考える。
彼女たちにはずっと待ってもらっていた。
そろそろ僕も覚悟を決めるべきなんだろうか……夜這いとか。
不安もあるし、想像しただけで何だかソワソワするんだけど、拒絶されることはない気がする。
いいのかな? いや、そりゃあね、したいかしたくないかって言われたら勿論したいけども。
だけど、勢いのままにっていうのは……いや、勢いがないと一生しない気もするな。
なんてこんなこと考えてるのもシルヴィさんに抱き着かれた時の感覚が残っているからなんだろうか。
柔らかかったな……触られた感触は滑らかで、まだ彼女の熱の残滓がほんのりと残っているような気がした。
それに加えて昼間のアイリさんとのあれこれもある。
何となく気恥ずかしくなった。

「トーワ君」

一瞬、欲望のあまり女性の声を想像してしまったんじゃないかと思ったけど、その声はテントの外から聞こえた。
顔を出すとそこには月明かりを背にしたリズさんの姿があった。
月の光をまとったリズさんは幻想的で妖しい雰囲気をまとっている。
思わず息をのみ、ジッと見つめてしまった。

「……どうしたの?」

「あ、いえ……それよりもリズさんはどうかしましたか?」

まさか見惚れていましたとは言えるはずもなく、言葉を濁す。

「遅くにごめんね。ちょっと話がしたいんだ。いいかな?」

ある意味ありがたかったかもしれない。
シルヴィさんのこともあり、思考が変な方に向いて悶々としてたから、少し頭を冷やすとしよう。
テントから出て、照明を片手にリズさんの後をついていった。
虫の鳴き声が聞こえてくる。
空気は乾いていて夜風が気持ち良かった。

「どこに行くんですか?」

「特に決めてないよ。駄目だったかな?」

というと本当に雑談したかっただけなのかな。
別にいいけど、リズさんの空気がいつもと違う感じがした。
里の中を散策していると、ふいにリズさんが口を開く。

「トーワ君はこの里をどう思う?」

「いいところだと思いますよ。平和な感じがして……自然が多い所とか好きなんですよね」

リズさんはただ一言だけ、ありがとう、と呟いた。
だけどその表情には陰りが見える。

「……なにかありました?」

「んー、あったと言えばあったけど……分かり易かったかな?」

「何か普段と違ったんで」

リズさんが僕を呼び出したことに意味がある気がした。
話を聞いてほしかったんじゃないかな。
なら僕はその話を聞いてあげたい。彼女が少しでも楽になるならと続きを促した。

「実は長老たちに急かされちゃったんだ」

「昼間の話ですか?」

「うん、お前が後継者だって」

彼女の表情は無理やり笑顔を浮かべているが苦々しいものだった。
役職が決まってめでたい……って話ではないようだ。

「断れないんですか?」

「うーん、長老たちは少しばかり頑固だからね」

その話の続きを聞きながら僕はリズさんの後をついていった。

「その昔に里で災害があったと聞いてる。巫女の力に関してなんだけど……龍眼って知ってる?」

ああ、リリーラさんに聞いたな。
未来を予見する力だったか。
頷きを返す。

「巫女の体調を考慮して祭事をやめた日に大勢が死んだんだ。最長老のご両親もその時亡くなったって聞いてる」

リズさんは「ままならないよね」と言って続ける。

「だから長老たちは祭事を重要視してる人が多いんだけど……って、ごめんごめん、面白くない話だったね」

「いえ……リズさんの事ならもっと聞かせてください」

「そ、そう? ありがとう、嬉しいな」

会話が途切れて僕たちの間に静けさが降りる。
鬱蒼とした道を進む。
坂道を上り、道を抜けると彼女は足を止めた。

「あれは会合所だよ、夜になると誰も来なくなるからね。中には入れないけども……」

リズさんが指差す先にはこの里で初めて見る木造の建物があった。
ログハウスのように木が積まれている感じの建物だが、その木が大きい、一抱え以上ある大木ばかりが使われていて、ここが何か重要な場所だと察することができた。

「子供の頃は母の仕事に憧れもあったから、入れてくれって頼んだこともあったな」

リズさんが懐古するような、そんな表情を浮かべる。
過去を想起する彼女の嬉しそうな顔。月明かりのせいもあるのかもしれない。彼女の表情が照らされた光景にほんの一瞬だけど目を奪われた。
綺麗だ、と素直にそう思ったけど、頭を振って思考を払う。
リズさんがそんな僕を見て不思議そうにしている。

「この里では色んなことがあった」

でも……と、一転して苦しそうに顔を歪め、僕に背を向けた。

「トーワ君はこの里が平和だって言ってくれたね……でも、ボクにはろくでもないことが多かった」

「……それは」

「別にトーワ君にさっきの言葉を撤回してほしいわけじゃないんだ。ボクだって里には愛着がある。里の外でも結局変わらなかったしね……」

リズさんの声は平坦さを装ったものだったけど、彼女の悲しさが伝わってきた。

「その度にボクは泣いてた。たぶん母や皆がいなかったら今ここにボクはいなかったと思う」

辛かった、と彼女は口にした。
その感情を僕は推測することしかできない。
結局何を言ったところでそれは僕の同情に過ぎないからだ。
でも……と、リズさんは続ける。

「今は皆がいない方がよかったなって思ってる」

「? 何でですか……?」

「皆がボクの好きな人を奪ったんだ」

「……うん?」

リズさんは黙り込む。
ゆっくりと振り向く彼女はいつもの微笑みを湛えていた。
そこでようやく僕は異常に気付く。
凪いだように木々の騒めきすらも聞こえない。
原因は、きっと彼女だ。

「ズルいと思った。許せないと思った。だって、ボクが最初に好きになったのに……あいつらはトーワ君を奪ったんだ。 そりゃボクが勇気を出せなかったのが原因かもしれないけどさ……正直、妬ましいよ」

「ん? ち、ちょっと待ってください……え?」

「待たない。もう、待てないよ……何が駄目なの? 不細工がいいんでしょ? ボクが一番不細工じゃないか。何が不満なの? それとも……やっぱりこの顔は駄目なのかな」

力のない笑みで彼女は言葉を続ける。
だけどその瞳はどこか虚ろでどこを見ているのかも曖昧なものだった。
明らかに彼女の言動はおかしい。
何があってこういう事になっているんだ?
さっきの言葉。あれは告白なのか? 僕のことが好きって事?
パニックでよく分からなくなってきた……
状況が分からない。

「気付いてよ! 僕たちはずっと前に会ってたんだよ!?」

叫ぶようなリズさんの告白。
一瞬頭が真っ白になった。記憶を辿るけど彼女と出会ったことはない、はず。
な、なんでだ? リズさん好きな人いたんじゃないの?
いや、なんとなく僕だったらしいというのは分かるけど、接点はどこにあっただろうか。
僕から見たリズさんはどうだろうかと改めて考えてみる。
気は合うと思っている。最初に出会った時からずっと可愛らしい人だなと思ってたし、話せば話すほど僕のリズさんへの印象は上がっていくばかりだ。
感情的に言えば決して嫌じゃない。むしろこんな美少女にそんなことを言われてすごく嬉しい。
状況を考えなければだけども……
逡巡するボクを見て何を思ったのかリズさんは何の迷いもなく頭を下げた。

「お願いします……ボクにお情けを下さい。付き合って下さい……」

深く頭を下げるリズさんを見ながら僕は混乱する。
訳が分からないけど、とりあえず……な、何事?

「えーと、ちょっと待ってくださいね……告白は嬉しいです。嬉しいんですが……ひとまず頭上げてもらってもいいですか」

リズさんに顔を上げるように促した。
とはいえこれは皆にも相談しないといけないだろう。
話はそれからだ。ここで断るのも受け入れるのも簡単だけど、皆のパーティーのことを考えたら全員での話し合いは必要だと思う。
だけど僕の煮え切らない態度をどう受け取ったのかリズさんが震える声で言った。

「あ、上げない……嫌だ。トーワ君が、いいって言ってくれるまで……」

「いや……困ります……」

困る、と僕が口にした瞬間ビクッとリズさんの全身が震えた。
リズさんは慌てて頭を上げると、機嫌を損ねないようにするような、卑屈な泣き顔でこちらに縋り寄ってきた。

「な、なんで……? 駄目、どど、どこが駄目だったかな? な、直すから! どんなところでも直すからっ!」

彼の声色に困惑が混じるのを感じてボクは慌てて顔を上げた。
トーワ君を不審がらせるつもりはない。
ただ少しでも覚悟を知っていて欲しかった。
彼に不都合があるならボクは何を捨てることだってできるんだって。
初めて出会った時から、ずっと好きだった。
彼が不細工好きだと聞いて全身が喜びに打ち震えたのを覚えている。
シルヴィみたいな肌で、アイリみたいな肉付きで、ミーナみたいな顔立ちが彼の好みらしい。
ボクのことじゃないか。
あいつらじゃない。ボクであるべきだ。
だって、ボクが一番トーワ君を想っているんだから。
本来は逆の立場であるべきなんだ。
なのに……なんで?

「な、なんでそんな顔してるの……?」

君がそんな悲しそうな顔をしてるとボクも悲しくなってしまう。
口を開こうとする彼を遮った。

「もしかして、駄目、なの……?」

「いえ、ちょっと状況が分かってなくて……待ってください。えーと」

整理したい、そう考え込むように顎に手を当てるトーワ君。それだけでよくない方へと考えてしまい覚束ないボクの足は彼へと近付いた。
それを見て彼は後ろへと下がる。
まるでボクを怖がるような動作。心臓が抉られるような喪失感。
全身に悪寒が走り抜け、心を鷲掴みにされたような絶望が支配した。
服の裏側から硬質な音が聞こえる。
その音と重なって彼の声が聞き取りづらい。
いつもの龍化とは違う感じがした。
感情の昂りも普段より大きい。
自分の顔が青ざめるのを感じた。
断られるかもしれない。
その瞬間、血の気が引く感覚がハッキリと理解できた。
心の奥底から湧き上がる負の感情を抑え込むように胸元に手を当てて目を瞑り呼吸を整える。
息が苦しく、圧迫感を感じる。
彼の言葉が気になって仕方ないはずなのに、それを聞くのが恐ろしく怖かった。

「なんで、そんなこと言うの……? 駄目、ってこと?」

後ろに下がる彼を慌てて追い、袖を掴んだ。
袖を持つ力の籠らない手から彼の困惑が伝わってくる。
それが今この瞬間は紛れもない現実なのだと理解させた。
根拠はない。ただ悪い方にしか考えられない思考が最悪のイメージをボクに伝えてきた。
拒絶される。そう思ってしまった。

「えっ、いやいや、そうじゃなく――」

「あ……あああ……っ! ま、待って! 待って待って待って……ボクで、いいじゃないか。駄目なの……? お願い……お願いだよ……何、番目、でも我慢゛するから゛……」

懇願をする。
ただ、少しでも彼の気を引きたくて、媚びるように、必死に頭を下げた。
もしかしたら同情してもらえるかもしれない。
そんな最低な打算を込めた。

「言うことっ、言うことなんでも聞くから……っ!」

トーワ君が何か言ってる。
ペきぺきとガラスを踏んだような音が繰り返される。
キィンと耳鳴りが聞こえて顔をしかめ、龍化を無理やりに抑え込み彼に願う。
お願いだから、どうか受け入れてほしい。
それだけがボクの望みだ。これ以上は、これ以外は何も望まない。
しかし、そんな願いも虚しく答えが返ってくることはなかった。

「そっ、そうだ! 魔法で君に嘘をつけなくすることもできる! 大きな街でお金を払えばもっと強力な魔法で縛ってもらうこともできる! な、なんだったらさ、ほらっ、隷属もするし、何でもっ、どんな命令でも聞くから! どんなこともする! 絶対に逆らわない! だ、だから」

そうすれば一緒にいられる。彼に使ってもらえる。
涙が溢れ出て顔がぐしゃぐしゃになる。今ボクはどんな顔をしているんだろうか。
たぶん情けない顔をしているんだろう。そのまま彼に縋りついた。
何番目でもいい。婚姻……いや、彼に少しでも愛情を分けてもらえるなら奴隷にだって成り下がる。

「と、トーワ、くん……?」

だけど、そんな惨めったらしい言葉にも彼が答える様子はない。

「ね、ねぇ、なんで? なんで答えてくれないの……?」

ボクはトーワ君の足元に縋りついて泣き喚いた。
子供のように。
ただ彼に捨てられたくないという思考だけが頭の中を巡っていた。

「い、やだ、やだよっ! お嫁さんなんて、もう、贅゛沢なこ゛と、か、考えないから……っ!」

もしそれで少しでも彼の気が引けるならボクの尊厳なんて安いものだと思った。
だけど、トーワ君は困ったような表情を浮かべる。
それを見たボクの内心を真っ黒な感情が覆っていく。

「なんでボクには……あ゛ぁあ゛ぁ、ずるい。ボクだって、君゛のことが大好゛きなのに……ッ!」

どうして、答えてくれないの? ボクを見てよ。
ボクが一番最初に君を見つけたのに。
そんな想いばかりが胸の中を渦巻く。

「あ、あんなや゛つらより……ボクを゛選んでよッ!!」

その言葉を口にした瞬間、自分の中の大切な何かが壊れた音がした。

ビシッ――

「あ?」

極度のストレスによって始まる龍化の兆候。
硬質な音の連なり。

「あ、レ……?」

慌てて制御しようとするけど、意味はなかった。
今度はもう、どうにもならない。
駄目だ。そんな確信にも近い予感がする。
限界まで耐えてきた反動だろうか……不愉快な鱗の感触が全身に急激に纏わりついていく。

(あ……そうだ)

何を今まで我慢してきたんだろう。
僕はトーワ君が大好きだ。

だからこそ――

トーワ君にこびり付くあいつらから彼を奪うことに何の躊躇いがあるだろうか?
それはボクの全てを侵食するように身体全体を覆っていった。

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