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第64話 リズさんと

少し空気が重くなったけど、トーワ君が退席したこともあり、そういえばと切り出す。

「この後のことはちゃんと分かってるよね?」

やや警戒気味な声が出る。ずっと考えていたことだ。
トーワ君との蜜月を過ごす予定なんだから多少は気を遣ってほしいところだよね。
全員が「うっ」と呻いた。

「あら、何の話?」

お母さんが興味津々で入ってきた。
この話はお母さんには聞かせ辛いな。
しかし、どうしようか悩んでる間にもお母さんはこっちをキラキラと好奇心満々で見てくる。
ああ、もういいや。言っちゃおう。

「トーワ君に一番だって言ってもらえたからね……まあだからさ、その、分かるでしょ?」

さすがにそれ以上は言い辛かった。
それとなく遠回しで話してしまう。
「へぇ?」と楽しそうだ。

「でも大丈夫? リズはそういうことに対して全く知らないでしょう?」

「……お母さんもでしょ?」

「あら、一応これでも勉強したことがあるのよ」

……怪しかった。
というか身についてるかどうかを明言しない辺り正直胡散臭かった。

「あの~」

ボクが訝しんでいるとシルヴィが妙におどおどと手を上げた。

「なに? 今更撤回は無しだよ?」

「……仮にですよ? 仮にリズさんが一番じゃないってなったらどうします?」

「シルヴィ……未練がましいよ? 今日のところはボクに譲る約束だろう?」

「うぐ、そうですね……すみません」

そう言って納得してくれたシルヴィ。
まだ何か言いたげだった。なんだろう?

「あの、それなら私も銀翼の皆さんと親睦を深めたいと思うんですが」

すぐにこちらを気遣ってくれたのことだと分かった。
頑張ってね、とお母さんが言ってきたことで一気に意識する。
そうだ、ボクはこの後トーワ君と致しちゃうんだ。
あ、本当にどうしよう!
何か心臓がばくばくしてきた。

「わっ、ご、ごめんお母さん」

緊張のあまりふと力を込めすぎた木製のコップを握り潰してしまう。
弾けるような勢いで飲み物がテーブルに零れてしまった。食器を壊したことを咄嗟に謝る。
皆が「相変わらずの馬鹿力……」と呆れていた。

「身体の調子戻ってないのか?」

「んー、そうかも。ちょっと力の調整が上手くできない感じはあるんだよね。前よりは調子がいいからその内戻るとは思うんだけど……」

「……そういや普通にやるのって大丈夫か?」

「? なにが?」

「お前の力だとトーワ折れるんじゃねーかなって」

失礼な、とは思いつつも否定は全くできない。
飛び散ったコップの木片がアイリの言葉を肯定しているようだった。

「……そうかも」

どうしよう、万が一にもトーワ君を傷つけたくないし、失敗したくもない。
そんな事態になったら一生後悔する気がする。
でもどうしよう、力を使わなければいいんだけど彼との行為で力が入らないとか無理なんじゃないかな。
するとアイリが閃いたとばかりに口を開く。

「拘束したらどうだ?」

「アイリは変態」

アイリの言葉にミーナが突っ込んだ。

「ちげーよ。咄嗟に掴んだり出来なけりゃさすがにリズだってトーワを傷つけたりなんてできないだろ?」

なるほど……ちょっと変態チックなプレイになるけど悪くはない。
するとシルヴィが鞄から何かを取り出した。

「一応魔鉄鋼の拘束具ならありますけど」

「……なんでそんなの持ってるの?」

いや、装飾やデザインが若干いかがわしいお店で使うようなのに見える気はするけど、野党に襲われた時用に縄や拘束具なんかの類は持ち歩いている。
たぶんそういうことなんだと思うことにした。

「丁度街の商店で取り扱われていたので。サイズもあってましたし」

ほら、とシルヴィが自分の手に合わせる。
……自分用なんだね。いやいい、この際野暮なツッコミは無用だろう。

「……一応借りてもいい?」

お母さんと銀翼の皆は少し離れたところに張り直したテントで一夜を過ごすことにしたらしい。

「すみません、説明されたのにトイレの場所よく分からなくて迷ってました……あれ、皆は?」

戻って来たトーワ君の第一声がこれだ。
皆がいないことに疑問を持ったようだ。
ボクは「うん、ちょっと待っててね」と言いながらベッドの置いてある寝室へ連れ込む。
中で待つように伝えてから外に出る。
一応周囲に誰もいないことを確認してからもう一度部屋に入る。
中にはトーワ君一人だけだ。
彼がキョロキョロと辺りを見回している。
トーワ君の初めてを奪うなんて……ボクがしていいのか不安だ。
ああもう! そんなこと考えてたら緊張してきた! 落ち着けボク! 深呼吸しろ! すぅー、はぁー……
うん、ちょっと落ち着いてきた。
ボクは勢いよく頭を下げた。

「と、トーワ君! 実は……お、お情けをもらえないかなって!」

「はい?」

顔が熱い。ボクは恥ずかしがりながらも勇気を振り絞った。
初めてだから上手く出来るか不安はあるけど……ボクはもう我慢できなかった。
早く一つになりたいという欲求が抑えきれない。
それに、彼に愛してもらえるなら頑張れる。
だから、勢いのままにお願いしたんだけど……トーワ君はぽかんとしている。
流石に言葉が足りなかったとボクは慌てて補足した。

「み、皆と相談して決めたんだ! それでボクが最初だってことで……ど、どうかな? 勿論嫌だったら断ってくれても全然いいんだけど……」

自分の言葉が尻すぼみになっていく、トーワ君の顔を見るのももうできなくて、いつの間にか祈るように組んでいた自分の手をが視界に入った。
彼が「うー、あー」と照れくさそうにしばらく唸る。
恐る恐る彼の様子を窺うと頬をかきながら優しそうに笑っていた。

「……嫌じゃないですよ」

「本当!?」

ボクは思わず飛び跳ねてしまった。
嬉しくて涙まで出てくる。
ボクは彼の腕を引っ張るとそのままベッドに押し倒した。
そして覆いかぶさるように抱き着くと、ドキドキとした鼓動が聞こえてくる。
その音を聞いているだけで幸せな気分になった。
顔を上げると彼と目が合い、吸い込まれるような瞳に見つめられて体が熱くなる。
ふと抱き締められる。「ふぇ?」と、間の抜けたような声を発してしまった。

「大好きですよ。リズさん」

そう言ってトーワ君が頭を撫でてくれる。

「ふあ……っ」

トーワ君に頭を撫でられる。
初めて経験する男の人の……否、夢にまで見たトーワ君の体温にボクの理性が揺らいだ。

「リズさん?」

「ごめん……」

我慢できなかった。
トーワ君にキスをして、舌を入れて絡ませる。
彼は驚いた様子を見せたが、すぐに受け入れてくれた。

「んむぅ……ぷぁ、ちゅ、れろぉ……っ」

唇から舌を差し込んで口内を犯していく。
愛し合うという感覚に頭がぼーっとした。

「はぁ……はぁ、トーワ君、好きぃ……好きなんだ。もう我慢できないよぉ」

「リ、リズさん、落ち着いてください。僕も嬉しいですけど」

照れ臭がるトーワ君の身体に手を回した。
もじもじとくねる足で彼の身体を離すまいとロックした。
うわ、腰細い……華奢なトーワ君の身体に興奮を隠し切れない。
簡単に折れそう。

「あ……」

「?」

その時ふとアイリの言葉を思い出した。
丁度シルヴィにも借りていたし、使わせてもらおうかな……

「あの、トーワ君。よかったら拘束とかしてみない?」

「…………」

ガッツリ引かれてしまうのだった。
顔が引き攣るトーワ君を見てボクは慌てる。

「し、シルヴィの! シルヴィのだよ!?」

ボクは鞄に入れておいた魔鉄鋼製の拘束具を取り出した。

「こ、これでボクを拘束してほしいんだ。ほらっ、ボクの力だとトーワ君を傷つけちゃうかなって思って」

「あー……なるほど?」

一応は納得してくれたようだった。

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