入校手続き
僕が育ったこの方中
かたなか
町には、二つの自動車学校がある。
田舎町の、さらに辺境。田畑に囲まれていて、設備は古く、教員たちも年寄りが多いという噂の『方中自動車学校』。
一方、田舎町とはいえ、中心部にあって、設備は最新。教員たちも若く、生徒に寄り添った指導が行われているらしい『方中東自動車学校』。
あなたなら、どちらの自動車学校に通う?
――――――――
(予想以上に古いな……)
猛暑の中、影一つない、田畑に囲まれた道路をしばらく歩いて、ようやくそれらしき建物が見えてきた。
僕――画餅明利
がへいみょうり
は、『方中自動車学校』を選んだ。
理由は、人が少なそうと思ったからだ。
夏休みも中盤に差しかかったこの時期、近くの高校は在学中の免許の取得を禁止しているのも相まって、繁盛期というわけではない。
それでも、僕のように町から離れた高校に通っている学生は、この時期が好機と見て通い出すだろうし、何も自動車学校を訪れるのは高校生だけではない。
年配の方に文句を言われるのは部活で慣れているし、若い教官の中にも指導方法が合わない方はいるだろう。
であれば、設備が古くても、より生徒の少ない方を選び、授業を受けられる可能性を上げたいと思い、こうして『方中自動車学校』にやってきたわけだが……。
(看板の文字は掠れてるし、建物の色は剥げてるし、駐輪場の屋根には穴開いているし……)
トドメに、入り口に貼られた手書きのポスター。クトゥルフ神話に出てきそうな、形容しがたい暗黒物体が「ようこそ!」と陽気に歓迎してくれている。
そのポスターが何枚も――ドアのガラス部分を覆いつくしていた。
……今ならまだ、引き返せる。
過疎狙いなら安心すべきところのはずだが、これはさすがに……自動車学校を装った怪しい宗教団体なんじゃないかと不安になってきた。
「っ!?」
入り口の前で立ち尽くしていると、突然、ドアが開いた。
反射的に踵を返すが、
「あれ……ウリ君?」
「ん?」
懐かしいあだ名で呼び止められた――僕のことをそう呼ぶ人間は二人しかいない。
「やっぱり、ウリ君だ。久しぶりだね」
「と、透華
とうか
……」
清涼感のあるショートカットが似合う、爽やかな笑顔――記憶の中のそれと比べると、大人びている風ではあるが、面影はしっかりと残っている。
幼馴染の気位
きぐらい
透華。
家が隣ということで、小さな頃からよく遊んでいて、中学までは同じ学校だったが、違う高校に通うことになってから、疎遠になっていた。
隣に住んでいるのに、疎遠と言うのは何だか違う気もするが、それこそ、こうして面と向かって話すのは中学以来だ。
「ウリ君、ここに通ってるの?」
「あ、いや、今日は入校手続きに……」
「偶然! 私も今、入校手続きしてきたとこなんだ!」
透華は確か、バスで一時間の女子高に通っていたはずだ。僕と同じく、この時期に自動車学校に通っても、高校にバレる心配はないわけだ。
「でも、何でこっち? 『東自動車学校』のほうが新しいし、評判もいいのに」
「いや、ブーメランだろ」
「いやー、実は、お姉ちゃんがここの教官なの」
「お姉ちゃん……」
遠華
えんか
さんが? 真面目な透華とは違い、飄々としていて、あちこち遊び歩いている印象のあるあの人が、教官をしているイメージが湧かない
『ウリ、エッチなこと、考えてるだろ?』
「ウリ君?」
「あ、いや――イメージ湧かないなーって」
「そうなんだよ…・…心配だから、ちゃんと仕事してるのか見たくて、ここにしたんだー」
妹に心配かけて……結婚して、子供も生まれたと親伝いに聞いていたが、変わっていないようだ。
「じー」
「な、なんすか……?」
透華が急に前屈みになって、じっとりした目でこちらを見つめてきた。
「なんか、よそよそしくない? あーあ、悲しいなー。私は久しぶりに会えて嬉しいのに、ウリ君はそうでもないんだ」
「い、いや、そんなことは……」
「じゃあ嬉しいんだ、ウリ君も」
「そ、そりゃあ……嬉しいけど」
「――あはは、ごめんごめん。意地悪しちゃった」
体を起こして、微笑む透華――僕の隣を通り過ぎながら言う。
「変わってなくて安心したよ――じゃあ、また会ったら、色々話そうね!」
「あ、ああ」
透華はそのまま振り返ることなく、灼熱の道路を歩いていった。
「……はぁ」
ため息が漏れると同時に、視線が彼女の後姿に吸い込まれる。
アイドル顔負けの清廉な顔立ちに――歩く度に跳ねるたわわ。
ドアから出てきた瞬間、視界を掠めたのは、サイズの大きめのブラウスが、それでも厭らしく歪められている惨状――中学の頃から、窃視の的になっていたドスケベボディは、高校生活を経て、さらに成長しているようだった。
「…………」
――もっと、じっくり見たい。脳裏に焼き附けたい。
今の位置関係では、背中しか見えない。だが、一歩、横にずれれば……。
(――やめろ)
浮いた足を地につける――僕は知っている。彼女が自身の胸にコンプレックスを持っていることを。
だから僕は、透華の胸を見ないと決めた。
彼女が体育祭で走るときも目を閉じ、カーテンの隙間から彼女の姿が見えたときも、自室のカーテンを閉め――面と向かって話をするときも、彼女の目を真っすぐに見つめるようにしてきた。
……それでも、愛らしい顔立ちをしているので、ぎこちない喋り方になってしまうのだが。
「ふぅ……」
まぁ、それはともかく――彼女と再び縁ができただけで、この学校を選んでよかったと思える。
この先、どんな陰険な教官に当たっても、後悔しないと断言できる。
寂れた建物に向かう足取りは、不思議なくらい軽くなっていた。
――このときの僕に一つ、質問ができるとしたら、こう問いたい。
なるほど、確かに陰険な教官は大丈夫かもしれない。
ただ、淫乱な教官に当たっても、後悔しないか? と。
――――――――
建物に入ると、閑散としたロビーが広がっていた。
五、六人が座れそうな長椅子が三つ、向かいにはテレビがあって、ニュース番組が流れている。
他には自動販売機に、証明写真機、テーブルと椅子がいくつか――勉強したり、ご飯を食べたりできるようだ。
受付らしき場所もあって、人影は見えないが、机やパソコン、固定電話が置いてあり、どうやら事務所を兼ねているようだ。
(なんだ……全然普通じゃないか……)
電灯は明滅していて、壁には穴が開いていて、歩く度に床が軋む――みたいな半ば廃墟なようなものを想像していたので、少し安心した。
とはいえ、働く人が正常であるとは限らない――知り合いが働いているという情報を得たわけだが、僕はまだ怪しい宗教団体の支配下である可能性を捨てていない。
入校手続きの際、おかしな契約を結ばされないか、気をつけていこう。
しかし、人がいないと手続きも何もない。呼び鈴みたいなものがあるかもしれないと受付らしき場所に向かうと……
「っ」
突然、女性が現れた。
……いや、こちらからは立って対応、向こうは座って対応するのを想定した、段差のあるカウンターで、座っている彼女が死角になっていただけのようだ。
机に体をぐったりと預け、スマホを弄っている体勢も悪さをしたのだろう――まったく、心臓に悪い。
「んー?」
近づいたことで、向こうもこちらに気づいたようだ。体を起こして、目を丸くする。
「あの、入校手続きをしたいんですが……」
「珍しー、一日で二人なんてー……じゃ、そっちの椅子に座ってて」
「あ、はい」
気が抜けそうになる、ゆったりとした声で促され、カウンターの端にある椅子に座る――こっちはテーブルの高さが一律で、同じ目線で話せるようになっているようだ。
「ちょっと、待っててねー」
事務所のほうでガサゴソと何やら準備を進めている受付さん――しかし、随分と若い。年下と言われても納得できるくらいだ。
童顔が似合う低めの身長、ゆったりとしたパーカーに膝上丈のミニスカート、黒のマスクに黒髪ツインテール、前髪の一部だけを青に染めている――おおよそ、教官には見えない格好だが、事務員なのだろうか?
いや、別に事務員に見える格好でもないのだが……。
「おまたせー。住民票と身分証明書は持ってきたかなー?」
「は、はい」
「うんうん、画餅明利くん、ね……じゃあ、こっちの書類を読んで、記入をおねがーい。支払方法とかー、注意事項とかー、持病があるかないかとかー。わからないところあったら聞いてー」
「わかりました」
記入している間、受付さんは再び事務室へ――怪しい文言が書かれていないか注意して、記入していく。
もちろん、そんな文言はなく記入は完了。そのタイミングで受付さんが戻ってきた。
「……はい、おっけー。じゃあ、これはお返しして――これはおねーさんからのプレゼントー」
確認の後、住民票、学生証と共に渡されたのは、四つの本。
「こっちは学科教本でー、こっちは運転教本―、問題集にー、応急救護用の教科書―。なくさないようにしてねー」
「わかりました」
「じゃあ次は写真ー。持ってきたー?」
「い、いえ」
「じゃあ、そっちの証明写真機で撮ってきてー」
言われるがまま、証明写真機の中に――何だか、身構えていた自分が馬鹿らしく思えるくらい、スムーズな手続きである。
……こうして狭い空間で一人になって、ようやく冷静になった。
僕は期待していたのだ。
高校三年間、全てを賭けて打ち込んできた部活動――それに代わる刺激を求めていた。
(漫画の読み過ぎだな……)
受け取り口から出てきた、自分の仏頂面を見て、思わず失笑する。もう車の免許を取れるような年齢だというのに、中二病のような妄想をして……ああ、恥ずかしい。
まぁ、幼馴染との再会という、とびっきりのイベントがあったのだ。この自動車学校自体に刺激がなくとも、充実した自動車学校ライフにできる可能性はある。
「うまく撮れたー?」
「えっと、ど、どうでしょう……?」
にやにやと笑って、答えにくい質問をしてきた受付さんに写真を渡す。
しかし、随分とラフな人だな……上下関係の厳しい部活にいたので、あまり関わったことのないタイプの人だ。
「おー、写真で見ても、やっぱり可愛い顔してるねー」
「はは……『顔はいい』とは、たまに言われます……」
主に、友人の母親から、だが。どうにもその辺の世代に好まれる顔立ちをしているらしい。
「彼女とかいるのー?」
「い、いませんが……」
答えにくいどころか、昨今では逆に珍しい、コンプライアンスにもろ引っかかった質問をしてきた。
そして、反射的に答えてしまう僕――お世辞とはわかっていても、急に褒められてびっくりしてしまった。
しかし、この人、いったい何歳なんだろう? お姉さんを自称するからには、年上なんだろうが……。
「次は視力検査ー。ついてきてー」
書類を挟んだクリップボード片手にカウンターから出てきた受付さんの後を追う。
「裸眼ー?」
「はい」
「おっけー……っと」
手を滑らせてしまったようで、クリップボードが床を転がる。
「失礼しましたー」
「――っ」
受付さんは立ったまま、床に手を伸ばしてクリップボードを拾おうとする――もちろん、ミニスカートでそんな拾い方をしたら、ただでさえ、短いスカートの丈がさらに短くなって……。
(み、見え……ぐっ!)
「ん? どしたの? 天井見てー」
「――いえ、小さい虫がいた気がして」
――危なかった。視線が太ももに落ちたスカートの影に、そして、その向こうに吸い込まれそうになった。
僕は窃視をしない。
誰が相手でも。
「ここだよー」
受付さんはロビーの隅にある部屋に向かった。
一度、深呼吸してから、部屋に入る。
部屋の半分ほどを白い箱のような機械が占領している――この機械で視力を測るのか?
「使ったことあるー?」
「な、ないです」
僕を先に部屋を入れてから、受付さんは扉を閉めた。
「やることは変わんないからだいじょーぶ。レンズ覗いて―」
「は、はい」
二つあるレンズを覗き込むと、見慣れたCの列が見えた。
「じゃあ、右目からー」
受付さんが言うと、左目のレンズが何かで遮断され、右目の視界だけの状態になる――なるほど、確かにやることは変わらない。
「おっけー。視力いいねー」
特に問題なく、視力検査は終了。
「じゃあ、次は聴力検査ねー」
聴力も測るのか……確かに、音を聞くことで回避できる危険もあるだろう。
(あれ?)
受付さんはこちらを、にやにやと見つめるばかりで、部屋を出ていこうとしない――この部屋のどこかに聴力検査用の機械があるのかと思ったが、特にそれらしいものは見当たらない。
「目、閉じてー」
「?」
言われるがまま、目を閉じる――このまま、何か小さな音を出して、聞き取れるかどうか、みたいなテストなんだろうか?
とりあえず、耳に集中する。
足音……近づいてきている。
二人でいるだけで狭苦しさを感じる小部屋だ。もう、すぐそこ――「ふぅ……」という微かな吐息すら聞き取れる距離……。
「?」
何かに目を覆われた? それに、何かを耳に引っかけられる感覚。
目を開けてみるが、視界一面の黒だった――黒、この質感、耳の感触……マスクか?
黒いマスク、否が応でも受付さんがつけていたものが連想される――いや、そんな変態的な妄想をしている場合じゃない。
「な、何を……」
マスクを外して確認しようとするが、かなり強い力で体を押される。あっという間に壁まで追い詰められた。
「う、受付さん?」
「これから言う言葉、復唱してねー」
変わらぬ調子で続ける受付さん。
前半身に温かく、柔らかい感触――体を密着させてきた……?
「ふぅー……♡」
「っ」
耳元で聞こえた吐息に、背中がぞくぞくと震えあがる。
普通に聞いている分には気怠そうな声だったのに、こうして耳元で聞いてみると、なんて色っぽい……。
「お、ま、ん、こー♡」
「…………」
「もういっかーい。お、ま、ん、こー♡」
「ちょ、何を……」
「ちょ、何を……なんて言ってないよー。真面目にやってー。これだけ至近距離で聞き逃しているようじゃあ、授業でも聞き逃しちゃうからー、入校を認めることはできないんだよー」
そ、そうか? まぁ、確かにそうかもしれないが……駄目だ。急展開に頭がついて行かない。
頭を回そうとしても、耳元や前半身の情報を集めることにリソースが勝手に使われていく……!
「もういっかーい、特別だよー。お、ま、ん、こ♡」
「お、おまんこ……」
「おっぱい♡」
「お、おっぱい……」
「うんうん、いい感じー。じゃあ、感度検査も一緒にやってくよー」
か、感度検査?
「ち、く、び♡」
「ち、乳首……っ」
言葉を返すと同時に、乳首が撫でられる――鋭い快感が乳首から背中、腰に駆け抜けていき、声が漏れそうになる。
「乳首感度よしー……次は、ちゅー」
「ちゅ、ちゅー……んっ!?」
これまた言い返した瞬間、唇を塞がれる。
「んじゅ、じゅるるる♡」
「んくっ……!」
強烈なバキュームで、舌を吸い出され、
「れぇろ、れろれろ……♡」
厭らしく舌で舐め回されたり、
「んむ、じゅう……じゅじゅう♡」
ぷるぷるの唇で挟まれたり、僕の舌をまるで飴か何かのように貪られる。
舐められているのは僕だというのに、口の中は不思議な甘さで満ちていき、頭の中は、じゅわぁと溢れる快感で侵されていく。
「ちゅ♡」
「はぁ……! はぁ……!」
「口もビンビン――じゃあ、聴力検査は最期ー。よーく聞いてねー」
「んくっ……!」
もう、何も頭に入ってこない。考えられない。
「ぼっき♡」
「っ」
反射的に口が動く――これを言ってしまえば、そうなってしまうとわかっていても、体が勝手に反応する。
「ぼ、ぼっき……!」
瞬間、耳に向けられていた集中が、下半身の中心へと移り変わる。
「ぼっき♡ ぼっき♡ おちんちんぼっき♡ ふるぼっき♡」
「はぁ、はぁ……!」
早くなった呼吸に合わせて、膨れた股間もビクン、ビクンと上下に揺れる。
「はーい。聴力検査ごーかくー。目隠し外すねー」
真っ暗だった視界に光が差す――像を結んだ視界に映ったのは、頬についた唾液を躊躇なく袖で拭い、マスクをつけ直している受付さんだった。
本当に受付さんのマスクだったのか……。
「次はー……」
「っ!?」
衝撃の事実に唖然としている隙に、ズボンとパンツを下ろされた――パンツに引っかかったフルボッキチンポが真下に引かれた後、びんっと勢いよく反り返る。
「んっ……!」
ペニスに走った痛烈な快感が、喘ぎとなって喉奥から漏れた。
「ちんぽ検査ねー。色は綺麗でー、すんすん……臭いはあんまりしないー」
言いながら、クリップボードに挟んだ書類に何かを書き込んでいく受付さん。
「少年、あんまりオナニーしない子ー? 残念、シコシコしてくれば、くっさ♡って言ってあげられたのにー……えっとー、サイズはやや大きめでー……つーん」
「っ」
受付さんがペンのお尻のほうで、パンパンに膨れた亀頭を叩いてきた。
「とんとんとーん」
「ちょ、ちょっ……あ゛っ!」
亀頭から、根元にかけて、連続で叩かれる――自身の指の感覚しか知らないチンポにとって、あまりにも新鮮な感覚。
プラスチックの何とも言えない硬さと軽さ、さらには女性がたった今使用しているという補正が、取るに足らないはずの快楽を膨大なものにする。
体のあちこちが緊張、脱力を繰り返す――回数を重ねる度、体中に痺れるような心地よさが溜まっていく。
「あははー、体ごとビクンビクンってー、とんだ純情ちんぽだねー。おねーさんは好きだよ? よわよわちんぽ♡ はい、硬めで超敏感っと……もうちょっとだから、頑張ってねー」
受付さんは膝の上に置いたクリップボードにペンを走らせながら、空いた手を伸ばす――駄目だ。
その細長い指が、僕の太い棒に絡みついたら……いや、所詮、人の指だ。他人の指とはいえ、ペンによる、指とのギャップを味わった直後だ。
慣れた感触であれば、守れる。
もう、純潔も尊厳も破壊されているが、それでも、僕の決意だけは……!
「――――」
――明らかに自分とよりも細い指、ひんやりとした体温、やや遠慮気味の力加減。
体で一番敏感な部位だからこそ、自分の手とはまるで違うことを正確に伝達してくるし、何より、他人と繋がっているという事実は、想像以上に心を発情させた。
「次は射精測定ー。シコシコしてあげるから、できるだけ我慢して、できるだけいっぱい射精してねー」
動き出す、受付さんの手――同時に、僕の視線が下へと向かう。
……ゆったりとしたパーカーを着た女性が、足元で屈んだら?
いつもなら決意に基づき、即座に上を向くか、目を瞑る場面だが――決意なんてちっぽけなもの、チンポをシコシコ手コキされるだけで容易く崩れ去る。
「いーち、にー、さーん」
窃視開始。
やや前屈みになったことで、ゆったりとしたパーカーと体の間に空いたドスケベ空間――その深淵からこちらを覗いていたのは、蠱惑的な谷間だった。
この状態、貧乳であれば、乳首まで零れてしまってもおかしくはない――しかし、見えるのは手コキする度、ペンを走らせる度、ぷるぷると揺れる乳袋。
この受付さん、見た目は幼いくせに、胸が大きいのだ。
「よーん、ごー、ろーく」
……わかっていた。最初、彼女が体を起こした瞬間から気づいていた。
ゆったりとしたパーカーは肩からずり落ちそうなのに、おっぱいに引っかかって、何とか服としての体裁を保っているような状態。
あまりにもスケベすぎる。だから、敢えて思考から外していた――目を奪われないように。
だが、一度こうして描写してしまえば、凝視してしまえば――魅入られたようにデカチチに視線が固定される。
「しーち、はーち、きゅー」
どれだけ目を凝らしても、首を振っても、先端は見えない――ただ、腕を前後させるだけで、激しく暴れている。
もしかして、揺れが大きすぎて零れるんじゃないかという淡い期待が、視線をより一層、釘付けにする。
「じゅー……」
十まで数えたところで、受付さんはこちらを見上げた――マスク越しでもわかる、見事なにやけ顔だった。
「おっぱいばっかり見てー……エッチなんだからー」
「っ……!」
悔しい。恥ずかしい。情けない――のに、股間を文字通り掌握されているだけで、それらの感情は全て、子種を吐き出すための熱量へと変換される。
裸でもない女の人をオカズにして、チンポは陰嚢から精子をくみ上げ始める――イキたくない……これじゃあ、中学時代、透華の胸を見て盛っていた奴らと、何にも変わらない……!
「うーん、やっぱり早いねー。ま、鍛えがいがあるってことで――いいよー、いっぱい出して」
「イ……くぅ……!」
視界が狭まって、股間に集まった快感が鮮明になり――パンッと弾ける。
爆発した快感に体を仰け反らせると同時に、びゅるうと勢いよく精子が飛び出て、受付さんの黒マスクに白い線を引いた。
「んっ……♡ 勢いすごっ……♡」
止まらない。
ぷりぷりのザーメンがチンポの内側を愛撫しながら、どぴゅるる、ぴゅるると、外へと漏れていく――第一射によって引かれた、芸術的ですらあった白線を、物量を以て下品に塗りつぶしていく。
「はぁ……んく……はぁ!」
壁がなかったら、確実に腰が砕けていた――壁にもたれかかって、絶頂の余韻をやり過ごす。
「質も量も、よーし……うん、じゃあ最後ねー」
受付さんは精液によって、ツートンカラーになったマスクを鼻にかけた。
「連続射精適正検査ー。できるだけ早く、フルボッキ状態にしてねー。手伝ってあげるからー……はぁむ♡」
「はうっ……!」
ゆっくりとお辞儀を始めていたペニスを、いきなり咥えられる――手より圧倒的に高い温度、湿度、蕩けるような感触。
「じゅじゅ……じゅぱ♡ じゅるる……♡」
射精直後だからだろうか、気持ちいいというよりは、くすぐったさが強い。脚のつけ根の辺りが痙攣して、立っているだけでやっと……。
「っ!」
ふと、視界の端に動くものが見えた――閉められた扉のガラスから、ロビーにやってきた人影を捉える。
きょろきょろと辺りを見渡す少女――見覚えしかなかった。
(透華!?)
なんで……帰ったんじゃなかったのか?
忘れ物でもしたのだろうか――いや、どちらにせよまずい。
今の位置、向こうからもこちらの姿が見えてしまう。
股間をしゃぶっている受付さんは見えないだろうが、しかし、透華も入校手続きをしたというのなら、このわけのわからない検査はともかく、視力検査はしているはず。
ということは、ここが視力検査のための部屋であることはわかっている――いつまでも、こんな壁際にいるのは不自然だ。
どうにかしないと……。
「…………」
……目が合う。
透華はにこりと微笑んで、小さく手を振った後、長椅子に座った――戻ってきた目的はわからないが、部屋と反対側にあるテレビを見ているようだ。
なら、今がチャンスだ。今すぐに勃起して、この検査を終わらせれば――。
「っ」
――一瞬、視線が透華に引っ張られそうになった。
勃起するために、彼女を使おうとした。
足元に、僕のおちんちんをお掃除してくれている、ロリ巨乳がいるのに。
僕は裸でもない女性を精子の養分にした最低の男だけど、せめて透華のことだけは……!
「じゅっ……ぱっ♡ じゅっ……ばっ♡」
視線を足元に落とす――受付さんが煽るような薄笑いで、こちらの表情を伺っていた。
フェラのために体を揺らす度、鼻にかけられたザーメン塗れのマスクが、てらてらと妖しく光る――勢いよく吸うものだから、マスクから精液の塊が頬を伝ってしまっている。
「――――」
――ぶわぁ、と。
黒マスクが白濁に侵されたように。
受付さんのきめ細やかな頬が、僕の粘液に汚されていくように。
体を覆っていた冷たい倦怠感が、滾るような性的興奮に吹き飛ばされていく。
「はぁ、はぁ……!」
「ちゅ……♡」
〆と言わんばかりに、再び膨張した亀頭にキス――受付さんは僕のペニスから口を離した。
精液塗れのマスクを丸めてポケットに――そして、ポケットから新しい黒マスクを取り出し装着する。
「連続射精適正、よーし――はい、お疲れさまー。そしておめでとー。画餅明利君、君は『裏コース』に入学してもらうよー」
「う、裏コース?」
「説明は次の時間ねー――明日の十時とか空いてる?」
「は、はい……って、いうか、これ……なんなんですか?」
我ながら情けないことに、流されるままになってしまったが、明らかに運転に関係ない検査ばかりだった。
「あははー、今更だねー」
本当にその通りで、何も言い返せない。
受付さんは立ち上がり、「うぅ……」と体を伸ばしてから、鼻で笑った。
「説明してもいいけど、いいのー?」
「…………」
彼女の視線は、ロビーで座っている透華の背中に向いていた。
「何か変だなーって思ったけど、あの子が戻ってきたんだー。知り合いー?」
「……まぁ」
「じゃあ、早く出ていった方がいいねー。バレちゃうかもしれないしー。ほら、出てってー」
「…………」
この人、バレることを危惧している風に見えて、全然そんなことないじゃないか……。
僕は今、フルボッキの状態にある――このまま出ていけば、あえなく如何わしいことをしていいたことが明らかになってしまう。
「んー、どうしたのかなー?」
……本当に煽り性能もスケベ性能も高い、にやけ顔だ。
子供時代はさぞかし、名の知れたメスガキとして活躍していたに違いない。
さて、チンポが唾液でびちょびちょになるくらい舐められておいてなんだが、男を舐めないでいただきたい。
あまりオナニーしないとはいえ、男の端くれだ。勃起隠しのスキルくらい、持ち合わせている。
「ふっ……」
反り返ったペニスを体に沿わせるようにして、パンツのゴムで挟む。
これなら、見た目から判断することは不可能――ただ、パンツから先端がはみ出ることになるので、実質的にこのチンコを隠すものはシャツ一枚となる。
まぁ、シャツがめくれることなんて、ほとんどないのでかなり防御力の高い勃起隠しであることには変わりない。
「ふぅ……」
一度、深呼吸して、僕は扉を開けた。
――――――――
「やっぱり、もう少し話したいなと思って、戻ってきちゃった。一緒に帰ろ?」
「あ、ああ」
「どうだった?」
「どうって……手続きだけだからな、特には」
「受付さん、可愛かったから、デレデレしてるかなーって」
「っ……確かに可愛かったけど、た、タイプじゃないな」
「へー、じゃあ、どんな人がタイプなの?」
「……ノーコメント」
「えー! 教えてよ、幼馴染のよしみで! ついでに高校三年間の恋愛事情も!」
「幼馴染のよしみってことなら、お前も教えてくれるのか?」
「いいよ。別に」
「……僕の寂しい高校生活のことよりも、昼飯のことを考えよう」
「せっかくだし、どこかで食べていかない?」
「……いいな」
「どこ行く? って言っても、そんなに選択肢があるわけじゃないけど」
「ファミレスがいいな。ラーメン屋行くには暑過ぎる」
「いいね。ゆっくり話せそうだし」
それからファミレスのトイレで処理するまで、僕のチンポは元気だったわけだが――賢者タイムがもたらす負の感情が凄まじかった。
外出先で射精する罪悪感。
透華の前で、性的興奮状態にいた罪悪感。
果てしない罪悪感で押しつぶされそうだった。
便器の中を漂う精子と一緒に、下水に流れていきたいとすら思った。
しかし、人間は便器を通れない――明日になれば、下水ではなく、自動車学校に行かなければならない。
裏コース、か……この先、どんな自動車学校ライフが待っているのだろうか?
「はぁ……」
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