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恋する乙女の独白

私、気位透華は、画餅明利君こと、ウリ君に恋をしている。

通っている女子高の友達に、幼馴染のことが好きだというと、やはり物心ついた頃から紡いできた甘い物語を期待されるけれど、私が彼に恋をしたのは中学に上がってからのことだ。

しかも、卒業間近のこと。

小学生の頃は、あくまで一番仲のいい友達というか、家族に近い感じだった。

……一〇歳にも満たない頃に、『大きくなったらウリ君のお嫁さんになるっ!』と両親やお姉ちゃんに宣言したことはあるけど(恥ずかしくて死ねる!)、特に男の子として意識しているわけではなく、ただ仲のいい男の子だったからというだけで、そう言った――気がする。

そんな幼馴染を好きなった理由を説明すると、ちょっと長くなる。

まず、中学に上がって、しばらく経った頃の話。

周りの友達にも男の子と付き合い始める人が増えて、かくいう私も異性に興味を持ち始めた。
そのとき、改めてウリ君について考えてみたことがある。

顔は、比較的整っていると思う(何様だって感じだが)。身長は、当時から男の子にしては低め。性格は真面目で静か、勉強は平均より少し上程度。

運動は、陸上で県大会入賞レベル――凄いことなのだが、学校ではあまり目立っていなかった。

体育祭のリレーでは短距離専門の人に追い抜かれ、スポーツテストの花形、シャトルランでは長距離専門の人に劣る。

中学に上がってから、あまり女子と話さなくなったことも相まって、女子たちの間では『なくはないけど、地味』という評価を下されていた。

私もおおむね、そんな評価で、そこに幼馴染補正が加わって、『告白されたら、まぁ、ありかな?(だから何様だ!)』くらいに思っていた。

彼への評価が変わったのは――変わるどころか、垂直上昇することになったのは、前述したように、卒業間近のことだった。

自慢のようで嫌なのだが、私はおっぱいが大きい。

小学六年の頃からその片鱗は見せていて、中学に上がってからは大きくなる一方。
肩が凝るとか、下着選びとか、色々大変なことはあるけれど、それら自体は別に気にしていなかった。

だって、このおっぱいも私だから。

自分ことなら、どれだけ面倒でも受け入れなきゃいけない。

ただ、胸のことが気になり始めたのは、中学二年の頃――体育祭でクラス対抗リレーに出たときだ。

あるクラスの応援席の近くを通ったときに、「おぉー!」と男の子たちの色めき立った声が聞こえた。

「すげー、めっちゃ揺れてるw」「デカすぎんだろ……」「俺、今日、あれでヌくわ」等々の声も。

聞こえてないと思ってるんだろうか――すぐに、私の胸を見て言っているんだとわかった。

それからだ。日常的に、おっぱいばかり見られていることに気づいた。

「○○君、委員会のことで頼みたいことがあるんだけど……」
「な、なに? 気位さん」

みんな、一瞬、胸を見て、

「○○君、また隣の席だね。よろしく!」
「う、うん。よ、よろしく!」

それから、もじもじと挙動不審になる。

「おい、次、気位走るぞ!」
「マジ? 見る見る!」

――しょうがないとは思う。

私だって、家では格好いいと思ったアイドルやアニメのキャラクターを見て、一人できゃっきゃしていたし……最近ではウリ君の筋の浮いた腕や、炎天下の中、垂れてきた汗をシャツの裾で拭ったときに見えた腹筋には目を奪われた。

私が嫌だったのは……男の子たちがみんな、私を『おっぱい』としてしか見ていなかったこと。
被害妄想だと言われればそれまでだけど、少なくとも、私は男の子たちの仕草からはそう感じた。

巨乳の気位透華ではなく、巨乳。

このおっぱいは私だ。だけど、私はおっぱいじゃない。
馬鹿みたいな字面だが、私は至って真剣、進学先に影響が出るくらいに悩んでいた。

そんな私を救ってくれたのは、ウリ君だった。

中学に上がってから、ウリ君は部活を始めたのもあって、あまり登下校を共にすることはなかったのだが、部活を引退してからは、一緒に登下校を過ごすことが増えた。

もちろん、待ち合わせしたりはせずに、偶然、時間が重なったり、姿が見えたら合流する程度のものだったが。

「ウリ君、おはよー」
「おはよう」
「眠そうだねー、勉強の調子は悪いのかな?」
「うーん、数学で引っかかってる」
「はっはっはー、数学だけは学年一位のこの私――気位改め、一位透華ちゃんに教わってみる?」
「文字に起こさないとわかりづらいボケをするなよ……まぁ、お言葉に甘えようかな」

三年間、クラスが一緒になることがなかったので、ちゃんと話すのは久しぶりだったけど、ウリ君は全然変わっていなかった。

小さい頃と変わらず、真っすぐ、私の目を見て話してくれた。

登校時も。

「ここはね……」
「ふむふむ……」

久々に家に招いて、勉強会をしたときも。

「ああー、もう……びしょびしょだよぉ……」
「予報だともうすぐ止むらしいけど、少し待ってみるか?」
「じゃあ、五分間だけ待ってやろう!」
「ははっ、そうするか」

雨に濡れて、おっぱいが強調されたときでさえ、彼は私の目を見続けて、話してくれた。

……もしかしたら、私に気づかれないように、おっぱいを見ているかもしれないけれど、それは別にいいのだ。

私と話しているときは、ちゃんと私を見てくれている――おっぱいとしてではなく、気位透華と接してくれている。

それだけで、私は救われた。
男の人を嫌いにならずに済んだし、自分のおっぱいを嫌いにならずに済んだし、何より――ウリ君を好きになれた。

何度も告白しようとしたけど勇気が出なくて、結局、中学卒業。

高校に進学しても、まだチャンスはあるかなーと思ったら、顔を合わせることすらなくなって、何度もメッセージを送ろうとしたけど、やっぱり私は意気地なし。

部屋の窓から、ウリ君の部屋を見やるだけ。

足踏みしている内に、あっという間に高校生活も残り僅かになって、親にそろそろ自動車学校に通ったら? と言われて、思いついたというか――ようやく決心できた。

車の免許を取って、ドライブに誘おう。

人を乗せて運転する練習とかなんとか言いわけして、どこかにご飯を食べに行こう。
それで、伝えるんだ。

中学の頃から、好きでしたって。

まぁ、その計画が少し狂うことになるは、皆さんご存じでしょう。

夢見がちな私だから、もちろん、妄想はしていたけど、まさか本当に同じタイミングで、同じ自動車学校に通うことになるなんて思わなかった。

理由なんて一切なく、多分そうなんだろうなーと願望混じりに思っていた通り、ウリ君は変わっていなかった。

少し筋肉がついたようだったけど、そうじゃなくて――相変わらず、私の目を見て話してくれた。

……嬉しかったけど、ちょっとドキドキして、私のほうが目を逸らしそうになったのはここだけの話。

さて、長々と自分語りにつき合ってもらったわけだが、結局、何が言いたいかというと……。

ここでやらなきゃ、女が廃るってこと!

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