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第56話 夢

夢を見ていました。
これはいつの頃でしょうか……まだ装備が整ってないから……パーティーの結成時ですかね?

『パーティー名は処女同盟です!』

『『『…………』』』

皆さんが全員一斉に黙ってしまったのを覚えています。

『な、なんですか? 何か言いたいことでもあるんですか?』

夢の中ではたじろぐ私に彼女たちは率直な意見を述べました。

『ダサい』

『ないと思う』

なかなかストレートな言葉でした。
良心であるリズさんを見ると苦笑いを浮かべています。
私は悔しさで「くっ」と、呻くことしかできません。

『まあ飲みながら考えようぜ』

気を取り直して全員に飲み物が行き渡り、各々で好きなものを注文しました。
一晩中考えていたのに、とか、自分たちを表しているじゃないかとか、膨れっ面をしていた私に三人が無理やり音頭を取れと促してきます。
確か皆がご機嫌を取ってくるので、私もすっかりその気になって口上を言い始めたんですよね。

『私たちはこれからどんな苦楽も分かち助け合うことを誓います!』

『おう!』

『乾杯』

皆で乾杯して口をつけました。
あまりお金がないからおつまみに簡単な乾物をいくつか頼んでいます。
私はあまりお酒が強くないので皆が心配しています。
ですがそんな中で「こんな時くらいいいじゃないですか」と勢いよく喉の奥にビールを流し込みました。
大丈夫ですかね……
もうお腹もペコペコで、のど乾いちゃってーと、夢の中の私はご機嫌にもう2杯目でした。
ぷはっと息を吐き出すともう顔が赤いです。我ながら弱すぎませんかね?
アイリさんが心配そう見ています。ミーナさんは我関せずでおつまみのジャーキーを齧っていました。
その光景をリズさんがジッと見つめています。

『……あれぇ、リズさんどうしました?』

さっそく呂律が回らなくなりつつある口調で私はリズさんに話しかけました。

『あ、ごめんごめん、なんて言うかさ』

『処女同盟がよかったか?』

アイリさんが冗談交じりにそう言うと、ミーナさんから「抜けたい」と、これまた冗談めかした言葉が聞こえてきました。
私は「そんなに駄目ですかね~?」と、いまだに納得できてないような声をあげています。
皆からあれはないと笑われていました。

『それでぇ? そんなに不満だったんですかぁ?』

『ち、違うよ! そうじゃなくてさ……』

ジョッキを手にリズさんは感情を噛み締めるように呟きました。

『なんかこういうの……良いなって思ってさ』

あの時は、ちょっとしんみりしましたね。
アイリさんが照れ臭そうに笑い、ミーナさんが頷く隣で酔っぱらった私が何かに気付いたように「あー!」と、声をあげました。

『ここは一番強いリズさんに肖りましょう!』

『……ボク?』

『そうです! パーティー名は――』

随分と懐かしい夢でした。
なんで酔ってる時の方がいい案を出すんだと皆から笑われましたね。
楽しかったですね……

「……んぁ?」

ぱちりと目を開けた私の目の前にあったのはいつも眠っているテントの天井でした。
あれ? どこですかねここは?
記憶を辿ってもお酒飲んでからの記憶がないような……酔い潰れたんでしょうか?
それにしては妙に心地の良い目覚めです。
「お? 起きたのか」

「あ、おはようございます、アイリさん」

まだ夜だけどな、と突っ込みが入りました。

「夕食のことは覚えてるか? トーワには礼言っとけよ。わざわざキュアかけてくれたんだしな」

「やはりトーワは優しい」

ミーナさんもごろんと寝転がっていた身体をこちらへ向けました。
キュアって確か解毒の魔法ですよね。そういえばお酒にも効いたんでしたか……トーワさんはキュアも使えたんですね。
銀翼のパーティー内で使える人はいなかったのでありがたいです。
しかし……夕食の時のこと?
ちょっともう一度思い返すように頭を捻ります。
えーと、リズさんに確認しようとして、酔った勢いで喋らせちゃおう、みたいな流れでしたよね。
それから竜酒を勧めてたら逆に酔い潰れて……
ふむふむ……

「あ、ああああ!? や、やらかしました! やらかしましたかね!?」

私は思わず飛び起きました。
いくらなんでもトーワさんに失礼でしたし、リズさんにも悪いことをしてしまっています。

「やらかしてるな」

「と、とりあえずどうすればいいですかね……?」

「リズには謝った方がいいだろうな……」

アイリさんが呆れ顔を浮かべていました。
で、ですよね。何をしてしまったんでしょうか私は。
酔った挙句リズさんの前で惚気るとか最低でした……

「しかし、謝ったところで問題の根幹は解決しない」

と、ミーナさんが口を開きました。

「どうするの?」

とても真剣な表情でした。
私もアイリさんもそれにつられて、佇まいを直します。

「確かにあの態度はそういうことだよな……」

「うん、私にも分かった」

私は……どうするべきなんでしょう。
正直初めて出来た恋仲の男性を共有することに面白くない気はします。
3人もいて今更ですけどこれ以上増えたら構ってもらえなくなるんじゃないかとか、よくない方向に考えてしまいました。
理屈じゃない。本能的にもうこれ以上はと、独占欲が湧いてきます。
でも――

「私はリズさんだけ仲間外れは嫌です」

自分の正直な気持ちです。
あの時、パーティーの結成時に誓ったのは嘘じゃありません。だからこそ、二人が認めてくれないなら、分かってもらえるまで何度でも説得するつもりです。

「昔のことを思い出したんです。私たちが一人きりだった時凄く苦しかったじゃないですか」

それを一番最初に助けてくれたのは紛れもなく仲間達がいたからです。
リズさんは今もまだ苦しんでる。それをどうにかしてあげたいと思います。

「……お二人はどうでしょう? リズさんのことは」

恐る恐るアイリさんとミーナさんの顔色を伺います。
怒られるでしょうか?
そこで黙っていたアイリさんがガリガリと頭の後ろを掻きました。
そして、小さく溜息を吐いてから言います。その表情はとても穏やかでした。

「お前が反対だったらどうしようかと思ってたよ」

「うん」

二人の反応に私は首を傾げました。

「え、もしかしてアイリさんとミーナさんは受け入れる方向で意見固まってたんですか?」

アイリさんが「お前が寝てる間にな」と、補足します。

「そ、そうでしたか……」

私は大きく息を吐いて一安心しました。
反対されたらどうしようかと。
まあでも、リズさんの事を尊重してくれたのなら良かったです。
すると今度は、ミーナさんが口を開きます。

「シルヴィが反対だったらトーワにあれをバラすしかなかった」

「あ、あれってなんですか?」

何か私の弱みでも握っているんでしょうか。

「トーワにしたこと、心当たりがあるはず」

「……ちょっとあり過ぎて分からないですね」

トーワさんとあれこれしたいと欲望を垂れ流したときのことでしょうか?
それとも秘蔵のちょっとエッチなコレクションが見つかってしまったとか……あるいはトーワさんの水浴びを見てしまった時の事とか。
トーワさんの上着の臭いを嗅いだこともあります……他にも色々と心当たりが。
駄目ですね。絞り切れません。
そんな私をミーナさんが心なしか軽蔑の目で見てきている気がします。
あの、怖いんですけど。印象は下げたくないので変なことは言わないでくださいね……?

「そういえば――」

と、その時でした。
会話に混じって足音のようなものが聞こえてきます。
一瞬、それぞれが警戒しますけど、音に敏感なミーナさんが一番最初に「リズの足音」と、口にしたことで警戒を解きました。
丁度いいかもしれません。一度ちゃんとお話ししましょう。
と、テントの入り口の垂れ幕を開けます。

「み、皆、いる?」

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