巨乳キャラあつめました 巨乳のキャラクターが登場する漫画や小説を集めたサイト

第62話 使徒

突然のことにボクは驚愕していた。
隣のトーワ君も同様だ。
お母さんは凛とした表情で室内を見回した後、アグニラ様の方を見て言った。

「お許しください。しかし、娘のことなら私も無関係ではありません」

そういって頭を下げたお母さんをアグニラ様は目を細めて睨んだ。
その威圧感はすさまじく、普通の龍人であれば身を縮こまらせるだろう。
だけどお母さんは違った。その目線をものともせずアグニラ様に視線を合わせていた。
それから暫くした後、先に折れたのはアグニラ様だった。

「……はぁ、リリーラよ、体調の方は大丈夫なのか?」

「はい、トーワ様に治療して頂きました」

「……治療? いやしかし」

そこで言葉を止めると、今度はトーワ君に視線を向ける。
その鋭い眼光にボクは思わず息を飲んだ。

「その御方は使徒様です」

「へっ?」

いきなり話を振られてトーワ君は素っ頓狂な声を出していた。
トーワ君が使徒?
その言葉に反応したのはこの場にいる全員だった。
口々に疑うような、訝しむような発言が聞こえてくる。
ボクも思わず彼を見た。

「何を言ってるんだ?」

アグニラ様も困惑しているようだ。
それはそうだ。ボクだって驚いている。
龍族と使徒様は浅くない関りがあったし、トーワ君が神様に選ばれた人で、そんな彼とボクが一緒にいるだなんて信じられなかった。
お母さんはそんな皆の反応を無視して話を続ける。

「アグニラ様、少し私の話を聞いていただけないでしょうか」

「しかしだな……」

「お願いします」

有無を言わせない迫力だった。

「……聞こうか。彼が使徒様であるということだが……しかし、それを証明することはできるのか?」

「はい」

お母さんの言葉を聞いてアグニラ様は苦々しい顔をしていたけど、一応納得してくれたみたいだ。
それにしても証明しろって言われても……
そう思いながらチラッとお母さんの方を見ると目が合った。
任せてくれといった感じでアイコンタクトをしてくる。

「まずトーワさんの毛髪ですが、女神様の遣わせた御方は黒髪の人物が多いというのは御存じでしょうか」

お母さんの言葉を反芻しながら考える。そういえば聞き覚えのある話だ。
僕の髪の毛にも黒が混ざっているのは過去の使徒様の髪の毛が黒かったから、中途半端に先祖返りした結果だと言われている。
人の毛髪は自身の持つ魔力と混ざると変色してしまう事例が多い、とかなんとか。
確かに使徒様の特徴と一致するかもしれない。
でもそれだけでは足りないんじゃないかと思うんだけど……
ボクが不安げにしていると、お母さんは更に続けた。
まるで大丈夫だと安心させるように優しく微笑みかけてくれる。

「使徒様の毛髪は書庫にも保管してある……確かにその通りだが、しかし、絶対ではないだろう」

お母さんは「それだけではありません」と、次にボクを見た。

「娘の言葉なのですが、トーワ様には過去の経歴が存在しませんでした」

「……それは誠か?」

以前トーワ君を調べたことがある。
確かに彼の過去を遡ることはできなかった。
そこでボクも理解した。
過去を遡れなかったのは異国から来たのではなく、それ以前に彼がこの世に存在していなかったからなのではないかと。
するとさっきまで渋っていた様子とは一変して、アグニラ様の顔つきが変わった。
どうやら何か思うところがあるらしい。
ボク達はそのことに驚きながらも黙って見守るしかなかった。
そして、お母さんは重々しく口を開いた。

「さらに私を治すことができるほどの特異な回復魔法を使用できます」

さらにお母さんは続けた。
お母さんの話を聞き終えた後、部屋の中には静寂が訪れた。
誰も何も発することなく、ただじっと視線を交わしている。
それから口火を切ったのはお母さんだった。
トーワ君に対して深く頭を下げる。

「トーワ様、まずは謝罪させてください。御身が訪れられた時、龍眼を用いてあなたのことを知ろうとしました」

「……そうなんですか?」

ボクも驚いた。
お母さんが彼に対してそんなことをしていたなんて。
龍眼は未来を予見する力だ。トーワ君の未来を知ることでどんな人物かを測ろうとした。
それはこの里では固く禁じられている使い方だ。

「咎はこの後如何様にもしてください。しかし……あなたに関連する未来は断片だけ。ほとんどの光景を見ることができませんでした」

真剣な表情でトーワ君を見つめるその姿からは、今まで見たことのないような強い意志を感じた。
その視線にトーワ君は少し戸惑ったようだったけど、それでも目を逸らすことなく真っ直ぐに見返した。

「それはあなたがこの世界の人間ではないからではないでしょうか」

しんと会合所が静まり返る。
あちこちから「まさか本当に……?」と囁く声が聞こえてきた。
それからしばらくアグニラ様が考え込むと、お母さんの後ろについてきていたシルヴィがおずおずと手を上げた。

「あの~、私からもいいですか?」

「誰だ其方は?」

「あ、申し遅れました。私リズさんと冒険者として活動を共にしているシルヴィです」

急に現れた見知らぬ彼女に警戒心を強めるアグニラ様。
その視線に僅かにシルヴィはたじろいだが、気を入れ直すようにマイペースに話し始めた。
周りの長老達やアグニラ様も彼女の態度に毒気を抜かれてしまったようだ。
そんな二人を見てお母さんがくすりと笑みを浮かべる。

「彼女のことは娘から知らされています。怪しい人物ではないのでご安心ください」

アグニラ様がひとまず納得したようで「それで?」と続けた。
それを確認してからシルヴィは話し始める。

「私たちもこんなことはしたくありませんでした……ですが、私みたいな顔と結婚できますか? と脅し……いや、迫ったところ泣き出してしまわれたようですが?」

……そんなことしてたんだ。
あ、だからアイリとミーナも連れて行ってたんだね。
まだその相手のことはボクは知らされていないけど、3人に囲まれてさぞ恐怖だっただろう……
少しばかり同情したけど、皆は皆でその扱いはいいの?
それからすぐにお母さんが咳払いをする。

「リズを縛るようなら娘を連れて出て行かせてもらいます。もう戻りません」

お母さんの目は本気だった。
その目に気圧されたのか、アグニラ様は何も言わなかった。
お母さんの戻らないという発言でこの場は大騒ぎになった。
当然だろう。里を安定させてきた当代の巫女が子供を連れて出ていくだなんて前代未聞だ。

「えぇ!? い、いいの、それ大丈夫!?」

大丈夫、とお母さんは笑った。

「里の未来と、リズの幸せどちらを選ぶか、でしたか?」

そしてお母さんはそのままアグニラ様を見据えると言葉を続けた。

「……私は、リズを選びます」

先程までの厳かな雰囲気とは一変した、まるで聖母のような柔らかい口調だ。
ボクもお母さんの豹変ぶりに驚いたけど、それ以上にアグニラ様は驚いているように見えた。
やがてアグニラ様が口を開く。

「……最後に聞かせてほしい。トーワ殿、貴方は本当に使徒様なのですね?」

「そう、ですね。女神様には会ったことありますけど……」

その問いに対して彼は複雑そうに首肯した。
アグニラ様が深々と頭を下げてくる。
周りの人たちもそれに続いた。

(リズさん、すみません……使徒ってそんなに偉いんですか?)

こそっと話しかけてきたトーワ君にボクは苦笑いで返すしかなかった。

(龍の祖と女神様の使徒との御子が龍神様なんだ。だからまあ……ボク達の先祖様の縁者ってことになるかな?)

お母さんが改めて誓いを立てる。
その光景にトーワ君が顔を引き攣らせていた。

他の漫画を見る