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疑惑の合コン

「なぁ、葉山」
「なに?」

午前の授業が終わり、正午過ぎの昼休み時間。教室で級友たちと同じ卓を囲んで弁当に舌鼓を打っていると、俺の向かいに座る綾部が突然小声で尋ねてきた。

「やっぱさ。氷川ってエロいよな」
「……アンタまたその話? 飽きないね」

俺に代わって反応したのは、同じ級友である相澤だ。

「いいだろ別に。つか女子のお前にゃ分からねぇ話題なんだから、いちいち首突っ込むなよ」
「そんなことないし。麗奈ちゃんは女の私から見てもエロいって思うし」
「は? 名前呼びて。お前いつの間にアイツと仲良くなったの?」
「まぁね~。どうだ? 羨ましいか? おっぱい触らせてもらったこともあるぞ。ガハハ」
「な、なにぃ!? ぐぎぎ……」
そんな二人の微笑ましいやり取りを、俺は和やかに見届けるのだった。
俺、葉山堅治と氷川麗奈が付き合い始めてから、一ヶ月が過ぎていた。
あれからというものの、放課後一緒に遊んだり、休日デートしたりと、どこにでもいる普通の彼氏彼女っぽいことは一通りした。しかしながら、初体験のときに見せた氷川の“性欲の強さ”は想像以上に天井知らずで、ほぼ毎日のペースで求められている。本音を言えば疲れるが、それでも行為の最中が一番彼女からの愛情を強く感じれるので、漲るほどの充実感はある。
それでも無愛想っぷりは相変わらずだったが、それ以外のところで大きな変化が彼女に訪れていた。

「――麗奈ちゃん! こないだのグラビア見たよ! めっちゃエロかわいかった!」
「ん。ありがと」
「ねぇねぇ、なんかオススメの化粧水ない? 麗奈ちゃん肌キレイだし。何使ってるの?」
「伊勢崎堂のミスティ。信頼できるブランドだから質も担保されてるしコスパも良いよ」
「ネイルとか興味ない? ウチがしたげよっか?」
「んー、どうしよっかな。なんか派手なのでもやってみようかな」

ふと見やると、氷川の周りに三人の女子の机が囲んでいて、一緒に賑やかな昼食タイムを過ごしている。一ヶ月前までは2-Bで孤立していた氷川だったが、今やクラスの中で友人と呼べる存在が居るほど馴染んでいた。
尤も、俺が噂好きの女子たちに『氷川が複数の男と寝てる話は嘘で、彼女を妬んだ人間の仕業』だと吹聴して回り、彼女の風評を改善させた影響もあった。だがそれ以上に、欠落感に悩んでいた彼女が精神的支柱を得たことで心にゆとりが生まれ、周囲の人間への態度が軟化したおかげでもある。もともとクール系美人でスタイルの良い彼女が、意外とユーモラスで親しみやすい相手だと分かれば、人気が出ないわけがない。当然の帰結だ。何を隠そう俺もその魅力にあてられたうちの一人である。

「……なんつーか。氷川って変わったよな。明るくなったっつうか」
「ねー。いざ話してみると案外いい子だったし。変な噂を鵜呑みにして陰口叩いてたの罪悪感だわー」

まぁ、氷川が複数人の男と寝ていたのは紛れもない事実だ。だが、それは彼女なりに事情があってのこと。いつまでも『ビッチ』と陰で揶揄されている現状を、俺はどうにも看過できなかったのだ。それに、現在はあの五人とも縁は切っている。

「あー、ところでさ。葉山」
「ん? なんだ?」

相澤が改まって俺に尋ねてくる。

「今日の放課後、A組の奴らと合コンすんだけどさ。葉山も来てくんない?」
「え? なんで俺が」
「急に一人来れなくなって、穴ができちゃってさぁ。葉山って顔は悪くない方だし、来てくれると助かるんだけどなー?」

予想外の申し出に驚く。さすがに恋人が居る身としては、合コンに参加する訳にはいかなかった。とはいえ、俺と氷川が付き合っていることは公に周知されていないため、相澤が知らないのも無理はない。

「悪いけど断っとくわ」
「えー。無理かぁ」
「……俺、俺は? 俺の身体空いてますよ?」
「綾部はダメ。下心丸出しで女子が引くから」
「そんなぁ!?」

本当なら友人の助けになってやりたいが、後で氷川にバレると厄介だし、そもそもそんな不誠実なことはできなかった。

「そっかぁ。……あの氷川も参加する予定なんだけどな~」
「――ぶふぉっ!?」

信じがたい単語を聞き取り、思わず咀嚼中の白米を吹き出してしまう。

「は、葉山? どしたん?」
「おま……相澤! それ本当か!?」

突然取り乱した俺を見て、ふたりは怪訝な表情で互いに顔を見合わせる。

「うん。本当だけど……」
「なっ!?」

頭の中をぐるぐると嫌な思考が回りはじめる。
まさか。あの氷川が……? 浮気? 移り気?
……そういえば。付き合ってからずっとほぼ毎日のペースでセックスしていたのに、ここ三日間は珍しくご無沙汰だった。たかだか三日空いた程度と気にも留めなかったが、彼女が俺に内緒で合コンに参加するという情報があれば、その意味が大きく変わってくる。

「おい葉山? 大丈夫か?」

これから彼女に直接問いただしに行くか?
それともラインで連絡してみるか?
……いや、それだと適当にはぐらかされるかもしれない。
彼女のことを信じてはいる。これはあくまで“その確証”を得るか否か。事実を確かめ、安心するか絶望するかの話だ。ならば、俺が取るべき行動はひとつ……

「相澤。俺、行くよ」
「へ? 行くって……」
「合コンに決まってんだろ」

今日開かれる合コンに飛び入り参加して彼女の不意を打ち、この目で直接見定めることのみ、だ。

「そんじゃ自己紹介いきますか!」
「イェーイ!」

繁華街にあるカラオケ店の大部屋に、2-A在籍の男子2、女子1、わが2-B男子1と女子2、計男女6名が組の垣根を超えて集っていた。

「んじゃ、先にアタシがドリンク頼んどくわー」
「お、気が利くぅ~。俺コーラ!」
「ウイウイ~」

今までの人生において“こういった集まり”とは縁遠かった。正直このパリピなノリに付いていける気がせず、ぶっちゃけ居心地が悪かったが、今はそんな悠長なことを言ってる場合ではない。

(――つか、マジで来てるじゃねぇかよ!?)

この目で見るまで到底信じられなかったが、目の前にいるのは紛れもなく氷川麗奈その人。彼女が合コンに参加したというのは本当だったようだ。

「……」

当の本人は俺の訝しげな視線など意に返さず、いつも通りクールにスマホをイジイジしている。そもそも二人きりのとき以外に喋るのは皆無だったし、平常運転といえば平常運転なのだが、飛び入り参加で不意を打てば動揺のひとつでもするかと思ったのだが、依然として澄まし顔なのがどうにも奇妙だ。

(氷川……お前今何考えてんだ……?)

俺の疑念をよそに、二つの意味で心穏やかでない“針の筵の合コン”が始まる。

「そんじゃ男子から!」
「俺、
古田俊樹
ふるたとしき
っす! 野球やってます!」
「お、爽やかスポーツ少年! はい次!」

自己紹介に合わせて相澤が音頭を取る。普段からこういう催しをやっているらしく、なかなかに手慣れている。

「2-Aの
穂高芳雄
ほだかよしお
です。将来は警察官目指してます」
「わ! かっこいい!」

警察官を目指すようなヤツが高校の頃からこんな行事に参加してていいのか? という脳内ツッコミを胸にしまいつつ、俺の手番が回ってくる。氷川以外の視線を一身に浴びて緊張しつつ、立ち上がった。

「えー、今日は代理で来ました。葉山堅治です。小説書くのが趣味です」

おー。という小さな歓声があがる。どうにも物珍しい趣味に見られたようで、関心を引いてしまったようだ。なんだか照れくさくなりつつ、氷川の方をチラリと見ると、彼女は「でも書いてるのパイズリ小説でしょ」という呆れ気味の視線を送っていた。

「男子は以上。次は女子だ!」
「よ! 待ってましたぁ!」
「フー!」

男子二人が露骨にテンションを上げる。純粋に合コンに参加していたのなら、そっち側だったかもしれないが、生憎と今は恋人が俺に内緒で合コンに参加しているという修羅場に身を置いており、全くはしゃぐどころではない。

「まずはアタシ。
相澤涼
あいざわりょう
です! 主催でーす! 今フリーで彼氏募集中でーす!」

相澤がウインクし、男子二人が色めき立つ。次に紹介しはじめたのはA組の女子だ。


八幡七海
やはたななみ
でーす♪ 趣味はお菓子作りでーす♪ よろ~♪」

甘ったるい声と今日び見かけないベタな自己紹介をした彼女は、いかにもギャルといった風貌だ。

「最後は麗奈ちゃん!」

いよいよ氷川の番が回ってくる。彼女がすくっと立ち上がると、Yシャツに包まれた立派な胸元がふよん♡と揺れた。それを目の当たりにした男子は驚嘆の声をあげ、女子は目を奪われている。

「氷川麗奈です。よろしく」

彼女はそれだけ言うと、すぐに座ってスマホを弄り始めてしまう。
一見、手抜きともいえるその淡白な自己紹介は、今日一番のインパクトを与えた。男子たちはすっかりスケベな目で彼女を見ている。

(オイてめぇら……氷川をイヤラシイ目でみてんじゃねぇぞコラァ……!)

下心を隠そうともしない輩に、内心独占欲と怒りに燃えるが、どうにか表情に出ないよう抑え込むことに成功する。
自己紹介が終わり、注文したソフトドリンクが届けられたのを境に歓談の時間がはじまった。

「ねぇ! 氷川さん! こういうのって参加したことあんの?」
「ん? 初めてだけど」
「あ、それ俺も聞きたかった! ちょっと驚いたっていうか、氷川さんみたいな子が合コンに来るなんて意外。どうして参加しようと思ったの?」
「別に。ただなんとなく?」
「てかさ、グラビアアイドルやってるってマジなん?」
「うん。はいこれ。この前の撮影の」
「「うおーーー!?」」

もはや想像どおりというか。野球少年古田と警察官志望の穂高が競うように氷川に質問攻めしていて、他の女子二人には見向きもしない。必然、余った俺たちで話すことになるわけだが……

「あーあ、あれじゃあまるで勝ち目ないわー」
「だねー」
「あ、あはは……」

すっかり敗北ムードを喫する女子たちの、激低テンションの受け皿となるハメになった。

「てか、なんであの子呼んじゃったの? ざわっち」
「……それ、俺も気になるんだが」

八幡さん、ナイスパスだ。彼女にあやかることで自然に氷川が合コンに参加した理由を聞くことができる。

「あー、それね。なんか一度合コンに行ってみたいっていうからさぁ。なんか盛り上がりそうだったし?」
「え~? ウチは盛り上がらないしー。あんな美人でおっぱいおっきい子が来るって分かってたら、絶対参加しないもん」
「……」

胸がズキリと痛んだ。
もしも彼女の話が本当なら。氷川は俺という彼氏が居ながら、他の男との出会いを求めていたことになる。

(やっぱり……氷川……俺以外のヤツと……)

過去がどうであれ。今の彼女は、俺にだけ愛情を向けているものだと信じて疑わなかった。けれど、所詮は砂上の楼閣に過ぎなかったのだろうか?
疑いたくはない。けれど、客観的事実は受け入れなければならない。
一体何が行けなかったのだろう。どうすればよかったのだろう。
そんな風に暗い思考が頭のなかを支配していく。

「葉山っち、大丈夫かー?」
「……え? ああ……ごめん、ちょっとこういう場は慣れなくて……」

俺に話しかけてきたのは、普段から交流のある相澤ではなく八幡さんの方だった。彼女は本気で心配した表情を浮かべている。気を遣われて申し訳ない気持ちになりつつも、気休め程度だが慰めにはなった。

「いや、あはは。ごめん。せっかくの合コンなんだから、もっと明るくいかないとね!」
「うん! その意気! ……てかさ」
「うん?」
「葉山っちはあの氷川ちゃんのとこには行かないんだね?」
「え? い、いやあ……あはは」
「もしかしてウチらのどっちかが目当てだったり?」
「そ、それは」

八幡さんが急に目を妖しくする。ただならぬ気配を感じ取り、本能的に危機感を覚えた。

「葉山とアタシはただの友達だし。アタシじゃないのは確かだよね」
「ちょ、相澤!?」
「つか葉山って、麗奈ちゃんが来るっていうから参加したんじゃなかったっけ?」
「……へぇ?」

相澤による渾身の逆ナイスパスが炸裂する。
「最初は氷川ちゃん目当てだったけど、私に鞍替えしてくれたのぉ?」
「い、いや……」
「ねぇ、葉山っちぃ。もっとおしゃべりしよぉ♪」
「ひぃ」

八幡さんはすっかりその気になってしまい、完全にターゲティングされてしまう。非常にまずい流れだ。否定しようにも上手い言い訳が思いつかず、かといって、同じ高校のメンツが集うこの場で俺と氷川が恋仲だと暴露するわけにもいかない。それに、このまま八幡さんを受け入れるのは“氷川に浮気疑惑があるなら俺も”と、彼女を完全に諦めてしまうようで嫌だったのだ。
二進も三進もいかない。まさに絶体絶命かと思われたとき。

「――ねぇ、王様ゲームしない?」

鶴の一声が部屋に響き渡る。

「……お? おー! いいねぇ! やろやろ!」
「いいねいいね! そういうの待ってた!」
「氷川ちゃんノリノリじゃなーい?」

こうして彼女の突拍子のない提案により、一同は王様ゲーム開催ムードに染まる。氷川のおかげでアプローチからは解放されたものの、去り際に八幡さんにウインクされてしまった。まだ油断できない。
「実はですね。そう来ると思って……準備してましたあ!」

幹事の相澤は予めこうなることが分かっていたかのように、割り箸製の“クジ”の入った容器を鞄の中から取り出し、参加者を囲う机の上に置いた。

「さっすがざわっち! めっちゃ用意周到!」
「相澤ちゃん有能!」
「はっはっは。褒めろ褒めろー」

俺と氷川以外の全員がお祭り騒ぎするなか、ふとスマホが震える。画面を開くとラインに通知が入っており、氷川からメッセージが届いていた。

『相澤さんの指示に従って』

思わず氷川を見やる。彼女はこちらの視線に目もくれず、退屈そうにスマホの画面を眺めているだけだ。

(どういうことだ? 指示に従う? タイミングからして王様ゲームのことだろうが……)

氷川と相澤が裏で結託しており、それに俺を巻き込もうとしている。順当に考えるとそんなところだろうか。彼女が一体何を企んでいるかまでは分からないが、とにかく心の底から安堵した。
もし、この合コンがあの二人の遠大な計画の一環ならば、相澤がわざわざ氷川の名前を出して俺を合コンに誘い込んだのも、彼氏の飛び入り参加にまるで動じていない氷川の様子も、なにもかも辻褄が合うのだ。

「始めるよー! まずは言い出しっぺの麗奈ちゃん! はい!」
「……」

一番槍の彼女の手元を注意深く観察する。氷川は割り箸の頭を一通り眺めると、なんの迷いもなく抜き取った。どうも無作為に選んでいると言うよりは、何かしらの目印をアテにしているという風だ。

(よくわからんが、クジを操作して何かしらするつもりなんだな? 氷川)

そんな俺の推察を裏付けるかのように、次は相澤が自らの番を主張し、これまた氷川と同様に躊躇なく選んだ。

「……はい! 次、葉山!」
「!」

来た。間違いない。
氷川と相澤は“仕込みクジ”の見分け方を知っている。だからこそ、何も知らない他の参加者が引く前に、先に引いてみせたのだ。そして、幹事特権で三番目に俺を選び、合図を送って任意のクジを引かせることで、出来レースが完成するというわけだ。

「……」

容器を持つ相澤の人差し指が、ほんの一瞬だけ一本のクジの頭を撫でたのを、俺は見逃さなかった。王様ゲームのクジの当たりは、王様一つと王様の命令を受ける二つ。そうなれば、俺が王様を引く可能性は必然ありえない。つまり、王様は……

「はい! 王様は~~~? ……って、私かーい!」

やはり相澤が王様だった。ならば、俺は“する側”か“される側”、そのどちらかということになるだろう。

「うーん……どうしよっかなー? どうしよっかなー?」
「なになになに?」
「はやく~」

命令を勿体ぶる相澤だったが、種を知っていると大層白々しいものに見える。氷川の企みを早く知りたい自分としては苛立ちを覚えざるを得ない。

「それじゃあ~……1番が~、2番に~」

手元のクジの番号を見る。
1番、と書かれている。つまり、俺が氷川に“なにか”をすることになるはず。その“なにか”の内容が相澤の口からまろび出るのを待ちわびた。

「――キスしてくださいっ!」
「ひゅーー!」
「ちょっとざわっち~! いきなり飛ばしすぎぃ!」
「あえていきなりぶっ込んでみました」

八幡さんの黄色い声と男子二人の雄叫びがカラオケ室に反響する。
……つまり、俺はこれから全員の前で氷川にキスをしなければならないのだ。
(な、なにィーーーーッ!?)

あまりの衝撃に頭の中が真っ白になる。
「1番と2番、誰~?」
「……はい。2番」

当然のように氷川が名乗り出た。男子二人はせっせと自分のクジの番号を確かめると、あからさまに落胆する。

「ああクソ! 俺じゃねぇ!」
「俺も違うわぁ」
「ウチも違うよ?」
「「「……ってことは」」」

全員の視線が集中する。男子二人は妬ましそうに、八幡さんは残念そうに、各々の感情が籠もっていた。

(嘘だろオイ……!? ここで俺からキスしろってのか!?)

相澤に促されがまま立たされる。他の四人が見守るなか、俺と氷川が向かい合った。氷川は目をそっと瞑り、唇を差し出す。「ほら、来て」といわんばかりに。
王様ゲームという強制力を持ってして、同じ学校の奴らの前でキスを迫られる。これが氷川と相澤の計画の全容だったのだ。

(キス……? ど、どうしよう。流石に舌入れるヤツはマズイよな? でも、俺ら普通のキスなんかしたことねぇ! コイツ、セックス以外のときはそういうおねだりとか全然してこねぇし! ベロチューしか知らないよ! 普通のキスのやり方なんて勝手が分からねぇよ!? うあああ、どうしたら!?)

軽いパニック状態に陥る俺と、キス待ちする氷川。そんな膠着状態に痺れを切らした相澤が打って出た。

「……はい! キース! キース! キース!」

そこから外野による怒涛のキスコール合唱へ雪崩れ込む。もう完全に逃れられない流れだ。あとで覚えてろよ相澤。

「……まだ?」
「ぐッ!」

もうなんでもいいから、さっさとキスしてこの羞恥プレイから脱しよう。俺は覚悟を決め、氷川の美しい顔にゆっくり近づいていく。
俺はそのまま、彼女の唇に――

「……っ」

――にはできず、白い頬に軽く口づけをした。

「「きゃーーーっ!」」
女子二人の嬉しそうな悲鳴があがる。
結局日和ってしまったものの。どうにかこの場を切り抜けられ、ほっと胸を撫で下ろす。

「――意気地なし」
「え?」

氷川がぼそりとそう呟いた瞬間、俺の唇は彼女に奪われていた。

「……ちゅっ……ちゅぷ……れろ」

一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
侵入した生暖かい舌が口内を愛撫していく感触によって、場違いな甘い痺れを覚える。

「……え? え?」
「なに? どういうこと?」
「え、ちょっと……ガチっぽくない?」

最高潮に盛り上がっていたはずのギャラリーにざわめきが奔る。離れようにも、氷川は俺の頬を両手でしっかり固定していて逃さない。

「ちゅるっ……ちゅ……はぁっ」

数秒間ものディープキスを終えた彼女が口を離すと、銀色の糸が口と口の間に掛かる。あまりにも唐突に訪れた官能の光景を前に呆気にとられている八幡さんへと振り向いた氷川は、毅然と言い放った。

「私のだから」

唖然とする全員を尻目に、氷川は俺の手を引いてカラオケ店を抜け出したのであった。
これは後で知ったことだが。俺らが退出したあと、八幡さんは開口一番にこう言ったそうな。

「おもしれー女」

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